442 / 731
新章 青色の智姫
第73話 湖底のデーモンハート
しおりを挟む
湖底に沈むデーモンハートを前に、ライはごくりと息を飲む。まさかここにきて、またこれを拝むことになるとは思ってもみなかったからだ。
「まったく、なんだって私はこんなものに縁があるのよ……」
頭が本気で痛くなるライである。
自分がハイスプライトに堕ちた時が一度目、学園祭の武術大会を荒らすための装置として使われた時が二度目、ペシエラを助ける時に三度目と、実質は二個とはいえ三度も相まみえるという縁の深さである。
そして、今目の前に三個目のデモンズハートがある。
元々ここにあったのか、それとも外部から誰かが持ち込んだのか。いろいろと思うところはあるものの、今のライにとってはそれはどうでもいい事だ。
『蒼鱗魚』
『なんだい』
『あったわ、デーモンハート。どうしたらいい?』
蒼鱗魚に対応を確認するライ。
『害がないようにしてくれればいいが、面倒かの?』
蒼鱗魚が答えると、念話であるにもかかわらず大きなため息をつくライ。
『ここで破壊が一番だと思ったけど、このサファイア湖の水ってかなり魔力を含んでいるわね。そうなると、ここで破壊というわけにはいかないわ』
『ほほう、それはどういう理由でかの?』
ライが思いとどまる理由を尋ねる蒼鱗魚。
『デーモンハートの瘴気は魔力との親和性が高いわ。そもそも変質した魔力だし。だから、ここで破壊すると湖が瘴気に汚染されてしまうわ』
『それはいかんのう。わしらもある程度自由に動けるとはいえ、ここが一番気に入っておるからのう』
『ええ、困ったものですよ』
住み慣れた場所を離れたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
正直言って、ライだってできればそうしたいところだ。しかし、ここから移動させるにはデーモンハートに触れざるを得ない。
もし持ち出せたとしても、これが外部から持ち込まれたものであるのなら、持ち込んだ犯人に気付かれる可能性だって考えられる。そうなると、やるなら短時間でスピーディーに実行しなければならないというわけだ。
『精霊王様、外の様子はどうですか?』
悩んだライは、地上にいるガレンに様子を確認することにした。
『君の相棒にも動きはない。誰かが隠れているというわけではなさそうだ』
『そう、よかったわ』
ガレンからの返答に、ほっと胸を撫で下ろすライ。そして、表情を引き締めて、一度両頬を手で叩く。
『精霊王様、デーモンハートを地上に持ち出して、そこで破壊します』
『湖の中では無理か?』
ライの作戦を聞いて、ガレンは問い返す。
『サファイア湖の魔力が汚染されてしまいます。地上で結界で囲って破壊した方が被害は小さくて済みます』
『分かった。ならば外で君の相棒と合流して待っているよ』
『分かりました』
念話を終えると、ライはさらに深呼吸を行う。いくら何度か触れて耐性があるとはいえ、完全ではない。なんとしても乗っ取られないようにしなければならないので、気合いを入れ直すしかないのである。
「よしっ」
覚悟を決めたライは、一気にデーモンハートへと近付いていく。そこに落ちていたのは紫がかった色のデーモンハートだった。
「珍しい色だけど、この魔力は間違いなくデーモンハート。とにかく一気に地上に運ばないと……」
ライは操れる属性を駆使して、デーモンハートの周りの水を凍らせる。こうすれば、直接触れずに済むと考えたのだ。
「使える属性を増やしておいて正解ね。これを慎重に手に持って……っと」
ライはデーモンハートを抱えると、自分を取り巻く空気の膜を一気に地上に向けて上昇させる。
ザパーンという大きな音を立てて、ライはデーモンハートと一緒にサファイア湖の中から脱出した。
きれいに着地を決めたライは、すぐさまガレンの元に駆け寄る。
「精霊王様、これが件のデーモンハートです」
カチコチに凍ったデーモンハートを差し出すライ。予想外な状態に、ガレンの表情は思わず固まってしまった。
「直接触れないための秘策です。冷気属性を使えるようにしておいてよかったですよ」
「あ、ああ。そうだな……」
戸惑いながらもガレンは、デーモンハートを破壊して浄化する作業に移る。ペシエラを救った時の方法があるために、そこは実に手慣れた様子で行っていく。
その間、手の空いているキャノルは周囲を警戒している。今のところは変わった様子はないようだ。
ライが見守る中、ガレンが手際よくデーモンハートを破壊する。そして、精霊王としての力で瘴気をしっかりと浄化してしまった。
「ふぅ、これでよしだな。……他にはなさそうだったか?」
「違和感はほぼ感じなくなったので、多分これだけだと。とはいえ、一個だけでも相当に厄介な代物なんですけどね、これ」
崩れ落ちて砂となっていくデーモンハートを眺めながら、ライは難しそうな表情でつぶやいていた。
「ひとまず終わったようなら、あたいは警戒に戻るよ。そんなものを仕込んでたってことは、間違いなく学生たちを狙っている連中がいるってことだからな」
「ああ、ぜひとも頼む。私は宿舎となっている別荘に戻らねばならんからな」
無事にデーモンハートを破壊したことで、ライやガレンたちはそれぞれの持ち場に戻っていく。
それにしても、一体誰がどうやってここに持ち込んだというのだろうか。謎は深まるばかりだった。
「まったく、なんだって私はこんなものに縁があるのよ……」
頭が本気で痛くなるライである。
自分がハイスプライトに堕ちた時が一度目、学園祭の武術大会を荒らすための装置として使われた時が二度目、ペシエラを助ける時に三度目と、実質は二個とはいえ三度も相まみえるという縁の深さである。
そして、今目の前に三個目のデモンズハートがある。
元々ここにあったのか、それとも外部から誰かが持ち込んだのか。いろいろと思うところはあるものの、今のライにとってはそれはどうでもいい事だ。
『蒼鱗魚』
『なんだい』
『あったわ、デーモンハート。どうしたらいい?』
蒼鱗魚に対応を確認するライ。
『害がないようにしてくれればいいが、面倒かの?』
蒼鱗魚が答えると、念話であるにもかかわらず大きなため息をつくライ。
『ここで破壊が一番だと思ったけど、このサファイア湖の水ってかなり魔力を含んでいるわね。そうなると、ここで破壊というわけにはいかないわ』
『ほほう、それはどういう理由でかの?』
ライが思いとどまる理由を尋ねる蒼鱗魚。
『デーモンハートの瘴気は魔力との親和性が高いわ。そもそも変質した魔力だし。だから、ここで破壊すると湖が瘴気に汚染されてしまうわ』
『それはいかんのう。わしらもある程度自由に動けるとはいえ、ここが一番気に入っておるからのう』
『ええ、困ったものですよ』
住み慣れた場所を離れたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
正直言って、ライだってできればそうしたいところだ。しかし、ここから移動させるにはデーモンハートに触れざるを得ない。
もし持ち出せたとしても、これが外部から持ち込まれたものであるのなら、持ち込んだ犯人に気付かれる可能性だって考えられる。そうなると、やるなら短時間でスピーディーに実行しなければならないというわけだ。
『精霊王様、外の様子はどうですか?』
悩んだライは、地上にいるガレンに様子を確認することにした。
『君の相棒にも動きはない。誰かが隠れているというわけではなさそうだ』
『そう、よかったわ』
ガレンからの返答に、ほっと胸を撫で下ろすライ。そして、表情を引き締めて、一度両頬を手で叩く。
『精霊王様、デーモンハートを地上に持ち出して、そこで破壊します』
『湖の中では無理か?』
ライの作戦を聞いて、ガレンは問い返す。
『サファイア湖の魔力が汚染されてしまいます。地上で結界で囲って破壊した方が被害は小さくて済みます』
『分かった。ならば外で君の相棒と合流して待っているよ』
『分かりました』
念話を終えると、ライはさらに深呼吸を行う。いくら何度か触れて耐性があるとはいえ、完全ではない。なんとしても乗っ取られないようにしなければならないので、気合いを入れ直すしかないのである。
「よしっ」
覚悟を決めたライは、一気にデーモンハートへと近付いていく。そこに落ちていたのは紫がかった色のデーモンハートだった。
「珍しい色だけど、この魔力は間違いなくデーモンハート。とにかく一気に地上に運ばないと……」
ライは操れる属性を駆使して、デーモンハートの周りの水を凍らせる。こうすれば、直接触れずに済むと考えたのだ。
「使える属性を増やしておいて正解ね。これを慎重に手に持って……っと」
ライはデーモンハートを抱えると、自分を取り巻く空気の膜を一気に地上に向けて上昇させる。
ザパーンという大きな音を立てて、ライはデーモンハートと一緒にサファイア湖の中から脱出した。
きれいに着地を決めたライは、すぐさまガレンの元に駆け寄る。
「精霊王様、これが件のデーモンハートです」
カチコチに凍ったデーモンハートを差し出すライ。予想外な状態に、ガレンの表情は思わず固まってしまった。
「直接触れないための秘策です。冷気属性を使えるようにしておいてよかったですよ」
「あ、ああ。そうだな……」
戸惑いながらもガレンは、デーモンハートを破壊して浄化する作業に移る。ペシエラを救った時の方法があるために、そこは実に手慣れた様子で行っていく。
その間、手の空いているキャノルは周囲を警戒している。今のところは変わった様子はないようだ。
ライが見守る中、ガレンが手際よくデーモンハートを破壊する。そして、精霊王としての力で瘴気をしっかりと浄化してしまった。
「ふぅ、これでよしだな。……他にはなさそうだったか?」
「違和感はほぼ感じなくなったので、多分これだけだと。とはいえ、一個だけでも相当に厄介な代物なんですけどね、これ」
崩れ落ちて砂となっていくデーモンハートを眺めながら、ライは難しそうな表情でつぶやいていた。
「ひとまず終わったようなら、あたいは警戒に戻るよ。そんなものを仕込んでたってことは、間違いなく学生たちを狙っている連中がいるってことだからな」
「ああ、ぜひとも頼む。私は宿舎となっている別荘に戻らねばならんからな」
無事にデーモンハートを破壊したことで、ライやガレンたちはそれぞれの持ち場に戻っていく。
それにしても、一体誰がどうやってここに持ち込んだというのだろうか。謎は深まるばかりだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる