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新章 青色の智姫
第94話 ペシエラ直々に
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学園祭の話が盛り上がった日から、シアンも本格的に剣術の稽古に乗り出していた。本気で武術大会に出るつもりらしい。
学園が休みの日はプルネを城に招いて、訓練場で必死に頑張っている。隣国の姫の稽古の様子を、騎士団は心配そうに見守っている。
「はあっ!」
シアンは両手で剣を握り、プルネと打ち合っている。プルネの方は暗器使いのため、短剣を両手に持っている。
「順手で握りますのね」
「逆手は力が入りませんからね。普通に打ち合うならこう持ちますよ」
シアンが確認するように問い掛けると、プルネはしれっと答えている。さすがは幼少の折りから教え込まれているだけのことはある。
カンカンと木剣のいい音が響き渡っている。結んだ髪の毛が上下左右に絶えなく動いているあたり、動きの激しさを物語っている。
しばらくすると、訓練場に思ってもみなかった人物が姿を見せる。
「まったく、精が出ますわね」
「これは王妃殿下」
騎士が敬礼をしてその人物を出迎える。そう、そこに現れたのはペシエラだった。
「王妃様?!」
稽古で打ち合っていたシアンとプルネがその手を止めて、淑女の挨拶をしている。ただ、今はパンツルックなのでちょっと不格好である。
「まったく、最近剣を握っていると聞きましてね。せっかくなのでわたくしも直々に指導したくなりましたわよ」
にこりと微笑むペシエラだが、その笑顔が怖くて騎士たちが震え上がっている。
ちなみにだが、この日のペシエラはいつものようにドレス姿である。
ちらりと騎士に視線を向けると、どこからともなく木剣を持ってきてペシエラに差し出している。それを受け取ると、ペシエラは軽く剣を振り抜いていた。
剣の感触を確認したペシエラは、シアンとプルネに対して視線を向ける。
「さて、どちらから相手をしてあげましょうかしら」
ペシエラの視線に、思わず息が詰まってしまう。これが逆行前の世界でモスグリネ軍に対して暴れ回った剣妃の迫力というものなのだ。
「わ、私から参ります」
プルネがおそるおそる名乗りを上げる。
「よろしいでしょう。戸籍上は姪とはいえ、手加減は致しませんよ」
「よ、よろしくお願い申し上げます」
剣を構えてすらいない状態だというのに、シアンやプルネはおろか、訓練場にいる騎士たちをも震え上がらせるペシエラの気迫。さすがはペイルと同等に戦った女性なのだ。
プルネを相手に、剣すら構えないで棒立ちになるペシエラ。踵の高い靴に加えてドレス姿。実力差は分かり切っているがための、ハンデのようなものだった。
「さあ、どこからでもかかってきなさい。私はそのすべてを受けて立ちますわよ」
リラックスしている普段通りの姿だというのに、ペシエラの姿がいつも以上に大きく見える。これが二王制を蹴って王妃となった者の自信というものなのだろうか。
「参ります」
隙がなさすぎるペシエラに対して、プルネは覚悟を決めて突っ込んでいく。
動きで翻弄しようと、突進からのフェイントでペシエラの死角へ回ろうとするプルネ。だが、ペシエラの視線は確実にプルネを追っていた。
ペシエラの目に思わず怯えてしまうプルネ。恐怖で眉間にしわが寄りながらも、どうにか一撃を入れようと、ペシエラの右側へと回り込んだ。
双剣を同時に叩き込もうと、振りかぶってから一気に振り下ろすプルネ。利き腕だけなら反応が鈍ると見たゆえの動きだ。
「甘いですわね」
ところが、ペシエラは軽く利き腕である右腕を振り上げただけでプルネの一撃を受け止めてしまった。体重を乗せた一撃だというのに、押し込まれるどころかぴたりと動きを止められてしまった。
「なっ!」
その体勢から軽く剣を振っただけで、プルネは地面へと叩きつけられてしまう。驚きで受け身が取れず、もろにお尻から着地してしまった。
「いたたた……。ひっ!」
お尻を擦っていると、木剣を突きつけられて悲鳴を上げてしまうプルネ。
「死角に回り込む動きはさすがアイリスの子ですわね。わたくしには止まって見えましたけれど、学生相手ならばいい具合に不意を突けると思いますわよ」
「うう、おば様ってば強すぎです……」
項垂れるプルネに対して、ペシエラはしゃがみ込んで手をかざす。淡く光ったかと思えば、プルネが驚いた表情を浮かべていた。
「女性の尻餅はよろしくありませんわ。これで大丈夫ですわよ」
「あ、ありがとう存じます……」
ペシエラの優しさに、思わず見とれてしまうプルネだった。
「さて、次はシアンですわね。覚悟はよろしくて?」
「ひっ!」
笑顔のはずなのに、ものすごく恐怖を感じてしまう。
シアンより強いプルネがまさに子ども扱いだ。今のシアンにまともに相手のできるものとは思えなかった。
「実際に打ち合ってみませんと、見えてこないものがございますのよ。さぁ、遠慮なさらずにいらっしゃい」
木剣を手にぺちぺちと打ち付けながら、ペシエラはこの上ない笑顔でシアンに話し掛けている。
この後、シアンとプルネはペシエラにいいようにあしらわれながら剣の稽古を行い、反省会という名のお茶会をして過ごしたのだった。
学園が休みの日はプルネを城に招いて、訓練場で必死に頑張っている。隣国の姫の稽古の様子を、騎士団は心配そうに見守っている。
「はあっ!」
シアンは両手で剣を握り、プルネと打ち合っている。プルネの方は暗器使いのため、短剣を両手に持っている。
「順手で握りますのね」
「逆手は力が入りませんからね。普通に打ち合うならこう持ちますよ」
シアンが確認するように問い掛けると、プルネはしれっと答えている。さすがは幼少の折りから教え込まれているだけのことはある。
カンカンと木剣のいい音が響き渡っている。結んだ髪の毛が上下左右に絶えなく動いているあたり、動きの激しさを物語っている。
しばらくすると、訓練場に思ってもみなかった人物が姿を見せる。
「まったく、精が出ますわね」
「これは王妃殿下」
騎士が敬礼をしてその人物を出迎える。そう、そこに現れたのはペシエラだった。
「王妃様?!」
稽古で打ち合っていたシアンとプルネがその手を止めて、淑女の挨拶をしている。ただ、今はパンツルックなのでちょっと不格好である。
「まったく、最近剣を握っていると聞きましてね。せっかくなのでわたくしも直々に指導したくなりましたわよ」
にこりと微笑むペシエラだが、その笑顔が怖くて騎士たちが震え上がっている。
ちなみにだが、この日のペシエラはいつものようにドレス姿である。
ちらりと騎士に視線を向けると、どこからともなく木剣を持ってきてペシエラに差し出している。それを受け取ると、ペシエラは軽く剣を振り抜いていた。
剣の感触を確認したペシエラは、シアンとプルネに対して視線を向ける。
「さて、どちらから相手をしてあげましょうかしら」
ペシエラの視線に、思わず息が詰まってしまう。これが逆行前の世界でモスグリネ軍に対して暴れ回った剣妃の迫力というものなのだ。
「わ、私から参ります」
プルネがおそるおそる名乗りを上げる。
「よろしいでしょう。戸籍上は姪とはいえ、手加減は致しませんよ」
「よ、よろしくお願い申し上げます」
剣を構えてすらいない状態だというのに、シアンやプルネはおろか、訓練場にいる騎士たちをも震え上がらせるペシエラの気迫。さすがはペイルと同等に戦った女性なのだ。
プルネを相手に、剣すら構えないで棒立ちになるペシエラ。踵の高い靴に加えてドレス姿。実力差は分かり切っているがための、ハンデのようなものだった。
「さあ、どこからでもかかってきなさい。私はそのすべてを受けて立ちますわよ」
リラックスしている普段通りの姿だというのに、ペシエラの姿がいつも以上に大きく見える。これが二王制を蹴って王妃となった者の自信というものなのだろうか。
「参ります」
隙がなさすぎるペシエラに対して、プルネは覚悟を決めて突っ込んでいく。
動きで翻弄しようと、突進からのフェイントでペシエラの死角へ回ろうとするプルネ。だが、ペシエラの視線は確実にプルネを追っていた。
ペシエラの目に思わず怯えてしまうプルネ。恐怖で眉間にしわが寄りながらも、どうにか一撃を入れようと、ペシエラの右側へと回り込んだ。
双剣を同時に叩き込もうと、振りかぶってから一気に振り下ろすプルネ。利き腕だけなら反応が鈍ると見たゆえの動きだ。
「甘いですわね」
ところが、ペシエラは軽く利き腕である右腕を振り上げただけでプルネの一撃を受け止めてしまった。体重を乗せた一撃だというのに、押し込まれるどころかぴたりと動きを止められてしまった。
「なっ!」
その体勢から軽く剣を振っただけで、プルネは地面へと叩きつけられてしまう。驚きで受け身が取れず、もろにお尻から着地してしまった。
「いたたた……。ひっ!」
お尻を擦っていると、木剣を突きつけられて悲鳴を上げてしまうプルネ。
「死角に回り込む動きはさすがアイリスの子ですわね。わたくしには止まって見えましたけれど、学生相手ならばいい具合に不意を突けると思いますわよ」
「うう、おば様ってば強すぎです……」
項垂れるプルネに対して、ペシエラはしゃがみ込んで手をかざす。淡く光ったかと思えば、プルネが驚いた表情を浮かべていた。
「女性の尻餅はよろしくありませんわ。これで大丈夫ですわよ」
「あ、ありがとう存じます……」
ペシエラの優しさに、思わず見とれてしまうプルネだった。
「さて、次はシアンですわね。覚悟はよろしくて?」
「ひっ!」
笑顔のはずなのに、ものすごく恐怖を感じてしまう。
シアンより強いプルネがまさに子ども扱いだ。今のシアンにまともに相手のできるものとは思えなかった。
「実際に打ち合ってみませんと、見えてこないものがございますのよ。さぁ、遠慮なさらずにいらっしゃい」
木剣を手にぺちぺちと打ち付けながら、ペシエラはこの上ない笑顔でシアンに話し掛けている。
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