417 / 731
新章 青色の智姫
第48話 学園初日
しおりを挟む
(まったく、いきなり変な学生に絡まれてしまったわ……)
教室までやって来たシアンは不機嫌気味になっていた。
(黒っぽい髪色をしていので、ノワール伯爵家の子どもでしょうか。だとしたら、オフライト様とシェイディア様、どちらのご子息でしょうかね……)
ほかに考えることがなかったので、ついついさっきの男子学生の事を考え込んでしまうシアンだった。
「ねえ、どうしたの。難しい顔をしているけれど」
突然声を掛けられて、シアンは思わず反応して顔を上げる。そこには、茶色の髪をハーフアップにした少女が立っていた。
「えと? どちら様でしょうか」
思わず首を傾げて訪ねてしまう。
「私はブランチェスカ・クロッツと申します。クロッツ子爵家の長女です。お初にお目にかかります、シアン・モスグリネ王女殿下。ブランチェスカとお呼び下さい」
ブランチェスカと名乗った少女は、さわやかな笑顔をシアンへと向けてくる。急に話し掛けられたので驚いていたシアンだったが、落ち着いて挨拶をし返す。
「これはご丁寧に。ご指摘の通り、私はモスグリネ王国王女シアン・モスグリネでございます。三年間、よろしくお願いしますわ、ブランチェスカ」
「こちらこそよろしくお願いします」
地味に緊張が解けたのか、シアンはブランチェスカと笑顔を向け合っている。
「あー、いました。本当にいらっしゃるとは思いませんでした」
和やかな雰囲気をぶち壊すかのように、騒がしい声が近付いてきた。声に反応して振り返ると、そこには紫髪の少女が立っていた。
「あの、急に何なのでしょうか……」
立て続けに突然話しかけられたものだから、シアンは反応に困っている。
「失礼しました。お父様、お母様からお話を伺っていましたので、同じクラスになって喜びのあまりに声を掛けてしまいました」
肩にかかる波打ったロングヘアをふわりとさせながら、紫髪の少女はシアンの目の前までやってくる。そして、軽く淑女の挨拶をする。
「私はコーラル伯爵家の次女でプルネと申します。お会いできて光栄でございます」
顔を上げて名乗ると、にこりと微笑んでいた。
(コーラル伯爵家。つまり、アイリスとニーズヘッグの娘というわけですか。顔立ちと性格は、ニーズヘッグの方に近い感じですね。それにしても、幻獣との子どもとは不思議なものですね)
シアンは挨拶をしながらいろいろと考え込んでいた。なにぶん前世の知識があると、妙な先入観を抱いてしまうのだ。
シアンが知る限り、アイリスは控えめな感じで、ニーズヘッグはアイリスにべた惚れながらもかなり乱暴な性格だったと記憶している。そのために、ニーズヘッグに近いと感じて少し心の中で構えてしまったのだ。
「シアン様?」
プルネが不思議そうな顔をしながらシアンの顔を覗き込んでくる。少し下を見たシアンの視界に急に入り込んできたものだから、シアンはびっくりして少し後退ってしまった。
すると、プルネの方も驚いた表情を見せていた。
「あ、ごめんなさい。ちょっといろいろ考え込んでしまったので、驚いてしまいました」
「あっいえ。こちらこそ驚かせてしまうとは失礼しました」
シアンが謝ると、プルネも頭を下げて謝ってきた。こういう素直さはアイリスの性格を受け継いでいると感じるシアンだった。
「おほん、せっかく同じクラスになって知り合いになれたのですし仲良くしましょう」
少しつり目の目を閉じてにこにこと笑っているブランチェスカ。
「え、ええ。そうですね、仲良く致しましょう」
あまりの満面の笑みに少し引いてしまうシアンだったが、気を取り直して対応している。
シアンがここまで引いた反応をしているのは、ここまでの友人がいなかったというのが大きい。
アクアマリン子爵家の四女として生まれてから、膨大な魔力と真面目な性格が災いして、あまり友人というものができなかったからだ。いないことはなかったのだが。
真面目なせいで冷たい性格に思われたらしく、周りから距離を取られたというのもある。そんな状況だったので、家督を継ぐ事はさっさと放棄して、使用人となる道を選んだのだった。
(それにしても、まさかいきなり話しかけられて友人を作ることになるとは……。前世を思うと、信じられませんね)
にこにこと笑う少女が自分の両隣に座っているかと思うと、どこか落ち着かない気持ちになるシアン。過去の経験上、現実が受け止められないようだった。
「ほら、シアン様。そんな硬い表情をしてないで、笑いましょう」
「そうですよ。おきれいなのですから、笑顔はきっと素敵ですわよ」
「え、ええ……」
二人からの攻勢に、戸惑いっぱなしのシアン。
どうしたらいいのか迷っていると、教室の前方に一人の男性が現れた。
「お待たせしました。これより話を始めますから、静かにして下さいね」
少し白髪の混ざった赤みがかった茶髪の男性、それは先日城で見たガレンだった。
どうやらガレンがシアンたちのクラスの担任を務めるようだった。
なんとも初日から、意外な事が続く。
一体どんな学園生活になるのだろうか。シアンはまったく落ち着かなかった。
教室までやって来たシアンは不機嫌気味になっていた。
(黒っぽい髪色をしていので、ノワール伯爵家の子どもでしょうか。だとしたら、オフライト様とシェイディア様、どちらのご子息でしょうかね……)
ほかに考えることがなかったので、ついついさっきの男子学生の事を考え込んでしまうシアンだった。
「ねえ、どうしたの。難しい顔をしているけれど」
突然声を掛けられて、シアンは思わず反応して顔を上げる。そこには、茶色の髪をハーフアップにした少女が立っていた。
「えと? どちら様でしょうか」
思わず首を傾げて訪ねてしまう。
「私はブランチェスカ・クロッツと申します。クロッツ子爵家の長女です。お初にお目にかかります、シアン・モスグリネ王女殿下。ブランチェスカとお呼び下さい」
ブランチェスカと名乗った少女は、さわやかな笑顔をシアンへと向けてくる。急に話し掛けられたので驚いていたシアンだったが、落ち着いて挨拶をし返す。
「これはご丁寧に。ご指摘の通り、私はモスグリネ王国王女シアン・モスグリネでございます。三年間、よろしくお願いしますわ、ブランチェスカ」
「こちらこそよろしくお願いします」
地味に緊張が解けたのか、シアンはブランチェスカと笑顔を向け合っている。
「あー、いました。本当にいらっしゃるとは思いませんでした」
和やかな雰囲気をぶち壊すかのように、騒がしい声が近付いてきた。声に反応して振り返ると、そこには紫髪の少女が立っていた。
「あの、急に何なのでしょうか……」
立て続けに突然話しかけられたものだから、シアンは反応に困っている。
「失礼しました。お父様、お母様からお話を伺っていましたので、同じクラスになって喜びのあまりに声を掛けてしまいました」
肩にかかる波打ったロングヘアをふわりとさせながら、紫髪の少女はシアンの目の前までやってくる。そして、軽く淑女の挨拶をする。
「私はコーラル伯爵家の次女でプルネと申します。お会いできて光栄でございます」
顔を上げて名乗ると、にこりと微笑んでいた。
(コーラル伯爵家。つまり、アイリスとニーズヘッグの娘というわけですか。顔立ちと性格は、ニーズヘッグの方に近い感じですね。それにしても、幻獣との子どもとは不思議なものですね)
シアンは挨拶をしながらいろいろと考え込んでいた。なにぶん前世の知識があると、妙な先入観を抱いてしまうのだ。
シアンが知る限り、アイリスは控えめな感じで、ニーズヘッグはアイリスにべた惚れながらもかなり乱暴な性格だったと記憶している。そのために、ニーズヘッグに近いと感じて少し心の中で構えてしまったのだ。
「シアン様?」
プルネが不思議そうな顔をしながらシアンの顔を覗き込んでくる。少し下を見たシアンの視界に急に入り込んできたものだから、シアンはびっくりして少し後退ってしまった。
すると、プルネの方も驚いた表情を見せていた。
「あ、ごめんなさい。ちょっといろいろ考え込んでしまったので、驚いてしまいました」
「あっいえ。こちらこそ驚かせてしまうとは失礼しました」
シアンが謝ると、プルネも頭を下げて謝ってきた。こういう素直さはアイリスの性格を受け継いでいると感じるシアンだった。
「おほん、せっかく同じクラスになって知り合いになれたのですし仲良くしましょう」
少しつり目の目を閉じてにこにこと笑っているブランチェスカ。
「え、ええ。そうですね、仲良く致しましょう」
あまりの満面の笑みに少し引いてしまうシアンだったが、気を取り直して対応している。
シアンがここまで引いた反応をしているのは、ここまでの友人がいなかったというのが大きい。
アクアマリン子爵家の四女として生まれてから、膨大な魔力と真面目な性格が災いして、あまり友人というものができなかったからだ。いないことはなかったのだが。
真面目なせいで冷たい性格に思われたらしく、周りから距離を取られたというのもある。そんな状況だったので、家督を継ぐ事はさっさと放棄して、使用人となる道を選んだのだった。
(それにしても、まさかいきなり話しかけられて友人を作ることになるとは……。前世を思うと、信じられませんね)
にこにこと笑う少女が自分の両隣に座っているかと思うと、どこか落ち着かない気持ちになるシアン。過去の経験上、現実が受け止められないようだった。
「ほら、シアン様。そんな硬い表情をしてないで、笑いましょう」
「そうですよ。おきれいなのですから、笑顔はきっと素敵ですわよ」
「え、ええ……」
二人からの攻勢に、戸惑いっぱなしのシアン。
どうしたらいいのか迷っていると、教室の前方に一人の男性が現れた。
「お待たせしました。これより話を始めますから、静かにして下さいね」
少し白髪の混ざった赤みがかった茶髪の男性、それは先日城で見たガレンだった。
どうやらガレンがシアンたちのクラスの担任を務めるようだった。
なんとも初日から、意外な事が続く。
一体どんな学園生活になるのだろうか。シアンはまったく落ち着かなかった。
1
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる