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新章 青色の智姫
第193話 トパゼリアの変化
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その頃のトパゼリア。
女王たちは無事に国に戻っていた。
「女王陛下。よくご無事で……」
「うむ、心配をかけたな。妾は見ての通り元気だ。長らく留守にしてすまぬ」
城に戻った女王を、国の宰相が迎える。
「とりあえず、妾の部屋で話をしようではないか、宰相」
「御意に」
トパゼリアに戻ったばかりの女王は、早速その仕事を始めていた。
女王の部屋で宰相とともに話をする。
「ふむ、妾のいない間に異変はなかったか」
「はい。女王陛下がある程度の指示をしていかれましたので、特に混乱はございませんでした」
「そうか。さすがだな」
「はっ、光栄でございます」
女王が褒めれば、宰相は深く頭を下げている。
「して、女王陛下はなぜこれほどまでに不在になられたのですか?」
無礼を承知で、宰相は女王に尋ねている。
あのアイヴォリー相手とはいえ、時間がかかりすぎたのではないのかと考えているからだ。
「なに、予想以上の雪で進みづらかったのだ。まったく、腰まで埋もれる雪とは考えていなかった」
「そ、それは大変でございましたね」
宰相は驚いているようだ。
女王は宰相の反応を確認しながら話している。女王は気が付いていたからだ。宰相が顔色を窺いながら話をしていることに。
ならばと、女王は本当のことを話すことにした。
「実はだな、妾は今までアイヴォリーに捕らわれていたのだよ。牢屋ではあったが、待遇は悪くはなかったぞ」
「な、なんですと?!」
女王が正直に話すと、宰相は大声で驚いている。
「そう大声を出すな。なんのために二人で話をしていると思っておる」
「こ、これは失礼致しました」
女王が咎めると、宰相はおとなしく謝罪する。
「よくぞご無事で、お戻りになられましたな」
「妾もそう思う。妾たちの行動を思えば、極刑も普通であろう。だが、奴らは妾たちを全員しばらく牢屋に入れただけで帰したのだ。まったく、お人好しが過ぎるというものよな」
女王は柔らかな表情で笑っている。
「だが、アイヴォリーには手出しは無用だ」
「なぜですか!」
女王が意外なことを話すので、宰相は再び声を荒げている。
「見てきたのだよ、妾たちが追い求めていた場所をな……。よもやこのような形で、妾たちの希望を見るとは思わなんだぞ」
「それは一体……」
「そこは、水と緑にあふれる場所になっていた。立っただけで、その場所が妾たちが求めていた場所だと分かったのだよ。妾たちは感動で涙を流してしまったものだ」
感傷に浸るように話す女王の姿に、宰相は黙り込んでいる。
「それと、そなたは気が付いておらぬか?」
「なにを、でございましょうか」
女王の問い掛けに、宰相は首を傾げている。
呆れたものだと言わんばかりの顔をしながら、女王は自分の胸元にある宝石を指差している。宰相はそこで初めて気が付いた。
「そ、それは陛下のデーモンハートのはずでは? いや、なぜそんな澄んだ色に?」
わけが分からず、宰相は混乱している。
禍々しいまでの赤黒い色をしていたはずだ。だというのに、女王の胸元にあるそれは、青色を呈している。
「ふふっ、妾のデーモンハートを浄化するとはな。大した者がこの世の中にはいたものだよ」
「浄化ですと……? デーモンハートは浄化されるものなのですか?」
「分からぬ。だが、現に妾のものはこの通りだ。世の中には不思議なことがあふれているものよな」
「さ、左様でございますね」
宰相はものすごく戸惑っている。
デーモンハートが浄化されたこともそうだが、女王の表情が常に慈愛に満ちた柔らかな雰囲気に満ちあふれていることもだ。かつて見てきた女王とは明らかに違うのである。
別人ということも考えられるが、胸元に宝石の埋まっている人物など宰相の知る限り女王しかいない。ゆえに、目の前の人物は女王としか考えられぬのだ。
「そこでだ、宰相」
「な、なんでございますでしょうか、女王陛下」
声を掛けられるが、宰相は一瞬反応が遅れてしまう。そのくらいに女王の変化に戸惑っているのだ。
「妾の息子たちを、いずれアイヴォリーに向かわせてみようと思うのだ。学園は確か十三歳からだったよな?」
「はあ、オニオールの話から、そのように伺っておりますが……」
「あと二年といったところか」
女王は顔をしかめている。
「どうなさいましたか、女王陛下」
「いやな。妾のデーモンハートを浄化したのは、モスグリネの王女だと認識しているのだが、オニオールの話では来年にはモスグリネに戻ってしまうということだったな」
「そのように聞いておりますな。二年前の時点での話でございますが」
「ふむ……。アイヴォリーに留学させたとしても、王女との面識は作れぬか。口惜しいのう」
女王は本当に残念がっているようである。
「女王陛下、お話を伺っていると、アイヴォリーと友好を築くような感じに聞こえるのですが?」
「その通りだが、問題でもあるか?」
「あ、いえ。特には……」
「ならばよいではないか。妾ですらアトランティス帝国のあった場所に案内する連中ぞ?」
「承知致しました。では、どこから始めましょうか」
女王と宰相は、アイヴォリー王国との国交樹立に向けて話し合うことにしたのだった。
これで因縁めいた関係に終止符を打てるのだろうか。それはまだ始まったばかりなのだ。
女王たちは無事に国に戻っていた。
「女王陛下。よくご無事で……」
「うむ、心配をかけたな。妾は見ての通り元気だ。長らく留守にしてすまぬ」
城に戻った女王を、国の宰相が迎える。
「とりあえず、妾の部屋で話をしようではないか、宰相」
「御意に」
トパゼリアに戻ったばかりの女王は、早速その仕事を始めていた。
女王の部屋で宰相とともに話をする。
「ふむ、妾のいない間に異変はなかったか」
「はい。女王陛下がある程度の指示をしていかれましたので、特に混乱はございませんでした」
「そうか。さすがだな」
「はっ、光栄でございます」
女王が褒めれば、宰相は深く頭を下げている。
「して、女王陛下はなぜこれほどまでに不在になられたのですか?」
無礼を承知で、宰相は女王に尋ねている。
あのアイヴォリー相手とはいえ、時間がかかりすぎたのではないのかと考えているからだ。
「なに、予想以上の雪で進みづらかったのだ。まったく、腰まで埋もれる雪とは考えていなかった」
「そ、それは大変でございましたね」
宰相は驚いているようだ。
女王は宰相の反応を確認しながら話している。女王は気が付いていたからだ。宰相が顔色を窺いながら話をしていることに。
ならばと、女王は本当のことを話すことにした。
「実はだな、妾は今までアイヴォリーに捕らわれていたのだよ。牢屋ではあったが、待遇は悪くはなかったぞ」
「な、なんですと?!」
女王が正直に話すと、宰相は大声で驚いている。
「そう大声を出すな。なんのために二人で話をしていると思っておる」
「こ、これは失礼致しました」
女王が咎めると、宰相はおとなしく謝罪する。
「よくぞご無事で、お戻りになられましたな」
「妾もそう思う。妾たちの行動を思えば、極刑も普通であろう。だが、奴らは妾たちを全員しばらく牢屋に入れただけで帰したのだ。まったく、お人好しが過ぎるというものよな」
女王は柔らかな表情で笑っている。
「だが、アイヴォリーには手出しは無用だ」
「なぜですか!」
女王が意外なことを話すので、宰相は再び声を荒げている。
「見てきたのだよ、妾たちが追い求めていた場所をな……。よもやこのような形で、妾たちの希望を見るとは思わなんだぞ」
「それは一体……」
「そこは、水と緑にあふれる場所になっていた。立っただけで、その場所が妾たちが求めていた場所だと分かったのだよ。妾たちは感動で涙を流してしまったものだ」
感傷に浸るように話す女王の姿に、宰相は黙り込んでいる。
「それと、そなたは気が付いておらぬか?」
「なにを、でございましょうか」
女王の問い掛けに、宰相は首を傾げている。
呆れたものだと言わんばかりの顔をしながら、女王は自分の胸元にある宝石を指差している。宰相はそこで初めて気が付いた。
「そ、それは陛下のデーモンハートのはずでは? いや、なぜそんな澄んだ色に?」
わけが分からず、宰相は混乱している。
禍々しいまでの赤黒い色をしていたはずだ。だというのに、女王の胸元にあるそれは、青色を呈している。
「ふふっ、妾のデーモンハートを浄化するとはな。大した者がこの世の中にはいたものだよ」
「浄化ですと……? デーモンハートは浄化されるものなのですか?」
「分からぬ。だが、現に妾のものはこの通りだ。世の中には不思議なことがあふれているものよな」
「さ、左様でございますね」
宰相はものすごく戸惑っている。
デーモンハートが浄化されたこともそうだが、女王の表情が常に慈愛に満ちた柔らかな雰囲気に満ちあふれていることもだ。かつて見てきた女王とは明らかに違うのである。
別人ということも考えられるが、胸元に宝石の埋まっている人物など宰相の知る限り女王しかいない。ゆえに、目の前の人物は女王としか考えられぬのだ。
「そこでだ、宰相」
「な、なんでございますでしょうか、女王陛下」
声を掛けられるが、宰相は一瞬反応が遅れてしまう。そのくらいに女王の変化に戸惑っているのだ。
「妾の息子たちを、いずれアイヴォリーに向かわせてみようと思うのだ。学園は確か十三歳からだったよな?」
「はあ、オニオールの話から、そのように伺っておりますが……」
「あと二年といったところか」
女王は顔をしかめている。
「どうなさいましたか、女王陛下」
「いやな。妾のデーモンハートを浄化したのは、モスグリネの王女だと認識しているのだが、オニオールの話では来年にはモスグリネに戻ってしまうということだったな」
「そのように聞いておりますな。二年前の時点での話でございますが」
「ふむ……。アイヴォリーに留学させたとしても、王女との面識は作れぬか。口惜しいのう」
女王は本当に残念がっているようである。
「女王陛下、お話を伺っていると、アイヴォリーと友好を築くような感じに聞こえるのですが?」
「その通りだが、問題でもあるか?」
「あ、いえ。特には……」
「ならばよいではないか。妾ですらアトランティス帝国のあった場所に案内する連中ぞ?」
「承知致しました。では、どこから始めましょうか」
女王と宰相は、アイヴォリー王国との国交樹立に向けて話し合うことにしたのだった。
これで因縁めいた関係に終止符を打てるのだろうか。それはまだ始まったばかりなのだ。
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