逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第311話 実は始まりの地

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 シェリア滞在中は、本当にいろいろなことを体験していった。
 早朝に起きて船に乗ったり、海水から塩を作ることを体験してみたりと、本当にそれはいろいろだった。
 シアンは以前にやって来た時に経験していたが、ヒスイがシェリアでのんびり過ごすのは初めてなので、どれもこれも実に楽しそうに一生懸命取り組んでいた。
「以前は素通りでしたけれど、その時にも感じた活気は本物ですね」
「ええ、シェリアはアイヴォリー随一の漁港ですからね。海産物のほとんどが、このシェリアからアイヴォリーはもとより、私たちのモスグリネまで届けられています」
「そうなのですね」
 どこか自慢げなシアンに対して、ヒスイは感動している。
「でも、シアン様がどうしてそんなに誇らしげなのですか?」
「このシェリアの発展には、お母様が関わっていらっしゃいますからね。当時の私は、お付きの侍女として手伝いをしていた程度ですけれど」
「まぁ、そうだったのですか。って、お付きの侍女?」
 こてんと首を傾げてしまうヒスイである。
「ああ、まだ詳しく話していませんでしたっけか。……ええ、忘れて下さい」
 誰にこのことを話したのか分からなくなってしまったシアンは、ひとまずごまかしておく。
「このシェリアの発展は、お母様とペシエラ様とチェリシア様の三人のおかげなんです。昔はこれほどまでの活気はなかったそうですからね」
「そうなのですね」
 どこかすっきりしない気持ちはあるものの、ヒスイはとりあえずシアンの話に耳を傾けている。どうも先程の発言が気になってしまっているようだ。
「それよりもそろそろお昼にしませんかね。プラウス様には外で食事をしてくるとは伝えてありますし、ここの食堂はおいしい海産物で有名ですからお邪魔しましょう」
「はい、ご同行いたします」
 見学に時間を使い過ぎたので、少々遅い昼食である。
 シアンたちが入った食堂は、ピークタイムを過ぎてすっかり落ち着いているようだった。
「これはこれはシアン様。お久しぶりでございますね」
「おかみさん、お久しぶりです」
 食堂に入ると、おかみさんが話し掛けてきた。
「ちゃんとご用意しておりますので、こちらの席にお掛け下さい」
 案内された席は他とは違い、布までかけられてこぎれいにされていた。他の席とは明らかに違う状態である。
「ご予約を承った時から、しっかりとご用意させて頂いていました。忙しい中、ここに座ろうとする不届き者がいて大変でしたよ」
「そ、それは申し訳ないことを致しましたね。ですが、私たちは別にそこまでして頂く必要はなかったのですが」
 シアンが申し訳なさそうにいうと、おかみさんは人差し指を立てて左右に揺らしている。
「そうはいかないね。あのロゼリア様の娘でモスグリネ王国の王女様がいらっしゃるというのに、小汚い席を提供できますかっていうんですよ。さっ、お掛けになって下さい。すぐに料理をお持ちしますのでね」
「あ、ありがとうございます」
 おかみさんとの会話を終えたシアンは、席に腰掛ける。
 シアンと向かい合うように座るヒスイ。スミレたち侍女は後ろで立っている。
 シェリア特産の海鮮料理が次々と出てくる。中でもヒスイを驚かせていたのは生魚だった。
 基本的にモスグリネでは魚は焼いて食べるもの。それゆえに加熱されていない魚というのは驚きだったのだ。
 不安そうにじっと見つめているヒスイだったが、シアンに勧められて覚悟を決めて口に放り込む。
「ん!」
 驚いた声が飛び出ている。
「生臭さがないですね。すごい……」
「マゼンダ侯爵領産のワインビネガーでしめていますからね。お酢の力で生臭さが消えたというわけですよ」
「なるほど~……。生で食べられるというのも、ここが漁港だからなのでしょうかね」
「その通りですよ。水分の多い魚というものは腐りやすいですからね。釣ってすぐに加工を施すことで、獲れた時の鮮度を長く保っていられるんです」
「へぇ~」
 シアンの説明にヒスイは感動しているようだった。
「いやぁ、それだけじゃないですよ。チェリシア様考案の巨大氷室があってこそ、鮮度をより長く保てるようになりましたからね。本当にあの方には頭が上がりませんよ」
「チェリシア様って、本当はすごい方だったのですね」
「普段がちょっと吹っ飛んでいるから、信じられないでしょうけれどね……」
 シアンは苦笑いをしてしまう。
 その後も、なんだかんだと話をしながら、二人は食事を楽しんだのだった。

「おいしかったですね」
「満足してもらえてよかったです」
 にこにことした笑顔で話すヒスイに、シアンはほっとした様子を見せている。
「でも、ここに来た理由って何なのですかね、シアン様」
「ええ、ここはお母様たちの始まりの地なのですよ」
「始まりの?」
 ヒスイが聞き返すと、シアンはこくりと頷いている。
「マゼンダ商会を設立するきっかけになったのが、このシェリアの街での塩作りなんですよ。私の付き人ですから、そのことを伝えておきたかったので今回シェリアに来てもらったのです。まあ、海で遊びたいというのも本当なのですけれどね」
 シアンははにかみながら理由を説明していた。最後に本音を言ったことで、ヒスイの笑いを誘っていた。
「そうですか。ロゼリア様の原点を知られてよかったです。今回はお誘い頂きまして、誠にありがとう存じます」
 ヒスイはぺこりと頭を下げていた。

 シアンとヒスイのシェリア滞在はもう一日たっぷり遊んで終わりを告げる。
 付き合いが一年半になるヒスイといろいろと親交を深められたようで、シアンは満足して旅行を終えられそうだった。
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