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第19話 強引な神様
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私は『田均命』と名乗る自称神様に話をしている。
確かに体が半透明で透けているし、足だって地面についてはいない。でも、神様って言われて、はいそうですかと信じられるようなものではなかった。
なんといっても、異世界転生した時も今回の転移でも、神様なんて存在には出会っていないんだから。世界を渡らせた不思議な存在がいることは分かっていても、それが神様だとは思っていない。
『やれやれ、この娘子もずいぶんと疑り深いことよな……』
目の前の神様は大きなため息をついていた。
『それにしても、不思議な力を持っておるようじゃな。まるでわしらのような不思議な力をな』
「それって魔法のことかしら。今の私はマーメイド族のプリンセスだから、水に関係した魔法を扱うことはできるけれど」
『ほう、魔法というのか。少し見せてもらってもいいかの?』
神様の言葉に私がちょっと答えると、ものすごく興味を示しているようだ。
ちょっと悩んだけれど、マーメイド族って喋っちゃったし、まあいいかなと判断した。
「それでは見ていて下さい」
私はあまり周りに迷惑をかけられないので、簡単であまり迷惑のかからない小規模な魔法を使うことにした。
「ウォーターボール」
別に魔法名を叫ばなくてもいいんだけど、分かりやすくするためにあえて口にする。
私の手のひらの上には、水の球体が出現している。水だというのがよく分かるくらいに揺らめいている。
『ほう、これはこれは……。実に素晴らしい力よな』
神様は私の魔法を見て、かなり考え込んでいているようだ。
マーメイドに転生した私にとっては当たり前なんだけど、そんなに不思議なことだったかしら。
『この力があれば、弟の神社を再興できるかもしれんな。だが、そろそろ神無月だ。わしらは出雲の国に向かわねばならぬ』
「あれっ。あれって本当にみんな集まっちゃうんですか?」
『うむ、そうじゃぞ。信仰の大小に関わらず、すべての神が集合する。それが神無月というものぞ』
「でも、神無月って十月ですよね? 今、もう十月に入っちゃってるんですけど?」
『それは今の連中の話だろう。わしらのような古い人間にとって、十月まだ先ぞ』
「あっ、旧暦か」
神様の反応で私は納得した。今の暦は昔とは違う。今年の場合、旧暦の十月はまだ先だったようだ。
(後でおじいちゃんの家に飾ってあるカレンダーを確認しておこうっと)
念のために私は確認を入れることにしたのだった。
とりあえずそれはそれとして、再び私は目の前の神様と向き合う。
今のところの問題は、先程神様が口に出していた弟の神社の話だ。多分、おじいちゃん先生と散策していた時に見た、あの古ぼけた神社のことだろう。
「まあ、神無月の話は置いておくとしまして、私は何をすればいいというわけですかね」
『なあに、弟の神社の巫女になればいい。先程の魔法とかいうもので、弟の神社から水の奇跡でも起これば、それだけで信仰は戻ってくるだろうて』
「……そんなに簡単にいくものですかね。というか、私は生まれた世界に戻りたいんですけれど」
どことなく楽観視をしているようにも思える神様に、私は露骨に不機嫌な表情を見せる。
ところが、神様は私の不機嫌な顔を見ても、楽観的な表情で笑っていた。そんなに笑うところかしら。
『なになに、海に関することなら、弟の力を借りればよかろう。娘子が力を貸してやれば、弟も気前よく協力してくれるだろうて。わしらは兄弟ぞ?』
神様はやっぱり気楽に構えているようだ。本当に信仰が減ってきていて憂いているのかしら。どうもそういう風には見えないわね。
『それにしても、お前さんは元の世界に戻りたいと言っているが、はたしてそうかな?』
「どういう意味ですか」
『お前さんには、わしらとの間にも縁があるようだ。異界の地に生まれたという割には、その魂はこちらの世界にもなじみがあるように思える。はたして、お前さんの言う”元の世界”とはどこを指しておるのかな?』
神様の表情は面白いことを見つけたかのようににやけていた。
痛いところを突かれた気がするわね。なにせ私は、今いる世界で生まれて、異世界に渡った身だ。元の世界といっても、どちらを指すかといわれたら、確かにあいまいなものだと思うからね。
今の肉体的にいえば、マーメイド王国が私の故郷だし、魂的にいえばこちらの世界が故郷だ。
……これが神様という存在なのかしらね。
『まあ、わしらの信仰が取り戻せるのであれば、どちらでも構わんのだがな』
神様はそう言いながら、大きな声で笑っている。いちいちイラつく態度だと思うわ。
『今すぐに結論を出せというのも酷であろう。弟の神社では二か月後に祭りが行われる。判断はその時まで保留でいいじゃろう』
神様はそう言うと、両腕を組んでうんうんと頷いている。
『というわけじゃ。こちらに残るにしても、異界の地に戻るにしても、弟の力が必要じゃろう。二か月後のお祭りは頼むぞ』
「ちょ、ちょっと。それって実質、私に選択肢は……!」
私は神様をつかまえようと手を伸ばす。
ところが、つかむよりも先に神様はその姿を消してしまった。
「なんて……こと……」
どうやら私は、神様の弟の巫女をやらされそうである。
どうしてこうなったのよ……。
私はしばらくその場で立ち尽くしてしまうのだった。
確かに体が半透明で透けているし、足だって地面についてはいない。でも、神様って言われて、はいそうですかと信じられるようなものではなかった。
なんといっても、異世界転生した時も今回の転移でも、神様なんて存在には出会っていないんだから。世界を渡らせた不思議な存在がいることは分かっていても、それが神様だとは思っていない。
『やれやれ、この娘子もずいぶんと疑り深いことよな……』
目の前の神様は大きなため息をついていた。
『それにしても、不思議な力を持っておるようじゃな。まるでわしらのような不思議な力をな』
「それって魔法のことかしら。今の私はマーメイド族のプリンセスだから、水に関係した魔法を扱うことはできるけれど」
『ほう、魔法というのか。少し見せてもらってもいいかの?』
神様の言葉に私がちょっと答えると、ものすごく興味を示しているようだ。
ちょっと悩んだけれど、マーメイド族って喋っちゃったし、まあいいかなと判断した。
「それでは見ていて下さい」
私はあまり周りに迷惑をかけられないので、簡単であまり迷惑のかからない小規模な魔法を使うことにした。
「ウォーターボール」
別に魔法名を叫ばなくてもいいんだけど、分かりやすくするためにあえて口にする。
私の手のひらの上には、水の球体が出現している。水だというのがよく分かるくらいに揺らめいている。
『ほう、これはこれは……。実に素晴らしい力よな』
神様は私の魔法を見て、かなり考え込んでいているようだ。
マーメイドに転生した私にとっては当たり前なんだけど、そんなに不思議なことだったかしら。
『この力があれば、弟の神社を再興できるかもしれんな。だが、そろそろ神無月だ。わしらは出雲の国に向かわねばならぬ』
「あれっ。あれって本当にみんな集まっちゃうんですか?」
『うむ、そうじゃぞ。信仰の大小に関わらず、すべての神が集合する。それが神無月というものぞ』
「でも、神無月って十月ですよね? 今、もう十月に入っちゃってるんですけど?」
『それは今の連中の話だろう。わしらのような古い人間にとって、十月まだ先ぞ』
「あっ、旧暦か」
神様の反応で私は納得した。今の暦は昔とは違う。今年の場合、旧暦の十月はまだ先だったようだ。
(後でおじいちゃんの家に飾ってあるカレンダーを確認しておこうっと)
念のために私は確認を入れることにしたのだった。
とりあえずそれはそれとして、再び私は目の前の神様と向き合う。
今のところの問題は、先程神様が口に出していた弟の神社の話だ。多分、おじいちゃん先生と散策していた時に見た、あの古ぼけた神社のことだろう。
「まあ、神無月の話は置いておくとしまして、私は何をすればいいというわけですかね」
『なあに、弟の神社の巫女になればいい。先程の魔法とかいうもので、弟の神社から水の奇跡でも起これば、それだけで信仰は戻ってくるだろうて』
「……そんなに簡単にいくものですかね。というか、私は生まれた世界に戻りたいんですけれど」
どことなく楽観視をしているようにも思える神様に、私は露骨に不機嫌な表情を見せる。
ところが、神様は私の不機嫌な顔を見ても、楽観的な表情で笑っていた。そんなに笑うところかしら。
『なになに、海に関することなら、弟の力を借りればよかろう。娘子が力を貸してやれば、弟も気前よく協力してくれるだろうて。わしらは兄弟ぞ?』
神様はやっぱり気楽に構えているようだ。本当に信仰が減ってきていて憂いているのかしら。どうもそういう風には見えないわね。
『それにしても、お前さんは元の世界に戻りたいと言っているが、はたしてそうかな?』
「どういう意味ですか」
『お前さんには、わしらとの間にも縁があるようだ。異界の地に生まれたという割には、その魂はこちらの世界にもなじみがあるように思える。はたして、お前さんの言う”元の世界”とはどこを指しておるのかな?』
神様の表情は面白いことを見つけたかのようににやけていた。
痛いところを突かれた気がするわね。なにせ私は、今いる世界で生まれて、異世界に渡った身だ。元の世界といっても、どちらを指すかといわれたら、確かにあいまいなものだと思うからね。
今の肉体的にいえば、マーメイド王国が私の故郷だし、魂的にいえばこちらの世界が故郷だ。
……これが神様という存在なのかしらね。
『まあ、わしらの信仰が取り戻せるのであれば、どちらでも構わんのだがな』
神様はそう言いながら、大きな声で笑っている。いちいちイラつく態度だと思うわ。
『今すぐに結論を出せというのも酷であろう。弟の神社では二か月後に祭りが行われる。判断はその時まで保留でいいじゃろう』
神様はそう言うと、両腕を組んでうんうんと頷いている。
『というわけじゃ。こちらに残るにしても、異界の地に戻るにしても、弟の力が必要じゃろう。二か月後のお祭りは頼むぞ』
「ちょ、ちょっと。それって実質、私に選択肢は……!」
私は神様をつかまえようと手を伸ばす。
ところが、つかむよりも先に神様はその姿を消してしまった。
「なんて……こと……」
どうやら私は、神様の弟の巫女をやらされそうである。
どうしてこうなったのよ……。
私はしばらくその場で立ち尽くしてしまうのだった。
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