逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
483 / 731
新章 青色の智姫

第114話 風を使いこなせ

しおりを挟む
 自分の未熟さを痛感したシアンは、剣も魔法もより一層力を入れるようになった。
 特に魔法は、名門アクアマリン子爵家の一人としておろそかにはできなかった。プルネに負けたことが相当こたえたのだと思われる。
 ロゼリアと同じ土、水、風の三属性の魔法を扱えるとはいっても、そのどれも威力の点では申し分ないものの、器用に扱うことはできていない。
 ならばと、シアンはエアリアルボードとアクアボードの二つをマスターするべく、特に重点的に特訓を行い始めた。
「今日も来られてますね、シアン王女様」
 学園が休みの日に、城にある広い庭園にやって来たシアン。ここならば人はあまりいないし、やって来ることもないので魔法の訓練にはうってつけだった。今もいるのは庭師と見回りの兵士くらいだ。
(魔法はイメージ……)
 シアンはその言葉を胸に魔法を使うことに集中する。
 まずは母親であるロゼリアも使えるエアリアルボードからだ。スミレがよく手にしているトレイをイメージして風を集める。
 庭園の草木が騒めく。
 シアンを中心として風が集まっているのだ。
(風を集めて、圧縮する!)
 集まった風を圧縮しようと魔力を込めるシアンだったが……。
「あっ」
 やりすぎてしまったようだ。
 集まった風が固まりすぎて、外に向かって爆発しそうになる。
「ダメ、土壁よ、風を上空へ!」
 シアンは慌てて風を囲むようにして大量の分厚い土壁を庭園に出現させる。
 特に何もないところでやっていたのが正解だった。地面から生えた土壁はとんでもない高さまで突き上がる。
 爆発した風は、土壁に遮られて上空へと舞い上がっていった。
「ふぅ、制御をミスってしまいましたね。とっさにこれだけの土壁が作れてよかったですよ」
 シアンはじっと土壁を眺めている。
「ただ、土属性は少々苦手にしてますから、やりすぎてしまいましたかね……」
 あまりにも高く突き上がった土壁を見て、シアンの顔は虚無に満ちていた。
 消えろ消えろと、シアンは土壁をゆっくり崩していく。とっさにやってしまったので、一気に消すことができなかったのだ。
「こんな感じでは、まだまだ未熟ですね。アクアマリンの名が泣きますよ……」
 大きなため息とともに、シアンはやるせなさを感じていた。
 自分は当主にはふさわしくないとアクアマリン子爵家を飛び出し、ロゼリアの侍女になりながらも主は救えず、自分のわがままに振り回されてきた前世を改めて思い出していたのだ。
 このままでは、今世もわがままな女性のままで終わってしまいかねない。
「ダメですね。弱気になってはいけないわ、シアン。今度こそ、お母様のためにしっかり役に立たなきゃダメよ」
 気合いを入れ直したシアンは、もう一度エアリアルボードを完成させようとして魔力を発動させる。
 結局、力加減をミスってもう二度ほど風の大爆発を起こしてしまっていた。
 三回も風の大爆発を起こして、大きな土壁を作っていると、シアンの魔力は微妙に尽きかけていた。体力的にも消耗が激しく、大きく肩で息をしている状態だった。
(はあ、はあ……。この状況ですと、できてもあと一回といったところですかね)
 さすがの魔力自慢のシアンでも、とっさの魔法では魔力の消耗が大きかったようなのだ。土壁を消すのにも魔力を消耗していたから、当然なのかもしれない。
 今日のところは次失敗したら諦めよう。
 シアンは覚悟を持って、本日四回目の挑戦を始める。
(きれいな円形のトレイに、風を圧縮する……)
 シアンが集中すると、再び風が集まり始める。
(上に立っても座っても平気なように、表面はふわふわな感じに)
 さらにイメージを固めて、風を加工していく。
 シアンの目の前で、ぎりぎり二人が乗れるくらいの大きさの円形の風の塊が徐々にでき上がっていく。
(これくらいかしら)
 そう思って、魔力を徐々に緩めていく。
 さっきまではここで魔力を強めてしまった。それで風の大爆発を招いたので、今度は逆に緩めているというわけである。
 先程までと最後の手順を変えてみた結果、目の前にはしっかりとした円形の風の塊が浮いていた。そう、シアンはようやくエアリアルボードを完成させたのである。
「ふぅ、ようやく完成ですね。問題はこれにちゃんと乗れるかどうかですね……」
 魔力もほとんど使い果たしてしまったので、その辺りに転がっている石ころを拾い上げてくるシアン。それをようやく完成させたエアリアルボードの上に置いてみる。
 なんということだろうか。切り刻まれることもなく、無事に空気の塊の上に石ころが乗っているではないか。
「はあ、ようやく完成しましたね。思ったよりも魔力の消耗も少ないですし、これで乗って空を飛べるようになれれば、本当の完成になりますね」
 疲れ切ったシアンは、その場にへにゃりと座り込んでしまった。
 今は動く気力もないので、とりあえず自分の指で座面となる部分を突いてみる。相手は風の塊だというのに、ぷよんとした不思議な感触がしている。面白くて、つい何度も突いてしまう。
 しばらく休んで回復したシアンは、一度完成したエアリアルボードを霧散させ、もう一度作ってみる。
 何度やってもきちんと完成させられるようになったシアンは、つい嬉しくてしばらくその場で笑い続けていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...