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第20話 神様からは逃げられない
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「どうしたんじゃ、マイ」
診察を終えたおじいちゃん先生と遅めの食事を取っていると、急に声をかけられてしまう。
「なに、おじいちゃん」
私は呼ばれたから顔を上げて反応をする。
「いや、なんだか浮かない顔をしておったから、どうしたのかなと思うてな」
「ああ、大丈夫。ちょっと考えごとをしていただけだから」
「そうか……。なら、いいんじゃがな」
私は正直に話すことは避けておいた。
ただでさえ、別世界のお姫様っていうだけでも頭の状態を疑われそうな状況なのに、神様と会って巫女にならないかといわれたとか話したら、さすがに正気を疑われかねない。
小児科の医師として医院を営んでいるおじいちゃん先生に、これ以上心配ごとを増やすわけにはいかないから、私はとにかく今日あったことは黙っておくことにした。
(ああやって私の前に姿を見せたっていうことは、お祭りがあった影響よね。ちょっとでも信仰が集まれば、あんなふうに姿を見せることも可能なんだわ)
私はもぐもぐと夕食を食べながら、あれこれと考え込んでいる。
(となると、私が転生先の世界に戻るには、やっぱりば……、ばなんとかって神様の力を借りるしかないのかしらね。とはいえ、そろそろ旧暦の十月だし、どう考えても先になりそうだわ)
はっきり言って巫女になるつもりはない。私は別の世界でお姫様なんだから。
こっちの世界では私がいたという記憶がすっかり消えてしまっているので、こちらの世界には未練というものがこれほどといってない。
そりゃ、幼馴染みで好きな相手だった海斗がいるから気になるといえば気になるけど、それだけだもんね。
だったら、さっさとこっちの世界に飛ばされてきた謎を解明して、転生先のあの世界に戻るしかないってものよ。
うん、巫女を引き受けるとしても、そのための一時的な協力関係だわ。帰れるようになったらきっぱりと手を切ってやるんだから。
そんなことを思いながら、私は食事を終える。
「おじいちゃん、私が片付けをしておくから、おじいちゃん先生は食べたら明日に備えて休んでいて」
「おお、すまんな、マイ」
私がそう言っておくと、おじいちゃん先生はお礼を言ってきた。
私はこの家に居候させてもらっているから、このくらいは普通だと思う。おじいちゃん先生はやることが多いから、少しでも助けてあげないとね。
おじいちゃん先生が食事を終えるまで、私は一度部屋へと戻って翌日の支度を始める。
支度を済ませて様子を見に戻ってくると、おじいちゃん先生がちょうど食事を終えたところだった。
「それじゃ、私が片付けておきますよ」
「悪いのう」
おじいちゃん先生は、そう言いながら部屋へと戻っていく。
きれいに空っぽになったお皿をシンクへと運んだ私は、魔法を使ってきれいに洗いあげておいた。私が水魔法を使えば、水道代はその分安く上がるからね。
食器の後片付けを終えた私は、布団に入って眠ったのだった。
翌日学校にやってきた私は、席に座ってぼーっと窓の外を見ていた。
「波白さん、どうしたの?」
「あっ、平川さん。なんでもないよ」
平川さんに話しかけられたので、私はそうとだけ反応して、再び窓の外を見ている。
廊下側なら海が見えるんだけど、教室の中の窓から外を見ても、見えるのは山ばかり。気を紛らわせるので精一杯といったところだわ。
ところが、その視界の中に、予想もしないものが飛び込んでくる。
『おお、こんなところにおったか』
変なおじさんが顔を見せたものだから、私はびっくりして椅子から転げ落ちてしまう。
「わわっ、波白さん、大丈夫?」
「え、ええ、平気だけど……」
平川さんの問い掛けに、私はびっくりした顔のまま答えている。
「窓の外に何かいるの? 何も見えないんだけど」
「何に驚いてるんですか?」
私が急にこけた音によって、他のクラスメイトたちが寄ってきてしまった。
「な、何でもないよ。ちょっと気分が悪いから、保健室に行ってくるわ」
「えっ、ちょっと!?」
私は視線に耐えられなくなって、教室から急いで脱出してしまっていた。
『おい、どこに行くんじゃ』
窓の外に姿を見せた神様が、逃げた私を追いかけてきた。
「はあはあ……」
ぴしゃりと保健室の扉を閉めた私は、そのままベッドに向かっていく。
「すみません。体調が悪いので休ませてもらいます」
保健の先生がいるかどうかは分からないんだけど、定型句を発して、私は上履きを脱いでベッドに潜り込んだ。もちろん、カーテンはちゃんと閉めて。
『まったく、最近の連中は貧弱よのう』
「なんでここまで追いかけてきたのですか。神様っていうなら、祀られている神社から動けないんじゃないんですか?」
姿を見せた神様に、私は文句を言っている。
『いや、神様って基本的に暇じゃからな。せっかく話し相手ができたのだから、嬉しくもなるだろう?』
「だからって、こんなところまで来ないで下さい。このまま喋っていたら、頭おかしい人に思われちゃいます」
私がぴしゃりというと、さすがの神様も黙ってしまっていた。
さすがに落ち込んだように見えたので、私は前髪をたくし上げて大きなため息をつく。
「神無月で旅立つまでの間なら、夕方くらいに神社に足を運んであげますよ。それでいいですか?」
『おお、そうしてくれると助かる。では、そのように頼むぞ』
私の提案に満足したのか、神様はさっさと姿を消してしまった。
(はあ、頭痛い……)
私は結局、午前中はそのまま保健室で過ごしたのだった。
診察を終えたおじいちゃん先生と遅めの食事を取っていると、急に声をかけられてしまう。
「なに、おじいちゃん」
私は呼ばれたから顔を上げて反応をする。
「いや、なんだか浮かない顔をしておったから、どうしたのかなと思うてな」
「ああ、大丈夫。ちょっと考えごとをしていただけだから」
「そうか……。なら、いいんじゃがな」
私は正直に話すことは避けておいた。
ただでさえ、別世界のお姫様っていうだけでも頭の状態を疑われそうな状況なのに、神様と会って巫女にならないかといわれたとか話したら、さすがに正気を疑われかねない。
小児科の医師として医院を営んでいるおじいちゃん先生に、これ以上心配ごとを増やすわけにはいかないから、私はとにかく今日あったことは黙っておくことにした。
(ああやって私の前に姿を見せたっていうことは、お祭りがあった影響よね。ちょっとでも信仰が集まれば、あんなふうに姿を見せることも可能なんだわ)
私はもぐもぐと夕食を食べながら、あれこれと考え込んでいる。
(となると、私が転生先の世界に戻るには、やっぱりば……、ばなんとかって神様の力を借りるしかないのかしらね。とはいえ、そろそろ旧暦の十月だし、どう考えても先になりそうだわ)
はっきり言って巫女になるつもりはない。私は別の世界でお姫様なんだから。
こっちの世界では私がいたという記憶がすっかり消えてしまっているので、こちらの世界には未練というものがこれほどといってない。
そりゃ、幼馴染みで好きな相手だった海斗がいるから気になるといえば気になるけど、それだけだもんね。
だったら、さっさとこっちの世界に飛ばされてきた謎を解明して、転生先のあの世界に戻るしかないってものよ。
うん、巫女を引き受けるとしても、そのための一時的な協力関係だわ。帰れるようになったらきっぱりと手を切ってやるんだから。
そんなことを思いながら、私は食事を終える。
「おじいちゃん、私が片付けをしておくから、おじいちゃん先生は食べたら明日に備えて休んでいて」
「おお、すまんな、マイ」
私がそう言っておくと、おじいちゃん先生はお礼を言ってきた。
私はこの家に居候させてもらっているから、このくらいは普通だと思う。おじいちゃん先生はやることが多いから、少しでも助けてあげないとね。
おじいちゃん先生が食事を終えるまで、私は一度部屋へと戻って翌日の支度を始める。
支度を済ませて様子を見に戻ってくると、おじいちゃん先生がちょうど食事を終えたところだった。
「それじゃ、私が片付けておきますよ」
「悪いのう」
おじいちゃん先生は、そう言いながら部屋へと戻っていく。
きれいに空っぽになったお皿をシンクへと運んだ私は、魔法を使ってきれいに洗いあげておいた。私が水魔法を使えば、水道代はその分安く上がるからね。
食器の後片付けを終えた私は、布団に入って眠ったのだった。
翌日学校にやってきた私は、席に座ってぼーっと窓の外を見ていた。
「波白さん、どうしたの?」
「あっ、平川さん。なんでもないよ」
平川さんに話しかけられたので、私はそうとだけ反応して、再び窓の外を見ている。
廊下側なら海が見えるんだけど、教室の中の窓から外を見ても、見えるのは山ばかり。気を紛らわせるので精一杯といったところだわ。
ところが、その視界の中に、予想もしないものが飛び込んでくる。
『おお、こんなところにおったか』
変なおじさんが顔を見せたものだから、私はびっくりして椅子から転げ落ちてしまう。
「わわっ、波白さん、大丈夫?」
「え、ええ、平気だけど……」
平川さんの問い掛けに、私はびっくりした顔のまま答えている。
「窓の外に何かいるの? 何も見えないんだけど」
「何に驚いてるんですか?」
私が急にこけた音によって、他のクラスメイトたちが寄ってきてしまった。
「な、何でもないよ。ちょっと気分が悪いから、保健室に行ってくるわ」
「えっ、ちょっと!?」
私は視線に耐えられなくなって、教室から急いで脱出してしまっていた。
『おい、どこに行くんじゃ』
窓の外に姿を見せた神様が、逃げた私を追いかけてきた。
「はあはあ……」
ぴしゃりと保健室の扉を閉めた私は、そのままベッドに向かっていく。
「すみません。体調が悪いので休ませてもらいます」
保健の先生がいるかどうかは分からないんだけど、定型句を発して、私は上履きを脱いでベッドに潜り込んだ。もちろん、カーテンはちゃんと閉めて。
『まったく、最近の連中は貧弱よのう』
「なんでここまで追いかけてきたのですか。神様っていうなら、祀られている神社から動けないんじゃないんですか?」
姿を見せた神様に、私は文句を言っている。
『いや、神様って基本的に暇じゃからな。せっかく話し相手ができたのだから、嬉しくもなるだろう?』
「だからって、こんなところまで来ないで下さい。このまま喋っていたら、頭おかしい人に思われちゃいます」
私がぴしゃりというと、さすがの神様も黙ってしまっていた。
さすがに落ち込んだように見えたので、私は前髪をたくし上げて大きなため息をつく。
「神無月で旅立つまでの間なら、夕方くらいに神社に足を運んであげますよ。それでいいですか?」
『おお、そうしてくれると助かる。では、そのように頼むぞ』
私の提案に満足したのか、神様はさっさと姿を消してしまった。
(はあ、頭痛い……)
私は結局、午前中はそのまま保健室で過ごしたのだった。
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