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新章 青色の智姫
第231話 滞在の終わりに
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書庫から戻ってきたシアンは、部屋で寝転んでいる。
学園を休んでアクアマリン子爵領に来てから一週間、ものすごく多くのことが分かった。
トパゼリアの女王ティールが言っていたように、アクアマリン子爵家とアトランティス帝国との間には関係があった。しかも、血縁にがっつりと入り込んでいた。
そして、アトランティス帝国の者とともに、魔法の研究も行っていた。
ムー王国がケットシーを生み出したように、アクアマリンの一族も蒼鱗魚を生み出していた。
ただ、蒼鱗魚たちはそのことを知らないようだ。知っていたら、転生前の時点でシアンに話をしていたはずだ。もっともその時のシアンは魔力を失っていたので、聞こえなかった可能性も十分あり得る。
なんにせよ、アクアマリンの一族とアトランティス帝国の生き残りが協力して、魔法の研究をしていたのは間違いない事実だった。
その中で生み出された研究結果のひとつが、シアンがロゼリアを救うために発動させた『時渡りの秘法』である。
これらの研究は、すべてアトランティス帝国の者が故郷への帰還を思い描いていたことによって行われた。その結果は知っての通り、未だ叶わずにいたのである。
「はっきり言ってとんでもない研究ばかりでしたけれど、それがあったからこそ、私はロゼリア様、今のお母様を助けられましたからね。世の中どのように事が運ぶか、まったく分かりませんね」
「それは私も思いますね。まさかこうして人間の身に落とされるとは思ってもみませんでしたからね」
シアンがベッドの上に転がりながら、一人で呟いている。
部屋の中でいろいろと動いているスミレが、その一人ごとに反応していた。
「スミレの場合は自業自得でしょうに。あのまま私を消滅させていればよかったものを……。なぜ、救ったのですか」
シアンが寝返りを打って、スミレに真意を尋ねている。
だが、これにはスミレも困った顔しかできなかった。
「……私にも分かりませんよ。なぜあのようなことをしたのか」
スミレは表情を曇らせていた。どうやら、自分でもよく分からない行動らしい。
ただ、本人が自覚している感情としては、シアンをあのまま消させてはいけないという考えだったらしい。
体の消滅を確認した時、不思議ととっさに動いてしまったのだという。
蒸発するかのように霧散していくシアンの魂を自分の時の魔力で保護して、子どもを授かったロゼリアの中へと送り出す。それが、スミレ、時の幻獣クロノアが犯した大罪なのである。
「……まったく、アトランティス帝国が自分たちの本当の望みも叶えられていないというのに、私ばかりが自分の願いを叶えていて本当にいいのでしょうかね。なんだかご先祖様に申し訳なく思えてきます」
ため息をついたシアンは体を起こし、窓の外へと視線を向ける。
その方向は、アクアマリン子爵領の象徴であるサファイア湖のある方向だった。
しばらくぼーっとしていたシアンだったが、辺りがすっかり暗くなった頃、部屋の扉が叩かれる。
「シアン様、夕食の支度が整っております。食堂へとお越し下さい」
監視についていた使用人が食事の席に呼びに来た。
「分かりました。すぐに向かいます」
シアンはベッドから静かに降りると、スミレとともに食堂へと向かった。
食堂へとやって来ると、子爵が既に待っていた。
「シアン王女殿下、我が領に長く滞在してらっしゃいますが、気に入られましたかな」
「ええ、とても気に入っています。なんだか懐かしい気がしますのでね」
質問ににこりと微笑んで答える。
「ですが、これ以上の滞在は学園への評価に影響しかねませんのでね、明日には戻ろうかと思います。実に有意義な時間だったと思います」
「ほう、そうですか」
シアンが笑顔で話すものだから、子爵も嬉しそうである。
「でしたら、最後に父に会っていって下さいませんかね。サファイア湖の近くの別邸、合宿で泊まられていた屋敷で隠居なさっていますからね」
「そうですね。私もちょうどサファイア湖に行こうかと考えていましたので、ぜひともそうさせて頂きます」
シアンの崩れない笑顔に、子爵は少し険しい顔をしていた。
そばに立つスミレが何か引っかかりを覚えたのだが、シアンが気に留めていないようなのでひとまずそのまま様子を見ることにした。使用人が勝手に動くわけにはいかないからだ。
「そうですか。それでしたら、馬車でお送りしますよ」
「いえ、それには及びません。ちょうどいい方法がありますのでね」
シアンはドレスのポケットに手を入れて、何かを確認していた。
「それに、先代のアクアマリン子爵には、私一人でお会いしたいのです。子爵様の手を煩わせるまでもありません」
「そ、そうですか。承知致しました。では、せめてお見送りだけでもさせて頂けますかね」
「分かりました。そうさせて頂きましょう」
笑顔を絶やすことのないシアンに対して、子爵は終始動揺し続けていたようだった。
こうして、シアンのアクアマリン領の滞在も残すところ一日となった。
シアンはマーリンに会って何をするつもりなのだろうか。
そして、甥にあたるアクアマリン子爵の反応は一体どういう事なのだろうか。
スミレが気にする中、その日の夜は更けていった。
学園を休んでアクアマリン子爵領に来てから一週間、ものすごく多くのことが分かった。
トパゼリアの女王ティールが言っていたように、アクアマリン子爵家とアトランティス帝国との間には関係があった。しかも、血縁にがっつりと入り込んでいた。
そして、アトランティス帝国の者とともに、魔法の研究も行っていた。
ムー王国がケットシーを生み出したように、アクアマリンの一族も蒼鱗魚を生み出していた。
ただ、蒼鱗魚たちはそのことを知らないようだ。知っていたら、転生前の時点でシアンに話をしていたはずだ。もっともその時のシアンは魔力を失っていたので、聞こえなかった可能性も十分あり得る。
なんにせよ、アクアマリンの一族とアトランティス帝国の生き残りが協力して、魔法の研究をしていたのは間違いない事実だった。
その中で生み出された研究結果のひとつが、シアンがロゼリアを救うために発動させた『時渡りの秘法』である。
これらの研究は、すべてアトランティス帝国の者が故郷への帰還を思い描いていたことによって行われた。その結果は知っての通り、未だ叶わずにいたのである。
「はっきり言ってとんでもない研究ばかりでしたけれど、それがあったからこそ、私はロゼリア様、今のお母様を助けられましたからね。世の中どのように事が運ぶか、まったく分かりませんね」
「それは私も思いますね。まさかこうして人間の身に落とされるとは思ってもみませんでしたからね」
シアンがベッドの上に転がりながら、一人で呟いている。
部屋の中でいろいろと動いているスミレが、その一人ごとに反応していた。
「スミレの場合は自業自得でしょうに。あのまま私を消滅させていればよかったものを……。なぜ、救ったのですか」
シアンが寝返りを打って、スミレに真意を尋ねている。
だが、これにはスミレも困った顔しかできなかった。
「……私にも分かりませんよ。なぜあのようなことをしたのか」
スミレは表情を曇らせていた。どうやら、自分でもよく分からない行動らしい。
ただ、本人が自覚している感情としては、シアンをあのまま消させてはいけないという考えだったらしい。
体の消滅を確認した時、不思議ととっさに動いてしまったのだという。
蒸発するかのように霧散していくシアンの魂を自分の時の魔力で保護して、子どもを授かったロゼリアの中へと送り出す。それが、スミレ、時の幻獣クロノアが犯した大罪なのである。
「……まったく、アトランティス帝国が自分たちの本当の望みも叶えられていないというのに、私ばかりが自分の願いを叶えていて本当にいいのでしょうかね。なんだかご先祖様に申し訳なく思えてきます」
ため息をついたシアンは体を起こし、窓の外へと視線を向ける。
その方向は、アクアマリン子爵領の象徴であるサファイア湖のある方向だった。
しばらくぼーっとしていたシアンだったが、辺りがすっかり暗くなった頃、部屋の扉が叩かれる。
「シアン様、夕食の支度が整っております。食堂へとお越し下さい」
監視についていた使用人が食事の席に呼びに来た。
「分かりました。すぐに向かいます」
シアンはベッドから静かに降りると、スミレとともに食堂へと向かった。
食堂へとやって来ると、子爵が既に待っていた。
「シアン王女殿下、我が領に長く滞在してらっしゃいますが、気に入られましたかな」
「ええ、とても気に入っています。なんだか懐かしい気がしますのでね」
質問ににこりと微笑んで答える。
「ですが、これ以上の滞在は学園への評価に影響しかねませんのでね、明日には戻ろうかと思います。実に有意義な時間だったと思います」
「ほう、そうですか」
シアンが笑顔で話すものだから、子爵も嬉しそうである。
「でしたら、最後に父に会っていって下さいませんかね。サファイア湖の近くの別邸、合宿で泊まられていた屋敷で隠居なさっていますからね」
「そうですね。私もちょうどサファイア湖に行こうかと考えていましたので、ぜひともそうさせて頂きます」
シアンの崩れない笑顔に、子爵は少し険しい顔をしていた。
そばに立つスミレが何か引っかかりを覚えたのだが、シアンが気に留めていないようなのでひとまずそのまま様子を見ることにした。使用人が勝手に動くわけにはいかないからだ。
「そうですか。それでしたら、馬車でお送りしますよ」
「いえ、それには及びません。ちょうどいい方法がありますのでね」
シアンはドレスのポケットに手を入れて、何かを確認していた。
「それに、先代のアクアマリン子爵には、私一人でお会いしたいのです。子爵様の手を煩わせるまでもありません」
「そ、そうですか。承知致しました。では、せめてお見送りだけでもさせて頂けますかね」
「分かりました。そうさせて頂きましょう」
笑顔を絶やすことのないシアンに対して、子爵は終始動揺し続けていたようだった。
こうして、シアンのアクアマリン領の滞在も残すところ一日となった。
シアンはマーリンに会って何をするつもりなのだろうか。
そして、甥にあたるアクアマリン子爵の反応は一体どういう事なのだろうか。
スミレが気にする中、その日の夜は更けていった。
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