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新章 青色の智姫
第184話 華やかな地上、見えない地下
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アイヴォリー王城の地下。そこには牢屋がずらりと並んでいる。
地上では華やかな年末祭が行われているが、ここは相変わらず薄暗い場所である。
ただ薄暗いだけで、衛生環境はそこまで悪くはない。
華やかさからかけ離れた場所に、何名もの罪人が囚われている。
「まったく、暗い寒い。なぜこのような場所に妾がおらねばならぬのだ……」
トパゼリアの女王も罪人として、今だ囚われている。
こつんこつんと足音が響いて、誰かが近付いてくる。
「妾を笑いに来たか、ムーの者め」
「別に、あなたを笑いに来たわけではありませんよ。デーモンハートを浄化されてどうなったのか、その確認に来ただけです」
現れたのはパールだった。その表情はどこか冷たく感じるほど無表情だった。
「パール王妃殿下、ここは危のうございます。お戻り下さい」
「先日も話をしたばかりです。大丈夫ですよ」
パールが言う通り、年末祭が始まる前に一度この地下牢にやって来ている。
「しょ、承知致しました……」
看守は引き下がる。
あっさりと看守を説得したパールは、ゆっくりとトパゼリアの女王に近付いていく。
「ふむ、魔力が安定していますね。これならば、そのうちデーモンハートに汚染された性格も少しは落ち着くのではないでしょうかね」
「ぐぬぬ……。妾が、妾でなくなる。こんなことなど……許されたものではない!」
女王は鉄格子につかみかかり、パールの顔を睨んでいる。だが、この程度で怯むパールではない。
「デーモンハートを浄化したくらいでは、長年の精神汚染は簡単には直りませんね。それにしても、体にデーモンハートを埋め込むなんて、なんてことを思いついたのかしらね」
「お前には分かるまい。帰る場所を二度も失った我々の気持ちなど! 元の場所に戻るためであるのなら、妾は手段を選ばぬのだ!」
ガシャンガシャンと牢屋の鉄格子を揺らす女王。その容姿をパールは憐みの目で見つめ続けている。
「おのれっ! そんな目で……、そんな目で妾を見るな!」
女王はパールにつかみかかろうとするが、牢屋が堅固で十分な距離を取っているパールには手が届かなかった。
牢屋の中には魔封じがかかっているために、女王はなすすべがないのである。そもそも、強力な魔力の源であるデーモンハートが力を失っているのだ。魔法が使えても大した脅威にはならないだろう。
「ぬくぬくと暮らしてきたムーの子孫が! 落ちぶれた妾を見るのがそんなに楽しいか!」
「別に、そんなことはありませんよ。ただ、哀れだなと。素直に頭を下げれば、アイヴォリーの王家は受け入れてくれたでしょうに。これがデーモンハート、魔の力に魅入られた結果なのですね。実に嘆かわしい……」
「うるさい! 妾は、妾は……まだ諦めぬ。必ずや我々の国を取り戻すのだ!」
牢屋の鉄格子の音がうるさく響き渡る。
「もう、あなただけですよ。他の人たちは諦めているようです。まったく、すぐに極刑になっていないことをありがたく思うのですね」
「ほざけっ!」
女王がもう一度大きく手を伸ばすが、やはりパールに届くことはなかった。
その時に見せたパールの凛とした表情が、さらに女王を激昂させる。
「ここで妾を殺さなかったこと、必ず後悔させてやる! 覚えておけ、ムーの子孫! アイヴォリー王国! ふははははははっ!」
女王の不気味な笑い声が牢屋に響き渡る。
変わらない女王の姿に、どこか安心したパールであった。
様子を見終わって地下牢から出ようとしたパールの前に、二人の人物が姿を見せる。
「見てられませんわね、あの姿」
「やあやあ、まったく図太いものだね」
「ペシエラ王妃、ケットシー、来てたのですね」
目の前にいたのはペシエラとケットシーである。パールが地下牢に向かったと聞いて、興味を持ってやって来たようだった。
「まったく、デーモンハートを浄化しておとなしくなるかと思いましたが、女王は元々ああいう性格なのですわね」
「そうみたいだねぇ。あの一族はデーモンハートの精神汚染を強く受けていたからね。まあ仕方ないというところかな」
ペシエラの感想に、ケットシーも同調しているようだ。
「ただ、祖国を取り戻さんとする気持ちは、よく分かりますわ。わたくしも同じ目に遭ったことがありますもの……」
「ああ、逆行前のことかい? だが、あれは女王と同じアトランティスの血を引いているものによるそそのかしが原因じゃないか。まあ、そのストロアは今はボクの右腕として活躍しているけれどね」
ある意味黒歴史ともいえる逆行前を思い出して、ペシエラは少し表情を曇らせた。
「逆行前? 面白そうですね。ぜひ詳しく聞かせてもらいたいですね」
「あ、いえ。わたくしは話したくはありませんわ。心の戒めとして、覚えていたいだけですから」
「そう、それは残念ですね」
ペシエラが丁重にお断りすると、パールは非常に残念そうに笑っていた。
「あら、雪ですね」
「本当ですわね。いつも降りますけれど、今年は特に降っている気がしますわ」
ハウライトに白い雪が舞う。
降り積もる雪のように、すべてを真っ白にできることができたのなら。パールはふとそう思うのだった。
地上では華やかな年末祭が行われているが、ここは相変わらず薄暗い場所である。
ただ薄暗いだけで、衛生環境はそこまで悪くはない。
華やかさからかけ離れた場所に、何名もの罪人が囚われている。
「まったく、暗い寒い。なぜこのような場所に妾がおらねばならぬのだ……」
トパゼリアの女王も罪人として、今だ囚われている。
こつんこつんと足音が響いて、誰かが近付いてくる。
「妾を笑いに来たか、ムーの者め」
「別に、あなたを笑いに来たわけではありませんよ。デーモンハートを浄化されてどうなったのか、その確認に来ただけです」
現れたのはパールだった。その表情はどこか冷たく感じるほど無表情だった。
「パール王妃殿下、ここは危のうございます。お戻り下さい」
「先日も話をしたばかりです。大丈夫ですよ」
パールが言う通り、年末祭が始まる前に一度この地下牢にやって来ている。
「しょ、承知致しました……」
看守は引き下がる。
あっさりと看守を説得したパールは、ゆっくりとトパゼリアの女王に近付いていく。
「ふむ、魔力が安定していますね。これならば、そのうちデーモンハートに汚染された性格も少しは落ち着くのではないでしょうかね」
「ぐぬぬ……。妾が、妾でなくなる。こんなことなど……許されたものではない!」
女王は鉄格子につかみかかり、パールの顔を睨んでいる。だが、この程度で怯むパールではない。
「デーモンハートを浄化したくらいでは、長年の精神汚染は簡単には直りませんね。それにしても、体にデーモンハートを埋め込むなんて、なんてことを思いついたのかしらね」
「お前には分かるまい。帰る場所を二度も失った我々の気持ちなど! 元の場所に戻るためであるのなら、妾は手段を選ばぬのだ!」
ガシャンガシャンと牢屋の鉄格子を揺らす女王。その容姿をパールは憐みの目で見つめ続けている。
「おのれっ! そんな目で……、そんな目で妾を見るな!」
女王はパールにつかみかかろうとするが、牢屋が堅固で十分な距離を取っているパールには手が届かなかった。
牢屋の中には魔封じがかかっているために、女王はなすすべがないのである。そもそも、強力な魔力の源であるデーモンハートが力を失っているのだ。魔法が使えても大した脅威にはならないだろう。
「ぬくぬくと暮らしてきたムーの子孫が! 落ちぶれた妾を見るのがそんなに楽しいか!」
「別に、そんなことはありませんよ。ただ、哀れだなと。素直に頭を下げれば、アイヴォリーの王家は受け入れてくれたでしょうに。これがデーモンハート、魔の力に魅入られた結果なのですね。実に嘆かわしい……」
「うるさい! 妾は、妾は……まだ諦めぬ。必ずや我々の国を取り戻すのだ!」
牢屋の鉄格子の音がうるさく響き渡る。
「もう、あなただけですよ。他の人たちは諦めているようです。まったく、すぐに極刑になっていないことをありがたく思うのですね」
「ほざけっ!」
女王がもう一度大きく手を伸ばすが、やはりパールに届くことはなかった。
その時に見せたパールの凛とした表情が、さらに女王を激昂させる。
「ここで妾を殺さなかったこと、必ず後悔させてやる! 覚えておけ、ムーの子孫! アイヴォリー王国! ふははははははっ!」
女王の不気味な笑い声が牢屋に響き渡る。
変わらない女王の姿に、どこか安心したパールであった。
様子を見終わって地下牢から出ようとしたパールの前に、二人の人物が姿を見せる。
「見てられませんわね、あの姿」
「やあやあ、まったく図太いものだね」
「ペシエラ王妃、ケットシー、来てたのですね」
目の前にいたのはペシエラとケットシーである。パールが地下牢に向かったと聞いて、興味を持ってやって来たようだった。
「まったく、デーモンハートを浄化しておとなしくなるかと思いましたが、女王は元々ああいう性格なのですわね」
「そうみたいだねぇ。あの一族はデーモンハートの精神汚染を強く受けていたからね。まあ仕方ないというところかな」
ペシエラの感想に、ケットシーも同調しているようだ。
「ただ、祖国を取り戻さんとする気持ちは、よく分かりますわ。わたくしも同じ目に遭ったことがありますもの……」
「ああ、逆行前のことかい? だが、あれは女王と同じアトランティスの血を引いているものによるそそのかしが原因じゃないか。まあ、そのストロアは今はボクの右腕として活躍しているけれどね」
ある意味黒歴史ともいえる逆行前を思い出して、ペシエラは少し表情を曇らせた。
「逆行前? 面白そうですね。ぜひ詳しく聞かせてもらいたいですね」
「あ、いえ。わたくしは話したくはありませんわ。心の戒めとして、覚えていたいだけですから」
「そう、それは残念ですね」
ペシエラが丁重にお断りすると、パールは非常に残念そうに笑っていた。
「あら、雪ですね」
「本当ですわね。いつも降りますけれど、今年は特に降っている気がしますわ」
ハウライトに白い雪が舞う。
降り積もる雪のように、すべてを真っ白にできることができたのなら。パールはふとそう思うのだった。
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