逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
446 / 731
新章 青色の智姫

第77話 動き出す企み

しおりを挟む
 その夜のこと、アクアマリン子爵領の別荘のある部屋での事だった。
 暗い部屋の中で、二人の男子学生が何かを話している。
「おい、ワッケギー」
「なんだ、アッサギー」
 アッサギー・オニオールとワッケギー・オニオールである。アイヴォリー王国とモスグリネ王国と住む場所は違ってはいるが、元は同じ一族だからと同室に割り当てられているのである。
「いよいよ明日だな」
「まぁそうだな」
 ごそごそと何かを自分の荷物から取り出している。
「でも、俺として乗り気じゃないな……」
 ワッケギーはどうも消極的なようだ。
「バカを言え。これで失敗したら親父たちに何をされるか分かったものじゃないんだ。今さら怖気づくな」
「しっ、声がでかいよ」
 ワッケギーがアッサギーの口を慌てて塞ぐ。
 今は真夜中でみんな寝静まっているとはいえ、騒ぐと目を覚ましてしまう。ここで露呈してしまえば、せっかくの計画も水の泡になってしまうので、ワッケギーが慌てたのだ。
「っと悪いな。すまん、熱くなりすぎた」
「こっちに来る際に放り込んでおいたデーモンハートにこいつをぶつければ、サファイア湖から大量の魔物が出現する。そうすればこの合宿は大混乱さ」
 アッサギーは取り出していた何かを目の前に掲げている。それは、怪しい紫色の宝珠のようなものだった。それは、おおよそ二十年ほど前にアイリスが発動させた宝珠とよく似ていた。
「何だっけか、それって……」
 ワッケギーは不思議そうな表情をして、アッサギーの取り出した宝珠を眺めている。夜中なので色は分かりにくいが、なんとも不気味な雰囲気を漂わせている。
 怖いようでいて、何か引き込まれるような雰囲気を持った宝珠に、ワッケギーは見入ってしまっていた。
「見つめるのはいいが、それ以上はやめておけ。こいつは魔性の宝珠なんだからな」
「魔性?」
 アッサギーが勢いよくワッケギーの目の前から宝珠を引き下げる。すると、ワッケギーは我に返ったようだった。
「ああ、見る者をとりこにするっていう不思議な宝珠なんだ。魅入られたら最後、その魂を食い尽くされるぞ」
「うっ、こ、怖い……」
 ワッケギーは体を縮こまらさせて震え上がっている。
「だが、こいつとデーモンハートを反応させると、不思議なことに大量の魔物を発生させるんだ。そうすれば魔物の魔力せいで誰が発生させたかなんてのは特定できなくなる。それに魔物が発生すれば俺たちも襲われるからな。リスクは多いが、俺たちは騒ぎの首謀者から外れられるってわけよ」
 不気味な笑みを浮かべて笑うアッサギーである。
 この笑顔にはワッケギーもさすがに恐怖を感じざるを得なかった。同じオニオールの一族とはいえ、環境が違うとここまで違うのだ。
「さすがに俺は怖いな。アッサギー、やるなら自分だけでやってくれ」
「怖気づいたか?」
 アッサギーがワッケギーに怒鳴る。だが、ワッケギーはもう聞く耳を持とうとしなかった。
「貴様……」
 アッサギーが怒鳴ろうとした瞬間だった。
「おい、まだ起きているのか!」
 突如として部屋に怒鳴り込んでくる人物がいた。見回りをしているグール教官だった。
 部屋からひそひそとした話し声が聞こえてきたので、確認のために怒鳴り込んだのだ。
 だが、部屋の中はしんと静まり返っていた。
「明日も早いんだ。ちゃんと寝ておくんだぞ」
 聞き間違いだったかと思ったグール教官だが、一応部屋の中に声を掛けておいた。学生に何かあっては困るので、ちゃんとした生活をさせなければならないからだ。教官というのも難儀な職業である。
 グール教官の足音が遠ざかると、大きく安心のため息を吐く。
「とっとと寝るか。本当にお前はやるつもりはないんだな」
「ないよ。そんな怖いもの、扱える気がしない」
 ワッケギーの態度を、アッサギーは鼻で笑う。
「ふん、誇り高き高度文明の民の末裔がそんな腰抜けとはな。勝手に怖気づいていろ、俺は一人でもやる」
 そうとだけ言い切ると、アッサギーはばさりとシーツをかぶって眠ってしまった。
 その態度を見ながら、ワッケギーもゆっくりと眠りに就いた。

 そして、迎えた合宿三日目。
 この日は今まで分かれていた武術タイプと魔法タイプが合流しての特訓となる。戦いに身を置くことがないとは言えないので、いざという時の身の守り方を覚えるためには必要なのだ。
 なにせ領地と王都の間の移動中に盗賊や魔物に襲われないとは限らない。それが貴族というものなのだ。
 アッサギーは湖に最も近い場所に陣取る。特訓をうまく利用して、湖に宝珠を投げ込むためだ。
 アッサギーが本当にやらかすのかどうか気になって、ワッケギーはちらちらと視線を送っている。
「おらおら、他人のことを気にしている場合か?」
 ワッケギーに襲い掛かるアッサギー。
「うわぁっ、急に攻撃してこないでくれよ、アッサギー」
「うるせぇ、これは特訓だろが」
 問答無用で攻撃を仕掛けてくるアッサギーに、ワッケギーは必死に抵抗する。
 そして、そのワッケギーの反撃を利用して、アッサギーは吹き飛ばされた振りをして宝珠を湖に向けて投げ込んだ。
 ぽちゃんという音がして、宝珠が湖に沈む。その音を聞いて、アッサギーはにやりと笑みを浮かべたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...