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新章 青色の智姫
第77話 動き出す企み
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その夜のこと、アクアマリン子爵領の別荘のある部屋での事だった。
暗い部屋の中で、二人の男子学生が何かを話している。
「おい、ワッケギー」
「なんだ、アッサギー」
アッサギー・オニオールとワッケギー・オニオールである。アイヴォリー王国とモスグリネ王国と住む場所は違ってはいるが、元は同じ一族だからと同室に割り当てられているのである。
「いよいよ明日だな」
「まぁそうだな」
ごそごそと何かを自分の荷物から取り出している。
「でも、俺として乗り気じゃないな……」
ワッケギーはどうも消極的なようだ。
「バカを言え。これで失敗したら親父たちに何をされるか分かったものじゃないんだ。今さら怖気づくな」
「しっ、声がでかいよ」
ワッケギーがアッサギーの口を慌てて塞ぐ。
今は真夜中でみんな寝静まっているとはいえ、騒ぐと目を覚ましてしまう。ここで露呈してしまえば、せっかくの計画も水の泡になってしまうので、ワッケギーが慌てたのだ。
「っと悪いな。すまん、熱くなりすぎた」
「こっちに来る際に放り込んでおいたデーモンハートにこいつをぶつければ、サファイア湖から大量の魔物が出現する。そうすればこの合宿は大混乱さ」
アッサギーは取り出していた何かを目の前に掲げている。それは、怪しい紫色の宝珠のようなものだった。それは、おおよそ二十年ほど前にアイリスが発動させた宝珠とよく似ていた。
「何だっけか、それって……」
ワッケギーは不思議そうな表情をして、アッサギーの取り出した宝珠を眺めている。夜中なので色は分かりにくいが、なんとも不気味な雰囲気を漂わせている。
怖いようでいて、何か引き込まれるような雰囲気を持った宝珠に、ワッケギーは見入ってしまっていた。
「見つめるのはいいが、それ以上はやめておけ。こいつは魔性の宝珠なんだからな」
「魔性?」
アッサギーが勢いよくワッケギーの目の前から宝珠を引き下げる。すると、ワッケギーは我に返ったようだった。
「ああ、見る者をとりこにするっていう不思議な宝珠なんだ。魅入られたら最後、その魂を食い尽くされるぞ」
「うっ、こ、怖い……」
ワッケギーは体を縮こまらさせて震え上がっている。
「だが、こいつとデーモンハートを反応させると、不思議なことに大量の魔物を発生させるんだ。そうすれば魔物の魔力せいで誰が発生させたかなんてのは特定できなくなる。それに魔物が発生すれば俺たちも襲われるからな。リスクは多いが、俺たちは騒ぎの首謀者から外れられるってわけよ」
不気味な笑みを浮かべて笑うアッサギーである。
この笑顔にはワッケギーもさすがに恐怖を感じざるを得なかった。同じオニオールの一族とはいえ、環境が違うとここまで違うのだ。
「さすがに俺は怖いな。アッサギー、やるなら自分だけでやってくれ」
「怖気づいたか?」
アッサギーがワッケギーに怒鳴る。だが、ワッケギーはもう聞く耳を持とうとしなかった。
「貴様……」
アッサギーが怒鳴ろうとした瞬間だった。
「おい、まだ起きているのか!」
突如として部屋に怒鳴り込んでくる人物がいた。見回りをしているグール教官だった。
部屋からひそひそとした話し声が聞こえてきたので、確認のために怒鳴り込んだのだ。
だが、部屋の中はしんと静まり返っていた。
「明日も早いんだ。ちゃんと寝ておくんだぞ」
聞き間違いだったかと思ったグール教官だが、一応部屋の中に声を掛けておいた。学生に何かあっては困るので、ちゃんとした生活をさせなければならないからだ。教官というのも難儀な職業である。
グール教官の足音が遠ざかると、大きく安心のため息を吐く。
「とっとと寝るか。本当にお前はやるつもりはないんだな」
「ないよ。そんな怖いもの、扱える気がしない」
ワッケギーの態度を、アッサギーは鼻で笑う。
「ふん、誇り高き高度文明の民の末裔がそんな腰抜けとはな。勝手に怖気づいていろ、俺は一人でもやる」
そうとだけ言い切ると、アッサギーはばさりとシーツをかぶって眠ってしまった。
その態度を見ながら、ワッケギーもゆっくりと眠りに就いた。
そして、迎えた合宿三日目。
この日は今まで分かれていた武術タイプと魔法タイプが合流しての特訓となる。戦いに身を置くことがないとは言えないので、いざという時の身の守り方を覚えるためには必要なのだ。
なにせ領地と王都の間の移動中に盗賊や魔物に襲われないとは限らない。それが貴族というものなのだ。
アッサギーは湖に最も近い場所に陣取る。特訓をうまく利用して、湖に宝珠を投げ込むためだ。
アッサギーが本当にやらかすのかどうか気になって、ワッケギーはちらちらと視線を送っている。
「おらおら、他人のことを気にしている場合か?」
ワッケギーに襲い掛かるアッサギー。
「うわぁっ、急に攻撃してこないでくれよ、アッサギー」
「うるせぇ、これは特訓だろが」
問答無用で攻撃を仕掛けてくるアッサギーに、ワッケギーは必死に抵抗する。
そして、そのワッケギーの反撃を利用して、アッサギーは吹き飛ばされた振りをして宝珠を湖に向けて投げ込んだ。
ぽちゃんという音がして、宝珠が湖に沈む。その音を聞いて、アッサギーはにやりと笑みを浮かべたのだった。
暗い部屋の中で、二人の男子学生が何かを話している。
「おい、ワッケギー」
「なんだ、アッサギー」
アッサギー・オニオールとワッケギー・オニオールである。アイヴォリー王国とモスグリネ王国と住む場所は違ってはいるが、元は同じ一族だからと同室に割り当てられているのである。
「いよいよ明日だな」
「まぁそうだな」
ごそごそと何かを自分の荷物から取り出している。
「でも、俺として乗り気じゃないな……」
ワッケギーはどうも消極的なようだ。
「バカを言え。これで失敗したら親父たちに何をされるか分かったものじゃないんだ。今さら怖気づくな」
「しっ、声がでかいよ」
ワッケギーがアッサギーの口を慌てて塞ぐ。
今は真夜中でみんな寝静まっているとはいえ、騒ぐと目を覚ましてしまう。ここで露呈してしまえば、せっかくの計画も水の泡になってしまうので、ワッケギーが慌てたのだ。
「っと悪いな。すまん、熱くなりすぎた」
「こっちに来る際に放り込んでおいたデーモンハートにこいつをぶつければ、サファイア湖から大量の魔物が出現する。そうすればこの合宿は大混乱さ」
アッサギーは取り出していた何かを目の前に掲げている。それは、怪しい紫色の宝珠のようなものだった。それは、おおよそ二十年ほど前にアイリスが発動させた宝珠とよく似ていた。
「何だっけか、それって……」
ワッケギーは不思議そうな表情をして、アッサギーの取り出した宝珠を眺めている。夜中なので色は分かりにくいが、なんとも不気味な雰囲気を漂わせている。
怖いようでいて、何か引き込まれるような雰囲気を持った宝珠に、ワッケギーは見入ってしまっていた。
「見つめるのはいいが、それ以上はやめておけ。こいつは魔性の宝珠なんだからな」
「魔性?」
アッサギーが勢いよくワッケギーの目の前から宝珠を引き下げる。すると、ワッケギーは我に返ったようだった。
「ああ、見る者をとりこにするっていう不思議な宝珠なんだ。魅入られたら最後、その魂を食い尽くされるぞ」
「うっ、こ、怖い……」
ワッケギーは体を縮こまらさせて震え上がっている。
「だが、こいつとデーモンハートを反応させると、不思議なことに大量の魔物を発生させるんだ。そうすれば魔物の魔力せいで誰が発生させたかなんてのは特定できなくなる。それに魔物が発生すれば俺たちも襲われるからな。リスクは多いが、俺たちは騒ぎの首謀者から外れられるってわけよ」
不気味な笑みを浮かべて笑うアッサギーである。
この笑顔にはワッケギーもさすがに恐怖を感じざるを得なかった。同じオニオールの一族とはいえ、環境が違うとここまで違うのだ。
「さすがに俺は怖いな。アッサギー、やるなら自分だけでやってくれ」
「怖気づいたか?」
アッサギーがワッケギーに怒鳴る。だが、ワッケギーはもう聞く耳を持とうとしなかった。
「貴様……」
アッサギーが怒鳴ろうとした瞬間だった。
「おい、まだ起きているのか!」
突如として部屋に怒鳴り込んでくる人物がいた。見回りをしているグール教官だった。
部屋からひそひそとした話し声が聞こえてきたので、確認のために怒鳴り込んだのだ。
だが、部屋の中はしんと静まり返っていた。
「明日も早いんだ。ちゃんと寝ておくんだぞ」
聞き間違いだったかと思ったグール教官だが、一応部屋の中に声を掛けておいた。学生に何かあっては困るので、ちゃんとした生活をさせなければならないからだ。教官というのも難儀な職業である。
グール教官の足音が遠ざかると、大きく安心のため息を吐く。
「とっとと寝るか。本当にお前はやるつもりはないんだな」
「ないよ。そんな怖いもの、扱える気がしない」
ワッケギーの態度を、アッサギーは鼻で笑う。
「ふん、誇り高き高度文明の民の末裔がそんな腰抜けとはな。勝手に怖気づいていろ、俺は一人でもやる」
そうとだけ言い切ると、アッサギーはばさりとシーツをかぶって眠ってしまった。
その態度を見ながら、ワッケギーもゆっくりと眠りに就いた。
そして、迎えた合宿三日目。
この日は今まで分かれていた武術タイプと魔法タイプが合流しての特訓となる。戦いに身を置くことがないとは言えないので、いざという時の身の守り方を覚えるためには必要なのだ。
なにせ領地と王都の間の移動中に盗賊や魔物に襲われないとは限らない。それが貴族というものなのだ。
アッサギーは湖に最も近い場所に陣取る。特訓をうまく利用して、湖に宝珠を投げ込むためだ。
アッサギーが本当にやらかすのかどうか気になって、ワッケギーはちらちらと視線を送っている。
「おらおら、他人のことを気にしている場合か?」
ワッケギーに襲い掛かるアッサギー。
「うわぁっ、急に攻撃してこないでくれよ、アッサギー」
「うるせぇ、これは特訓だろが」
問答無用で攻撃を仕掛けてくるアッサギーに、ワッケギーは必死に抵抗する。
そして、そのワッケギーの反撃を利用して、アッサギーは吹き飛ばされた振りをして宝珠を湖に向けて投げ込んだ。
ぽちゃんという音がして、宝珠が湖に沈む。その音を聞いて、アッサギーはにやりと笑みを浮かべたのだった。
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