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新章 青色の智姫
第62話 力には力をぶつけるのだよ
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結論から言えば、あっという間にばてた。
初めて剣を握ったことに舞い上がったのか、力のままに剣を振るって息が上がってしまったのだ。初心者にありがちなミスである。
「はははっ、力を込めて全力で振り回し過ぎだな。やみくもに力任せじゃいけないぞ」
肩で呼吸をしながらその場に座り込むシアンたちは、教官の言葉にまともに反応をする事はできなかった。
目の前ではココナス・マルーンも両手をついて今にも死にそうな顔をしていた。隣では剣を肩に置いてクライが大口を開けて笑っている。おそらくココナスはクライに付き合わされたのだろう。
「まったく情けないな。この程度で音を上げるとは」
大笑いするクライだが、ココナスが反応できるわけもなかった。結局、休んで一番最初に回復したプルネに抱えられるように医務室へと向かっていった。誰も手を貸さなかったらしい。
結局シアンとブランチェスカも回復を待って自力で移動していた。
(いくら身分は関係ないとはいえ……、学生でこれはさすがによろしくありませんね。教官も完全に無視していましたし。……報告しなければなりませんね)
ふらふらしながら医務室へと向かったシアンは、心の中でそう考えたのだった。
学園から城に戻ったシアンは、汗を流して服を着替える。
「ずいぶんとお疲れのようでしたね」
シアンの状態を見て、スミレが確認するように話し掛ける。
「ええ、ちょっと剣術の講義ではしゃぎすぎてしまいましてね」
「ああ、なるほどですね」
シアンの言葉を聞いて、大体の様子を察してしまうスミレである。さすがは長年の相棒といったところだ。
「それと、その表情から察するに、不満な出来事もあったようですね」
「ええ、私たちは自業自得でしたが、付き合わされてばてていたココナス様への対応を見る限り、改善は必要かなと思いましてね」
「大体事情は分かりましたね。シアン様が黙ってらしても、マルーン家の方から苦情が入ります。ですので、陛下方に報告なさるのが一番でしょう」
「やっぱりそうですよね」
スミレからの提案に、シアンはこくりと頷いていた。
シルヴァノとペシエラの両方に伝えるのがいいだろうということで、やっぱり報告には食事の時間を使う。
夕食の際に、珍しくペシエラから話題が振られる。
「そういえばシアン王女」
「なんでございましょうか、ペシエラ王妃殿下」
そういえば、アイヴォリー王国は本来二王制でペシエラも女王に就くはずだったがのが、どういうわけか王妃でおさまっている。その理由は、逆行前の話とはいえ、二王制の下でありながら双方ともに早死にした経験があるからだ。そのこともあって、転換期ではないかと考え、ペシエラは女王を辞退したのだった。まあ、自身の傲慢が破滅につながったという自戒からかもしれない。現状では即位後から十四年間何事もないので、どうやら問題はなかったようだ。
それはそうと話を戻そう。
「何かあったという顔をしていますね」
さすがはペシエラ。なかなかに鋭かった。
「本日の剣術の講義で起きたことを報告させて頂こうかと存じます」
なので、シアンもすんなり話を始めようとする。
「いや、宰相のマルーン侯爵からすでに話は聞いている。疲れて倒れた学生を放置したらしいね」
言葉をさえぎって、シルヴァノが発言している。
「はい、その通りでございます。私も放置された側の当事者でございます」
「うむ、マルーン侯爵の報告通りだね。報告を受けて学園にはすでに申し入れておいたから、安心してもらえるかな」
シルヴァノはそのように話している。この短時間でもう行動を起こしているとは、なんというスピードなのだろうか。
「あら、酷い話ですわね。切羽詰まった戦場ならともかく、学園の中でそれは困りますわね。ましてや、一国の宰相の息子と隣国の王女を放置とは、戦争がしたいのかしら」
ペシエラもだいぶお怒りの様子である。
なんとも不穏な空気のまま夕食が終わったので、戦々恐々とするシアンなのであった。
翌日、学園にペシエラが現れる。
そして、剣術の講義を受け持つ教官に対して決闘を申し込んでいた。王妃自らが決闘を申し込むとは異例の事態で、学園側も対処に困っていた。だが、ぶっちゃけて王命同然なので受けざるを得ず、剣術の教官とペシエラの対戦が実現してしまった。
ペシエラはドレスにハイヒールという相変わらず動きづらそうな服装であり、ラフな格好の剣術の教官とはまったくもって対照的である。
「全力でいらして下さい。命の取り合いをしないとはいえ、決闘なのですからね」
「わ、分かりました……」
教官はいろんな意味で困惑している。だが、ペシエラから全力で来いと言われたので、それに従うしかなかった。
結果、ペシエラの圧勝だった。
教官の剣技だって教官になるくらい素晴らしいものだ。だが、ペシエラの剣術はそれをはるかに凌駕していた。さすがは逆行前にモスグリネ兵を屠ってきただけはあるというもの。今世でも剣術大会でその腕は証明されていたし、その実力は疑う余地もなかったのである。
「学生たちは、将来王国を背負って立つ重要な人材。きちんと丁重に扱う様に」
「はっ、申し訳ございませんでした」
ペシエラに土下座をする教官なのであった。
すべてを終えたペシエラは、まるで風のように颯爽と学園を立ち去っていった。
初めて剣を握ったことに舞い上がったのか、力のままに剣を振るって息が上がってしまったのだ。初心者にありがちなミスである。
「はははっ、力を込めて全力で振り回し過ぎだな。やみくもに力任せじゃいけないぞ」
肩で呼吸をしながらその場に座り込むシアンたちは、教官の言葉にまともに反応をする事はできなかった。
目の前ではココナス・マルーンも両手をついて今にも死にそうな顔をしていた。隣では剣を肩に置いてクライが大口を開けて笑っている。おそらくココナスはクライに付き合わされたのだろう。
「まったく情けないな。この程度で音を上げるとは」
大笑いするクライだが、ココナスが反応できるわけもなかった。結局、休んで一番最初に回復したプルネに抱えられるように医務室へと向かっていった。誰も手を貸さなかったらしい。
結局シアンとブランチェスカも回復を待って自力で移動していた。
(いくら身分は関係ないとはいえ……、学生でこれはさすがによろしくありませんね。教官も完全に無視していましたし。……報告しなければなりませんね)
ふらふらしながら医務室へと向かったシアンは、心の中でそう考えたのだった。
学園から城に戻ったシアンは、汗を流して服を着替える。
「ずいぶんとお疲れのようでしたね」
シアンの状態を見て、スミレが確認するように話し掛ける。
「ええ、ちょっと剣術の講義ではしゃぎすぎてしまいましてね」
「ああ、なるほどですね」
シアンの言葉を聞いて、大体の様子を察してしまうスミレである。さすがは長年の相棒といったところだ。
「それと、その表情から察するに、不満な出来事もあったようですね」
「ええ、私たちは自業自得でしたが、付き合わされてばてていたココナス様への対応を見る限り、改善は必要かなと思いましてね」
「大体事情は分かりましたね。シアン様が黙ってらしても、マルーン家の方から苦情が入ります。ですので、陛下方に報告なさるのが一番でしょう」
「やっぱりそうですよね」
スミレからの提案に、シアンはこくりと頷いていた。
シルヴァノとペシエラの両方に伝えるのがいいだろうということで、やっぱり報告には食事の時間を使う。
夕食の際に、珍しくペシエラから話題が振られる。
「そういえばシアン王女」
「なんでございましょうか、ペシエラ王妃殿下」
そういえば、アイヴォリー王国は本来二王制でペシエラも女王に就くはずだったがのが、どういうわけか王妃でおさまっている。その理由は、逆行前の話とはいえ、二王制の下でありながら双方ともに早死にした経験があるからだ。そのこともあって、転換期ではないかと考え、ペシエラは女王を辞退したのだった。まあ、自身の傲慢が破滅につながったという自戒からかもしれない。現状では即位後から十四年間何事もないので、どうやら問題はなかったようだ。
それはそうと話を戻そう。
「何かあったという顔をしていますね」
さすがはペシエラ。なかなかに鋭かった。
「本日の剣術の講義で起きたことを報告させて頂こうかと存じます」
なので、シアンもすんなり話を始めようとする。
「いや、宰相のマルーン侯爵からすでに話は聞いている。疲れて倒れた学生を放置したらしいね」
言葉をさえぎって、シルヴァノが発言している。
「はい、その通りでございます。私も放置された側の当事者でございます」
「うむ、マルーン侯爵の報告通りだね。報告を受けて学園にはすでに申し入れておいたから、安心してもらえるかな」
シルヴァノはそのように話している。この短時間でもう行動を起こしているとは、なんというスピードなのだろうか。
「あら、酷い話ですわね。切羽詰まった戦場ならともかく、学園の中でそれは困りますわね。ましてや、一国の宰相の息子と隣国の王女を放置とは、戦争がしたいのかしら」
ペシエラもだいぶお怒りの様子である。
なんとも不穏な空気のまま夕食が終わったので、戦々恐々とするシアンなのであった。
翌日、学園にペシエラが現れる。
そして、剣術の講義を受け持つ教官に対して決闘を申し込んでいた。王妃自らが決闘を申し込むとは異例の事態で、学園側も対処に困っていた。だが、ぶっちゃけて王命同然なので受けざるを得ず、剣術の教官とペシエラの対戦が実現してしまった。
ペシエラはドレスにハイヒールという相変わらず動きづらそうな服装であり、ラフな格好の剣術の教官とはまったくもって対照的である。
「全力でいらして下さい。命の取り合いをしないとはいえ、決闘なのですからね」
「わ、分かりました……」
教官はいろんな意味で困惑している。だが、ペシエラから全力で来いと言われたので、それに従うしかなかった。
結果、ペシエラの圧勝だった。
教官の剣技だって教官になるくらい素晴らしいものだ。だが、ペシエラの剣術はそれをはるかに凌駕していた。さすがは逆行前にモスグリネ兵を屠ってきただけはあるというもの。今世でも剣術大会でその腕は証明されていたし、その実力は疑う余地もなかったのである。
「学生たちは、将来王国を背負って立つ重要な人材。きちんと丁重に扱う様に」
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すべてを終えたペシエラは、まるで風のように颯爽と学園を立ち去っていった。
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