逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第195話 三年目の夏合宿、開始

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 夏休みに入れば、今年も合宿に入る。
 問題を起こしていたアッサギー・オニオールは強制送還の上、厳重な監視の下に置かれている。
 そのアッサギーとつながりのあったワッケギーはしっかり反省している。
 状況が改善された今年の合宿は問題ないだろうというわけで、場所はいつものアクアマリン子爵領のサファイア湖で行われている。
 学園の大人数を受け入れられる設備というのが、他の領には存在しないというのも理由のひとつだった。
「やっぱりサファイア湖ですね」
「ですね。ただ、アクアマリン子爵様は大丈夫でしょうかね」
「ブランチェスカ?」
 湖が見えてきてほっとするシアンだったが、ブランチェスカがぽつりとこぼした言葉に反応してしまう。なにせ自分は元々アクアマリンの人間だからだ。
「あ、いえ。何かと問題が起きていたので、受け入れる側として大変だなと思いまして」
「それもそうね。アクアマリン子爵家は魔法に長けた一族。その魔力でもってずっと学園の合宿の安全を守ってきたものね」
 プルネもよくアクアマリン子爵家のことを知っていてくれている。このことにシアンは嬉しく感じている。
 でも、シアンもそれは確かに気にしているところだった。
 逆行前でも後でもアイリスが問題を起こしていたし、その翌年も大規模な魔物氾濫を引き起こされていた。
 今回は早めに潰したので大事にはなっていないものの、魔物氾濫を引き起こされかけていた。通常ならばアクアマリン子爵家は責任を問われるところである。
 だが、しっかりと調査を行った結果、デーモンハート絡みの事件だと分かって責任はかなり軽減されていた。それでも優秀な一族と思っていたので、評判は傷がついたものだった。
(確かに、アクアマリン子爵家の待遇は謎ですね。お兄様にお会いして確認をしてみましょうか)
 シアンはぼそぼそとそのように考えたのだった。というわけで、合宿のお礼も兼ねて前世の兄であるマーリン・アクアマリンに会うことにしたのだった。

 合宿所に着いたシアンは、すぐさま行動を起こす。初日は比較的に自由だからだ。
 学園の教師についてもらい、シアンはアクアマリン子爵を訪ねた。
「これは、シアン・モスグリネ王女殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
 出てきたのは兄マーリンの息子であるフラド・アクアマリンだった。彼が現在のアクアマリン子爵である。
「アクアマリン子爵、お初にお目にかかります。失礼では思いますが、お父様はお元気でいらっしゃいますか?」
 挨拶をするや否や、シアンはすぐにマーリンの状況を確認している。
「父上でございますか? ええ、現在は隠居してのんびりと暮らしていらっしゃいますよ」
「そうでございますか。ちなみにお会いすることはできますでしょうか」
 シアンは前世の兄のことが気になって仕方ないようだ。フラドのことを無視して、ついマーリンのことを尋ねてしまう。
「お会いするも何も、合宿の宿舎になっている別荘でのんびりしていらっしゃいますよ」
「ああ、そうなのですね。それは失礼しました」
 フラドが言うには、マーリンは合宿所となっているサファイア湖の別荘で隠居生活をしているらしい。なんとも、無駄足になってしまったようだった。
「ちなみに、隠居なさった理由は?」
「最近の合宿における問題ですね。自分が領主の間に何度も問題が起きただけに、責任を取らざるを得なかったのですよ」
「なるほど……、それは実に悪いことをした気になります」
 理由を聞いたことで、シアンは唇をかみしめてしまう。
 転生してアクアマリン子爵家とは関係なくなったとはいえ、気持ちとしてはまだアクアマリン子爵家の一員である感覚が残っているからだ。
 自分が子爵家を継ぐことを放棄してすべてを押し付けてしまったがゆえに、シアンの心にはまだまだ引っ掛かる部分が多いのである。
 ひとまず、前世の兄の状況を聞けたのでよしとしたシアンは、少しばかり甥っ子と会話をすることにしたのだった。

「っと、遅くなってしまいましたわね。申し訳ございませんでした、急に押し掛けた上に長々とお話までしてしまって」
「いえいえ。隣国の王女様とのお話はなかなか楽しかったですよ。我々に負けないくらいに魔法に関する造詣が深いようで驚きました」
 話を終えた二人は、ずいぶんとにこやかに笑っている。その様子を、シアンに付き添ってやって来たガレンは呆れたように見ていた。
「ガレン教官、私どもアクアマリンの不甲斐なさで学園にも多大な迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした。デーモンハートが相手であってももっときっちりと領内を守れるよう、努力はいたします。ですので、これからも合宿には子爵領をよろしくお願い致します」
「いや、私はしがないいち教官ですので、そこまでの権限はありませんよ。ですが、今のお言葉は学園長にはお伝えしておきましょう」
「ありがとうございます」
 ガレンは少し面倒くさそうにいうものの、フラドはしっかりと頭を下げて礼を言っていた。
 結局、兄には会えなかったシアンではあったが、甥と話ができてずいぶんと満足した顔で別荘へと戻っていったのだった。
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