逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
366 / 731
番外編集

番外編 雪降る夜に その4

しおりを挟む
「ロゼリア、ここに居たのか」
「お兄様」
 ロゼリアの兄のカーマイルがやって来た。
「お兄様は今までどちらに?」
「なに、商会の代表としてあいさつして回っていたんだ。大体は私の婚約者のせいで面倒な事になっていたけどね」
 カーマイルの言葉を受けて、ロゼリアはチェリシアをじろっと睨む。その視線に気が付いたチェリシアは、ふいっと視線を逸らしてとぼけていた。
「ぺ、ペシエラ。ちょっとクリスマスツリーを見ていかない?」
「何を仰ってますの、お姉様。雪が降っているのに外に出るなんて何を考えてますのよ!」
 ペシエラは必死に抵抗していたが、チェリシアも必死だったのでずるずると引き摺られてしまっていた。
「……逃げましたね」
「ああ、逃げたな」
 外に出ていくチェリシアたちの姿に、ロゼリアとカーマイルは言葉を失っていた。
「お兄様、あの子の手綱、うまく取れる自信はあるかしら」
「多分、無理だろうな」
 カーマイルに早々に諦められるくらいに、チェリシアは何かと問題のある人物だった。これでも乙女ゲームのヒロインだというのに、中身の転生者が残念過ぎたのだった。これでカーマイルと無事に結婚できるのか、ロゼリアにとって相当に頭の痛くなる問題なのだった。

 さてさて、ペシエラを引っ張って中庭へと出てきたチェリシア。そこにはマゼンダ領のスノールビー近郊から運んできた大きなもみの木が置かれていた。ルゼに頼んで作らせた飾りに、マゼンダ商会の工房で作り上げた光を放つ魔石。それらで飾り付けられたもみの木は、魔石の放つ光によってその存在感を強く主張している。日が暮れ、辺りが暗くなっていく中、深々と降り積もっていく雪が魔石の光に照らされて、城の中庭に幻想的な雰囲気を作り出していた。
「……意外ときれいですのね」
 その光景に思わずペシエラは見とれてしまい、言葉を漏らしてしまう。その言葉を聞いて、チェリシアはにやりと笑っている。
「私が頑張ってきたかいがあるってものでしょ?」
「……そうですわね。悔しいですけれど、見入ってしまう不思議な光景ですわね」
 ペシエラはその頬を不満げに膨らませていた。十三歳という年齢だからこそ、まだ可愛げのある表情だった。
「というわけで、ペシエラ」
「なんですの、お姉様」
 チェリシアが改まって声を掛けると、ペシエラは斜に構えたように反応する。
「どうか、私と踊ってくれませんか?」
「はあ?」
 ドレスのスカート部分の裾をつまんで、ちょこんとお辞儀をするチェリシア。チェリシアからの予想外な要求に、ペシエラの表情が複雑になってしまった。ものすごく困惑しているのである。
「もう、ペシエラったら、なんて顔しているのよ」
 さすがにチェリシアが怒る。その様子を見たペシエラは、
「仕方ないわね。今回だけですわよ」
 という感じに、嫌々ながらもチェリシアの手を取ったのだった。
 雪の降る中、不安定なかかとの高い靴を履いているものの、チェリシアとペシエラは何の問題もなく踊っている。ペシエラのバランス感覚はそもそもかなりおかしいくらいにすごいし、チェリシアは転生者らしいふざけた魔力量で魔法を使って安定させている。そりゃ何の問題もなく踊れるというものである。
 ところが、キラキラと光る雪が舞う中で踊るチェリシアとペシエラの姿というのは、他の人たちからは妖精が踊っているように見えたらしい。最初に気が付いた人物から口伝てに、気が付いたらかなりの人数の見物人に見られている状態になっていたのだった。
 ちょうど曲が終わると、チェリシアたちも踊り終える。
「はあ、楽しかった」
「まったく、二度とは踊りませんわよ」
 そう言ってお互いに笑い合う二人だったが、次の瞬間ものすごく驚いてしまう。それというのも、見物人たちから拍手が巻き起こったからだ。
「ありゃ、一体いつの間にこんなに人が居たのかな?」
「まったく気が付きませんでしたわね」
 そう言いながら、二人は向かい合って笑顔になる。
「まったく、ペシエラ。こんな所に居たのか」
「シルヴァノ殿下ではございませんの。一体どうされたのですか?」
「どうしたも何も、君と踊ろうとして探し回っていたに決まっているじゃないか。そしたらなんで、こんな屋外に出ているんだ?」
 シルヴァノの質問に、ペシエラはチェリシアと顔を向き合わせる。すると、チェリシアは無言でペシエラをシルヴァノの方へと押し付けた。
「ちょ、ちょっとお姉様?」
 ペシエラが慌てると、チェリシアは唇に人差し指を当ててウィンクしていた。それを見てペシエラは悟った。『シルヴァノとここで踊れ』というメッセージを。
 というわけで、ペシエラは仕方なくシルヴァノへと近付いていき、その手を取った。
「殿下、今ここで踊って頂けませんか?」
「ここでかい?」
「ええ、地面はお姉様の魔法で安全になっていますし、光り輝く雪の中で踊るなんて、幻想的じゃありません?」
 ペシエラの言葉に、シルヴァノは辺りを見回す。もみの木に吊るされた魔石の光を浴びて、舞い降りる雪がキラキラと輝いていた。
「ふむ、それも悪くないかな」
 シルヴァノは空と地面とを眺めながら、ペシエラの要求を了承したのだった。
 この日、シルヴァノとペシエラが踊る様は、後々まで語り継がれるとても印象的な出来事となって人々の目に焼き付けられた。
 そして、その時の姿は額縁入りの写真として、王家とコーラル伯爵家に残されたのである。

――

 これにて「逆行令嬢と転生ヒロイン」の更新を一旦終わります。
 続編の構想は進めておりますが、更新作品数の数に加えて体力が追いついていませんので、執筆を始めるのはまだ先になりそうです。
 それでは、またお会いできる日まで、私の他の作品をお楽しみ下さい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...