逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第97話 武術大会が始まる

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「たぁっ!」
「ま、参った!」
「勝者! クライ・ミドナイト!」
 武術大会が始まった。
 クライは順当に勝ち上がったようだ。
「それじゃ、次は私ですね」
 控室で待つプルネが立ち上がる。
「無理しないようにね」
「うん。でも、頑張ってきます」
 ひらひらと手を振りながらプルネを送り出すシアンだった。

 武台に上がったプルネ。その姿に会場からやけに盛り上がる声が聞こえてきた。
「プルネが出てきたわよ。ねえ、アイリス見てる?」
「見てますよ、チェリシアお姉様」
 立ち上がるようにして騒ぐチェリシアと困った顔をするアイリスである。
 騒ぐおばの姿を見つけたのか、プルネは小さく頭を下げている。すると、チェリシアはまた騒いでいた。
「ちっ、弱そうな令嬢が相手かよ。これなら楽に勝ち上がれそうだな」
 目の前の男子学生が、プルネを見ながらにやついている。刃を潰した模擬剣を手にして、実に偉そうな姿だ。
 声に気が付いたプルネは、くるりと男子学生の方へと振り向く。柔らかな笑みを浮かべながら男子学生へと言い放つ。
「甘く見て頂いて結構です。後悔しないように全力でいらして下さい」
「なんだと?!」
 プルネの安い挑発に、男子学生が簡単に乗ってしまっている。
 男子学生は気が付いていなかった。すでに戦いは始まっているのだと。
「始め!」
 双方準備ができたと見て、審判が合図を叫ぶ。
「生意気な令嬢はちゃっちゃと沈めてやるぜ!」
 合図と同時に男子学生が走り出す。距離を詰めると同時に大きく振りかぶっている。
「この一撃で沈め、生意気な一年!」
「あら、先輩でしたのね。これは失礼」
 すでに剣が迫ってきているというのに、プルネは煽りながらものすごく冷静に構えていた。
 男子学生の剣が振り下ろされる。剣は虚しく空を斬り、そのまま武台に直撃する。そこにはプルネの姿はない。
「ど、どこだ!」
 きょろきょろと見回す男子学生。決まったと思って余裕をこいているからこうなるのだ。
「どこを見ているのですか?」
「そこか!」
 聞こえてきた声に反応して、振り返りながら剣を振る男子学生。ところが、それすらも空振りしてしまう。
「やみくもに攻撃しているようでは、私は捉えられません。たったひと月で、私がここまでの余裕を持てるとは思いませんでした」
 空振りをして背中ががら空きの男子学生。そこへプルネの一振りが命中する。
「かっは……」
 まともに入ってしまったらしく、男子学生はそのまま床に倒れてしまう。
 二人の様子を見た審判は、高らかに宣言する。
「勝者、プルネ・コーラル!」
 戦いが終わって我に返ったプルネは、会場からの拍手の大きさに戸惑いを見せていた。これが本来のプルネである。
 控室に戻ったプルネは、大きく息を吐きながらテーブルに突っ伏してしまった。
「はわわわわ……、とても緊張しました」
「見ていたけれど、ちょっと王妃様の雰囲気が出ていませんでしたか?」
「ふえぇ……、そんなに変でしたかね」
 シアンが困り顔でプルネに問い掛けると、プルネはなんだか泣き出しそうになっていた。
「ええ。血縁関係はないとはいえ、あれだけ毎日のように特訓を受けていたのです。少なからず影響は受けたのかな……と」
「嬉しいはずなのに、なぜか悲しいです……」
 どういうわけか落ち込んでしまうプルネだった。戸籍上におけるペシエラとの関係は叔母と姪なはずなのだが、どうしてこんなにもショックを受けているのだろうか。
「まぁ勝ったからよしとしましょう。三回は勝てば、私と当たる予定になっていますから」
 どう反応していいのか分からずに、ひとまず深く触れないことにするシアンである。
「さて、今度は私の出番のようですね。誰が相手であれ、私は自分の力を試すために思い切りぶつかっていくつもりです。モスグリネの王族として、力を証明するために」
「シアン様……」
 少し思い詰めたような表情をするシアン。その顔を心配そうに見つめるプルネ。周りは賑やかなはずなのに、二人には何の音も入ってこなかった。
 武術大会の運営スタッフが入ってきて、シアンはその名前を呼ばれる。
 返事をして立ち上がると、プルネの方へをちらりと見る。
「それでは、私は行ってまいりますね」
「はい、シアン様。お気をつけて」
 プルネに見送られながら、シアンは会場へと移動していった。

 武術大会の会場へやって来たシアンは、自分の対戦相手の姿を見て驚いた。
「えっ、あなたが相手なのですか?」
「そのようでございますね、シアン王女殿下」
 シアンが見て驚いた開いて、それはプルネの姉であるフューシャだった。
 なんということだろうか。よりにもよって、一回戦の相手はプルネの身内で親交もあるフューシャ・コーラルだったのだ。
 シアンが驚いて焦る理由は他にもある。
 普段はあまり感じていなかっただのが、フューシャからはこう独特な雰囲気が漂っているのだ。
「妹がいつもお世話になっております。今日はそのお礼に、私の実力をたっぷり披露させて頂きますね」
 にこにこと笑っているというのに、どうしてこうも恐怖を感じるのだろうか。
 妙な威圧感を感じながらも、シアンは武台に上がる。
 講義でも合宿でも見たことのないフューシャ・コーラルの戦い。はたして彼女の実力はどのようなものなのだろうか。
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