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新章 青色の智姫
第153話 オニオール子爵領へ
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「エアリアルボード!」
必死になってマスターしたエアリアルボードを展開するシアン。さすがに魔法の得意なアクアマリン子爵の血筋なだけはある。
「置手紙はしてきましたし、一緒に行きましょう」
「はい、シアン様。ですが、私の今の魔力では、大したお手伝いはできないかと」
「身の回りのサポートだけでも十分よ。第一、スミレにはこれまで散々お世話になっているんですからね」
「シアン様……」
シアンの言葉に、思わず涙腺を緩ませるスミレだった。
元々感情の乏しい幻獣だったがゆえに、スミレは自分の状態に驚いていた。
しかし、今はそんなことを考えている時ではない。今仕える主が危険に身を突っ込もうとしているのだ。止められないと察したスミレは、できる限り守ろうと決意をしていた。
(幻獣としての力を取り戻せれば、なにも苦労はありませんのに……)
スミレは自分の力が封じられている現状を悔やんだ。
城の庭園からエアリアルボードで飛び出したシアンは、一路オニオール子爵領を目指して飛んでいく。
「シアン様、オニオール領の位置はご存じですか?」
「もちろんです。アイヴォリーのオニオール領はモスグリネのオニオール領の東隣り。モスグリネの位置が分かっているから、結構簡単に分かりますよ」
自信たっぷりに答えるシアンなのだが、スミレはそのシアンの姿に少しばかり不安を感じた。
「えっと、エアリアルボードを展開する時は、自分たちも包むように風の壁を作るのでしたね。そうしないといろいろ飛んでくるものにぶつかって危険だそうですからね」
「なるほど、確かに」
シアンは宙に浮かんだ状態で、自分たちの周りの風の防壁を作り出す。
「さあ、向かいますよ。国の貴族の暴走は、私が止めます!」
気合い十分にシアンはエアリアルボードを発進させた。
日中は極力休まずにエアリアルボードを飛ばしたシアンだが、さすがに一日中、昼夜を飛ばすことはできなかった。夜は適当なところで休息をとる。
その際には、従者であるスミレが辺りを警戒する。今ではただの侍女となったスミレだが、これでも時の幻獣クロノアだ。そこらの侍女に比べればまだ魔力がある。
夜、シアンが眠っている間は、彼女がきっちり魔物を仕留めていた。
「まったく、魔物というものはデリカシーのかけらもありませんね。あなたもそう思いませんか?」
二日目の夜、襲ってきた魔物を退治したところで、木陰に向かって話しかけていた。
しばらくすると、木陰から一人の女性が姿を見せた。
「やれやれ、バレてたか」
木陰から姿を見せたのは、ライだった。
「バレない方がおかしいと思いませんかね。まあ、シアン様をごまかせていますので、合格といえば合格でしょう」
「やれやれ、幻獣様には敵わないわね」
「……私のことを知っているのかしら」
顔を見せたライにスミレが尋ねると、無言で首を縦に振っていた。
「あなたなら、教えた犯人に目星はつくでしょうね」
「そういうことをするのは、まず一人しかいませんよ」
ライとスミレが視線を合わせると、同時に一人の人物の名前を挙げる。
「ケットシー」
見事に声がハモった。
あまりにも同時だったので、スミレとライはついつい笑ってしまっていた。
「本当に、彼はどこまでお見通しなんでしょうかね」
「昔っからの付き合いはあるけど、私もまったくあいつのことは分からないわ。何をするにしてものらりくらりと躱してくれるもの」
はぁっとため息をつく。
「それじゃ、私は行くわね。こっそりついて行くけど、シアン様には内緒でお願いします」
「もちろんですよ。私と二人で解決する気満々ですから、守られていたなんて知ったら、それはショックを受けるでしょうからね」
「そうですね」
くすくすと笑いながら、ライは手を振って姿を消す。
ライを見送ったスミレは、そのまま火の番をしながら夜が明けるのを待ったのだった。
夜が明ければ、朝食を食べてから再びエアリアルボードでオニオール子爵領を目指す。
火の番をしていたスミレは、朝はエアリアルボードの上でぐっすり眠っている。シアンのエアリアルボードもそれだけしっかりとしているのだ。
「スミレ、起きて下さい」
「……着きましたでしょうか」
「はい。いよいよ見えてきましたよ、アイヴォリー王国南西の果て、オニオール子爵領が」
シアンたちの目の前には、しっかりとした田園風景が広がっている。
国境にあるオニオール子爵領は、国境警備も兼ねているのでそれなりに設備が充実しているのだ。
「適当なところで降りて、宿でも借りましょうか」
「そうですね。オニオール子爵邸では、情報が回ってしまう可能性がありますからね」
着陸場所を探して、シアンたちはゆっくりと地上へと降りていく。
庶民らしい服装に着替えると、シアンたちは姉妹を装ってオニオール子爵領に潜入する。
(さあ待っていなさい、アッサギー・オニオール。モスグリネ王国に泥を塗ろうとするならば、私は容赦しませんからね)
シアンは、かつてないほどに燃えているのであった。
必死になってマスターしたエアリアルボードを展開するシアン。さすがに魔法の得意なアクアマリン子爵の血筋なだけはある。
「置手紙はしてきましたし、一緒に行きましょう」
「はい、シアン様。ですが、私の今の魔力では、大したお手伝いはできないかと」
「身の回りのサポートだけでも十分よ。第一、スミレにはこれまで散々お世話になっているんですからね」
「シアン様……」
シアンの言葉に、思わず涙腺を緩ませるスミレだった。
元々感情の乏しい幻獣だったがゆえに、スミレは自分の状態に驚いていた。
しかし、今はそんなことを考えている時ではない。今仕える主が危険に身を突っ込もうとしているのだ。止められないと察したスミレは、できる限り守ろうと決意をしていた。
(幻獣としての力を取り戻せれば、なにも苦労はありませんのに……)
スミレは自分の力が封じられている現状を悔やんだ。
城の庭園からエアリアルボードで飛び出したシアンは、一路オニオール子爵領を目指して飛んでいく。
「シアン様、オニオール領の位置はご存じですか?」
「もちろんです。アイヴォリーのオニオール領はモスグリネのオニオール領の東隣り。モスグリネの位置が分かっているから、結構簡単に分かりますよ」
自信たっぷりに答えるシアンなのだが、スミレはそのシアンの姿に少しばかり不安を感じた。
「えっと、エアリアルボードを展開する時は、自分たちも包むように風の壁を作るのでしたね。そうしないといろいろ飛んでくるものにぶつかって危険だそうですからね」
「なるほど、確かに」
シアンは宙に浮かんだ状態で、自分たちの周りの風の防壁を作り出す。
「さあ、向かいますよ。国の貴族の暴走は、私が止めます!」
気合い十分にシアンはエアリアルボードを発進させた。
日中は極力休まずにエアリアルボードを飛ばしたシアンだが、さすがに一日中、昼夜を飛ばすことはできなかった。夜は適当なところで休息をとる。
その際には、従者であるスミレが辺りを警戒する。今ではただの侍女となったスミレだが、これでも時の幻獣クロノアだ。そこらの侍女に比べればまだ魔力がある。
夜、シアンが眠っている間は、彼女がきっちり魔物を仕留めていた。
「まったく、魔物というものはデリカシーのかけらもありませんね。あなたもそう思いませんか?」
二日目の夜、襲ってきた魔物を退治したところで、木陰に向かって話しかけていた。
しばらくすると、木陰から一人の女性が姿を見せた。
「やれやれ、バレてたか」
木陰から姿を見せたのは、ライだった。
「バレない方がおかしいと思いませんかね。まあ、シアン様をごまかせていますので、合格といえば合格でしょう」
「やれやれ、幻獣様には敵わないわね」
「……私のことを知っているのかしら」
顔を見せたライにスミレが尋ねると、無言で首を縦に振っていた。
「あなたなら、教えた犯人に目星はつくでしょうね」
「そういうことをするのは、まず一人しかいませんよ」
ライとスミレが視線を合わせると、同時に一人の人物の名前を挙げる。
「ケットシー」
見事に声がハモった。
あまりにも同時だったので、スミレとライはついつい笑ってしまっていた。
「本当に、彼はどこまでお見通しなんでしょうかね」
「昔っからの付き合いはあるけど、私もまったくあいつのことは分からないわ。何をするにしてものらりくらりと躱してくれるもの」
はぁっとため息をつく。
「それじゃ、私は行くわね。こっそりついて行くけど、シアン様には内緒でお願いします」
「もちろんですよ。私と二人で解決する気満々ですから、守られていたなんて知ったら、それはショックを受けるでしょうからね」
「そうですね」
くすくすと笑いながら、ライは手を振って姿を消す。
ライを見送ったスミレは、そのまま火の番をしながら夜が明けるのを待ったのだった。
夜が明ければ、朝食を食べてから再びエアリアルボードでオニオール子爵領を目指す。
火の番をしていたスミレは、朝はエアリアルボードの上でぐっすり眠っている。シアンのエアリアルボードもそれだけしっかりとしているのだ。
「スミレ、起きて下さい」
「……着きましたでしょうか」
「はい。いよいよ見えてきましたよ、アイヴォリー王国南西の果て、オニオール子爵領が」
シアンたちの目の前には、しっかりとした田園風景が広がっている。
国境にあるオニオール子爵領は、国境警備も兼ねているのでそれなりに設備が充実しているのだ。
「適当なところで降りて、宿でも借りましょうか」
「そうですね。オニオール子爵邸では、情報が回ってしまう可能性がありますからね」
着陸場所を探して、シアンたちはゆっくりと地上へと降りていく。
庶民らしい服装に着替えると、シアンたちは姉妹を装ってオニオール子爵領に潜入する。
(さあ待っていなさい、アッサギー・オニオール。モスグリネ王国に泥を塗ろうとするならば、私は容赦しませんからね)
シアンは、かつてないほどに燃えているのであった。
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