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新章 青色の智姫
第71話 奇妙な違和感
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そういえば、プルネの姉であるフューシャは魔法タイプの面々の中には見当たらなかった。プルネもそこそこ特殊な方とはいえ剣術が扱えたので、おそらくは武術タイプの方にいるのだろう。
特訓の間中辺りを見回していたシアンだったが、これといって変わった様子を見ることはなかった。プルネに少し違和感を感じたくらいである。
元アクアマリン子爵令嬢であるシアンだからこそ、感じ取れたのかもしれない。他に気が付いているのは誰もいなさそうだったのだから。
初日のスケジュールを終わらせたシアンは、プルネとブランチェスカとは一旦別れて、ガレンのところへと向かった。
「ガレン先生」
「どうしたんだね、シアンくん」
声を掛けられて、びっくりしたように反応するガレン。
「ガレン先生は、何か感じませんでしたか?」
シアンが単刀直入に話を始めると、ガレンの表情がわずかに曇る。
「君も感じたのか。さすがはアクアマリン子爵家最大とも言われた魔力の持ち主だな」
どうやらガレンも感じ取ったようだった。さすがは精霊王オリジン。
だが、話を聞いていると、彼ですらわずかな違和感だったらしく、詳しくは分からなかったらしい。
「精霊王ですら感知が難しいとは……。お母様の時のこととよく似ていますね。あの時はペシエラ様が気が付いていたので、それほどの被害にはならなかったらしいですが……」
考え込む仕草をするシアン。
「まぁそうだな。とはいえ、魔道具系の仕掛けに気が付いたのはすべて発動後だ。発動前に潰せたことはなかったぞ」
「……そうでしたね」
ガレンの指摘に、シアンははっと気が付いて頷いていた。
そう、ペシエラが気が付いたのは暗殺者と思しき連中の気配だけ。その後の魔物氾濫は一切防げていなかったのだ。ただ、発動した後は、そのすべてを圧倒的力でねじ伏せていた。
やはり、能力があっても隠蔽されたものを見つけるのは困難なようなのだ。
「とはいえ、感じ取れたのは大きいな。だが、合宿中は思うように動けない。そこが難点なのよな」
「そうですね」
思い悩むシアンとガレンである。
「まあ、私は精霊だから寝なくても大丈夫だからな。夜中にでも調べてみるとするか」
「ええ、お願いします」
ガレンが乗り気なようなので、シアンはガレンにひとまず任せることにしたのだった。
―――
一方その頃、サファイア湖の近くに潜むキャノルとライ。
「うーむ、あたいじゃさすがに何も分からないな。気配を消したり察知したりするのは得意だが、魔力を感じるっていうのはそうでもないんだよな」
合宿するシアンたちを見守りながら、ライに話し掛けているキャノル。
「魔力に関しては私に任せて下さい。これでも精霊の森に住んでいた妖精なんですからね。魔力には一番慣れ親しんでいます」
「そうか? 合宿には精霊王がいるって聞いたけどね」
「ぐぅ」
ライが自信たっぷりに言っているものだから、キャノルがちょっと突いてやるとライにクリティカルヒットしていた。
「せ、精霊王様は人間生活が長いから仕方ないんです」
言い訳を叫ぶライである。その必死な様子に、つい笑ってしまうキャノルである。
「しかし、さすがフューシャお嬢様とプルネお嬢様だな。魔法も剣術もそれなりにこなせている。まっ、剣術はあたいが教えてやったから当然だな」
「あなたの剣術って暗殺剣じゃないですか」
腕を組んで誇らしげに笑うキャノルに、ライが即座にツッコミを入れる。
「回避と一撃必殺の極端に特化した剣術だぞ。かっこいいじゃないか」
「令嬢の扱う剣術としてどうなんですか、それは」
「はあ、いちいちうるさいな」
言い争うキャノルとライだったが、突如として二人は何かを感じて静かになる。
「なぁ、ライ。これって……」
「ええ、間違いありませんね。デーモンハートです」
キャノルの問い掛けに、ライがはっきりと答える。
デーモンハート、魔石とよく似た魔力を宿した石ではあるが、瘴気が結晶化したものという特徴がある。
触れた者の心を狂わせる石で、ライが妖精から悪精に堕ちた原因でもある物質である。過去にも様々な問題を引き起こした、悪名高い石なのである。
「まだ残ってたんですね。これが関わっているっていうことは、パープリアの残党か、もしくは同じ祖先を持つ何者かが動いているということになりますね」
表情が段々と険しくなるライである。
「どうにかできそうか?」
「私は一度デーモンハートで堕ちた経験があるので耐性がありますけれど、正直分かりませんよ」
「そっか」
ライは自信がなさそうだった。実際、ペシエラたちが学生だった頃の武術大会の際の魔物召喚に自分が巻き込まれているからだ。あの時はどうにか破壊できたものの、それが今回もできるとは限らないのである。
「とはいえ、感じたからには調査しなければなりませんね。シアン様たちに何かあっては、私たちがペシエラ様に怒られてしまいます」
「まったくだな。無茶振りとはいえ、あたいらの腕前を信じて出された依頼だ。きっちりこなさなきゃ、元暗殺者としてかっこがつかないぜ」
間もなく日が暮れるサファイア湖。ペシエラとアイリスの依頼を受けたキャノルとライは、こっそりと行動を開始したのであった。
特訓の間中辺りを見回していたシアンだったが、これといって変わった様子を見ることはなかった。プルネに少し違和感を感じたくらいである。
元アクアマリン子爵令嬢であるシアンだからこそ、感じ取れたのかもしれない。他に気が付いているのは誰もいなさそうだったのだから。
初日のスケジュールを終わらせたシアンは、プルネとブランチェスカとは一旦別れて、ガレンのところへと向かった。
「ガレン先生」
「どうしたんだね、シアンくん」
声を掛けられて、びっくりしたように反応するガレン。
「ガレン先生は、何か感じませんでしたか?」
シアンが単刀直入に話を始めると、ガレンの表情がわずかに曇る。
「君も感じたのか。さすがはアクアマリン子爵家最大とも言われた魔力の持ち主だな」
どうやらガレンも感じ取ったようだった。さすがは精霊王オリジン。
だが、話を聞いていると、彼ですらわずかな違和感だったらしく、詳しくは分からなかったらしい。
「精霊王ですら感知が難しいとは……。お母様の時のこととよく似ていますね。あの時はペシエラ様が気が付いていたので、それほどの被害にはならなかったらしいですが……」
考え込む仕草をするシアン。
「まぁそうだな。とはいえ、魔道具系の仕掛けに気が付いたのはすべて発動後だ。発動前に潰せたことはなかったぞ」
「……そうでしたね」
ガレンの指摘に、シアンははっと気が付いて頷いていた。
そう、ペシエラが気が付いたのは暗殺者と思しき連中の気配だけ。その後の魔物氾濫は一切防げていなかったのだ。ただ、発動した後は、そのすべてを圧倒的力でねじ伏せていた。
やはり、能力があっても隠蔽されたものを見つけるのは困難なようなのだ。
「とはいえ、感じ取れたのは大きいな。だが、合宿中は思うように動けない。そこが難点なのよな」
「そうですね」
思い悩むシアンとガレンである。
「まあ、私は精霊だから寝なくても大丈夫だからな。夜中にでも調べてみるとするか」
「ええ、お願いします」
ガレンが乗り気なようなので、シアンはガレンにひとまず任せることにしたのだった。
―――
一方その頃、サファイア湖の近くに潜むキャノルとライ。
「うーむ、あたいじゃさすがに何も分からないな。気配を消したり察知したりするのは得意だが、魔力を感じるっていうのはそうでもないんだよな」
合宿するシアンたちを見守りながら、ライに話し掛けているキャノル。
「魔力に関しては私に任せて下さい。これでも精霊の森に住んでいた妖精なんですからね。魔力には一番慣れ親しんでいます」
「そうか? 合宿には精霊王がいるって聞いたけどね」
「ぐぅ」
ライが自信たっぷりに言っているものだから、キャノルがちょっと突いてやるとライにクリティカルヒットしていた。
「せ、精霊王様は人間生活が長いから仕方ないんです」
言い訳を叫ぶライである。その必死な様子に、つい笑ってしまうキャノルである。
「しかし、さすがフューシャお嬢様とプルネお嬢様だな。魔法も剣術もそれなりにこなせている。まっ、剣術はあたいが教えてやったから当然だな」
「あなたの剣術って暗殺剣じゃないですか」
腕を組んで誇らしげに笑うキャノルに、ライが即座にツッコミを入れる。
「回避と一撃必殺の極端に特化した剣術だぞ。かっこいいじゃないか」
「令嬢の扱う剣術としてどうなんですか、それは」
「はあ、いちいちうるさいな」
言い争うキャノルとライだったが、突如として二人は何かを感じて静かになる。
「なぁ、ライ。これって……」
「ええ、間違いありませんね。デーモンハートです」
キャノルの問い掛けに、ライがはっきりと答える。
デーモンハート、魔石とよく似た魔力を宿した石ではあるが、瘴気が結晶化したものという特徴がある。
触れた者の心を狂わせる石で、ライが妖精から悪精に堕ちた原因でもある物質である。過去にも様々な問題を引き起こした、悪名高い石なのである。
「まだ残ってたんですね。これが関わっているっていうことは、パープリアの残党か、もしくは同じ祖先を持つ何者かが動いているということになりますね」
表情が段々と険しくなるライである。
「どうにかできそうか?」
「私は一度デーモンハートで堕ちた経験があるので耐性がありますけれど、正直分かりませんよ」
「そっか」
ライは自信がなさそうだった。実際、ペシエラたちが学生だった頃の武術大会の際の魔物召喚に自分が巻き込まれているからだ。あの時はどうにか破壊できたものの、それが今回もできるとは限らないのである。
「とはいえ、感じたからには調査しなければなりませんね。シアン様たちに何かあっては、私たちがペシエラ様に怒られてしまいます」
「まったくだな。無茶振りとはいえ、あたいらの腕前を信じて出された依頼だ。きっちりこなさなきゃ、元暗殺者としてかっこがつかないぜ」
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