逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第73話 湖底のデーモンハート

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 湖底に沈むデーモンハートを前に、ライはごくりと息を飲む。まさかここにきて、またこれを拝むことになるとは思ってもみなかったからだ。
「まったく、なんだって私はこんなものに縁があるのよ……」
 頭が本気で痛くなるライである。
 自分がハイスプライトに堕ちた時が一度目、学園祭の武術大会を荒らすための装置として使われた時が二度目、ペシエラを助ける時に三度目と、実質は二個とはいえ三度も相まみえるという縁の深さである。
 そして、今目の前に三個目のデモンズハートがある。
 元々ここにあったのか、それとも外部から誰かが持ち込んだのか。いろいろと思うところはあるものの、今のライにとってはそれはどうでもいい事だ。
蒼鱗魚サファイアフィッシュ
『なんだい』
『あったわ、デーモンハート。どうしたらいい?』
 蒼鱗魚に対応を確認するライ。
『害がないようにしてくれればいいが、面倒かの?』
 蒼鱗魚が答えると、念話であるにもかかわらず大きなため息をつくライ。
『ここで破壊が一番だと思ったけど、このサファイア湖の水ってかなり魔力を含んでいるわね。そうなると、ここで破壊というわけにはいかないわ』
『ほほう、それはどういう理由でかの?』
 ライが思いとどまる理由を尋ねる蒼鱗魚。
『デーモンハートの瘴気は魔力との親和性が高いわ。そもそも変質した魔力だし。だから、ここで破壊すると湖が瘴気に汚染されてしまうわ』
『それはいかんのう。わしらもある程度自由に動けるとはいえ、ここが一番気に入っておるからのう』
『ええ、困ったものですよ』
 住み慣れた場所を離れたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
 正直言って、ライだってできればそうしたいところだ。しかし、ここから移動させるにはデーモンハートに触れざるを得ない。
 もし持ち出せたとしても、これが外部から持ち込まれたものであるのなら、持ち込んだ犯人に気付かれる可能性だって考えられる。そうなると、やるなら短時間でスピーディーに実行しなければならないというわけだ。
『精霊王様、外の様子はどうですか?』
 悩んだライは、地上にいるガレンに様子を確認することにした。
『君の相棒にも動きはない。誰かが隠れているというわけではなさそうだ』
『そう、よかったわ』
 ガレンからの返答に、ほっと胸を撫で下ろすライ。そして、表情を引き締めて、一度両頬を手で叩く。
『精霊王様、デーモンハートを地上に持ち出して、そこで破壊します』
『湖の中では無理か?』
 ライの作戦を聞いて、ガレンは問い返す。
『サファイア湖の魔力が汚染されてしまいます。地上で結界で囲って破壊した方が被害は小さくて済みます』
『分かった。ならば外で君の相棒と合流して待っているよ』
『分かりました』
 念話を終えると、ライはさらに深呼吸を行う。いくら何度か触れて耐性があるとはいえ、完全ではない。なんとしても乗っ取られないようにしなければならないので、気合いを入れ直すしかないのである。
「よしっ」
 覚悟を決めたライは、一気にデーモンハートへと近付いていく。そこに落ちていたのは紫がかった色のデーモンハートだった。
「珍しい色だけど、この魔力は間違いなくデーモンハート。とにかく一気に地上に運ばないと……」
 ライは操れる属性を駆使して、デーモンハートの周りの水を凍らせる。こうすれば、直接触れずに済むと考えたのだ。
「使える属性を増やしておいて正解ね。これを慎重に手に持って……っと」
 ライはデーモンハートを抱えると、自分を取り巻く空気の膜を一気に地上に向けて上昇させる。
 ザパーンという大きな音を立てて、ライはデーモンハートと一緒にサファイア湖の中から脱出した。
 きれいに着地を決めたライは、すぐさまガレンの元に駆け寄る。
「精霊王様、これが件のデーモンハートです」
 カチコチに凍ったデーモンハートを差し出すライ。予想外な状態に、ガレンの表情は思わず固まってしまった。
「直接触れないための秘策です。冷気属性を使えるようにしておいてよかったですよ」
「あ、ああ。そうだな……」
 戸惑いながらもガレンは、デーモンハートを破壊して浄化する作業に移る。ペシエラを救った時の方法があるために、そこは実に手慣れた様子で行っていく。
 その間、手の空いているキャノルは周囲を警戒している。今のところは変わった様子はないようだ。
 ライが見守る中、ガレンが手際よくデーモンハートを破壊する。そして、精霊王としての力で瘴気をしっかりと浄化してしまった。
「ふぅ、これでよしだな。……他にはなさそうだったか?」
「違和感はほぼ感じなくなったので、多分これだけだと。とはいえ、一個だけでも相当に厄介な代物なんですけどね、これ」
 崩れ落ちて砂となっていくデーモンハートを眺めながら、ライは難しそうな表情でつぶやいていた。
「ひとまず終わったようなら、あたいは警戒に戻るよ。そんなものを仕込んでたってことは、間違いなく学生たちを狙っている連中がいるってことだからな」
「ああ、ぜひとも頼む。私は宿舎となっている別荘に戻らねばならんからな」
 無事にデーモンハートを破壊したことで、ライやガレンたちはそれぞれの持ち場に戻っていく。
 それにしても、一体誰がどうやってここに持ち込んだというのだろうか。謎は深まるばかりだった。
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