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新章 青色の智姫
第19話 青色の時間
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まさかの転生に気が付いてから数日、シアンもようやく新しい生活に慣れてきた。
五歳で魔法を使いこなすという話は王城内にかなり衝撃を与えていたようで、シアンに対する評価にはまた動きがあったようだ。
魔法を使いこなす天才ということで、手のひらを返した面々がそれなりにいたらしい。魔法を評価したのか恐れているのかは分からないものの、状況は改善したのであるのならばシアンもロゼリアも気にしていないようだった。
とはいえ、まだ十歳に満たない状態では魔法の使用はやはり危険ということで、魔力が安定化した今ではショロクによる魔法の指導は書物中心と変わっていった。ただ、アクアマリン子爵家の生まれであるシアンにとっては、既に知っている事ばかりでかなり退屈のようである。
新しい体で強大な魔力を持ち合わせているだけに、どんな魔法が使えるようになったのか気になるシアン。しかし、周りをあまり心配させるべきではないと一応の自重をしているようだ。
それは自分の今世の弟であるモーフへの配慮でもある。
モーフはまだ三歳と幼い。まだ五歳であるシアンが魔法を使いまくると、モーフが真似てしまう危険性があるからだ。
心身ともに未熟な状態で魔法を使うと、魔力が暴走したり心身を蝕んだりという事例はかなり報告されている。
すでにシアン・アクアマリンとしての人生を体験しているシアンは魔法に慣れているものの、弟のモーフはそうとは限らない。なので、シアンは自重しているのである。
「ふぅ、やっぱり紅茶はおいしいですね」
ひとまず心配事のなくなったシアンは、今日もゆっくりくつろいでいる。
「紅茶をたしなむ五歳児など、一体どこにいらっしゃるのでしょうか……」
紅茶を片手にお菓子を頬張るシアンに、スミレはまた苦言を呈している。
それもそうだろう。年齢一桁の子どもはそもそも紅茶を飲みはしないのだ。
昔、紅茶を飲み過ぎた子どもが眠れなくなったという事例があったことから、幼子には飲ませるなという風に伝わっているのである。
だというのに、シアンは既に二杯目を飲んでいる。砂糖もバンバン放り込んであるので、いろいろと心配がかさばっていくスミレである。
「そういうのはちょっと魔法を使えばどうとでもできますよ。まあ、砂糖の摂り過ぎは確かによくりませんね」
シアンはカップをじっと見ながら渋い顔をしている。少し反省しているようだ。
紅茶のカップを置くと、足をぶらぶらとさせながら、テーブルに肘をついて外を眺めるシアン。この姿だけ見るとまるで子どもである。うん、実際に見た目は子どもである。
「ふぅ……」
「シアン様?」
突然ため息をつくシアンを見て、不思議そうな顔をするスミレ。
スミレに対して、憂いを含んだ目を向けるシアン。
「……よく思えば、私ってば人生を一度もちゃんと終えた事がありませんでしたね」
「ああ、そういえば……」
シアンの漏らした言葉に、スミレはふと思い出す。
そう、シアンは最初の人生においても、寿命が尽きる前に禁法に手を出して時間を巻き戻していた。
そして、巻き戻った人生でも、ロゼリアの結婚を見届けて光の粒となって消え去っていた。
つまり、自分の人生において強制退場ばかり繰り返してきたのである。
「今回の転生は、今度こそ自分の人生を全うしろということなのかしらね……」
シアンは影のある表情で呟いている。
「そういうことだと思われますよ。本来なら禁法の管轄はお父様ですけれど、シアン様の場合は私が無理やり横取りしましたから……ね。まあ、お父様なりのお詫びなのでしょう」
「まったく、何をしているんですか……」
眉間にしわを寄せて困ったように笑うシアン。本当に五歳児らしくない表情ばかりである。
再びため息をついたシアンは、先程とは違う表情で窓の外へを見ている。
「何にしても、あの禁法を使っていながら、こうやって生きていられるのです。お嬢様……、いえ、お母様の幸せと、私自身の幸せのために、今世は精一杯生きなければなりませんね」
「ええ。そうですね、シアン様」
スミレの反応を聞いて、シアンはぴょんと椅子から飛び降りて、スミレの元へと駆け寄る。そして、両手を腰に当てて自信たっぷりな表情をスミレへと向ける。
「幻獣クロノア」
「はい!」
「契約はまだ続行ですね。一生私に仕えなさいよ」
「もちろんでございますとも、シアン様」
指を差しながらスミレに命じるシアン。それに対して、スミレは深々と跪いている。
きっかけは禁法だったものの、シアンとスミレの間には主従関係とともに確かな絆が存在しているようだ。
「ですが、紅茶とお菓子は、ちょっとお控えになった方がよろしいようですね」
「むぅ、確かに眠れなくなったり太ったりは……勘弁ですからね」
しばらくの間、シアンの部屋の中からは楽しそうな笑い声が響き渡っていたのであった。
時を巻き戻り願いを叶えた女性と、その女性に付き添い続けた幻獣の物語。
ここにまた新たな物語が紡がれ始めたのである。
五歳で魔法を使いこなすという話は王城内にかなり衝撃を与えていたようで、シアンに対する評価にはまた動きがあったようだ。
魔法を使いこなす天才ということで、手のひらを返した面々がそれなりにいたらしい。魔法を評価したのか恐れているのかは分からないものの、状況は改善したのであるのならばシアンもロゼリアも気にしていないようだった。
とはいえ、まだ十歳に満たない状態では魔法の使用はやはり危険ということで、魔力が安定化した今ではショロクによる魔法の指導は書物中心と変わっていった。ただ、アクアマリン子爵家の生まれであるシアンにとっては、既に知っている事ばかりでかなり退屈のようである。
新しい体で強大な魔力を持ち合わせているだけに、どんな魔法が使えるようになったのか気になるシアン。しかし、周りをあまり心配させるべきではないと一応の自重をしているようだ。
それは自分の今世の弟であるモーフへの配慮でもある。
モーフはまだ三歳と幼い。まだ五歳であるシアンが魔法を使いまくると、モーフが真似てしまう危険性があるからだ。
心身ともに未熟な状態で魔法を使うと、魔力が暴走したり心身を蝕んだりという事例はかなり報告されている。
すでにシアン・アクアマリンとしての人生を体験しているシアンは魔法に慣れているものの、弟のモーフはそうとは限らない。なので、シアンは自重しているのである。
「ふぅ、やっぱり紅茶はおいしいですね」
ひとまず心配事のなくなったシアンは、今日もゆっくりくつろいでいる。
「紅茶をたしなむ五歳児など、一体どこにいらっしゃるのでしょうか……」
紅茶を片手にお菓子を頬張るシアンに、スミレはまた苦言を呈している。
それもそうだろう。年齢一桁の子どもはそもそも紅茶を飲みはしないのだ。
昔、紅茶を飲み過ぎた子どもが眠れなくなったという事例があったことから、幼子には飲ませるなという風に伝わっているのである。
だというのに、シアンは既に二杯目を飲んでいる。砂糖もバンバン放り込んであるので、いろいろと心配がかさばっていくスミレである。
「そういうのはちょっと魔法を使えばどうとでもできますよ。まあ、砂糖の摂り過ぎは確かによくりませんね」
シアンはカップをじっと見ながら渋い顔をしている。少し反省しているようだ。
紅茶のカップを置くと、足をぶらぶらとさせながら、テーブルに肘をついて外を眺めるシアン。この姿だけ見るとまるで子どもである。うん、実際に見た目は子どもである。
「ふぅ……」
「シアン様?」
突然ため息をつくシアンを見て、不思議そうな顔をするスミレ。
スミレに対して、憂いを含んだ目を向けるシアン。
「……よく思えば、私ってば人生を一度もちゃんと終えた事がありませんでしたね」
「ああ、そういえば……」
シアンの漏らした言葉に、スミレはふと思い出す。
そう、シアンは最初の人生においても、寿命が尽きる前に禁法に手を出して時間を巻き戻していた。
そして、巻き戻った人生でも、ロゼリアの結婚を見届けて光の粒となって消え去っていた。
つまり、自分の人生において強制退場ばかり繰り返してきたのである。
「今回の転生は、今度こそ自分の人生を全うしろということなのかしらね……」
シアンは影のある表情で呟いている。
「そういうことだと思われますよ。本来なら禁法の管轄はお父様ですけれど、シアン様の場合は私が無理やり横取りしましたから……ね。まあ、お父様なりのお詫びなのでしょう」
「まったく、何をしているんですか……」
眉間にしわを寄せて困ったように笑うシアン。本当に五歳児らしくない表情ばかりである。
再びため息をついたシアンは、先程とは違う表情で窓の外へを見ている。
「何にしても、あの禁法を使っていながら、こうやって生きていられるのです。お嬢様……、いえ、お母様の幸せと、私自身の幸せのために、今世は精一杯生きなければなりませんね」
「ええ。そうですね、シアン様」
スミレの反応を聞いて、シアンはぴょんと椅子から飛び降りて、スミレの元へと駆け寄る。そして、両手を腰に当てて自信たっぷりな表情をスミレへと向ける。
「幻獣クロノア」
「はい!」
「契約はまだ続行ですね。一生私に仕えなさいよ」
「もちろんでございますとも、シアン様」
指を差しながらスミレに命じるシアン。それに対して、スミレは深々と跪いている。
きっかけは禁法だったものの、シアンとスミレの間には主従関係とともに確かな絆が存在しているようだ。
「ですが、紅茶とお菓子は、ちょっとお控えになった方がよろしいようですね」
「むぅ、確かに眠れなくなったり太ったりは……勘弁ですからね」
しばらくの間、シアンの部屋の中からは楽しそうな笑い声が響き渡っていたのであった。
時を巻き戻り願いを叶えた女性と、その女性に付き添い続けた幻獣の物語。
ここにまた新たな物語が紡がれ始めたのである。
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