逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
431 / 731
新章 青色の智姫

第62話 力には力をぶつけるのだよ

しおりを挟む
 結論から言えば、あっという間にばてた。
 初めて剣を握ったことに舞い上がったのか、力のままに剣を振るって息が上がってしまったのだ。初心者にありがちなミスである。
「はははっ、力を込めて全力で振り回し過ぎだな。やみくもに力任せじゃいけないぞ」
 肩で呼吸をしながらその場に座り込むシアンたちは、教官の言葉にまともに反応をする事はできなかった。
 目の前ではココナス・マルーンも両手をついて今にも死にそうな顔をしていた。隣では剣を肩に置いてクライが大口を開けて笑っている。おそらくココナスはクライに付き合わされたのだろう。
「まったく情けないな。この程度で音を上げるとは」
 大笑いするクライだが、ココナスが反応できるわけもなかった。結局、休んで一番最初に回復したプルネに抱えられるように医務室へと向かっていった。誰も手を貸さなかったらしい。
 結局シアンとブランチェスカも回復を待って自力で移動していた。
(いくら身分は関係ないとはいえ……、学生でこれはさすがによろしくありませんね。教官も完全に無視していましたし。……報告しなければなりませんね)
 ふらふらしながら医務室へと向かったシアンは、心の中でそう考えたのだった。

 学園から城に戻ったシアンは、汗を流して服を着替える。
「ずいぶんとお疲れのようでしたね」
 シアンの状態を見て、スミレが確認するように話し掛ける。
「ええ、ちょっと剣術の講義ではしゃぎすぎてしまいましてね」
「ああ、なるほどですね」
 シアンの言葉を聞いて、大体の様子を察してしまうスミレである。さすがは長年の相棒といったところだ。
「それと、その表情から察するに、不満な出来事もあったようですね」
「ええ、私たちは自業自得でしたが、付き合わされてばてていたココナス様への対応を見る限り、改善は必要かなと思いましてね」
「大体事情は分かりましたね。シアン様が黙ってらしても、マルーン家の方から苦情が入ります。ですので、陛下方に報告なさるのが一番でしょう」
「やっぱりそうですよね」
 スミレからの提案に、シアンはこくりと頷いていた。

 シルヴァノとペシエラの両方に伝えるのがいいだろうということで、やっぱり報告には食事の時間を使う。
 夕食の際に、珍しくペシエラから話題が振られる。
「そういえばシアン王女」
「なんでございましょうか、ペシエラ王妃殿下」
 そういえば、アイヴォリー王国は本来二王制でペシエラも女王に就くはずだったがのが、どういうわけか王妃でおさまっている。その理由は、逆行前の話とはいえ、二王制の下でありながら双方ともに早死にした経験があるからだ。そのこともあって、転換期ではないかと考え、ペシエラは女王を辞退したのだった。まあ、自身の傲慢が破滅につながったという自戒からかもしれない。現状では即位後から十四年間何事もないので、どうやら問題はなかったようだ。
 それはそうと話を戻そう。
「何かあったという顔をしていますね」
 さすがはペシエラ。なかなかに鋭かった。
「本日の剣術の講義で起きたことを報告させて頂こうかと存じます」
 なので、シアンもすんなり話を始めようとする。
「いや、宰相のマルーン侯爵からすでに話は聞いている。疲れて倒れた学生を放置したらしいね」
 言葉をさえぎって、シルヴァノが発言している。
「はい、その通りでございます。私も放置された側の当事者でございます」
「うむ、マルーン侯爵の報告通りだね。報告を受けて学園にはすでに申し入れておいたから、安心してもらえるかな」
 シルヴァノはそのように話している。この短時間でもう行動を起こしているとは、なんというスピードなのだろうか。
「あら、酷い話ですわね。切羽詰まった戦場ならともかく、学園の中でそれは困りますわね。ましてや、一国の宰相の息子と隣国の王女を放置とは、戦争がしたいのかしら」
 ペシエラもだいぶお怒りの様子である。
 なんとも不穏な空気のまま夕食が終わったので、戦々恐々とするシアンなのであった。

 翌日、学園にペシエラが現れる。
 そして、剣術の講義を受け持つ教官に対して決闘を申し込んでいた。王妃自らが決闘を申し込むとは異例の事態で、学園側も対処に困っていた。だが、ぶっちゃけて王命同然なので受けざるを得ず、剣術の教官とペシエラの対戦が実現してしまった。
 ペシエラはドレスにハイヒールという相変わらず動きづらそうな服装であり、ラフな格好の剣術の教官とはまったくもって対照的である。
「全力でいらして下さい。命の取り合いをしないとはいえ、決闘なのですからね」
「わ、分かりました……」
 教官はいろんな意味で困惑している。だが、ペシエラから全力で来いと言われたので、それに従うしかなかった。
 結果、ペシエラの圧勝だった。
 教官の剣技だって教官になるくらい素晴らしいものだ。だが、ペシエラの剣術はそれをはるかに凌駕していた。さすがは逆行前にモスグリネ兵を屠ってきただけはあるというもの。今世でも剣術大会でその腕は証明されていたし、その実力は疑う余地もなかったのである。
「学生たちは、将来王国を背負って立つ重要な人材。きちんと丁重に扱う様に」
「はっ、申し訳ございませんでした」
 ペシエラに土下座をする教官なのであった。
 すべてを終えたペシエラは、まるで風のように颯爽と学園を立ち去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...