逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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最終章 乙女ゲーム後

第333話 騒ぎの中心はいつも一人

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 ペイルがモスグリネに戻ってからのロゼリアは、チェリシアに振り回されながらも女王教育を学んでいた。隣国に嫁ぐ事が決まっているというのに、実に熱心である。アイヴォリーとモスグリネでは慣習などの違いもあるだろうが、ロゼリアがアイヴォリーに残っているのも理由がある。
 先にも書いたが、大体チェリシアのせいである。逆行前のチェリシア、今のペシエラとは違った意味で、今回のチェリシアも十分周りを振り回してくれているのだ。
 今はペシエラとなった方のチェリシアは、田舎の出で基本的な作法が疎かだった上にパープリアの手の者(ストロア)にいろいろ思考誘導されていたので、それはそれで手に負えない人物だった。
 それが今回のチェリシアは異世界からの転生者で、その知識を使って突飛もない行動を取るので、まったく違う意味で手に負えないのである。
 その行動が自分ロゼリアだけに向かうのか、その制限が無いのかの違いだが、はっきり言って今のチェリシアの方がたちが悪い。それ加えて前回のチェリシアですら余裕だった学園の勉強で、まさかの落第寸前までいくという予想外な事までやらかしてくれたからなおさらである。
 ペシエラやアイリス、それと兄カーマイルの手も借りて、なんとか制御しようとして悪戦苦闘の日々を送っているのだ。
「正直、モスグリネへの留学も考えたけど、あのチェリシアを放っておけないものね。お兄様が心配だわ」
「ロゼリア、本当に申し訳ないですわね。不出来なお姉様のせいで」
 女王教育が終わった席で、ロゼリアとペシエラが会話を交わしている。最近はようやくチェリシアが新しい事をやり出さないおかげか、少し余裕を持って過ごせているようである。
「でも、チャットフォンは正直助かっているわ。こっちに居ながらにしてペイル殿下とお話ができるんですもの」
「ええ、あの自由なお姉様にしては珍しく気が利いた発明だと思いますわ」
 ロゼリアの手に握られているのは、その髪色に光る魔石を備えた薄い魔法銀の板、チャットフォンである。三年次の春にチェリシアが作り上げた、通信魔道具である。相手側の風景まで伝えるので言ってしまえば携帯テレビ電話といった感じのものだ。
 これを持っているのは、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリス、シルヴァノ、そしてペイルの六人だけである。道具の悪用を懸念して、これ以上は作らないようにと王命まで出てしまったほどの魔道具である。チェリシアは残念がっていたが、この世界には過ぎた道具なのだ。
 ロゼリアがペイルと話をした中では、やはり向こうの国でもペイルの正妻の座を狙っている貴族は居るらしい。ロゼリアがまだ婚約者の段階な上に、他国の貴族だから遠慮はないといった感じである。とはいえ、ペイルにはロゼリア以外を選ぶ気はないし、国王夫妻にもそういった気持ちはない。完全にモスグリネの貴族たちの場外乱闘である。
 だが、サンフレア学園を卒業後にモスグリネに移る予定のロゼリアにとっては、地味に不安要素である。できる限りの懸念材料は取り除いておきたいものだった。
 なにせ、ロゼリアとペシエラにはもう一つの終着点があった。
 チェリシアにとっての終着点は乙女ゲームの終了時点である三年次の冬だが、この二人にとっての真の終着点はその四年後、十九歳の冬である。
「まったく、お姉様ったらプラティナ様たちを連れてシェリアで楽しんできたそうですわ。いくら夏の合宿を出禁になったからといって、少し気が緩んでいませんかしら」
「でも、チークウッド様が何やらチェリシアに刺激を受けたらしくて、猛勉強を始めたそうよ。チェリシアのいいところはそういう違った着眼点がある事かしらね」
「……まったく、お姉様が絡むといつも面倒な事が起きますわね」
 どうやら二人にも、夏の合宿中の話は伝わっている様子。だが、このチークウッドの猛勉強について、父親である宰相のブラウニルはようやく父の跡を継ぐ決心がついたかと歓迎しているようである。だが、原因がチェリシアとなると素直に喜べないロゼリアとペシエラであった。

 その夜、ロゼリアが部屋でくつろいでいると、チャットフォンの魔石が淡い緑色に光り出す。これはペイルからの合図だ。
「あら、ペイル殿下。珍しいですね」
『ああ、たまには声を聞きたくなる事もあるさ』
 映し出された姿を見るに、ペイルもちょうど寝る前のくつろぎの時間なのだろう。
「それで、何の用です?」
『ああ、正直今年からこっちに来てくれると思ってたんだが、学園卒業までこちらに来れないと聞かされたからな』
「なるほど、そういうわけですか」
 政略的な婚約かと思ったが、ペイルもなんだかんだでロゼリアを気に掛けているようである。嬉しくてロゼリアは内心で喜んだ。
『大体原因はチェリシアだろう? 氷山エリアに温泉とかいうのを作ったとか聞いたしな。その関連でケットシーから毎日のように愚痴を聞かされて、父上が困っていたよ』
「あら、私の友人がご迷惑をおかけしてすみません」
『そんなに気に病む事はなさい。商業組合はそれで今活気づいてるし、悪い事ばかりじゃない』
 最初の頃は俺様主義の強かったペイルだが、だいぶ器が大きくなっているようだ。
『それから、こっちの貴族の事は気になるだろうが、こっちに来るまでには何とか片付けておく。ロゼリアが安心して嫁いでこれるようにな』
「お気遣い、誠にありがとうございます」
『おっと、あまり遅くまで起きてるとあいつがうるさいからな。それじゃおやすみ、ロゼリア』
「おやすみなさいませ、ペイル殿下」
 通話が切れると、チャットフォンは元の魔法銀の板に戻る。本当に不思議な魔道具である。
 ペイルと久しぶりに会話をしたロゼリアは、珍しく顔を真っ赤にして頭から布団をかぶって眠りについたのだった。
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