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新章 青色の智姫
第236話 姉妹に諭されて
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チェリシアの瞬間移動魔法で王都まで戻ってきたシアンとスミレ。その戻ってきた部屋を見て唖然としていた。
「ちょっと、ここはペシエラ様の部屋じゃないですか!」
「そうよ。ここが一番安全に話ができる場所だもの」
チェリシアはにこにこと笑ってシアンの怒りに対応している。チェリシアもシアンに負けず劣らずの年齢を生きてきているので、この程度のことなどでまったく動じないのだ。
「それよりも、やはりチェリシア様って私のことを……」
「ふふっ、それはペシエラと一緒になってからよ。使用人たちにも席を外してもらって、私たちだけで話ができるようにしてあるわ。既に準備済みよ」
「ははは……」
チェリシアの行動に完全に振り回されてしまっている。
ちょうどお腹も減ってきた頃なので、チェリシアは諦めて夕食を同席することにしたのだった。
食堂に出向くと、すでにペシエラが待ち構えていた。
ただ、その表情はものすごく険しい。
どう見ても怒っているようにしか見えないのである。
「ちょっとペシエラ、いくらなんでも顔が怖すぎるわよ」
「おかえりなさいませ、お姉様。シアンとスミレもちゃんと連れてきましたのね」
「もちのろん」
ペシエラが視線を向けると、親指を立てて白い歯を見せながら答えている。これでも一児の母なのだが、相変わらず若いというものだ。
本当にこれでもペシエラたちと同じ三十代半ばなのだから驚かされる。
「さあ、シアンちゃん。あそこの席についてちょうだい。ペシエラの右隣で私とは対面ね」
「わ、分かりました……」
シアンは完全にチェリシアの勢いに押されている。
「そうそう、シアンちゃんの隣にスミレも座ってね。今日は二人に話があるんだから」
「承知致しました」
スミレは淡々とチェリシアの指示に従っている。力を封じられた幻獣とはいえど、今はただの使用人の平民なのだ。貴族には逆らえないのである。
指定された場所に四人が座ると、料理が運ばれてくる。
料理が揃うまではひとまず全員黙ったままである。
デザート以外の料理が揃うと、給仕たちは食堂から退室していく。
部屋の中にはシアンとスミレ、それとペシエラとチェリシアという四人だけが残った。
しばらくは黙々と食事を始める四人だったが、ある程度進むとペシエラが話を切り出した。
「さて、どこから話をしましょうかしらね」
「ペシエラ、まどろっこしいのはいいからズバッと言っちゃおう、ズバッと」
シアンの方に顔を向けながらペシエラが発言すると、チェリシアはジェスチャーを伴いながら直球で行けと言っている。
「お姉様は相変わらずというかなんというか、回りくどいのがお嫌いですわね」
「なんていうかね。伏せて伝わらないというのが嫌なのよ。こういう時はズバッとはっきりと言った方がいいわ」
「まあ、今回ばかりはお姉様の言う通りかしらね」
大きく息を吐きながら、ペシエラは改めてシアンを見る。
「今回、どうだったからしら。前世のお兄様にすべてを打ち明けてみた気持ちは」
本当にドストレートに質問をしてくるペシエラである。
「やっぱり、二人とも知ってらしたんですね」
「すべて知っていましたわよ。私たちは『時渡りの秘法』に巻き込まれたこともあって、逆行前の記憶は持ち合わせておりましたからね。アイヴォリー王国が滅びないように、動いてきたつもりですわ」
「私の場合は、その時の時空の歪みに巻き込まれた完全な被害者なんだけどね。でも、こっちの生活も楽しませてもらっているわよ」
淡々と話すペシエラとは違い、本当に楽しそうに笑いながらチェリシアは語っている。
「正直、時渡りの秘法の事に気が付いた時、話すかどうかは迷いましたわ。でも、代償のことを知ってずっと黙っておりましたの。今は秘法が成就したことに加え、転生によってその枷から解き放たれておりますからね」
「で、こうやってやっと話ができるっていうわけよ。いつ話をしようか迷っていたんだけど、ペシエラがうるさくてね」
「お・ね・え・さ・ま?」
チェリシアがペラペラと喋っていると、ペシエラがものすごい形相で睨みつけてくる。これにはチェリシアも黙るしかなかった。
「こほん。というわけですから、そちらのスミレが何者かということも把握しておりますわ。その手の情報に詳しい人物がいますからね」
「……ケットシーですか。まったくあいつときたら、余計なことをぺらぺらと……」
普段から淡々としているスミレも、さすがにケットシー絡みとなると感情を露わにしている。そのくらいには、ケットシーは自由気ままなのである。
「ですが、今回のことでひと区切りついたでしょう。シアンも、もう少し自分の幸せということを考えてもよろしいですのよ?」
「私の幸せ?」
「そう、あなたは今までロゼリアのことを思って、そのために行動してきましたわ。でも、それもひと区切りが付いたでしょう」
「そうそう。だから、ロゼリアの幸せに関する比重は、少し軽くしてもいいんじゃないかなって思うのよ。すべてを犠牲にしてまで頑張ってきたんだから、自分にご褒美をね」
チェリシアがウィンクをしている。
「そう、ですね……」
「シアン様?」
二人から言われた言葉が心にしみたのか、シアンは気が付くと大粒の涙をこぼしていた。
「私、頑張ってこれたでしょうか」
「ええ、十分に頑張ったわ。人払いはしてあるんだから、好きなだけお泣きなさい」
「う、う、ううぅ……」
チェリシアに言われても、シアンは下を向いてぐっと涙を堪えている。
しかし、あふれ出る感情が邪魔をして、流れ出る涙を止めることはできなかった。
「ちょっと、ここはペシエラ様の部屋じゃないですか!」
「そうよ。ここが一番安全に話ができる場所だもの」
チェリシアはにこにこと笑ってシアンの怒りに対応している。チェリシアもシアンに負けず劣らずの年齢を生きてきているので、この程度のことなどでまったく動じないのだ。
「それよりも、やはりチェリシア様って私のことを……」
「ふふっ、それはペシエラと一緒になってからよ。使用人たちにも席を外してもらって、私たちだけで話ができるようにしてあるわ。既に準備済みよ」
「ははは……」
チェリシアの行動に完全に振り回されてしまっている。
ちょうどお腹も減ってきた頃なので、チェリシアは諦めて夕食を同席することにしたのだった。
食堂に出向くと、すでにペシエラが待ち構えていた。
ただ、その表情はものすごく険しい。
どう見ても怒っているようにしか見えないのである。
「ちょっとペシエラ、いくらなんでも顔が怖すぎるわよ」
「おかえりなさいませ、お姉様。シアンとスミレもちゃんと連れてきましたのね」
「もちのろん」
ペシエラが視線を向けると、親指を立てて白い歯を見せながら答えている。これでも一児の母なのだが、相変わらず若いというものだ。
本当にこれでもペシエラたちと同じ三十代半ばなのだから驚かされる。
「さあ、シアンちゃん。あそこの席についてちょうだい。ペシエラの右隣で私とは対面ね」
「わ、分かりました……」
シアンは完全にチェリシアの勢いに押されている。
「そうそう、シアンちゃんの隣にスミレも座ってね。今日は二人に話があるんだから」
「承知致しました」
スミレは淡々とチェリシアの指示に従っている。力を封じられた幻獣とはいえど、今はただの使用人の平民なのだ。貴族には逆らえないのである。
指定された場所に四人が座ると、料理が運ばれてくる。
料理が揃うまではひとまず全員黙ったままである。
デザート以外の料理が揃うと、給仕たちは食堂から退室していく。
部屋の中にはシアンとスミレ、それとペシエラとチェリシアという四人だけが残った。
しばらくは黙々と食事を始める四人だったが、ある程度進むとペシエラが話を切り出した。
「さて、どこから話をしましょうかしらね」
「ペシエラ、まどろっこしいのはいいからズバッと言っちゃおう、ズバッと」
シアンの方に顔を向けながらペシエラが発言すると、チェリシアはジェスチャーを伴いながら直球で行けと言っている。
「お姉様は相変わらずというかなんというか、回りくどいのがお嫌いですわね」
「なんていうかね。伏せて伝わらないというのが嫌なのよ。こういう時はズバッとはっきりと言った方がいいわ」
「まあ、今回ばかりはお姉様の言う通りかしらね」
大きく息を吐きながら、ペシエラは改めてシアンを見る。
「今回、どうだったからしら。前世のお兄様にすべてを打ち明けてみた気持ちは」
本当にドストレートに質問をしてくるペシエラである。
「やっぱり、二人とも知ってらしたんですね」
「すべて知っていましたわよ。私たちは『時渡りの秘法』に巻き込まれたこともあって、逆行前の記憶は持ち合わせておりましたからね。アイヴォリー王国が滅びないように、動いてきたつもりですわ」
「私の場合は、その時の時空の歪みに巻き込まれた完全な被害者なんだけどね。でも、こっちの生活も楽しませてもらっているわよ」
淡々と話すペシエラとは違い、本当に楽しそうに笑いながらチェリシアは語っている。
「正直、時渡りの秘法の事に気が付いた時、話すかどうかは迷いましたわ。でも、代償のことを知ってずっと黙っておりましたの。今は秘法が成就したことに加え、転生によってその枷から解き放たれておりますからね」
「で、こうやってやっと話ができるっていうわけよ。いつ話をしようか迷っていたんだけど、ペシエラがうるさくてね」
「お・ね・え・さ・ま?」
チェリシアがペラペラと喋っていると、ペシエラがものすごい形相で睨みつけてくる。これにはチェリシアも黙るしかなかった。
「こほん。というわけですから、そちらのスミレが何者かということも把握しておりますわ。その手の情報に詳しい人物がいますからね」
「……ケットシーですか。まったくあいつときたら、余計なことをぺらぺらと……」
普段から淡々としているスミレも、さすがにケットシー絡みとなると感情を露わにしている。そのくらいには、ケットシーは自由気ままなのである。
「ですが、今回のことでひと区切りついたでしょう。シアンも、もう少し自分の幸せということを考えてもよろしいですのよ?」
「私の幸せ?」
「そう、あなたは今までロゼリアのことを思って、そのために行動してきましたわ。でも、それもひと区切りが付いたでしょう」
「そうそう。だから、ロゼリアの幸せに関する比重は、少し軽くしてもいいんじゃないかなって思うのよ。すべてを犠牲にしてまで頑張ってきたんだから、自分にご褒美をね」
チェリシアがウィンクをしている。
「そう、ですね……」
「シアン様?」
二人から言われた言葉が心にしみたのか、シアンは気が付くと大粒の涙をこぼしていた。
「私、頑張ってこれたでしょうか」
「ええ、十分に頑張ったわ。人払いはしてあるんだから、好きなだけお泣きなさい」
「う、う、ううぅ……」
チェリシアに言われても、シアンは下を向いてぐっと涙を堪えている。
しかし、あふれ出る感情が邪魔をして、流れ出る涙を止めることはできなかった。
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