525 / 731
新章 青色の智姫
第156話 禁断の手
しおりを挟む
ケットシーの登場に、アッサギーが困惑している。
「お前は、商人たちのボスの……猫?!」
「はっはっはっ、ボクを知っているとは光栄だね。ボクは君のことはよく覚えているよ。取引に向かった際によく近寄ってきては、毛をむしってくれていたからね。いやぁ、痛かったよ」
ケットシーの細い目がつり上がっていく。
「ボクが来たからには、君たちはトパゼリアには戻れない。おとなしく縛につくんだね」
「ケットシーだか何だか知らないが、我々の計画の邪魔はさせぬ。アッサギー、あれを使え!」
つるに捕らえられて転んでいる男たちが叫んでいる。アッサギーはその声に頷くと、何かを取り出して素早く口に含んだ。
「ほう、また面倒なものを持っていたものだね」
「ケットシー、今のあれって……」
にこにことした顔を続けているケットシーが冷や汗を流している。
「一体、何が始まるというのですか……」
シアンはアッサギーを見て警戒している。
「今のって、まさか……」
スミレの表情が青ざめていく。
「スミレ?」
「そんなことをして、無事で済むと思っているのですか!?」
青ざめた顔で叫ぶスミレに、シアンの動揺は止まらない。
「ふははははっ! お前たちを皆殺しにできるのならば、そのようなものはどうでもいい。そやつもしょせんあの方の捨て駒に過ぎぬのだからな!」
「うるさいわね。あとでいくらでも聞いてやるから黙りなさい!」
「うぐっ!」
ライが魔法を使うと、怪しい男たちはますます地面に縛り付けられていく。
男たちが沈黙したのを確認して、ライは再びアッサギーを見る。
「まったく、何を考えているのよ。デーモンハートを飲み込むなんて、正気じゃないわ!」
「なんですって!?」
ライの言葉を聞いて、スミレが叫んでいた。
「嘘でしょう? デーモンハートを飲み込んだですって!?」
スミレの驚きの声が止まらない。
「デーモンハートって人を狂わせる魔性の石ですよね。そんなものを飲み込んで無事でいられるの?」
「人はおろか、妖精や魔物、はては幻獣すらも狂わせます。そんな魔力を持った石を飲み込んで、……ただで済むわけがないのですよ」
全員がじっとアッサギーを見る。
「今のうちに魔法で捕らえるというのは?」
「無理だと思うわ。何度もデーモンハートに触れてきた私なら分かる。今は手を出すのは危険よ」
「そうだね。今は飲み込んだ彼の体を乗っ取ろうと、デーモンハートの魔力が体を駆け巡っている。下手に触れれば、そこからボクたちにも侵食を始めるさ。効果が安定するまで、このまま見守るしかないね」
まったくもって無防備だというのに、手出しがまったくできないとは実に歯がゆい状況だった。
「でも、こいつらならどうにかできるんじゃないかな。トパゼリアの連中だ。デーモンハートを人に使わせるくらいだから、少しは耐性があるだろう」
「もご、もごごごっ!」
ケットシーがにたぁっと笑いながら視線を向けると、怪しい男たちはもがき始めた。
「おやおや、人に使わせておいてその態度かい? どうしようもない悪党だね」
「どうするの、ケットシー」
「ライ、こいつらをあれにぶつけておやり。まぁ、醜い怪物ができ上がるだけだろうけどね」
「うげっ……。さすがにそれはパス。こいつらには話聞かなきゃいけないから、あいつだけでいいでしょ」
「ふむ、それもそうか」
ケットシーとライのやり取りを見て、思わず怖くなってしまうシアンとスミレである。
「ケットシー、さすがにさっきの冗談でしょう」
「はっはっはっ、悪党にはそれ相応の脅しってのが必要なんだ。さて、そろそろ変化が終わるね。人を化け物に変えるとは、さすがいわくつきの石だよ」
「ぐああああああっ!!」
デーモンハートによる影響を受けたアッサギーは、それはなんとも言えない醜い化け物となっていた。
「人型は保っているし、肌の色とあちこちに生えた角くらいか。ずいぶんと、デーモンハートを使いこなしているね」
「感心してる場合? 来るわよ!」
「がああっ!!」
「速い!?」
変化したアッサギーが、拳を振り上げて襲い掛かってくる。
ケットシーたちが避けるが、退いた地面はアッサギーの拳で激しく砕けている。
「ふむ、スピードとパワーが上昇しているタイプか。それに比べて魔力は減っているようだね」
「冷静に分析してる場合? こっちに来るわよ!」
ライがツッコミを入れている。
「はっはっはっ、ボクに戦いを挑むとは愉快痛快」
くるりと回って着地したケットシーが、淡く光り始める。
「さて、いい機会だ。ボクの戦い方というのを見せてあげようじゃないか。ライ、あいつらはどうでもいいが、シアンくんたちを守ってあげておくれ」
「分かったわ」
ライはすぐさまシアンたちと合流する。
「さあ、おいで。このボクの剣の錆としてあげよう」
この時のケットシーの姿に、シアンたちは驚いた。
サーベル、羽根つき帽子にマント。それ以外は元の猫の状態そのままだったが、その姿はまるで騎士のような感じだったのだ。
「幻獣ケットシー、参る」
いつもとは違う真面目なトーンの声が響き渡るのだった。
「お前は、商人たちのボスの……猫?!」
「はっはっはっ、ボクを知っているとは光栄だね。ボクは君のことはよく覚えているよ。取引に向かった際によく近寄ってきては、毛をむしってくれていたからね。いやぁ、痛かったよ」
ケットシーの細い目がつり上がっていく。
「ボクが来たからには、君たちはトパゼリアには戻れない。おとなしく縛につくんだね」
「ケットシーだか何だか知らないが、我々の計画の邪魔はさせぬ。アッサギー、あれを使え!」
つるに捕らえられて転んでいる男たちが叫んでいる。アッサギーはその声に頷くと、何かを取り出して素早く口に含んだ。
「ほう、また面倒なものを持っていたものだね」
「ケットシー、今のあれって……」
にこにことした顔を続けているケットシーが冷や汗を流している。
「一体、何が始まるというのですか……」
シアンはアッサギーを見て警戒している。
「今のって、まさか……」
スミレの表情が青ざめていく。
「スミレ?」
「そんなことをして、無事で済むと思っているのですか!?」
青ざめた顔で叫ぶスミレに、シアンの動揺は止まらない。
「ふははははっ! お前たちを皆殺しにできるのならば、そのようなものはどうでもいい。そやつもしょせんあの方の捨て駒に過ぎぬのだからな!」
「うるさいわね。あとでいくらでも聞いてやるから黙りなさい!」
「うぐっ!」
ライが魔法を使うと、怪しい男たちはますます地面に縛り付けられていく。
男たちが沈黙したのを確認して、ライは再びアッサギーを見る。
「まったく、何を考えているのよ。デーモンハートを飲み込むなんて、正気じゃないわ!」
「なんですって!?」
ライの言葉を聞いて、スミレが叫んでいた。
「嘘でしょう? デーモンハートを飲み込んだですって!?」
スミレの驚きの声が止まらない。
「デーモンハートって人を狂わせる魔性の石ですよね。そんなものを飲み込んで無事でいられるの?」
「人はおろか、妖精や魔物、はては幻獣すらも狂わせます。そんな魔力を持った石を飲み込んで、……ただで済むわけがないのですよ」
全員がじっとアッサギーを見る。
「今のうちに魔法で捕らえるというのは?」
「無理だと思うわ。何度もデーモンハートに触れてきた私なら分かる。今は手を出すのは危険よ」
「そうだね。今は飲み込んだ彼の体を乗っ取ろうと、デーモンハートの魔力が体を駆け巡っている。下手に触れれば、そこからボクたちにも侵食を始めるさ。効果が安定するまで、このまま見守るしかないね」
まったくもって無防備だというのに、手出しがまったくできないとは実に歯がゆい状況だった。
「でも、こいつらならどうにかできるんじゃないかな。トパゼリアの連中だ。デーモンハートを人に使わせるくらいだから、少しは耐性があるだろう」
「もご、もごごごっ!」
ケットシーがにたぁっと笑いながら視線を向けると、怪しい男たちはもがき始めた。
「おやおや、人に使わせておいてその態度かい? どうしようもない悪党だね」
「どうするの、ケットシー」
「ライ、こいつらをあれにぶつけておやり。まぁ、醜い怪物ができ上がるだけだろうけどね」
「うげっ……。さすがにそれはパス。こいつらには話聞かなきゃいけないから、あいつだけでいいでしょ」
「ふむ、それもそうか」
ケットシーとライのやり取りを見て、思わず怖くなってしまうシアンとスミレである。
「ケットシー、さすがにさっきの冗談でしょう」
「はっはっはっ、悪党にはそれ相応の脅しってのが必要なんだ。さて、そろそろ変化が終わるね。人を化け物に変えるとは、さすがいわくつきの石だよ」
「ぐああああああっ!!」
デーモンハートによる影響を受けたアッサギーは、それはなんとも言えない醜い化け物となっていた。
「人型は保っているし、肌の色とあちこちに生えた角くらいか。ずいぶんと、デーモンハートを使いこなしているね」
「感心してる場合? 来るわよ!」
「がああっ!!」
「速い!?」
変化したアッサギーが、拳を振り上げて襲い掛かってくる。
ケットシーたちが避けるが、退いた地面はアッサギーの拳で激しく砕けている。
「ふむ、スピードとパワーが上昇しているタイプか。それに比べて魔力は減っているようだね」
「冷静に分析してる場合? こっちに来るわよ!」
ライがツッコミを入れている。
「はっはっはっ、ボクに戦いを挑むとは愉快痛快」
くるりと回って着地したケットシーが、淡く光り始める。
「さて、いい機会だ。ボクの戦い方というのを見せてあげようじゃないか。ライ、あいつらはどうでもいいが、シアンくんたちを守ってあげておくれ」
「分かったわ」
ライはすぐさまシアンたちと合流する。
「さあ、おいで。このボクの剣の錆としてあげよう」
この時のケットシーの姿に、シアンたちは驚いた。
サーベル、羽根つき帽子にマント。それ以外は元の猫の状態そのままだったが、その姿はまるで騎士のような感じだったのだ。
「幻獣ケットシー、参る」
いつもとは違う真面目なトーンの声が響き渡るのだった。
10
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる