逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第85話 夏といえば!

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 夏合宿が終わってから二日後、王城をとある人物が訪ねて来た。
「ペシエラ、久しぶりね」
「お姉様、それにアイリスまで」
 そう、チェリシアとアイリスの二人だった。どうやらペシエラに会いに来たようだった。
「唐突だけど、海に行かない? プライベートビーチがあるから、のんびりできるわよ」
 本当に唐突だった。
 チェリシアの唐突さはいつものことだが、これまた反応に困るペシエラである。
「海に行くのはいいのですけれど、誰を連れていきますのよ、お姉様」
「もちろん、子どもたち全員よ。私の子も連れていくし、息抜きにはいいでしょう?」
 チェリシアは間髪入れずに答えてくる。ペシエラがちらりと見回すと、確かにチェリシアとアイリスの子どもたちもやって来ている。
 それにしても、アイリスはなんとも子だくさんなのがよく分かる。チェリシアの子どもは一人だというのに、アイリスの方は四人だ。まったく、よく頑張ったというものだ。
「分かりましたわ。わたくしもついていきますが、夫に許可を取って参りますわ」
 ペシエラは立ち上がって部屋を出ていく。その間、チェリシアたちは子どもたちと一緒に待つことにした。
 しばらくすると、ペシエラが戻ってくる。どういうわけか、自分の子どもであるライトとダイア、それと留学中のシアンを連れて戻ってきた。
「この子たちも一緒に行くことで許可が下りましたわ。準備をしますので、昼には出られるでしょうね」
「人数がいるからエアリアルボードは無理かぁ。まぁ、たまには馬車旅もいいわね」
「荷物は収納空間があるから多くても問題ありませんものね。急いで準備してきますので、適当にくつろいでいて下さいな」
「はーい」
 王妃相手でも昔っからの返事をするチェリシアである。

 カラカラと馬車はのんびりとシェリアへ向けての旅路を進んでいく。
 シアンと一緒の馬車に乗るのはペシエラとチェリシアの姉妹で、その子どもたち三人の一緒だった。
 ペシエラの子どもであるライトとダイアは見慣れているが、チェリシアの子どもは実に初めてだった。チェリシアが自由なこととカーマイルが忙しいこともあって、なかなか子どもに恵まれなかったが、そんな中で生まれたのがシアンの隣に座る男の子だった。
 ロゼリアに急かされたのもあって、生まれたのはほんの六年くらい前。つまり、今は六歳の少年である。アイリスの一番下の子くらいの年齢だ。
「ところで、チェリシア」
「何かしら、ペシエラ」
 お姉様じゃなくて名前で呼ぶペシエラ。見るからに顔が不機嫌である。
「何をなさっているのかしら。ええ、問いたくもないんですが」
「水着を作っているのよ。せっかく海に着いても泳げないんじゃ意味がないから」
 嫌そうにするペシエラに、即答するチェリシアである。相変わらずの奔放さである。
「はぁ、本当にお姉様は自由でいいですわね」
「そうでもないわよ。カーマイル様は本格的に領主の仕事を始めましたし、私は私でマゼンダ商会の経営をしていますからね。自由にさせてもらっているのは否定しませんけど」
 ペシエラの愚痴に答えながらも、その手は止まらないチェリシアである。
 なにせ、シェリアまでは王都から十日間の道のりだ。十日間で八人いる子どもたちの全員の水着を作るとなると、時間が足りなさすぎるというわけだ。まぁ、自分の息子のは先に作ってあったので、実質は七人分である。
「あー、私たちの分も作り直さなきゃいけないわね。学生の時の水着、若かったからいいけど今着るのは恥ずかしいわ」
「お姉様もそういう気持ちがありましたのね。もう少し自重下さいな」
「むぅ……」
 目の前で繰り広げられる姉妹のやり取りに、ついつい笑ってしまうシアンだった。
 結局裁縫から裁断、縫製に至るまで魔法を使ってちょちょいとこなしていたチェリシアは、十日間という旅程の中で十人分の水着を見事に作り上げてしまっていた。
 ようやくやって来たコーラル伯爵領シェリア。
 波の音が響き、潮風が吹きわたり、海鳥の鳴き声が聞こえてくるいかにも港町という雰囲気である。
 到着すれば、街の人たちから歓迎の声が聞こえてくるので、チェリシアはにこやかに手を振り、ペシエラは静かに微笑みかけ、アイリスは照れくさそうに小さく手を振っていた。それぞれの性格がよく出る対応の違いである。
 しかし、到着したはいいものの、さすがにもう日が傾き始めている。この日は伯爵邸に荷物を置いて、ゆっくり体を休めることになった。
「あー、懐かしいわ。思えば全部この街から始まったようなものね」
「塩でしたっけかね。海水から塩の成分だけを魔法で取り出すとか、よくそんな事を思いつきましたわね」
「まっ、前世の知識ってやつよ。もっと仕組みが分かっていれば、いろいろ再現したんだけど、農林水産業しかわからない私じゃ限界がありすぎたわ」
 チェリシアとペシエラが話す内容は、アイリスを含めて他は誰も理解できなかった。
 ただ一人分かるのは、その当事者だったロゼリアの侍女であるシアンだけなのであった。
(確かにそうだったかもしれないわね。前に来た事はあるけれど、改めてお母様の足跡を感じてみましょうか)
 昔話で盛り上がるチェリシアとペシエラの話を聞きながら、シアンは密かに当時を思い出して懐かしむのだった。
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