逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第168話 吹雪はやめど……

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 荒れ狂う吹雪がぴたりとやむ。
 信じられない光景にシアンたちは驚く。
「何をなさっていますか。私が隙を作りましたので今のうちに浄化を!」
「わ、分かりました!」
 スミレの表情が苦悶に歪み、額から大粒の汗が流れ始める。
「水よ、風よ、土よ! 合わさりてかの者を巣食いし力を取り除け!」
 力のコントロールがうまくいかないのか、シアンは補助的に詠唱を入れる。すると、三属性が混ざり合い、白色の光の球となる。
「いきなさい!」
 掲げた手を振り下ろし、光の球を吹雪の中心へと投げつける。
 動きが止まって、標的が丸見えになっているために、光は何ものにも邪魔されずに一直線に向かって行く。
 もう当たろうかという時だった。
「動きなさい、時よ!」
 汗だくになったスミレは、発動させていた魔法を解除する。
 再び吹雪が荒れ狂うが、その時だった。
 カッと光があふれ出し、徐々に吹雪がやんでいく。
「ああああ……っ!」
 風の吹きすさぶ音が小さくなり、悲痛な叫び声が聞こえてくる。しばらくするとその声も聞こえなくなり、吹雪の中心にいた人物が気を失って地面へと転がった。
「近付きます」
「え、ええ。頼みますよ、ライ……」
 魔力をかなり消耗したシアンは、大きく肩で息をしながらライにエアリアルボードのコントロールを任せる。
 スミレもその場に座り込んでしまっているが、今は原因を回収するのが先だった。
「やっぱり、スノーフェアリーですね。この子は私やケットシーの古い友人ですよ」
 ライはきっぱり言い切った。
 その決め手となるのが左肩の傷だった。ふざけて遊んでいる時に、自分の作ったつららでケガをしたのである。
 通常、自分の能力で作ったもので傷つくことはないのだが、まだただのフェアリーだった頃のライが風魔法でつららを回避しようとして傷がついてしまったのだ。
 以降、いたずらの戒めとして、傷が残ったままになっていたのだという。
「ずっと行方知れずでしたけど、このような形で再会するとは……」
 ライはじっとスノーフェアリーを見つめていた。
「と、とりあえずゆっくり休めるところまで退避しましょう。私も消耗していますが、スミレの方が心配です」
 よく見ると、スミレはぐったりして顔が青ざめていた。回復させようにも辺りが雪まみれでは対処が厳しいのだ。
「応急処置はしておきます。時止めという大きな魔法を使ったので、大きく魔力を消耗しているのでしょう」
 ライはスノーフェアリーをエアリアルボードに乗せると、雪が少なくなる王都ハウライトの方向へと向けて飛び始めた。
 エアリアルボードを作ったのはシアンではあるが、さすが地水火風の四属性を得意とするライはエアリアルボードをしっかり操っていた。
 途中、魔力が回復してきたシアンがスミレを看ていたのだが、やはり消耗が激しく危険な様子に見えた。
 ひとまず休憩を淹れようとした時だった。突如として目の前に見たことのある影が飛び出してきた。
「やあ、お疲れさん。氷精は回収できたかい?」
「まったく、力が封じられている状態で無理をしたものだな。見せてみるがいい」
 ケットシーとフェンリルだった。
「二人とも……、その様子じゃ分かっていたみたいですね」
 疲れた顔のシアンが確認をするように尋ねる。
「そりゃまあねえ。仮にもボクたちは神獣と幻獣だよ? 分からないと思っているのかい?」
 ケットシーはスミレの状態を確認している。
「だが、神獣も幻獣も、基本的には人間たちに対しては積極的に行動を起こさぬ。ゆえに、貴公たちの行動を見させてもらっていたのだ」
 フェンリルの方はスノーフェアリーの状態を確認している。
「やはり、デモンズハートか。瘴気に侵されただけのライの時と違って、ケットシーに聞いたあの男のように口に含んでしまったようだな」
「口に含むなんて、あるのですかね」
「妖精のやることなんてよく分からん。妖精の種類にもよるが、基本的には好奇心旺盛だからな。おそらくあの雪の下にはまだデーモンハートが転がっているかもな」
「大変、回収しなければ……」
 フェンリルの話を聞いて、シアンが動こうとする。だが、消耗した魔力はまだ回復しておらず、めまいを起こしていた。
「無理をするな。光属性の使い手でなければ、本来浄化の魔法なんぞ発動できん。光属性の適性のない貴公が発動できただけでも奇跡的なのだ。今はゆっくり休んで、我らに任せるのだな」
「はい……」
 悔しいものだが、シアンはフェンリルの言う通りにおとなしくすることにしたのだった。
「まったく、こっちもこっちで、封印されている力を無理やり使ったから反動が大きく来ているね。スミレくんの性格からしたら、まずありえないことだよ」
「やはり、クロノアにとってシアンは特別なのだろうな」
 ケットシーは呆れ、フェンリルは笑っている。
「もう、そんなことより早く回復させて下さい」
「ああ、任せておくれ。力を封じられて人間になっているとはいえ、ボクと同じ対処法でいけるはずだからね」
 シアンに言われて、ケットシーはスミレの回復を始める。
「そうそう」
「なんですか、ケットシー」
「古い友人の暴走を止めてくれて、ありがとう」
 スミレを回復させながら背中で語るケットシー。その背中は、とても寂しそうに見えたシアンなのであった。
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