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第116話 後ろよりも前ですよ
休業日明けの営業終了後、私はいつものように食堂の食材の減り具合をチェックしています。
この時の減り具合を元に、翌々日の入荷が決まるのです。さあ、しっかりチェックをしませんと。
私が気合いを入れて確認をしていますと、イリスが私に近付いてきました。一体どうしたのでしょうか。
「どうかしましたか、イリス」
私が問い掛けると、イリスはなんだか言いづらそうにしています。何をそんなに悩んでいるのでしょうか。
「レチェ様、謹んでご報告を申し上げます」
「イリス、どうしたのですか。改まった言い方をしているなんて」
私は笑顔を見せながら話し掛けます。ですが、イリスの表情はまったくすぐれないままです。気になってしまいますね。
「実は、今日の営業中、アンドリュー殿下と侍従のジャック様がいらしていたのです」
「……え?」
私は変な声が出そうになりました。
いえ、なぜ公爵領のこんな外れにアンドリュー殿下がいらしたのでしょうか。
「み、見間違いではないのですか?」
「いえ、私があの方のお姿を間違えるわけがございません。どのくらいレチェ様と共にお会いしたと思っていらっしゃるのですか」
イリスに力説されてしまいました。
確かにそうなんですよね。
私とアンドリュー殿下はそもそも婚約者同士だったのです。なので、幼少の折からよくお会いしておりました。
イリスとの付き合いに比べれば短いですので、当然ながら、私の侍女としてイリスはアンドリュー殿下と顔を合わせているのです。それはまあ、見間違えるわけもありませんよね。
「それと分からないように、冒険者を装った感じではありましたが、あの程度の変装でごまかそうなど笑止千万でございます」
「あははは、イリスってば、その言葉どこで覚えたのかしら」
言い切るイリスの対応をしながら、私はついゲームのことを思い出していました。
攻略の三年目は半分くらいが自由行動になります。学園内だけではなく、外に飛び出してヒロインと交流を深めて、それで最終的に告白まで持っていくのです。
となると、アンドリュー殿下がここまでいらしたのは、その自由行動を利用してのことでしょう。
名目上は婚約者であるルーチェのウィルソン公爵家の視察でしょうね。メインの目的は私の姿を見に来たのでしょう。ルーチェからは自分にどこか私を重ねているような感じだというような内容が伝えられていましたからね。
こういう世界において婚約というのは貴族の付き合いみたいなところはありますが、やはり恋愛感情に流されるなんてこともあるのでしょうね。
ええ、アンドリュー殿下のお心は、まだ私にあるみたいですよ。困りましたわね。
瞬時にすべてを理解して、私はとんでもなく大きなため息をついてしまいました。
「そうですか。ならば、昨日感じた視線も、おそらく殿下のものでしょうね。証言を集めれば、おそらくすぐに分かるでしょう」
「昨日もいらしてたんですかね」
「可能性は高いです。アマリス様にも手紙は出しましたから、そこからこの食堂のことは伝わっているでしょう。詳しい場所は教えてはおりませんが、殿下の行動力なら絶対突き止めてきます。昨日は休業日でしたから、外からこちらの様子を窺っていたのでしょう」
「なんともまあ……」
私が推理を披露すると、イリスは驚きながらも感心していました。
「やはり、レチェ様の方がお似合いだったのでは?」
「今さらですよ。私は魔法学園の入学試験に落ちたのです。ウィズタリア王国に存在する公爵家としては今までにない事態でしたから、私がそのまま婚約者を続けるのは、王家にとっても傷となります。ええ、仕方なかったのですよ……」
イリスは確認するように私に尋ねてきますが、魔法学園の入学試験に落ちたという紛れもない汚点が存在する以上、私はイリスの言葉を聞き入れることはできませんでした。
だからこそ、妹のルーチェに婚約者の座を譲ったのです。自分で決めたことなのですから、今さら後戻りするわけにはいかないのですよ。
「しかし、このように足を運ばれるということは……」
「イリス、くどいですよ。私はもう割り切りましたし、今の私は公爵家に籍を置いているとはいえ、ただのレチェです。農園と食堂を経営する商人のレチェですよ」
私は真剣な表情を向けてイリスを黙らせます。これ以上口答えをするというのでしたら、あなたでも許さないという強い意思表示です。
さすがに私から険しい表情を向けられたイリスは黙り込みます。
「承知致しました。侍女風情が差し出がましいことをして申し訳ありませんでした」
「イリスが私のことを思うのはよく分かります。ですけれど、もうそれは過去のことなのです。イリスは私の片腕として、その力を存分に振るって下さいね」
「はい、レチェ様」
最後に私がにっこりと笑顔を向けると、イリスは納得したように首を縦に振りました。
「それでは、明日の営業に向けて片付けをお願いしますね。私は発注のデータをまとめないといけませんから」
「はい、お任せ下さい、レチェ様」
私の指示に、イリスは素直に従って厨房へと戻っていきました。
それにしても、アンドリュー殿下。まさかここまでいらっしゃるとは思いもしませんでしたね。
ルーチェと仲を深めて下さるとよろしいのですが、これはまだひと波乱もふた波乱もありそうですね。
大きくため息をついた私は、首を左右に振って作業の続きに取り掛かったのでした。
この時の減り具合を元に、翌々日の入荷が決まるのです。さあ、しっかりチェックをしませんと。
私が気合いを入れて確認をしていますと、イリスが私に近付いてきました。一体どうしたのでしょうか。
「どうかしましたか、イリス」
私が問い掛けると、イリスはなんだか言いづらそうにしています。何をそんなに悩んでいるのでしょうか。
「レチェ様、謹んでご報告を申し上げます」
「イリス、どうしたのですか。改まった言い方をしているなんて」
私は笑顔を見せながら話し掛けます。ですが、イリスの表情はまったくすぐれないままです。気になってしまいますね。
「実は、今日の営業中、アンドリュー殿下と侍従のジャック様がいらしていたのです」
「……え?」
私は変な声が出そうになりました。
いえ、なぜ公爵領のこんな外れにアンドリュー殿下がいらしたのでしょうか。
「み、見間違いではないのですか?」
「いえ、私があの方のお姿を間違えるわけがございません。どのくらいレチェ様と共にお会いしたと思っていらっしゃるのですか」
イリスに力説されてしまいました。
確かにそうなんですよね。
私とアンドリュー殿下はそもそも婚約者同士だったのです。なので、幼少の折からよくお会いしておりました。
イリスとの付き合いに比べれば短いですので、当然ながら、私の侍女としてイリスはアンドリュー殿下と顔を合わせているのです。それはまあ、見間違えるわけもありませんよね。
「それと分からないように、冒険者を装った感じではありましたが、あの程度の変装でごまかそうなど笑止千万でございます」
「あははは、イリスってば、その言葉どこで覚えたのかしら」
言い切るイリスの対応をしながら、私はついゲームのことを思い出していました。
攻略の三年目は半分くらいが自由行動になります。学園内だけではなく、外に飛び出してヒロインと交流を深めて、それで最終的に告白まで持っていくのです。
となると、アンドリュー殿下がここまでいらしたのは、その自由行動を利用してのことでしょう。
名目上は婚約者であるルーチェのウィルソン公爵家の視察でしょうね。メインの目的は私の姿を見に来たのでしょう。ルーチェからは自分にどこか私を重ねているような感じだというような内容が伝えられていましたからね。
こういう世界において婚約というのは貴族の付き合いみたいなところはありますが、やはり恋愛感情に流されるなんてこともあるのでしょうね。
ええ、アンドリュー殿下のお心は、まだ私にあるみたいですよ。困りましたわね。
瞬時にすべてを理解して、私はとんでもなく大きなため息をついてしまいました。
「そうですか。ならば、昨日感じた視線も、おそらく殿下のものでしょうね。証言を集めれば、おそらくすぐに分かるでしょう」
「昨日もいらしてたんですかね」
「可能性は高いです。アマリス様にも手紙は出しましたから、そこからこの食堂のことは伝わっているでしょう。詳しい場所は教えてはおりませんが、殿下の行動力なら絶対突き止めてきます。昨日は休業日でしたから、外からこちらの様子を窺っていたのでしょう」
「なんともまあ……」
私が推理を披露すると、イリスは驚きながらも感心していました。
「やはり、レチェ様の方がお似合いだったのでは?」
「今さらですよ。私は魔法学園の入学試験に落ちたのです。ウィズタリア王国に存在する公爵家としては今までにない事態でしたから、私がそのまま婚約者を続けるのは、王家にとっても傷となります。ええ、仕方なかったのですよ……」
イリスは確認するように私に尋ねてきますが、魔法学園の入学試験に落ちたという紛れもない汚点が存在する以上、私はイリスの言葉を聞き入れることはできませんでした。
だからこそ、妹のルーチェに婚約者の座を譲ったのです。自分で決めたことなのですから、今さら後戻りするわけにはいかないのですよ。
「しかし、このように足を運ばれるということは……」
「イリス、くどいですよ。私はもう割り切りましたし、今の私は公爵家に籍を置いているとはいえ、ただのレチェです。農園と食堂を経営する商人のレチェですよ」
私は真剣な表情を向けてイリスを黙らせます。これ以上口答えをするというのでしたら、あなたでも許さないという強い意思表示です。
さすがに私から険しい表情を向けられたイリスは黙り込みます。
「承知致しました。侍女風情が差し出がましいことをして申し訳ありませんでした」
「イリスが私のことを思うのはよく分かります。ですけれど、もうそれは過去のことなのです。イリスは私の片腕として、その力を存分に振るって下さいね」
「はい、レチェ様」
最後に私がにっこりと笑顔を向けると、イリスは納得したように首を縦に振りました。
「それでは、明日の営業に向けて片付けをお願いしますね。私は発注のデータをまとめないといけませんから」
「はい、お任せ下さい、レチェ様」
私の指示に、イリスは素直に従って厨房へと戻っていきました。
それにしても、アンドリュー殿下。まさかここまでいらっしゃるとは思いもしませんでしたね。
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大きくため息をついた私は、首を左右に振って作業の続きに取り掛かったのでした。
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