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SCENE037 つかんだしっぽ
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あたしは突然現れた探索者を、お茶会に誘いましたわ。
当然ですけれど、探索者は怖がって近づいてきますわね。こんなに美しいあたしですのに、失礼してしまいますわ。
「安心なさい。あなたを別に殺そうとは思っておりませんわ。初めてここにたどり着いた方ということで、丁重におもてなしをさせていただきますわ」
あたしはにっこりと微笑みますが、やはりこの探索者は震えてらっしゃいますわね。
さすがのあたしも、しびれを切らしてしまいましたわ。
「いいからいらっしゃいまし」
魚の状態の下半身を二本脚に変えまして、あたしは探索者を無理やりテーブルにつかせましたわ。
「このあたしが淹れて差し上げるのですから、光栄に思うことですわね。異界の産物ではありますけれど、探索者であれば問題なく食せるはずですわよ」
「ど、どうも……」
目の前の少年は、おどおどとした様子であたしを見ていますわね。
ちょっとステータスを見てあげましょうかしら。
ちびちびと紅茶を飲んでいる少年に向けて、鑑定の魔法を使いますわよ。ダンジョンマスターの特権のようなものですわ。
「ふむふむ、雑魚ですわね」
「えっ?」
あたしがつい口にしてしまいますと、少年があたしの方をじっと見てきましたわ。
「あなた、こんなステータスで、よくここまでたどり着きましたわね。隠密スキルが強いようですけれど、さすがに実力差が大きすぎてあたしには通じてないようですわよ」
「あっ、隠密スキル……。やっぱりそうだったんですね」
「ええ。隠密スキルが8/10って出ていますわ。これでは、ダンジョン内のモンスターも気づきませんわね。直感スキルも7/10と高レベル。罠が効かないわけですわ」
こちらの世界の人物とは初めて会いますけれど、こんな高レベルスキルの持ち主は果たしているのかしら。あちらの世界でもなかなか見ることのないレベルですわ。
「そうなんだ。俺って昔っから目立たないし、危ないことも避けてこれたんだ。そっか、そのスキルのおかげだったんだ」
「あら、探索者であれば調べられるんじゃないのかしら」
「俺はあまり目立たないから、検査も飛ばされちゃったみたいなんです」
「そうなのですわね。これはもったいないですわよ」
あたしがこのように話をしていますと、目の前の少年の目がキラキラとしてきましたわ。なんなんですかね、この様子は。
「ただいま戻りました、セイレーン様」
あら、困りましたわね。シードラゴンが戻ってきましたわ。
「いやぁ、実に大漁でしたぞ。面白いくらいに探索者どもが罠にかかっていきます。笑いが止まりませんな」
「ほほほっ、本当にそうですわね」
シードラゴンの報告に、あたしは大笑いをしておきます。ダンジョンマスターですもの、仕方ありませんわよね。
「おや、誰ですかな、その人間は」
シードラゴンが探索者の少年に気が付きましたわね。
「この子は、どうやらスキルのおかげでここまでたどり着いたようですわ」
「なんと! ここが探索者に見つかるとは、困りましたな」
シードラゴンがまずいといった顔をしておりますわね。ですが、あたしの方はどちらかといえば危機感はありませんわ。
いえ、むしろ使えるのではないかと見ていますわよ。
「シードラゴン、構えを解きなさい」
「し、しかし、セイレーン様……」
シードラゴンが困っておりますわね。
ですが、ひとまず放っておいて少年に話をしてみましょう。
「あなた、ウィンクスダンジョンというのはご存じかしら」
「ウィンクスダンジョン?」
あら、ハズレかしらね。
「あっ!」
と思いましたら、突然顔を上げましたわね。
「ウィンクっていう名前で思い出しました。だったら、このダンジョンのことかと思います」
そう言いますと、少年はなにやら板状のものを取り出していますわね。シードラゴンが持っている魔晶石の板とは違った感じの板ですわ。
『みなさん、こんにちは。ダンジョンマスターのウィンクです』
少年が何かをすると、その板から声が聞こえてきましたわ。しかも、見たことのない少女の姿が見えますわね。
「なんですの、これは」
「これは、配信っていうものですね。ウィンクっていうダンジョンマスターが、自分のダンジョンの様子を配信しているんです」
「まあ、そんな手の内を明かすような真似を?」
あたしは驚きましたわね。ダンジョンの中を他人に見せるなんて言うことは、自分の身を危険にさらすことですのに。
ですけれど、すぐに勘づきましたわ。
「……かすかな魔力反応がありますわ。なるほど、ラミア族の魅了ですわね」
「魅了?」
「ええ。あたしも持ってはおりますが、他者を自分のとりこにしてしまうというスキルですわ。なるほど、ウィンクスダンジョンのポイントは、この魅了スキルによるものですのね」
少年が驚く中、あたしは新興ダンジョンの成長の秘密を知ることができましたわ。
これは、実にチャンスですわね。
「シードラゴン、あたしたちも配信をしますわよ」
「ちょっと、セイレーン様?!」
「あなた、その配信とやらの仕組みはよく知っているのかしら」
「は、はい。探索者ならみんな知っていると思います」
少年は驚きながらも、あたしの問い掛けに答えて下さいましたわ。
「それでしたら、時々ここにいらっしゃい。あなたのスキルであれば、ここにたどり着けるでしょうからね。きちんとおもてなしはさせていただきますし、それなりの報酬をお出ししますわ」
「え、ええっ?!」
「その代わり、必ず一人でここまで来ること、いいですわね?」
「は、はい……」
「声が小さいですわ」
「はいっ!」
あたしは、約束をさせると少年を帰らせましたわ。
ふふふっ、これで全ダンジョン頂点の座は揺るぎありませんわね。
見ていなさい、ウィンクとやら。あなたとあたしの差というものを思い知らしめてあげますわ。
ふふっ、あははははははっ!
当然ですけれど、探索者は怖がって近づいてきますわね。こんなに美しいあたしですのに、失礼してしまいますわ。
「安心なさい。あなたを別に殺そうとは思っておりませんわ。初めてここにたどり着いた方ということで、丁重におもてなしをさせていただきますわ」
あたしはにっこりと微笑みますが、やはりこの探索者は震えてらっしゃいますわね。
さすがのあたしも、しびれを切らしてしまいましたわ。
「いいからいらっしゃいまし」
魚の状態の下半身を二本脚に変えまして、あたしは探索者を無理やりテーブルにつかせましたわ。
「このあたしが淹れて差し上げるのですから、光栄に思うことですわね。異界の産物ではありますけれど、探索者であれば問題なく食せるはずですわよ」
「ど、どうも……」
目の前の少年は、おどおどとした様子であたしを見ていますわね。
ちょっとステータスを見てあげましょうかしら。
ちびちびと紅茶を飲んでいる少年に向けて、鑑定の魔法を使いますわよ。ダンジョンマスターの特権のようなものですわ。
「ふむふむ、雑魚ですわね」
「えっ?」
あたしがつい口にしてしまいますと、少年があたしの方をじっと見てきましたわ。
「あなた、こんなステータスで、よくここまでたどり着きましたわね。隠密スキルが強いようですけれど、さすがに実力差が大きすぎてあたしには通じてないようですわよ」
「あっ、隠密スキル……。やっぱりそうだったんですね」
「ええ。隠密スキルが8/10って出ていますわ。これでは、ダンジョン内のモンスターも気づきませんわね。直感スキルも7/10と高レベル。罠が効かないわけですわ」
こちらの世界の人物とは初めて会いますけれど、こんな高レベルスキルの持ち主は果たしているのかしら。あちらの世界でもなかなか見ることのないレベルですわ。
「そうなんだ。俺って昔っから目立たないし、危ないことも避けてこれたんだ。そっか、そのスキルのおかげだったんだ」
「あら、探索者であれば調べられるんじゃないのかしら」
「俺はあまり目立たないから、検査も飛ばされちゃったみたいなんです」
「そうなのですわね。これはもったいないですわよ」
あたしがこのように話をしていますと、目の前の少年の目がキラキラとしてきましたわ。なんなんですかね、この様子は。
「ただいま戻りました、セイレーン様」
あら、困りましたわね。シードラゴンが戻ってきましたわ。
「いやぁ、実に大漁でしたぞ。面白いくらいに探索者どもが罠にかかっていきます。笑いが止まりませんな」
「ほほほっ、本当にそうですわね」
シードラゴンの報告に、あたしは大笑いをしておきます。ダンジョンマスターですもの、仕方ありませんわよね。
「おや、誰ですかな、その人間は」
シードラゴンが探索者の少年に気が付きましたわね。
「この子は、どうやらスキルのおかげでここまでたどり着いたようですわ」
「なんと! ここが探索者に見つかるとは、困りましたな」
シードラゴンがまずいといった顔をしておりますわね。ですが、あたしの方はどちらかといえば危機感はありませんわ。
いえ、むしろ使えるのではないかと見ていますわよ。
「シードラゴン、構えを解きなさい」
「し、しかし、セイレーン様……」
シードラゴンが困っておりますわね。
ですが、ひとまず放っておいて少年に話をしてみましょう。
「あなた、ウィンクスダンジョンというのはご存じかしら」
「ウィンクスダンジョン?」
あら、ハズレかしらね。
「あっ!」
と思いましたら、突然顔を上げましたわね。
「ウィンクっていう名前で思い出しました。だったら、このダンジョンのことかと思います」
そう言いますと、少年はなにやら板状のものを取り出していますわね。シードラゴンが持っている魔晶石の板とは違った感じの板ですわ。
『みなさん、こんにちは。ダンジョンマスターのウィンクです』
少年が何かをすると、その板から声が聞こえてきましたわ。しかも、見たことのない少女の姿が見えますわね。
「なんですの、これは」
「これは、配信っていうものですね。ウィンクっていうダンジョンマスターが、自分のダンジョンの様子を配信しているんです」
「まあ、そんな手の内を明かすような真似を?」
あたしは驚きましたわね。ダンジョンの中を他人に見せるなんて言うことは、自分の身を危険にさらすことですのに。
ですけれど、すぐに勘づきましたわ。
「……かすかな魔力反応がありますわ。なるほど、ラミア族の魅了ですわね」
「魅了?」
「ええ。あたしも持ってはおりますが、他者を自分のとりこにしてしまうというスキルですわ。なるほど、ウィンクスダンジョンのポイントは、この魅了スキルによるものですのね」
少年が驚く中、あたしは新興ダンジョンの成長の秘密を知ることができましたわ。
これは、実にチャンスですわね。
「シードラゴン、あたしたちも配信をしますわよ」
「ちょっと、セイレーン様?!」
「あなた、その配信とやらの仕組みはよく知っているのかしら」
「は、はい。探索者ならみんな知っていると思います」
少年は驚きながらも、あたしの問い掛けに答えて下さいましたわ。
「それでしたら、時々ここにいらっしゃい。あなたのスキルであれば、ここにたどり着けるでしょうからね。きちんとおもてなしはさせていただきますし、それなりの報酬をお出ししますわ」
「え、ええっ?!」
「その代わり、必ず一人でここまで来ること、いいですわね?」
「は、はい……」
「声が小さいですわ」
「はいっ!」
あたしは、約束をさせると少年を帰らせましたわ。
ふふふっ、これで全ダンジョン頂点の座は揺るぎありませんわね。
見ていなさい、ウィンクとやら。あなたとあたしの差というものを思い知らしめてあげますわ。
ふふっ、あははははははっ!
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