逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
357 / 731
最終章 乙女ゲーム後

第352話 結婚式、そして……

しおりを挟む
 姿を現したロゼリアは、本当に美しかった。ペシエラほどではないものの柔らかな釣り目であるロゼリアのたたずまいは、本当に凛として言葉を失うほどのものだった。長いヴェールの裾を持つ子どもたちは対照的に可愛かった。
 式場内では、チェリシアがペシエラの時と同様に写真魔法でその姿を保存しまくっている。一応許可をしたとはいえ、その姿はなんとも目立っていた。
「はっはっはっ、チェリシアくん。その写真、あとでうちにも回してくれないかい?」
「ええ、いいですよ」
 ケットシーとチェリシアが小声で話をしている。その悪だくみの姿、よく見えてますから。
それに構う事なく、ペイルとロゼリアの結婚式は進んでいく。結婚式の進行はモスグリネ王家の形式に則っており、その進行はアイヴォリー王国とはかなり違うようである。アイヴォリー王国では、世界を作ったとされ、信仰されている神にのみ誓いを立てるといったものだったが、モスグリネ王国では精霊信仰も行われている。なので、誓い先も神と精霊王の二柱となる。
(精霊王がまさかガレン先生とは思いませんでしたけれどね)
 結婚式に先立ってされた説明の時には、ロゼリアはそう思ったそうだ。
 いつぞやのペシエラ絡みの一件で精霊の森に出向いた時に発覚した事実である。とはいえ、精霊王はモスグリネでは神聖視されているので、笑うわけにはいかず必死に耐えたのだった。
 結婚式は進み、式場内での結婚式の最後は、やはり愛し合う者同士での口づけだった。ロゼリアは大勢の前とあって少々引け腰だったが、ペイルがぐっと近付いてきてロゼリアをしっかりと捕まえた。
「ここまで来て怖気づくとは、少々らしくはないな」
 ペイルの顔が目の前で笑っている。ロゼリアの顔は更に真っ赤になっていく。ペイルが片手でロゼリアの顔を覆うヴェールを持ち上げると、見事なまでに真っ赤になったロゼリアの顔が露わになった。
「ふっ、名前のように真っ赤だな、ロゼリア」
「な、何をうまい事言ったつもりになっているのですか、殿下」
 ロゼリアはそんな事言って、ペイルから視線を逸らす。
「ふっ、学生時代はそうは思わなかったが、こうやって改めて見てみると、愛い奴だな」
 ペイルがロゼリアに微笑みかける。
 さすがにこれ以上ここで時間をかけてしまうわけにはいかない。笑ったペイルは少々強引に進める事にした。
「まったく、ここまで来て往生際が悪い。そんなに俺の事が嫌か?」
「そ、そんな事あ……」
 ロゼリアを煽ると、狙い通りにロゼリアがペイルの方へと顔を向ける。そこへすかさず口づけを決めてみせたのだ。
 その瞬間に、会場が一気に沸き立った。
 してやられたロゼリアだったが、悪い気はしなかった。半ば政略的だったとはいえ、ペイルは別に嫌いな相手ではなかったのだから。
 しばらくして口づけを終えた二人は、国王と王妃の方へと向き直り、一礼すると来賓たちの方を向いてしばらく手を振っていた。
 そして、来賓たちの間を外へ向かって歩いていくペイルとロゼリア。結婚式の最後は王都ヴィフレア内のお披露目パレードである。このパレードも一年前にヴィフレアに来た時同様に、沿道を多くの住民たちが埋め尽くした盛大なお祭りとなっていた。
 この様子は上空からライが撮影して保存している。妖精から魔物となったライだが、このいう様子を見せつけられると、羨ましいと思う限りで、いつかは自分もとか考えるようになったとか。
 こうして大勢に祝福される中、つつがなくペイルとロゼリアの結婚式は無事に終了したのであった。ちなみに、ヴィフレアのお祝いムードは一晩中続いたようである。

「まったく、手のかかる二人でしたわ」
 そう話すのは客間に通されているマゼンダとコーラル両家の面々である。なぜかシルヴァノとペシエラも一般客間である。
「ペイル殿下は強い女性に惹かれる傾向がございましたからね。今回は私がこの通り突出してしまったので、ロゼリアの方へ向かせるのに苦労しましたわよ」
「確かに、ペシエラの強さは異常ですからね」
 ペシエラの愚痴にシルヴァノは苦笑いを浮かべている。
「でも、なんとか思った方向で収まってよかったわね」
「ええ、だからこそ私は早々にシルヴァノ殿下との婚約を決めましたのよ。そうでもしないと、逆行前の贖罪ができませんでしたから」
 紅茶を飲み干したペシエラは、眉間にしわを寄せていた。
「大体お姉様、あなたの存在が余計ややこしくしましたのよ。丸く収まりましたけれど、私、そのせいで一度消えかけましたのよ?!」
「ペシエラ、その件は不可抗力でしょう?」
 チェリシアにキレるペシエラを、アイリスが一生懸命宥めている。
「まあ、何にしても、思い描いたように物事が進んだのならよかったじゃないか。第一何も知らずに巻き込まれたのは、私や殿下たちの方だ」
 カーマイルがとても冷静にツッコミを入れている。本当に頼りになるお兄様である。
「それでだが、ライ」
「何でしょうか、カーマイル様」
「あとで、今日の様子を撮った映像を寄こしてくれ。父上たちが泣いて喜ぶと思うのでな」
「直に見ておられたではないですか。どうして必要だと仰るのです?」
「親とはそういうものだと思うぞ」
 カーマイルの言い分に、首を傾げるライ。だが、カーマイルの言い分にチェリシアがとても深く頷いていた。
 この空気の中、ペシエラがおかわりの紅茶を飲んで、一番の本題を切り出した。
「大方思い描いていたように進みましたが、最後、この悲劇だけはどうなるか分かりませんわ」
「悲劇? どういう事ですか、ペシエラ」
 ペシエラが切り出した言葉に、シルヴァノが問い掛ける。
「このやり直しの時戻りを切り出した、原因となる人物。これだけが、どう転ぶか分かりませんのよ」
 ペイルとロゼリアの結婚によるお祝いムードの中、最後に残った悲劇のピース。それがペシエラの言う懸念材料だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...