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新章 青色の智姫
第17話 幻獣は侮れない
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瞬間移動魔法で飛んだ先はモスグリネ王城。……ではなく、商業組合だった。
出現した先にはバカでかい二足歩行の猫、ケットシーの姿があった。
「はっはっはっ、ロゼリアくん、何の用事かな。まあ、ルゼくんを連れている時点でおおよそ見当はつくけれどね」
楽しそうに笑いながら話すケットシー。驚きやしないのだから、ロゼリアの機嫌は悪くなるというものだ。
「まったく、あなたを驚かせるには何をしたらいいというのですか」
「はっはっはっ、それは高望みが過ぎるというものだよ。で、用件を聞こうじゃないか」
ロゼリアが愚痴を話すと、にこにことした笑顔のくせに淡々と話を進めようとしてくる。このケットシーの態度には、ロゼリアはため息しか出なかった。
「シアンのための杖を作ってもらいたいの。魔力が制御できていないみたいですからね」
ロゼリアが話すと、ケットシーはにこやかな表情のままひげをくいくいといじっている。
「ボクは鍛冶師ではないよ。でもまぁ、そのくらいはお安い御用さ。ああ、報酬はシェリアの魚でいいよ。おいしいからねぇ、あそこの魚は」
相変わらず表情を崩さないケットシーである。
「それで、材質は何だい? ルゼくんを連れてきているのだから、決め手はいるのだろう?」
ケットシーの細目が少し大きく開く。まったくこういう時のケットシーは怖いものだ。
だが、付き合いのそこそこあるロゼリアは、その程度で怯むような事はない。王太子妃として堂々と胡散くさい猫に立ち向かう。
「魔法銀で十分だと思います。変に高級な金属を用いようとすると、周りの目がありますしね」
「ああ、なるほど。シアンくんを取り巻く環境は複雑だからね。まぁあのくらいの魔力なら魔法銀でもどうにかなるさ」
ロゼリアの話を聞いて納得のいくケットシーである。
話がまとまると、ケットシーはちらりとルゼの方を見る。少し驚いた表情を見せたルゼだが、すぐに魔法銀をのインゴットを用意する。
「何度見ても痛々しいね、君がインゴットを作るシーンは」
「私はゼリーですから、なんともないんですけれどね。なまじ人間の姿だからそう見えるだけです」
ケットシーの言葉に、ルゼもなれたように答える。でも、人間の姿を取るようになってから十年は経っているので、なんとなくその辺りは理解していた。
ひとまず、ケットシーの前には魔法銀のインゴットが一つ置かれる。
「うんうん、さすがはルゼくんの作るインゴット。見ただけで最高品質と分かるね。さすがは金属を知り尽くしたメタルゼリーだ」
素手でぺたぺたと触り始めたケットシーは、何気なく感触と品質を確認しながらすでに加工を始めていた。
「ボクは気まぐれな幻獣として知られているけれど、やる時はちゃんとやるものさ」
話をしながら気合いを入れていくケットシー。すると、ルゼの用意したインゴットが空中へと浮かび上がる。
「ふふっ、君たちならボクを十分楽しませてくれそうだからね。今回は特別サービスだよ。ボクの精一杯の力でもって、素晴らしいものを作ってあげようじゃないか」
ケットシーの目の前に浮かんだインゴットが、みるみるその姿を変えていく。
その姿はまるでパンを作っていくかのように、硬いはずの魔法銀のインゴットがぐねぐねとその形を変えていく。
「下手なデザインを入れると、シアンくんにげんなりされそうだからね。まあ、デザインはシンプルにさせてもらうよ」
そう言いながら、今度はインゴットに魔力を注ぎ込んでいくケットシー。
その様子を両腕を組んで黙って見守るロゼリアである。
「ふふっ、魔物と幻獣の加護を受けた装備品なんて、そうそう存在するものじゃないよ。さあ、もうひと仕上げといくよ」
ここでケットシーが気合いを入れると、インゴットの形が細長くなっていき、その形は一気に杖らしくなっていった。
「うん、これでひとまずは完成だね」
でき上がった杖を目の前に、ケットシーは満足げな表情を浮かべている。
ロゼリアとルゼは、思いの外あっさり完成した杖に驚きを隠せなかった。
「さて、最後の仕上げといくかな。えっと、確かこの辺に……」
何やら棚をごそごそと探り出すケットシー。どうやら何かを探しているようだ。
「ああ、あったあった。これだよ、これ」
ケットシーが取り出したのは、どうやら宝石のようである。
「それは?」
ロゼリアが問い掛ける。しかし、ケットシーはにやにやするだけで答えはしなかった。
「なに、シアンくんに相応しい宝石とだけ言っておくよ。これで彼女の魔力は安定させやすくなるはずだよ」
杖の先端部のくぼみに宝石を取り付けたケットシーは、ちょっと魔力を込めて外れないように固定させる。
その杖をまじまじと眺めながら、実に満足そうな様子である。
「はい、完成したよ。お代はさっき言った通り、シェリアの魚を十日分くらい持ってきてくれたらいいからね」
「いや、とても釣り合わないでしょう?」
「はっはっはっはっ、金属は君たちの持ち込みだ。加工代くらいならそれで充分釣り合うはずだがね。宝石はおまけだよ」
杖を手渡すと同時に、お代の話も押し付けるケットシー。まったくもって強引なものである。
「……仕方ありませんわね。それで手を打ちましょう」
「はっはっはっ、そうこなくっちゃね」
終始ケットシーのペースでしてやられるロゼリアだった。
とにもかくにも、これでシアンのための杖ができ上がったので、その点に関しては満足するロゼリアだった。
後日、シェリアの街に大きな猫が現れてちょっとした騒動になったのは、また別の話である。
出現した先にはバカでかい二足歩行の猫、ケットシーの姿があった。
「はっはっはっ、ロゼリアくん、何の用事かな。まあ、ルゼくんを連れている時点でおおよそ見当はつくけれどね」
楽しそうに笑いながら話すケットシー。驚きやしないのだから、ロゼリアの機嫌は悪くなるというものだ。
「まったく、あなたを驚かせるには何をしたらいいというのですか」
「はっはっはっ、それは高望みが過ぎるというものだよ。で、用件を聞こうじゃないか」
ロゼリアが愚痴を話すと、にこにことした笑顔のくせに淡々と話を進めようとしてくる。このケットシーの態度には、ロゼリアはため息しか出なかった。
「シアンのための杖を作ってもらいたいの。魔力が制御できていないみたいですからね」
ロゼリアが話すと、ケットシーはにこやかな表情のままひげをくいくいといじっている。
「ボクは鍛冶師ではないよ。でもまぁ、そのくらいはお安い御用さ。ああ、報酬はシェリアの魚でいいよ。おいしいからねぇ、あそこの魚は」
相変わらず表情を崩さないケットシーである。
「それで、材質は何だい? ルゼくんを連れてきているのだから、決め手はいるのだろう?」
ケットシーの細目が少し大きく開く。まったくこういう時のケットシーは怖いものだ。
だが、付き合いのそこそこあるロゼリアは、その程度で怯むような事はない。王太子妃として堂々と胡散くさい猫に立ち向かう。
「魔法銀で十分だと思います。変に高級な金属を用いようとすると、周りの目がありますしね」
「ああ、なるほど。シアンくんを取り巻く環境は複雑だからね。まぁあのくらいの魔力なら魔法銀でもどうにかなるさ」
ロゼリアの話を聞いて納得のいくケットシーである。
話がまとまると、ケットシーはちらりとルゼの方を見る。少し驚いた表情を見せたルゼだが、すぐに魔法銀をのインゴットを用意する。
「何度見ても痛々しいね、君がインゴットを作るシーンは」
「私はゼリーですから、なんともないんですけれどね。なまじ人間の姿だからそう見えるだけです」
ケットシーの言葉に、ルゼもなれたように答える。でも、人間の姿を取るようになってから十年は経っているので、なんとなくその辺りは理解していた。
ひとまず、ケットシーの前には魔法銀のインゴットが一つ置かれる。
「うんうん、さすがはルゼくんの作るインゴット。見ただけで最高品質と分かるね。さすがは金属を知り尽くしたメタルゼリーだ」
素手でぺたぺたと触り始めたケットシーは、何気なく感触と品質を確認しながらすでに加工を始めていた。
「ボクは気まぐれな幻獣として知られているけれど、やる時はちゃんとやるものさ」
話をしながら気合いを入れていくケットシー。すると、ルゼの用意したインゴットが空中へと浮かび上がる。
「ふふっ、君たちならボクを十分楽しませてくれそうだからね。今回は特別サービスだよ。ボクの精一杯の力でもって、素晴らしいものを作ってあげようじゃないか」
ケットシーの目の前に浮かんだインゴットが、みるみるその姿を変えていく。
その姿はまるでパンを作っていくかのように、硬いはずの魔法銀のインゴットがぐねぐねとその形を変えていく。
「下手なデザインを入れると、シアンくんにげんなりされそうだからね。まあ、デザインはシンプルにさせてもらうよ」
そう言いながら、今度はインゴットに魔力を注ぎ込んでいくケットシー。
その様子を両腕を組んで黙って見守るロゼリアである。
「ふふっ、魔物と幻獣の加護を受けた装備品なんて、そうそう存在するものじゃないよ。さあ、もうひと仕上げといくよ」
ここでケットシーが気合いを入れると、インゴットの形が細長くなっていき、その形は一気に杖らしくなっていった。
「うん、これでひとまずは完成だね」
でき上がった杖を目の前に、ケットシーは満足げな表情を浮かべている。
ロゼリアとルゼは、思いの外あっさり完成した杖に驚きを隠せなかった。
「さて、最後の仕上げといくかな。えっと、確かこの辺に……」
何やら棚をごそごそと探り出すケットシー。どうやら何かを探しているようだ。
「ああ、あったあった。これだよ、これ」
ケットシーが取り出したのは、どうやら宝石のようである。
「それは?」
ロゼリアが問い掛ける。しかし、ケットシーはにやにやするだけで答えはしなかった。
「なに、シアンくんに相応しい宝石とだけ言っておくよ。これで彼女の魔力は安定させやすくなるはずだよ」
杖の先端部のくぼみに宝石を取り付けたケットシーは、ちょっと魔力を込めて外れないように固定させる。
その杖をまじまじと眺めながら、実に満足そうな様子である。
「はい、完成したよ。お代はさっき言った通り、シェリアの魚を十日分くらい持ってきてくれたらいいからね」
「いや、とても釣り合わないでしょう?」
「はっはっはっはっ、金属は君たちの持ち込みだ。加工代くらいならそれで充分釣り合うはずだがね。宝石はおまけだよ」
杖を手渡すと同時に、お代の話も押し付けるケットシー。まったくもって強引なものである。
「……仕方ありませんわね。それで手を打ちましょう」
「はっはっはっ、そうこなくっちゃね」
終始ケットシーのペースでしてやられるロゼリアだった。
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