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新章 青色の智姫
第278話 精霊の試練の終わりに……
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「待たせてすまなかったな」
日も暮れようかという時間になって、ようやくペイルがモーフを連れてロゼリアたちのところに戻ってきた。
「いえ、試練でしたからこのくらいは覚悟しております。……モーフはまだ眠っているのですね」
「ああ、どうやらかなり疲れているみたいでな。起きるのを待っていたが、さすがにこれ以上ロゼリアたちを待たせるわけにはいかないから戻ってきたんだ」
ペイルはロゼリアに話をしながら、ちらりとシアンを見ている。
今年で十六になるとはいえど、まだ学園に在籍する身だ。その状態を心配しているのである。
「大丈夫です、お父様。もう私とて子どもではありませんから」
ペイルの視線に気が付いたシアンは、にこりと微笑んで言葉を返しておいた。
「はっはっはっ、娘が心配なのは分かるけど、恥ずかし手くて声に出せないか。いやぁ、これは実に面白いねぇ」
ケットシーが笑っている、これにはペイルは怒ったような顔できつい視線を送っていた。
「ケットシー、人の気持ちを逆なでするのはおやめなさい。よく組合長に留まってられますね」
「はっはっはっ、実績がものをいうのだよ、ライくん。それに、相手はよく見てやるものだよ」
ライに咎められても、ケットシーはまったく気に留める様子はない。相変わらずの自由っぷりである。
「それよりも今日はここで一泊かい? モーフくんの試練突破祝いだ。ボクもちょっとお祝いをしてあげよう」
そういうと、ケットシーはなにやらごそごそと取り出そうとしている。
「余計なことをしないで下さい。昔っからあなたが何かしようとしてまともな結果になったことあるんですかね」
「酷いなぁ。昔からの友人にかける言葉かい? 今のボクは商業組合の組合長だよ?」
「立場はそうでしょうけれど、仕事以外であなたがすることってろくでもないことばかりじゃないですか」
ケットシーとライがケンカを始めてしまった。この様子にはロゼリアたちも困ったものである。
「放っておこうか。あれは恒例行事みたいなものだしな」
「そうですね。シアン、設営を手伝ってくれますか?」
「はい、お母様」
にらみ合いを続けるケットシーとライをしり目に、シアンたちは休むための天幕を設営していったのだった。
夕食の時間になると、モーフが目を覚ます。
どうやらにおいに釣られて目を覚ましたようだ。
ようやく目を覚ましたモーフをペイルたちは温かく迎え入れる。
「よくやったな、モーフ。その年で精霊の試練を突破したのは、ものすごく久しぶりの快挙だぞ、おめでとう!」
「無事に突破できてよかったですよ。あなたはシアンにべったりなところがあるので、一人でできるのか心配でしたからね」
「お父様、お母様、ありがとうございます」
モーフは少し恥ずかしそうにしながら、ペイルとロゼリアに対して頭を下げていた。
「モーフ、試練突破おめでとうございます」
「姉上、ありがとうございます」
ペイルやロゼリアに頭を下げていた時と違い、シアンの時には少々表情を曇らせていた。どうしてそんな表情をしたのか、シアンにはちょっと分からずに首を傾げてしまう。
「……姉上」
何か、意を決したような表情でモーフはシアンに声をかける。
「なんでしょうか、モーフ」
真剣な表情を向けるモーフを見て、シアンも引き締まった表情を向けている。
相手が真剣なのだから、自分も真剣に向き合わないとと思ったようだ。
「ちょっとお話があります。後で二人きりでよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ。お父様たちには内緒なのですか?」
シアンが確認をすると、モーフはこくりと頷いていた。
何事かとは思ったものの、ここまで思い詰めたような顔をするということはよっぽどなのだろう。シアンは二人きりになることを了承したのだった。
「実は、僕の試練の相手は姉上でした」
「……やっぱりそうでしたか。そんな気はしていました」
天幕の裏手で、シアンはモーフと二人きりで会って話をしている。内容は精霊の試練についてのようだ。
「知っていたのですか?」
モーフが確認すると、シアンは首を横に振る。
「知るわけがないでしょう。でも、私の魔力に揺らぎがあったので、そうではないかと思っただけです」
「そうですよね。元は姉上の魔力でしたからね」
二人はしばらく黙り込んでしまう。
内容が少し重いので、会話が続かないのだ。
「今回の試練で、おそらくモーフの魔力として残るでしょうね。少々寂しいですけれど、モーフならきっと使いこなせると思います」
「……大丈夫でしょうか」
「ええ、大丈夫です」
不安そうなモーフに対して、シアンは自信たっぷりに言い切っていた。元は自分の魔力なのだから、なんとなく分かるのだろう。
「私も満足していると思いますよ。私のせいで行き場を失っていたのですからね……」
シアンは背中で手を組んで、夜空を見上げながらモーフに伝えている。
「話はこれくらいにしましょう。試練の疲れはまだ取れていないでしょうし、あまりこっそり抜け出しているとお父様たちが心配しますからね」
「は、はい。分かりました」
にっこりと微笑んで話を打ち切ると、シアンとモーフは両親のところへと戻っていく。
その時のシアンは、自分の半身に別れを告げるかのように、泣きそうな表情をしていたのだった。
日も暮れようかという時間になって、ようやくペイルがモーフを連れてロゼリアたちのところに戻ってきた。
「いえ、試練でしたからこのくらいは覚悟しております。……モーフはまだ眠っているのですね」
「ああ、どうやらかなり疲れているみたいでな。起きるのを待っていたが、さすがにこれ以上ロゼリアたちを待たせるわけにはいかないから戻ってきたんだ」
ペイルはロゼリアに話をしながら、ちらりとシアンを見ている。
今年で十六になるとはいえど、まだ学園に在籍する身だ。その状態を心配しているのである。
「大丈夫です、お父様。もう私とて子どもではありませんから」
ペイルの視線に気が付いたシアンは、にこりと微笑んで言葉を返しておいた。
「はっはっはっ、娘が心配なのは分かるけど、恥ずかし手くて声に出せないか。いやぁ、これは実に面白いねぇ」
ケットシーが笑っている、これにはペイルは怒ったような顔できつい視線を送っていた。
「ケットシー、人の気持ちを逆なでするのはおやめなさい。よく組合長に留まってられますね」
「はっはっはっ、実績がものをいうのだよ、ライくん。それに、相手はよく見てやるものだよ」
ライに咎められても、ケットシーはまったく気に留める様子はない。相変わらずの自由っぷりである。
「それよりも今日はここで一泊かい? モーフくんの試練突破祝いだ。ボクもちょっとお祝いをしてあげよう」
そういうと、ケットシーはなにやらごそごそと取り出そうとしている。
「余計なことをしないで下さい。昔っからあなたが何かしようとしてまともな結果になったことあるんですかね」
「酷いなぁ。昔からの友人にかける言葉かい? 今のボクは商業組合の組合長だよ?」
「立場はそうでしょうけれど、仕事以外であなたがすることってろくでもないことばかりじゃないですか」
ケットシーとライがケンカを始めてしまった。この様子にはロゼリアたちも困ったものである。
「放っておこうか。あれは恒例行事みたいなものだしな」
「そうですね。シアン、設営を手伝ってくれますか?」
「はい、お母様」
にらみ合いを続けるケットシーとライをしり目に、シアンたちは休むための天幕を設営していったのだった。
夕食の時間になると、モーフが目を覚ます。
どうやらにおいに釣られて目を覚ましたようだ。
ようやく目を覚ましたモーフをペイルたちは温かく迎え入れる。
「よくやったな、モーフ。その年で精霊の試練を突破したのは、ものすごく久しぶりの快挙だぞ、おめでとう!」
「無事に突破できてよかったですよ。あなたはシアンにべったりなところがあるので、一人でできるのか心配でしたからね」
「お父様、お母様、ありがとうございます」
モーフは少し恥ずかしそうにしながら、ペイルとロゼリアに対して頭を下げていた。
「モーフ、試練突破おめでとうございます」
「姉上、ありがとうございます」
ペイルやロゼリアに頭を下げていた時と違い、シアンの時には少々表情を曇らせていた。どうしてそんな表情をしたのか、シアンにはちょっと分からずに首を傾げてしまう。
「……姉上」
何か、意を決したような表情でモーフはシアンに声をかける。
「なんでしょうか、モーフ」
真剣な表情を向けるモーフを見て、シアンも引き締まった表情を向けている。
相手が真剣なのだから、自分も真剣に向き合わないとと思ったようだ。
「ちょっとお話があります。後で二人きりでよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ。お父様たちには内緒なのですか?」
シアンが確認をすると、モーフはこくりと頷いていた。
何事かとは思ったものの、ここまで思い詰めたような顔をするということはよっぽどなのだろう。シアンは二人きりになることを了承したのだった。
「実は、僕の試練の相手は姉上でした」
「……やっぱりそうでしたか。そんな気はしていました」
天幕の裏手で、シアンはモーフと二人きりで会って話をしている。内容は精霊の試練についてのようだ。
「知っていたのですか?」
モーフが確認すると、シアンは首を横に振る。
「知るわけがないでしょう。でも、私の魔力に揺らぎがあったので、そうではないかと思っただけです」
「そうですよね。元は姉上の魔力でしたからね」
二人はしばらく黙り込んでしまう。
内容が少し重いので、会話が続かないのだ。
「今回の試練で、おそらくモーフの魔力として残るでしょうね。少々寂しいですけれど、モーフならきっと使いこなせると思います」
「……大丈夫でしょうか」
「ええ、大丈夫です」
不安そうなモーフに対して、シアンは自信たっぷりに言い切っていた。元は自分の魔力なのだから、なんとなく分かるのだろう。
「私も満足していると思いますよ。私のせいで行き場を失っていたのですからね……」
シアンは背中で手を組んで、夜空を見上げながらモーフに伝えている。
「話はこれくらいにしましょう。試練の疲れはまだ取れていないでしょうし、あまりこっそり抜け出しているとお父様たちが心配しますからね」
「は、はい。分かりました」
にっこりと微笑んで話を打ち切ると、シアンとモーフは両親のところへと戻っていく。
その時のシアンは、自分の半身に別れを告げるかのように、泣きそうな表情をしていたのだった。
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