391 / 731
新章 青色の智姫
第22話 戴冠式のお知らせ
しおりを挟む
ロゼリアの元に、アイヴォリー王国からの手紙が届く。
その手紙を早速確認したロゼリアは、そういう時期が来たのかと感慨深そうに眺めていた。
「ロゼリア」
「ペイル様?」
部屋にペイルがやって来る。
「くそっ、先を越されてしまったな。悔しいがしっかりお祝いをしてやらねばいかぬな」
「ええ、そうですね」
右手を顔の前で握りしめるペイルは、本当に悔しいな表情をしながら小さく拳を震わせていた。その姿を見てついつい笑ってしまうロゼリアである。
「ふふふっ、そのお祝いはボクに任せてもらおうか」
「ケットシー、あなたいつも突然現れないの!」
急に乱入してくる猫の幻獣に、ロゼリアの冷静なツッコミが炸裂する。
「はっはっはっ、いいじゃないか、ボクたちの仲というものだよ」
相変わらずの気まぐれっぷりである。思わず殴ってやりたいという衝動が、ロゼリアの中に生まれていた。
「物騒なことは考えないでおくれ。それよりもマゼンダ商会の方は何か贈らないのかい? せっかくこっちに支店を出しているというのね」
「確かにそうですね。実質的な経営は私とペイル様となっていますしね」
マゼンダ商会ヴィフレア支店。
それは、初めてモスグリネを訪れた際に設置された商会である。主にチェリシアの暴走による、大豆を仕入れるために設置された支店である。
「俺たちからの贈り物を何かこしらせさせるか。とはいえ、この告知された時期には間に合わないだろうな」
ペイルは贈られてきた手紙をもう一度確認する。そこに書かれていたシルヴァノとペシエラの戴冠式は一か月後である。確かに今から手配してどうのこうのとなれば、運搬のための時間を含めてギリギリといったところだろう。
「はっはっはっ」
その様子を見ていたケットシーが笑っている。
「まあ、贈り物はボクに任せておいておくれよ。なにせ、ボクが関わっているんだからね。はっはっはっ」
自信たっぷりなケットシーは、ロゼリアたちの前からかき消すように姿を消したのだった。
相変わらずの自由っぷりと自信に満ちあふれた態度に、ただただ呆れる二人だった。
「……なんというか、不安になってきたな」
「私もですよ……」
しばらく沈黙する二人。
やがて、ロゼリアがペイルに話し掛ける。
「子どもたちを連れていきましょうか」
「どうしてだ?」
突然のロゼリアの言葉に、ペイルは純粋に問い掛ける。
「ペシエラは逆行前に私を処刑してしまったことを後悔しています。その私たちの幸せな姿を見せるのが、一番の贈り物になると思うのですよ」
「なるほどなぁ。だが、俺はその時にいろいろやらかしたと聞いてるが、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ペシエラはそんなに子どもじゃありませんからね」
ペイルの疑問に、ロゼリアはついおかしなって笑いながら答えていた。
「……それもそうだな」
ちょっと驚いた表情をしたペイルだったが、納得したかのように笑い始めた。
「では、あの子たちと話をしてきますね」
「ああ、頼んだ。俺は戴冠式の事で各所に指示を出して回らなきゃいけないからな」
「承知致しました」
ぺこりと頭を下げて、ロゼリアは一足先に部屋を出ていったのだった。
暖かな日差しの下で、ロゼリアが紅茶をたしなんでいる。そこへ、呼び出しに応じたシアンとモーフの二人がやって来た。
「お呼びでございますでしょうか、お母様」
「どうなされたのでしょうか、母上」
シアンは十歳、モーフは八歳。二人ともしっかりと言葉遣いはできているようである。
「まあ、座りなさい」
ロゼリアは自分の両隣にシアンとモーフを座らせる。そして、単刀直入に話を始める。
「実は、近々アイヴォリー王国のシルヴァノ殿下が王位を継承されるそうです」
「そうなのですか?!」
驚いた反応を示すモーフに対して、シアンの反応は乏しかった。
「そうですか。そういう時期なのですね」
まるで分っていたかのような反応である。モーフとその従者はあまり気にしていないようだが、シアンの後ろに立つスミレがものすごく困った表情を浮かべているせいでロゼリアはおかしくて笑いそうになってしまう。
だが、ロゼリアアはあえてそれをスルーして、笑いを堪えながら話の続きをする。
「それでですね。二人も大きくなったわけですし、アイヴォリー王国の戴冠式に一緒に参列させようという話になりました。一応確認は取りますが、二人はどうしたいですか?」
唐突な話に面食らうシアンである。とはいえ、さすがに戴冠式ともなれば友好国であるモスグリネは全員で参列させておきたいだろう。見た目は幼いながらもシアンはあごに手を当てて考え始めた。
「僕は参列します」
一方のモーフは、ほぼ間を置かずして答えていた。
「姉上も当然参列されますよね」
間髪入れずにシアンに問い掛けてくるモーフ。まったく、本当に子どもなせいか遠慮がない。
父親であるペイルより濃い緑色の髪と瞳をキラキラさせながら、純粋な態度で問い掛けられると断るにも断れなくなるシアンである。
「ええ、もちろんでございます、お母様」
目をあちこち泳がせた後、観念したようにロゼリアに告げるシアンだった。
こうして、家族そろってアイヴォリー王国に赴くことになったロゼリアたち。
一方で、久しぶりに踏むアイヴォリー王国の地に、いろいろと不安のよぎるシアンなのであった。
その手紙を早速確認したロゼリアは、そういう時期が来たのかと感慨深そうに眺めていた。
「ロゼリア」
「ペイル様?」
部屋にペイルがやって来る。
「くそっ、先を越されてしまったな。悔しいがしっかりお祝いをしてやらねばいかぬな」
「ええ、そうですね」
右手を顔の前で握りしめるペイルは、本当に悔しいな表情をしながら小さく拳を震わせていた。その姿を見てついつい笑ってしまうロゼリアである。
「ふふふっ、そのお祝いはボクに任せてもらおうか」
「ケットシー、あなたいつも突然現れないの!」
急に乱入してくる猫の幻獣に、ロゼリアの冷静なツッコミが炸裂する。
「はっはっはっ、いいじゃないか、ボクたちの仲というものだよ」
相変わらずの気まぐれっぷりである。思わず殴ってやりたいという衝動が、ロゼリアの中に生まれていた。
「物騒なことは考えないでおくれ。それよりもマゼンダ商会の方は何か贈らないのかい? せっかくこっちに支店を出しているというのね」
「確かにそうですね。実質的な経営は私とペイル様となっていますしね」
マゼンダ商会ヴィフレア支店。
それは、初めてモスグリネを訪れた際に設置された商会である。主にチェリシアの暴走による、大豆を仕入れるために設置された支店である。
「俺たちからの贈り物を何かこしらせさせるか。とはいえ、この告知された時期には間に合わないだろうな」
ペイルは贈られてきた手紙をもう一度確認する。そこに書かれていたシルヴァノとペシエラの戴冠式は一か月後である。確かに今から手配してどうのこうのとなれば、運搬のための時間を含めてギリギリといったところだろう。
「はっはっはっ」
その様子を見ていたケットシーが笑っている。
「まあ、贈り物はボクに任せておいておくれよ。なにせ、ボクが関わっているんだからね。はっはっはっ」
自信たっぷりなケットシーは、ロゼリアたちの前からかき消すように姿を消したのだった。
相変わらずの自由っぷりと自信に満ちあふれた態度に、ただただ呆れる二人だった。
「……なんというか、不安になってきたな」
「私もですよ……」
しばらく沈黙する二人。
やがて、ロゼリアがペイルに話し掛ける。
「子どもたちを連れていきましょうか」
「どうしてだ?」
突然のロゼリアの言葉に、ペイルは純粋に問い掛ける。
「ペシエラは逆行前に私を処刑してしまったことを後悔しています。その私たちの幸せな姿を見せるのが、一番の贈り物になると思うのですよ」
「なるほどなぁ。だが、俺はその時にいろいろやらかしたと聞いてるが、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ペシエラはそんなに子どもじゃありませんからね」
ペイルの疑問に、ロゼリアはついおかしなって笑いながら答えていた。
「……それもそうだな」
ちょっと驚いた表情をしたペイルだったが、納得したかのように笑い始めた。
「では、あの子たちと話をしてきますね」
「ああ、頼んだ。俺は戴冠式の事で各所に指示を出して回らなきゃいけないからな」
「承知致しました」
ぺこりと頭を下げて、ロゼリアは一足先に部屋を出ていったのだった。
暖かな日差しの下で、ロゼリアが紅茶をたしなんでいる。そこへ、呼び出しに応じたシアンとモーフの二人がやって来た。
「お呼びでございますでしょうか、お母様」
「どうなされたのでしょうか、母上」
シアンは十歳、モーフは八歳。二人ともしっかりと言葉遣いはできているようである。
「まあ、座りなさい」
ロゼリアは自分の両隣にシアンとモーフを座らせる。そして、単刀直入に話を始める。
「実は、近々アイヴォリー王国のシルヴァノ殿下が王位を継承されるそうです」
「そうなのですか?!」
驚いた反応を示すモーフに対して、シアンの反応は乏しかった。
「そうですか。そういう時期なのですね」
まるで分っていたかのような反応である。モーフとその従者はあまり気にしていないようだが、シアンの後ろに立つスミレがものすごく困った表情を浮かべているせいでロゼリアはおかしくて笑いそうになってしまう。
だが、ロゼリアアはあえてそれをスルーして、笑いを堪えながら話の続きをする。
「それでですね。二人も大きくなったわけですし、アイヴォリー王国の戴冠式に一緒に参列させようという話になりました。一応確認は取りますが、二人はどうしたいですか?」
唐突な話に面食らうシアンである。とはいえ、さすがに戴冠式ともなれば友好国であるモスグリネは全員で参列させておきたいだろう。見た目は幼いながらもシアンはあごに手を当てて考え始めた。
「僕は参列します」
一方のモーフは、ほぼ間を置かずして答えていた。
「姉上も当然参列されますよね」
間髪入れずにシアンに問い掛けてくるモーフ。まったく、本当に子どもなせいか遠慮がない。
父親であるペイルより濃い緑色の髪と瞳をキラキラさせながら、純粋な態度で問い掛けられると断るにも断れなくなるシアンである。
「ええ、もちろんでございます、お母様」
目をあちこち泳がせた後、観念したようにロゼリアに告げるシアンだった。
こうして、家族そろってアイヴォリー王国に赴くことになったロゼリアたち。
一方で、久しぶりに踏むアイヴォリー王国の地に、いろいろと不安のよぎるシアンなのであった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる