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新章 青色の智姫
第106話 一つの懸念
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「やあ、シアンくん」
「……なんでしょうか、ケットシー」
学園祭の二日目が終わって城に戻ってきたシアンの前に、ペシエラたちと話を終えたケットシーが現れた。
「はっはっはっはっ、君にも情報を与えておこうと思ってね。ロゼリアくんとペシエラくんだけでは、いささか不公平だと思うのだよ」
「……何が言いたいのですか?」
ケットシーの怪しい態度に、シアンはつい眉間にしわを寄せてしまう。
だが、このケットシーがその程度の反応で動じるわけがないというもの。にやにやと笑い続けていて、実に気持ち悪いというものだった。
「まったく、ケットシーってばまた来ていたのですか。あなたも暇ですね」
「スミレ」
背後から声がしたかと思えば、シアンの侍女であるスミレが顔をのぞかせていた。
「はっはっはっ、ボクだって学園祭の参加者だ。いても不思議じゃないだろう?」
「まぁあなたならそうでしょうね。なんで組合長が自ら来てるんですか……」
「細かいことは気にしてはダメだよ。王族たるものまずは大局を見るものだ」
「私は幻獣で侍女ですけど?」
ケットシーの言い分に、スミレはジト目で言い返している。さすがは冷静沈着な時の幻獣である。
スミレは盛大にため息をついている。
「ケットシー、シアン様は戻られたばかりです。お着替えが済むまでどこかに行っていてもらえないかしら」
「スミレ、話だけなら今すぐでも構いませんよ」
「ダメです。こいつはすぐ調子に乗りますから」
シアンが話をしたがっても、スミレがぴしゃりと諫めている。
「はははっ、スミレくんは相変わらず手厳しいね。いいよ、ボクも城に泊まらせてもらうから。それでいいなら、後回しにするといいよ」
「ぐぬぬぬ……」
話をさせずに追い返すつもりだったスミレだが、強力な一手を打たれては言葉も出てこない。
「ケットシーに城に居座れるのはよくありませんね。くれぐれも失礼のないように」
幻獣同士の話を眺めていたシアンは、そのやり取りに苦笑いを浮かべるのだった。
結局、すぐさまシアンの私室に向かって、そこで話をすることにした。ケットシーのする話は、基本的に機密扱いになってしまうからだ。大体幻獣なせいである。
シアンの私室に入って、不本意ながらもスミレが紅茶を淹れる。ケットシーには嫌がらせのように熱々の紅茶を出したのだが、熱々のまま平然と飲み干していた。
「残念だったね、スミレくん。ボクは猫舌じゃあないんだよ」
「チッ」
舌打ちをするスミレ。ケットシーにもシアンにも、その音と表情が丸分かりだった。相変わらずの仲のようだ。
「それで、私に話とは?」
「うん、そうだね。すぐに本題から話そうか。先程シルヴァノくんとペシエラくんにも話した内容だけどね」
シアンが改めて話を聞くと、どうやら国王たちに話した内容をシアンにも教えてくれるらしい。
「私に話しても、大丈夫なのですかね」
「なに、問題は何もないよ。というか、君も知っておいた方がいい内容だからね」
「……分かりました。話して下さい」
ケットシーには珍しい真剣な表情だ。シアンは息を飲んでケットシーの話に耳を傾ける。
「……というわけだね。現状では、オニオールの両家と南方のトパゼリアとの間には関係性は見つかっていない。トパゼリアにも怪しい情報はない」
「それでも、扱いの難しいデーモンハートや謎の宝珠がオニオール家に渡っていた。出処として、南方のトパゼリアが怪しいというわけですね」
「そういうことなんだ。ボクの幻獣としての権限をフルに使っているけれど、今のところは情報がつかめていないんだ」
シアンが考え込みながら呟くと、ケットシーがまたも珍しくため息まじりに話をしている。
「でも、ケットシーの能力で探れないとなると、とある可能性がありえますね」
「どういうことかしら」
スミレが険しい表情で発言すると、シアンが不思議に思って尋ねている。
「ボクもそう思うよ。ペイルくんとロゼリアくん、それとシルヴァノくんとペシエラくんに、この可能性は話していない。疑わしい段階だし、詳しくはないからね」
「詳しくない? ……そういうことですか」
ケットシーの言い分に、シアンは何かに勘付いたようだ。
「それだったら、アイリス様に声を掛けた方がよろしくないですか?」
「いや、そうもいかないね。デーモンハートが関わっている時点で、彼女は危険だ」
シアンの提案をはっきりと突っぱねるケットシー。
それもそうだ。アイリスは神獣使いベルの血を引くと同時に、デーモンハートに精神汚染を受けた一族の末裔でもある。そんな彼女が改めてデーモンハートと出会うと何が起きるか分かったものではないというわけなのだ。
「困りましたね……。もし、神獣や幻獣がトパゼリアにいて妨害しているとなると、一筋縄どころではありませんよ」
シアンは頭が痛くなってきた。
「まあ、詳しいことはボクにもまだ分かりかねるね。年末のパーティーまでには少しは成果を出すつもりだよ」
ケットシーはそう言うと、立ち上がって部屋の外へと向かっていく。
「それじゃ、ボクは明日の出店の準備があるからこれで失礼するよ。シアンくんも警戒を緩めないでおくれよ」
「分かりました。ご忠告をどうも」
シアンは立ち上がって軽くお辞儀をする。その姿を見たケットシーは満足げに部屋を出て、王都の商業組合へと戻っていった。
「……なんでしょうか、ケットシー」
学園祭の二日目が終わって城に戻ってきたシアンの前に、ペシエラたちと話を終えたケットシーが現れた。
「はっはっはっはっ、君にも情報を与えておこうと思ってね。ロゼリアくんとペシエラくんだけでは、いささか不公平だと思うのだよ」
「……何が言いたいのですか?」
ケットシーの怪しい態度に、シアンはつい眉間にしわを寄せてしまう。
だが、このケットシーがその程度の反応で動じるわけがないというもの。にやにやと笑い続けていて、実に気持ち悪いというものだった。
「まったく、ケットシーってばまた来ていたのですか。あなたも暇ですね」
「スミレ」
背後から声がしたかと思えば、シアンの侍女であるスミレが顔をのぞかせていた。
「はっはっはっ、ボクだって学園祭の参加者だ。いても不思議じゃないだろう?」
「まぁあなたならそうでしょうね。なんで組合長が自ら来てるんですか……」
「細かいことは気にしてはダメだよ。王族たるものまずは大局を見るものだ」
「私は幻獣で侍女ですけど?」
ケットシーの言い分に、スミレはジト目で言い返している。さすがは冷静沈着な時の幻獣である。
スミレは盛大にため息をついている。
「ケットシー、シアン様は戻られたばかりです。お着替えが済むまでどこかに行っていてもらえないかしら」
「スミレ、話だけなら今すぐでも構いませんよ」
「ダメです。こいつはすぐ調子に乗りますから」
シアンが話をしたがっても、スミレがぴしゃりと諫めている。
「はははっ、スミレくんは相変わらず手厳しいね。いいよ、ボクも城に泊まらせてもらうから。それでいいなら、後回しにするといいよ」
「ぐぬぬぬ……」
話をさせずに追い返すつもりだったスミレだが、強力な一手を打たれては言葉も出てこない。
「ケットシーに城に居座れるのはよくありませんね。くれぐれも失礼のないように」
幻獣同士の話を眺めていたシアンは、そのやり取りに苦笑いを浮かべるのだった。
結局、すぐさまシアンの私室に向かって、そこで話をすることにした。ケットシーのする話は、基本的に機密扱いになってしまうからだ。大体幻獣なせいである。
シアンの私室に入って、不本意ながらもスミレが紅茶を淹れる。ケットシーには嫌がらせのように熱々の紅茶を出したのだが、熱々のまま平然と飲み干していた。
「残念だったね、スミレくん。ボクは猫舌じゃあないんだよ」
「チッ」
舌打ちをするスミレ。ケットシーにもシアンにも、その音と表情が丸分かりだった。相変わらずの仲のようだ。
「それで、私に話とは?」
「うん、そうだね。すぐに本題から話そうか。先程シルヴァノくんとペシエラくんにも話した内容だけどね」
シアンが改めて話を聞くと、どうやら国王たちに話した内容をシアンにも教えてくれるらしい。
「私に話しても、大丈夫なのですかね」
「なに、問題は何もないよ。というか、君も知っておいた方がいい内容だからね」
「……分かりました。話して下さい」
ケットシーには珍しい真剣な表情だ。シアンは息を飲んでケットシーの話に耳を傾ける。
「……というわけだね。現状では、オニオールの両家と南方のトパゼリアとの間には関係性は見つかっていない。トパゼリアにも怪しい情報はない」
「それでも、扱いの難しいデーモンハートや謎の宝珠がオニオール家に渡っていた。出処として、南方のトパゼリアが怪しいというわけですね」
「そういうことなんだ。ボクの幻獣としての権限をフルに使っているけれど、今のところは情報がつかめていないんだ」
シアンが考え込みながら呟くと、ケットシーがまたも珍しくため息まじりに話をしている。
「でも、ケットシーの能力で探れないとなると、とある可能性がありえますね」
「どういうことかしら」
スミレが険しい表情で発言すると、シアンが不思議に思って尋ねている。
「ボクもそう思うよ。ペイルくんとロゼリアくん、それとシルヴァノくんとペシエラくんに、この可能性は話していない。疑わしい段階だし、詳しくはないからね」
「詳しくない? ……そういうことですか」
ケットシーの言い分に、シアンは何かに勘付いたようだ。
「それだったら、アイリス様に声を掛けた方がよろしくないですか?」
「いや、そうもいかないね。デーモンハートが関わっている時点で、彼女は危険だ」
シアンの提案をはっきりと突っぱねるケットシー。
それもそうだ。アイリスは神獣使いベルの血を引くと同時に、デーモンハートに精神汚染を受けた一族の末裔でもある。そんな彼女が改めてデーモンハートと出会うと何が起きるか分かったものではないというわけなのだ。
「困りましたね……。もし、神獣や幻獣がトパゼリアにいて妨害しているとなると、一筋縄どころではありませんよ」
シアンは頭が痛くなってきた。
「まあ、詳しいことはボクにもまだ分かりかねるね。年末のパーティーまでには少しは成果を出すつもりだよ」
ケットシーはそう言うと、立ち上がって部屋の外へと向かっていく。
「それじゃ、ボクは明日の出店の準備があるからこれで失礼するよ。シアンくんも警戒を緩めないでおくれよ」
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