逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第156話 禁断の手

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 ケットシーの登場に、アッサギーが困惑している。
「お前は、商人たちのボスの……猫?!」
「はっはっはっ、ボクを知っているとは光栄だね。ボクは君のことはよく覚えているよ。取引に向かった際によく近寄ってきては、毛をむしってくれていたからね。いやぁ、痛かったよ」
 ケットシーの細い目がつり上がっていく。
「ボクが来たからには、君たちはトパゼリアには戻れない。おとなしく縛につくんだね」
「ケットシーだか何だか知らないが、我々の計画の邪魔はさせぬ。アッサギー、あれを使え!」
 つるに捕らえられて転んでいる男たちが叫んでいる。アッサギーはその声に頷くと、何かを取り出して素早く口に含んだ。
「ほう、また面倒なものを持っていたものだね」
「ケットシー、今のあれって……」
 にこにことした顔を続けているケットシーが冷や汗を流している。
「一体、何が始まるというのですか……」
 シアンはアッサギーを見て警戒している。
「今のって、まさか……」
 スミレの表情が青ざめていく。
「スミレ?」
「そんなことをして、無事で済むと思っているのですか!?」
 青ざめた顔で叫ぶスミレに、シアンの動揺は止まらない。
「ふははははっ! お前たちを皆殺しにできるのならば、そのようなものはどうでもいい。そやつもしょせんあの方の捨て駒に過ぎぬのだからな!」
「うるさいわね。あとでいくらでも聞いてやるから黙りなさい!」
「うぐっ!」
 ライが魔法を使うと、怪しい男たちはますます地面に縛り付けられていく。
 男たちが沈黙したのを確認して、ライは再びアッサギーを見る。
「まったく、何を考えているのよ。デーモンハートを飲み込むなんて、正気じゃないわ!」
「なんですって!?」
 ライの言葉を聞いて、スミレが叫んでいた。
「嘘でしょう? デーモンハートを飲み込んだですって!?」
 スミレの驚きの声が止まらない。
「デーモンハートって人を狂わせる魔性の石ですよね。そんなものを飲み込んで無事でいられるの?」
「人はおろか、妖精や魔物、はては幻獣すらも狂わせます。そんな魔力を持った石を飲み込んで、……ただで済むわけがないのですよ」
 全員がじっとアッサギーを見る。
「今のうちに魔法で捕らえるというのは?」
「無理だと思うわ。何度もデーモンハートに触れてきた私なら分かる。今は手を出すのは危険よ」
「そうだね。今は飲み込んだ彼の体を乗っ取ろうと、デーモンハートの魔力が体を駆け巡っている。下手に触れれば、そこからボクたちにも侵食を始めるさ。効果が安定するまで、このまま見守るしかないね」
 まったくもって無防備だというのに、手出しがまったくできないとは実に歯がゆい状況だった。
「でも、こいつらならどうにかできるんじゃないかな。トパゼリアの連中だ。デーモンハートを人に使わせるくらいだから、少しは耐性があるだろう」
「もご、もごごごっ!」
 ケットシーがにたぁっと笑いながら視線を向けると、怪しい男たちはもがき始めた。
「おやおや、人に使わせておいてその態度かい? どうしようもない悪党だね」
「どうするの、ケットシー」
「ライ、こいつらをあれにぶつけておやり。まぁ、醜い怪物ができ上がるだけだろうけどね」
「うげっ……。さすがにそれはパス。こいつらには話聞かなきゃいけないから、あいつだけでいいでしょ」
「ふむ、それもそうか」
 ケットシーとライのやり取りを見て、思わず怖くなってしまうシアンとスミレである。
「ケットシー、さすがにさっきの冗談でしょう」
「はっはっはっ、悪党にはそれ相応の脅しってのが必要なんだ。さて、そろそろ変化が終わるね。人を化け物に変えるとは、さすがいわくつきの石だよ」
「ぐああああああっ!!」
 デーモンハートによる影響を受けたアッサギーは、それはなんとも言えない醜い化け物となっていた。
「人型は保っているし、肌の色とあちこちに生えた角くらいか。ずいぶんと、デーモンハートを使いこなしているね」
「感心してる場合? 来るわよ!」
「がああっ!!」
「速い!?」
 変化したアッサギーが、拳を振り上げて襲い掛かってくる。
 ケットシーたちが避けるが、退いた地面はアッサギーの拳で激しく砕けている。
「ふむ、スピードとパワーが上昇しているタイプか。それに比べて魔力は減っているようだね」
「冷静に分析してる場合? こっちに来るわよ!」
 ライがツッコミを入れている。
「はっはっはっ、ボクに戦いを挑むとは愉快痛快」
 くるりと回って着地したケットシーが、淡く光り始める。
「さて、いい機会だ。ボクの戦い方というのを見せてあげようじゃないか。ライ、あいつらはどうでもいいが、シアンくんたちを守ってあげておくれ」
「分かったわ」
 ライはすぐさまシアンたちと合流する。
「さあ、おいで。このボクの剣の錆としてあげよう」
 この時のケットシーの姿に、シアンたちは驚いた。
 サーベル、羽根つき帽子にマント。それ以外は元の猫の状態そのままだったが、その姿はまるで騎士のような感じだったのだ。
「幻獣ケットシー、参る」
 いつもとは違う真面目なトーンの声が響き渡るのだった。
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