逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第131話 トパゼリアの不気味な影

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 合宿が行われているサファイア湖から遠く離れたここトパゼリア。
 その中心都市であるターコズの中央にそびえるのは、トパゼリアの王城である。
「では、報告を聞こうか」
 国王と思しき人物が、言葉を発する。
 国王との間には、厚い仕切りの布が掛かっており、その姿を見ることはできない。
「はっ、支援をしたオニオール家でございますが、アイヴォリー王国に未だに混乱をもたらすことはできておりません」
「ちっ、あれだけ支援をしてやったというのに、まだ何もできておらんのか。使えん連中だな……」
 足を組み肘をつくという崩れた態度で舌打ちをする国王。相当に機嫌が悪いようである。
「アイヴォリー王国の土地は、奪われた我が祖先の土地。その奪還は我らが悲願だというのに、一体何をしているというのだ」
 指で膝をトントンと叩いている。その姿から苛立ちがよく見て取れるというものだ。
 奪われた祖先の地。その言葉を指し示す意味は一体どういう事なのだろうか。
「非常に言いづらいことなのでござますが……」
「言ってみろ」
 報告する人物が苦しんだように言葉を絞り出すと、あっさりと発言を許可されてしまう。あまりにもあっさりだったので、表情を歪めている。
「アイヴォリー王国のオニオール家ですが、我々を裏切るような動きがあるのでございます」
「なに?」
 ドスの利いた声で反応が返ってくると、報告している人物はその身をぶるっと震わせた。国王から放たれた殺気に怯えているのである。
「ふん、以前からその気があったが、いよいよといったところか」
「はい、そのようで、ございます……」
 一気に膨れ上がった威圧感が引いていき、男はようやくほっとひと息安心したようだった。
「よし、アイヴォリー王国のオニオール家を滅ぼせ」
「はい?」
 国王の命令に思わず耳を疑う男。
「聞こえなかったのか。今アイヴォリーの学園の夏合宿が行われているだろう。その間にオニオール子爵家を潰すのだ」
「し、しかし……」
 男が躊躇する態度を見せると、国王が玉座の肘置きを強く叩く。
「我々に逆らうとどうなるのか、オニオールの息子どもに示してやるのだ。今すぐ兵を出せ」
「はっ! か、畏まりました……」
「いいか、我がトパゼリアの兵ではなく、野盗風情が襲ったときちんと偽装するのだぞ、よいな?」
「承知しております」
 返事をした男は、国王の前からゆっくりと立ち去っていく。男の反応からするに、あまり乗り気なようではなかった。
 だが、国王の命令は絶対。男は逆らえないために、心を決めて兵士たちのところへと向かっていった。
 一方、命令を言い渡した国王の方は、未だに苛立ちを抑えきれずにいた。
 再び肘置きを思いっきり拳で叩いている。
「国王陛下、どうか心を落ち着けて下さいませ」
 大臣がどうにか宥めようとするものの、国王の気持ちはまったく治まる様子はなかった。
「これが落ち着いていられると思っているのか? 我らがムーの子孫が、どれだけあの土地を大事に思っているか、忘れたとは言わせぬぞ」
 怒鳴りつける国王の態度に、大臣はただただ怯むばかりである。
「ようやく、遠く離れた場所とはいえ、我が国を持てるまでになったというのに……。まったくどいつもこいつも愛国心を失いおって……」
 国王は、もう一度強く肘置きを叩く。
「我は気分がすぐれぬ。次はいい報告を持ってくるように全員に命じておけ!」
 国王は立ち上がって怒鳴り散らす。
「いいか、我の気分を害したものはどうなるか、分かっておろうな?」
「はっ、承知しております……」
 大臣は震えながら返事をする。カーテン越しからでも、その鋭い視線というものは伝わるようだった。
 そのまま国王はその場を去っていったのだが、大臣の震えはしばらくおさまることはなかった。

 国王は自室に戻ってきたが、まだ苛立ちは治まっていないようだ。
「くそっ、忌々しい」
 謁見用のマントや王冠を脱ぎ捨てると、国王は椅子に身を投げ出すように座った。
「我が祖先の土地を奪ったアイヴォリー王国め……、絶対に滅ぼしてくれる」
 ギリッと歯を食いしばる国王。
 なんと、驚いたことに国王は女性だった。
 報告にやってきた男性や大臣たちとのやり取りはまるで男性のように思えたので、この正体は予想外だった。
 国王はちらりと部屋の一角へと視線を向ける。
 そこにあったものは、人の手にあってはならないものだった。
 国王の視線の先にあったのは、赤黒く不気味に光る石。そう、デーモンハートだったのだ。
「くくくく……。魔の石と呼ばれるこのデーモンハート、さすがに我には通じぬぞ」
 国王は自分の鎖骨の下あたりへと視線を向ける。そこには同じような色合いの宝石のようなものがあった。
「我が先祖も、克服するために様々なことを繰り返してきたからな。まさか、自身の体すらも実験に使うとは思うまい」
 胸の上部にある宝石を撫でる国王は、不気味に笑う。
「待っていろ、アイヴォリー王国。必ずや我らの悲願のために滅ぼしてくれようぞ。ふは、ふはははははっ!!」
 不気味で大きな国王の笑い声が部屋の中に響き渡ったのだった。
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