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新章 青色の智姫
第270話 サファイア湖を去る
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「えっ、シアン様たち、もう戻られるのですか?」
合宿三日目、シアンたちはプルネたちに帰国することを伝える。
そもそも一週間の滞在予定だったので、驚かれたとしても、こればかりは仕方がない話だった。
「ええ、どうしても外せない用事がありましてね。それまでに戻らないといけないんですよ」
シアンも残念そうに話している。
「仕方ありませんよ。シアン様は王族なのですから、私たち以上に忙しい方なんです。去年まではこちらの学生でしたからこちらが優先されましたけど、今年はそうはいきませんものね」
ブランチェスカも納得している。
「寂しいですね。卒業まではあまりお会いできなさそうなので、寂しいです」
ダイアもやってきて話に加わっている。
ところが、ガレンたちに怒られてしまい、渋々ダイアたちは自分たちのところへと戻っていった。
その時、ガレンと目が合ったので、シアンはぺこりと頭を下げておいた。
部屋に戻って荷造りをするシアンたち。
「シアン様」
「なんでしょうか、ヒスイ様」
ある程度めどがついたところで、ヒスイが声をかける。
「先程、学園の教官に挨拶をされてましたが、ご存じの方なんですか?」
「ええ、学園では魔法型の授業が中心でしたからね。あの方は、魔法型の教官でガレンとおっしゃる方ですよ」
本当はその正体も知ってはいるが、ここで話しても意味はないのでここまでで留めておく。ガレンも秘密にしていることだからだ。
これだけでヒスイは納得してくれたので、これでこの話はおしまいとなった。
「それよりも、ヒスイ様はどうでしたか、このアクアマリン領は」
にこにことした笑顔を向けながら、シアンはヒスイに質問をやり返す。
ものすごい満面の笑みに、ヒスイはなんとも答えが返しにくかった。なんとも下手なことを言ってはいけないような雰囲気を感じたのだ。
「な、なんといいましょうかね。サファイア湖はきれいで美しいと思いますよ。これだけの場所で訓練を行うのですから、のびのびとできるとはお思いましたね」
あちこちに視線を向けながら、ヒスイは当たり障りのなさそうな答えを返しておく。
「本当にそうお思ってらっしゃいますか?」
シアンからまさかの確認が飛んでくる。向けられる笑顔が怖いというものだ。
「シアン様、怖いですよ……」
あまりの圧に、ヒスイはたじたじである。
最初のことを思えば、この二人もかなり親しくなったものだ。
「ふふっ、冗談ですよ。とりあえず、今年の合宿は何も起きなさそうで安心しました」
「何か起きてばかりっていうのは怖いのですけど、どうして中止にならないのですかね」
「伝統……だからじゃないですかね。私たち王族の試練と同じようなものですよ」
「そういうものなのですか」
シアンの言い分に、分かったような分からなかったような複雑な表情をするヒスイなのであった。
とりあえず今は、明日モスグリネの王都ヴィフレアに戻るための準備を進めるのであった。
翌朝、朝食を終えたシアンたちは、エアリアルボードに荷物を積み込んでいた。スミレとコハクはアクアマリンの使用人に手伝ってもらいながら、それは必死な様子で荷物を積んでいる。
「一週間程度の滞在に持ってきすぎましたかね」
「そうですね。次回はせめて七割くらいにして下さい」
侍女同士であれこれと話をしている。
その頃、シアンとヒスイはマーリンと話をしていた。
「大したことはしてやれなくてすまなかったと思う。申し訳ない」
「いいえ、合宿の対応で忙しいのが分かっていて押しかけて来たこちらが悪いんです。気にしないで下さい」
頭を下げるマーリンに、シアンは申し訳なく思ってしまう。
「それに、書庫を自由に使わせて頂いただけで十分ですから。いい勉強になりましたよね、ヒスイ様」
「はい、実に興味深い本ばかりでした。なかなか満足な時間を過ごせたと思います」
笑顔を向けて同意を求めるシアンに、ヒスイは淡々と答えていた。
「そうか、それならよかった。そこでだな、私からこれを贈らせてもらおう」
「これは?」
シアンが見つめる書物は、まだ作って間もない真新しい感じのするものだった。
「なに、アクアマリン子爵家の魔導書の写しだ。大した内容ではないが、今年の頭からこつこつとまとめておいたので、役に立てておくれ」
なんと、マーリンがまとめておいたという魔導書だった。
「おに……マーリン様、ありがとうございます。役立たせて頂きますね」
お兄様と言いかけるが、きちんと言い直している。本を受け取ると、うっすらと涙を浮かべているようだった。
「そういってもらえるだけでも嬉しいものだ。魔法もまたきちんと伝えねばいずれはすたれてしまうからな」
「そうですね」
マーリンの言葉に、シアンはもちろん、ヒスイも頷いていた。
本を手に持って、シアンたちはエアリアルボードに乗り込む。
ふわりと少し上昇させると、シアンたちは改めてマーリンの方を見る。
「それでは、一週間お世話になりました。どうかお元気で」
「はっはっはっ、私は簡単には死なんよ。またいつでも来るといいぞ」
挨拶を交わすと、シアンたちの乗ったエアリアルボードは西の空へと飛び去って行った。
その姿を、マーリンはしばらくじっと眺めていたのだった。
合宿三日目、シアンたちはプルネたちに帰国することを伝える。
そもそも一週間の滞在予定だったので、驚かれたとしても、こればかりは仕方がない話だった。
「ええ、どうしても外せない用事がありましてね。それまでに戻らないといけないんですよ」
シアンも残念そうに話している。
「仕方ありませんよ。シアン様は王族なのですから、私たち以上に忙しい方なんです。去年まではこちらの学生でしたからこちらが優先されましたけど、今年はそうはいきませんものね」
ブランチェスカも納得している。
「寂しいですね。卒業まではあまりお会いできなさそうなので、寂しいです」
ダイアもやってきて話に加わっている。
ところが、ガレンたちに怒られてしまい、渋々ダイアたちは自分たちのところへと戻っていった。
その時、ガレンと目が合ったので、シアンはぺこりと頭を下げておいた。
部屋に戻って荷造りをするシアンたち。
「シアン様」
「なんでしょうか、ヒスイ様」
ある程度めどがついたところで、ヒスイが声をかける。
「先程、学園の教官に挨拶をされてましたが、ご存じの方なんですか?」
「ええ、学園では魔法型の授業が中心でしたからね。あの方は、魔法型の教官でガレンとおっしゃる方ですよ」
本当はその正体も知ってはいるが、ここで話しても意味はないのでここまでで留めておく。ガレンも秘密にしていることだからだ。
これだけでヒスイは納得してくれたので、これでこの話はおしまいとなった。
「それよりも、ヒスイ様はどうでしたか、このアクアマリン領は」
にこにことした笑顔を向けながら、シアンはヒスイに質問をやり返す。
ものすごい満面の笑みに、ヒスイはなんとも答えが返しにくかった。なんとも下手なことを言ってはいけないような雰囲気を感じたのだ。
「な、なんといいましょうかね。サファイア湖はきれいで美しいと思いますよ。これだけの場所で訓練を行うのですから、のびのびとできるとはお思いましたね」
あちこちに視線を向けながら、ヒスイは当たり障りのなさそうな答えを返しておく。
「本当にそうお思ってらっしゃいますか?」
シアンからまさかの確認が飛んでくる。向けられる笑顔が怖いというものだ。
「シアン様、怖いですよ……」
あまりの圧に、ヒスイはたじたじである。
最初のことを思えば、この二人もかなり親しくなったものだ。
「ふふっ、冗談ですよ。とりあえず、今年の合宿は何も起きなさそうで安心しました」
「何か起きてばかりっていうのは怖いのですけど、どうして中止にならないのですかね」
「伝統……だからじゃないですかね。私たち王族の試練と同じようなものですよ」
「そういうものなのですか」
シアンの言い分に、分かったような分からなかったような複雑な表情をするヒスイなのであった。
とりあえず今は、明日モスグリネの王都ヴィフレアに戻るための準備を進めるのであった。
翌朝、朝食を終えたシアンたちは、エアリアルボードに荷物を積み込んでいた。スミレとコハクはアクアマリンの使用人に手伝ってもらいながら、それは必死な様子で荷物を積んでいる。
「一週間程度の滞在に持ってきすぎましたかね」
「そうですね。次回はせめて七割くらいにして下さい」
侍女同士であれこれと話をしている。
その頃、シアンとヒスイはマーリンと話をしていた。
「大したことはしてやれなくてすまなかったと思う。申し訳ない」
「いいえ、合宿の対応で忙しいのが分かっていて押しかけて来たこちらが悪いんです。気にしないで下さい」
頭を下げるマーリンに、シアンは申し訳なく思ってしまう。
「それに、書庫を自由に使わせて頂いただけで十分ですから。いい勉強になりましたよね、ヒスイ様」
「はい、実に興味深い本ばかりでした。なかなか満足な時間を過ごせたと思います」
笑顔を向けて同意を求めるシアンに、ヒスイは淡々と答えていた。
「そうか、それならよかった。そこでだな、私からこれを贈らせてもらおう」
「これは?」
シアンが見つめる書物は、まだ作って間もない真新しい感じのするものだった。
「なに、アクアマリン子爵家の魔導書の写しだ。大した内容ではないが、今年の頭からこつこつとまとめておいたので、役に立てておくれ」
なんと、マーリンがまとめておいたという魔導書だった。
「おに……マーリン様、ありがとうございます。役立たせて頂きますね」
お兄様と言いかけるが、きちんと言い直している。本を受け取ると、うっすらと涙を浮かべているようだった。
「そういってもらえるだけでも嬉しいものだ。魔法もまたきちんと伝えねばいずれはすたれてしまうからな」
「そうですね」
マーリンの言葉に、シアンはもちろん、ヒスイも頷いていた。
本を手に持って、シアンたちはエアリアルボードに乗り込む。
ふわりと少し上昇させると、シアンたちは改めてマーリンの方を見る。
「それでは、一週間お世話になりました。どうかお元気で」
「はっはっはっ、私は簡単には死なんよ。またいつでも来るといいぞ」
挨拶を交わすと、シアンたちの乗ったエアリアルボードは西の空へと飛び去って行った。
その姿を、マーリンはしばらくじっと眺めていたのだった。
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