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新章 青色の智姫
第191話 歴史を動かせ
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準備が整い、トパゼリアの女王が帰国する日が近付く。
その出発の前夜、女王もいよいよ食事に同席することになった。ただし、会談という状況であるので、シアンたち子どもたちは別の場所で食事をしている。
「わざわざすまなかった。あのようなことになって、再び自国の日を踏める日が来るとは思わなんだぞ」
女王は頭を下げながら話をしている。以前に見られた高圧的な態度はまったく鳴りを潜めている。
「それはそれは。とても晴れやかな表情をしておりますわね」
「生まれた土地へと無事に戻れるのだ。これほどまでに嬉なことはなかろう。あのようなことがあれば、普通ならば処刑だ。陛下方の寛大なお心遣い、とても感謝する次第である」
ペシエラからかけられた言葉に、女王は本当に嬉しそうに話している。
「いえいえ、まだ感謝されるには早いと思いますわ。女王は国に戻ってからが大変というものでしょうから」
女王との間で、ペシエラは淡々と受け答えをしている。
食事の間、女王が何度も頭を下げていた。その様子には、シルヴァノは常に驚かされ続けていた。
女王が先に部屋に戻ると、シルヴァノがペシエラに話し掛けている。
「まさか、自国へと送り返すとは、君らしくない判断だったと思うよ」
「いいえ、これは別に慈悲でも何でもありませんですわ。私が体験したことをあの方にも体験して頂こうと思いましてね」
「というと?」
ペシエラの語った内容に、シルヴァノは詳しい説明を求めている。
一度咳払いをして姿勢を整えると、ペシエラは淡々と語り始める。
「そうですわね。わたくしの今回の人生がそういった感じですのよ。陛下にはお話差し上げましたわよね、わたくしが人生をやり直していることを」
「ああ、そういえばそうだったね。一度は選択を間違えて、アイヴォリーを滅ぼしてしまったのだったか」
ペシエラはこくりと頷く。
「わたくしは、アトランティスの子孫の者によってそそのかされ、ロゼリアを罠にかけて処刑し、その数年後に戦争を仕掛けられて陛下たちを失いました。最終的に敗走したわたくしは、状況の好転していなかったカイスで病に倒れましたわ」
逆行前の話を語るペシエラは、とても落ち着いている。自分にとって消し去りたい過去だろう。だが、今のペシエラがあるのはその時の経験があるためである。
「ですので、悪いものによってそそのかされていた彼女にもまた、わたくしのようにやり直しの機会があってもよろしいのかと思いますわ。ただ、わたくしのように過去を捨て去ることはできませんけれどね」
「ペシエラ……」
しっかりと強い表情で言い切ったペシエラを見て、シルヴァノはこれ以上は何も言わなかった。
「変わろうと決意をされている方です。わたくしは応援致しますわ。ただし……」
「ただし?」
「また攻め入ろうなどと考えた場合には、それこそ容赦は致しませんわよ。そうでしょう、ケットシー」
「ケットシー?」
突然くるりと何もない方向へと視線を移して話すペシエラに、シルヴァノは首を傾げている。
「はっはっはっはっ、ばれてしまったか。勘が鋭くなったね、ペシエラくん」
何もない空間がゆらりと揺らいで、見慣れた大きな猫が姿を見せた。
「何度もあなたに驚かされてたまるものですかですわ。監視のほど、よろしくお願い致しますわよ」
「いやあ、ボクは君の部下でも何でもないのだけどね。まあ、面白そうだから頼まれてあげるよ。妙な動きを見せたら、報告でいいのだよね?」
「ええ、それでお願い足しますわ。胡散くさいですけれど、いざという時には一番頼りになる方ですから」
「それはまた、喜んでいいのか分からない褒め方だね。まったく、やりにくい相手に育ってくれたものだよ」
ケットシーは困ったような表情で笑っている。
「まあ、それでこそペシエラくんって感じいいんだけどね。ああ、お祝いというわけじゃないけれど、早速ひとつ情報をあげようじゃないか」
ポンと手を叩きながら、ケットシーは両手を後ろ手に組んでペシエラに話し掛ける。
「何かしら」
気になるペシエラは聞き返す。
「トパゼリアの女王だけど、早速面白いことを企んでいるよ」
「あら、それは何かしら」
「自分の子どもたちを留学させるつもりのようだよ。まあ、友好の証というつもりらしいけれどね」
「なんだと?」
ケットシーの話を聞いて、シルヴァノが大声を出して驚いている。
「まったく、精神の浄化されていない自分の息子たちを通わせようとは、大きく出たものだよね。でも、自国の民を外に積極的に出そうという動き自体は、一歩前進といったところかな。今までは暗躍するような形だったからね」
「それは、確かにそうだな」
シルヴァノが考え込んでいる。
「なんにしても、大きく歴史が動く状況だと思うよ。まともな国交のなかった国とこのような交流が始まるのだからね。はっはっはっはっはっ」
ケットシーはのっしのっしと出入り口の扉の方へと歩いていく。入ってきた時は瞬間移動に隠密でこっそりだったというのに、よく分からない猫だ。
「では、ボクは早速商売でも始めようかね。では、失礼するよ」
そう言い残すと、ケットシーは堂々と食堂から姿を消していった。
残されたシルヴァノとペシエラは、改めてトパゼリアへの対応を話し合うことにしたのだった。
その出発の前夜、女王もいよいよ食事に同席することになった。ただし、会談という状況であるので、シアンたち子どもたちは別の場所で食事をしている。
「わざわざすまなかった。あのようなことになって、再び自国の日を踏める日が来るとは思わなんだぞ」
女王は頭を下げながら話をしている。以前に見られた高圧的な態度はまったく鳴りを潜めている。
「それはそれは。とても晴れやかな表情をしておりますわね」
「生まれた土地へと無事に戻れるのだ。これほどまでに嬉なことはなかろう。あのようなことがあれば、普通ならば処刑だ。陛下方の寛大なお心遣い、とても感謝する次第である」
ペシエラからかけられた言葉に、女王は本当に嬉しそうに話している。
「いえいえ、まだ感謝されるには早いと思いますわ。女王は国に戻ってからが大変というものでしょうから」
女王との間で、ペシエラは淡々と受け答えをしている。
食事の間、女王が何度も頭を下げていた。その様子には、シルヴァノは常に驚かされ続けていた。
女王が先に部屋に戻ると、シルヴァノがペシエラに話し掛けている。
「まさか、自国へと送り返すとは、君らしくない判断だったと思うよ」
「いいえ、これは別に慈悲でも何でもありませんですわ。私が体験したことをあの方にも体験して頂こうと思いましてね」
「というと?」
ペシエラの語った内容に、シルヴァノは詳しい説明を求めている。
一度咳払いをして姿勢を整えると、ペシエラは淡々と語り始める。
「そうですわね。わたくしの今回の人生がそういった感じですのよ。陛下にはお話差し上げましたわよね、わたくしが人生をやり直していることを」
「ああ、そういえばそうだったね。一度は選択を間違えて、アイヴォリーを滅ぼしてしまったのだったか」
ペシエラはこくりと頷く。
「わたくしは、アトランティスの子孫の者によってそそのかされ、ロゼリアを罠にかけて処刑し、その数年後に戦争を仕掛けられて陛下たちを失いました。最終的に敗走したわたくしは、状況の好転していなかったカイスで病に倒れましたわ」
逆行前の話を語るペシエラは、とても落ち着いている。自分にとって消し去りたい過去だろう。だが、今のペシエラがあるのはその時の経験があるためである。
「ですので、悪いものによってそそのかされていた彼女にもまた、わたくしのようにやり直しの機会があってもよろしいのかと思いますわ。ただ、わたくしのように過去を捨て去ることはできませんけれどね」
「ペシエラ……」
しっかりと強い表情で言い切ったペシエラを見て、シルヴァノはこれ以上は何も言わなかった。
「変わろうと決意をされている方です。わたくしは応援致しますわ。ただし……」
「ただし?」
「また攻め入ろうなどと考えた場合には、それこそ容赦は致しませんわよ。そうでしょう、ケットシー」
「ケットシー?」
突然くるりと何もない方向へと視線を移して話すペシエラに、シルヴァノは首を傾げている。
「はっはっはっはっ、ばれてしまったか。勘が鋭くなったね、ペシエラくん」
何もない空間がゆらりと揺らいで、見慣れた大きな猫が姿を見せた。
「何度もあなたに驚かされてたまるものですかですわ。監視のほど、よろしくお願い致しますわよ」
「いやあ、ボクは君の部下でも何でもないのだけどね。まあ、面白そうだから頼まれてあげるよ。妙な動きを見せたら、報告でいいのだよね?」
「ええ、それでお願い足しますわ。胡散くさいですけれど、いざという時には一番頼りになる方ですから」
「それはまた、喜んでいいのか分からない褒め方だね。まったく、やりにくい相手に育ってくれたものだよ」
ケットシーは困ったような表情で笑っている。
「まあ、それでこそペシエラくんって感じいいんだけどね。ああ、お祝いというわけじゃないけれど、早速ひとつ情報をあげようじゃないか」
ポンと手を叩きながら、ケットシーは両手を後ろ手に組んでペシエラに話し掛ける。
「何かしら」
気になるペシエラは聞き返す。
「トパゼリアの女王だけど、早速面白いことを企んでいるよ」
「あら、それは何かしら」
「自分の子どもたちを留学させるつもりのようだよ。まあ、友好の証というつもりらしいけれどね」
「なんだと?」
ケットシーの話を聞いて、シルヴァノが大声を出して驚いている。
「まったく、精神の浄化されていない自分の息子たちを通わせようとは、大きく出たものだよね。でも、自国の民を外に積極的に出そうという動き自体は、一歩前進といったところかな。今までは暗躍するような形だったからね」
「それは、確かにそうだな」
シルヴァノが考え込んでいる。
「なんにしても、大きく歴史が動く状況だと思うよ。まともな国交のなかった国とこのような交流が始まるのだからね。はっはっはっはっはっ」
ケットシーはのっしのっしと出入り口の扉の方へと歩いていく。入ってきた時は瞬間移動に隠密でこっそりだったというのに、よく分からない猫だ。
「では、ボクは早速商売でも始めようかね。では、失礼するよ」
そう言い残すと、ケットシーは堂々と食堂から姿を消していった。
残されたシルヴァノとペシエラは、改めてトパゼリアへの対応を話し合うことにしたのだった。
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