338 / 731
最終章 乙女ゲーム後
第333話 騒ぎの中心はいつも一人
しおりを挟む
ペイルがモスグリネに戻ってからのロゼリアは、チェリシアに振り回されながらも女王教育を学んでいた。隣国に嫁ぐ事が決まっているというのに、実に熱心である。アイヴォリーとモスグリネでは慣習などの違いもあるだろうが、ロゼリアがアイヴォリーに残っているのも理由がある。
先にも書いたが、大体チェリシアのせいである。逆行前のチェリシア、今のペシエラとは違った意味で、今回のチェリシアも十分周りを振り回してくれているのだ。
今はペシエラとなった方のチェリシアは、田舎の出で基本的な作法が疎かだった上にパープリアの手の者(ストロア)にいろいろ思考誘導されていたので、それはそれで手に負えない人物だった。
それが今回のチェリシアは異世界からの転生者で、その知識を使って突飛もない行動を取るので、まったく違う意味で手に負えないのである。
その行動が自分だけに向かうのか、その制限が無いのかの違いだが、はっきり言って今のチェリシアの方がたちが悪い。それ加えて前回のチェリシアですら余裕だった学園の勉強で、まさかの落第寸前までいくという予想外な事までやらかしてくれたからなおさらである。
ペシエラやアイリス、それと兄カーマイルの手も借りて、なんとか制御しようとして悪戦苦闘の日々を送っているのだ。
「正直、モスグリネへの留学も考えたけど、あのチェリシアを放っておけないものね。お兄様が心配だわ」
「ロゼリア、本当に申し訳ないですわね。不出来なお姉様のせいで」
女王教育が終わった席で、ロゼリアとペシエラが会話を交わしている。最近はようやくチェリシアが新しい事をやり出さないおかげか、少し余裕を持って過ごせているようである。
「でも、チャットフォンは正直助かっているわ。こっちに居ながらにしてペイル殿下とお話ができるんですもの」
「ええ、あの自由なお姉様にしては珍しく気が利いた発明だと思いますわ」
ロゼリアの手に握られているのは、その髪色に光る魔石を備えた薄い魔法銀の板、チャットフォンである。三年次の春にチェリシアが作り上げた、通信魔道具である。相手側の風景まで伝えるので言ってしまえば携帯テレビ電話といった感じのものだ。
これを持っているのは、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリス、シルヴァノ、そしてペイルの六人だけである。道具の悪用を懸念して、これ以上は作らないようにと王命まで出てしまったほどの魔道具である。チェリシアは残念がっていたが、この世界には過ぎた道具なのだ。
ロゼリアがペイルと話をした中では、やはり向こうの国でもペイルの正妻の座を狙っている貴族は居るらしい。ロゼリアがまだ婚約者の段階な上に、他国の貴族だから遠慮はないといった感じである。とはいえ、ペイルにはロゼリア以外を選ぶ気はないし、国王夫妻にもそういった気持ちはない。完全にモスグリネの貴族たちの場外乱闘である。
だが、サンフレア学園を卒業後にモスグリネに移る予定のロゼリアにとっては、地味に不安要素である。できる限りの懸念材料は取り除いておきたいものだった。
なにせ、ロゼリアとペシエラにはもう一つの終着点があった。
チェリシアにとっての終着点は乙女ゲームの終了時点である三年次の冬だが、この二人にとっての真の終着点はその四年後、十九歳の冬である。
「まったく、お姉様ったらプラティナ様たちを連れてシェリアで楽しんできたそうですわ。いくら夏の合宿を出禁になったからといって、少し気が緩んでいませんかしら」
「でも、チークウッド様が何やらチェリシアに刺激を受けたらしくて、猛勉強を始めたそうよ。チェリシアのいいところはそういう違った着眼点がある事かしらね」
「……まったく、お姉様が絡むといつも面倒な事が起きますわね」
どうやら二人にも、夏の合宿中の話は伝わっている様子。だが、このチークウッドの猛勉強について、父親である宰相のブラウニルはようやく父の跡を継ぐ決心がついたかと歓迎しているようである。だが、原因がチェリシアとなると素直に喜べないロゼリアとペシエラであった。
その夜、ロゼリアが部屋でくつろいでいると、チャットフォンの魔石が淡い緑色に光り出す。これはペイルからの合図だ。
「あら、ペイル殿下。珍しいですね」
『ああ、たまには声を聞きたくなる事もあるさ』
映し出された姿を見るに、ペイルもちょうど寝る前のくつろぎの時間なのだろう。
「それで、何の用です?」
『ああ、正直今年からこっちに来てくれると思ってたんだが、学園卒業までこちらに来れないと聞かされたからな』
「なるほど、そういうわけですか」
政略的な婚約かと思ったが、ペイルもなんだかんだでロゼリアを気に掛けているようである。嬉しくてロゼリアは内心で喜んだ。
『大体原因はチェリシアだろう? 氷山エリアに温泉とかいうのを作ったとか聞いたしな。その関連でケットシーから毎日のように愚痴を聞かされて、父上が困っていたよ』
「あら、私の友人がご迷惑をおかけしてすみません」
『そんなに気に病む事はなさい。商業組合はそれで今活気づいてるし、悪い事ばかりじゃない』
最初の頃は俺様主義の強かったペイルだが、だいぶ器が大きくなっているようだ。
『それから、こっちの貴族の事は気になるだろうが、こっちに来るまでには何とか片付けておく。ロゼリアが安心して嫁いでこれるようにな』
「お気遣い、誠にありがとうございます」
『おっと、あまり遅くまで起きてるとあいつがうるさいからな。それじゃおやすみ、ロゼリア』
「おやすみなさいませ、ペイル殿下」
通話が切れると、チャットフォンは元の魔法銀の板に戻る。本当に不思議な魔道具である。
ペイルと久しぶりに会話をしたロゼリアは、珍しく顔を真っ赤にして頭から布団をかぶって眠りについたのだった。
先にも書いたが、大体チェリシアのせいである。逆行前のチェリシア、今のペシエラとは違った意味で、今回のチェリシアも十分周りを振り回してくれているのだ。
今はペシエラとなった方のチェリシアは、田舎の出で基本的な作法が疎かだった上にパープリアの手の者(ストロア)にいろいろ思考誘導されていたので、それはそれで手に負えない人物だった。
それが今回のチェリシアは異世界からの転生者で、その知識を使って突飛もない行動を取るので、まったく違う意味で手に負えないのである。
その行動が自分だけに向かうのか、その制限が無いのかの違いだが、はっきり言って今のチェリシアの方がたちが悪い。それ加えて前回のチェリシアですら余裕だった学園の勉強で、まさかの落第寸前までいくという予想外な事までやらかしてくれたからなおさらである。
ペシエラやアイリス、それと兄カーマイルの手も借りて、なんとか制御しようとして悪戦苦闘の日々を送っているのだ。
「正直、モスグリネへの留学も考えたけど、あのチェリシアを放っておけないものね。お兄様が心配だわ」
「ロゼリア、本当に申し訳ないですわね。不出来なお姉様のせいで」
女王教育が終わった席で、ロゼリアとペシエラが会話を交わしている。最近はようやくチェリシアが新しい事をやり出さないおかげか、少し余裕を持って過ごせているようである。
「でも、チャットフォンは正直助かっているわ。こっちに居ながらにしてペイル殿下とお話ができるんですもの」
「ええ、あの自由なお姉様にしては珍しく気が利いた発明だと思いますわ」
ロゼリアの手に握られているのは、その髪色に光る魔石を備えた薄い魔法銀の板、チャットフォンである。三年次の春にチェリシアが作り上げた、通信魔道具である。相手側の風景まで伝えるので言ってしまえば携帯テレビ電話といった感じのものだ。
これを持っているのは、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリス、シルヴァノ、そしてペイルの六人だけである。道具の悪用を懸念して、これ以上は作らないようにと王命まで出てしまったほどの魔道具である。チェリシアは残念がっていたが、この世界には過ぎた道具なのだ。
ロゼリアがペイルと話をした中では、やはり向こうの国でもペイルの正妻の座を狙っている貴族は居るらしい。ロゼリアがまだ婚約者の段階な上に、他国の貴族だから遠慮はないといった感じである。とはいえ、ペイルにはロゼリア以外を選ぶ気はないし、国王夫妻にもそういった気持ちはない。完全にモスグリネの貴族たちの場外乱闘である。
だが、サンフレア学園を卒業後にモスグリネに移る予定のロゼリアにとっては、地味に不安要素である。できる限りの懸念材料は取り除いておきたいものだった。
なにせ、ロゼリアとペシエラにはもう一つの終着点があった。
チェリシアにとっての終着点は乙女ゲームの終了時点である三年次の冬だが、この二人にとっての真の終着点はその四年後、十九歳の冬である。
「まったく、お姉様ったらプラティナ様たちを連れてシェリアで楽しんできたそうですわ。いくら夏の合宿を出禁になったからといって、少し気が緩んでいませんかしら」
「でも、チークウッド様が何やらチェリシアに刺激を受けたらしくて、猛勉強を始めたそうよ。チェリシアのいいところはそういう違った着眼点がある事かしらね」
「……まったく、お姉様が絡むといつも面倒な事が起きますわね」
どうやら二人にも、夏の合宿中の話は伝わっている様子。だが、このチークウッドの猛勉強について、父親である宰相のブラウニルはようやく父の跡を継ぐ決心がついたかと歓迎しているようである。だが、原因がチェリシアとなると素直に喜べないロゼリアとペシエラであった。
その夜、ロゼリアが部屋でくつろいでいると、チャットフォンの魔石が淡い緑色に光り出す。これはペイルからの合図だ。
「あら、ペイル殿下。珍しいですね」
『ああ、たまには声を聞きたくなる事もあるさ』
映し出された姿を見るに、ペイルもちょうど寝る前のくつろぎの時間なのだろう。
「それで、何の用です?」
『ああ、正直今年からこっちに来てくれると思ってたんだが、学園卒業までこちらに来れないと聞かされたからな』
「なるほど、そういうわけですか」
政略的な婚約かと思ったが、ペイルもなんだかんだでロゼリアを気に掛けているようである。嬉しくてロゼリアは内心で喜んだ。
『大体原因はチェリシアだろう? 氷山エリアに温泉とかいうのを作ったとか聞いたしな。その関連でケットシーから毎日のように愚痴を聞かされて、父上が困っていたよ』
「あら、私の友人がご迷惑をおかけしてすみません」
『そんなに気に病む事はなさい。商業組合はそれで今活気づいてるし、悪い事ばかりじゃない』
最初の頃は俺様主義の強かったペイルだが、だいぶ器が大きくなっているようだ。
『それから、こっちの貴族の事は気になるだろうが、こっちに来るまでには何とか片付けておく。ロゼリアが安心して嫁いでこれるようにな』
「お気遣い、誠にありがとうございます」
『おっと、あまり遅くまで起きてるとあいつがうるさいからな。それじゃおやすみ、ロゼリア』
「おやすみなさいませ、ペイル殿下」
通話が切れると、チャットフォンは元の魔法銀の板に戻る。本当に不思議な魔道具である。
ペイルと久しぶりに会話をしたロゼリアは、珍しく顔を真っ赤にして頭から布団をかぶって眠りについたのだった。
16
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる