26 / 47
第26話 波均命
しおりを挟む
日曜日はおじいちゃん先生に断りを入れて、私は海の神様の神社へと向かっていく。
木曜と金曜できれいにしたから、ちょっとくつろげると思うのよね。
「あっ、やっぱり少し魔力を感じるわね」
神社に足を踏み入れると、少し心地よい魔力を感じる。掃除をしたかいがあるっていうものかしらね。
私は、拝殿の前の石段に腰を掛ける。
温暖化とか言われて、十月に入ってもまだ少し汗ばむ陽気が続いている。マーメイドのお姫様として転生した私には、少々厳しい天気かもしれない。
「にゃーん」
「あっ、猫だわ」
ひょっこりと猫が出てきたので、私は両手を広げてしまう。
だけど、私は油断していた。
乗っかってきた猫が私の腕の中でおとなしくしていたんだけど、いきなりかみついてきたのよ。
「あたたた……。そっかぁ、人魚もあんたの捕食対象かぁ」
「みゃーん」
かまれながらも、私は優しく猫を撫でている。そのおかげか、すっかり私の膝の上で落ち着いてしまっていた。
そういえば、猫を飼おうとして、前世の両親に怒られたことがあったっけかなぁ。今は飼ってるのかぁ、ちょっと気になる。
そんなことを思いつつ、私は晴れ渡った秋空の下で、神社でのんびり過ごしている。さすが海の神様の神社とあって、私の魔力とは相性がいいみたいなのよね。
『お前か、ここをきれいにしてくれたのは』
「うん?」
急に声が聞こえてきた。なんかどっかで聞いたことがあるような声ね。
私は猫を抱えたまま、きょろきょろと辺りを見回してみる。
「わっ」
私の斜め後ろに、すごいひげの男性が立っていた。歴史の教科書で見た奈良時代ぐらいの人の姿が見える。そういえば向こうの神様もそんな感じだったかな。
……ということは、この人はあの神様の弟っていうことかしら。
『俺の問いに答えよ。ここをきれいにしたのはお前か?』
つい驚いて顔を見ていると、改めて質問をしてきた。これは答えなきゃいけないやつだわ。
「はい、私です。ちょっとお力を借りたいということもありまして、誠心誠意、きれいにさせていただきました」
私は野良猫を抱きかかえたまま立ち上がって答える。神様相手なら、座ったままは失礼でしょうからね。
私が答えると、神様と思しき男性はじろじろと私を見てくる。普通に考えれば不審者だけど、おそらくこの人は誰にも見えていない。なので、不審者はどちらかといえば私の方だった。
『ふむ、そうか。感謝するぞ。おかげで俺もこうやって現れることができたのだからな』
「やっぱり、信仰が薄れて消えかかっていたのですか?」
『ああ、そうだ。知っているところを見ると、兄者と話したな?』
「はい。ここから山の方に行ったところにある神社でお話をさせていただきました」
『そうか。兄者め、なにかと俺のことを気にかけすぎだろう。自分のところもいつ信仰が薄まるか分からんというのにな……』
目の前の男性は、腕を組みながらあごに手を当てて考え込んでいた。
「えっと、波均命様ですよね?」
『いかにも。海の神として祀られている波均命とは俺のことだ。やはり、兄者からの差し金か』
太い眉と立派なひげのせいでかなりの圧力を感じる。私は思わず怖くなってしまう。
でも、転生した世界に戻らなきゃいけないんだから、私はここで怯むわけにはいかなかった。
ぐっとお腹に力を入れて、私は耐えている。
『おっと、すまんな。感謝せねばならぬというのに、怖がらせてしまっては本末転倒だ。そこに腰を掛けるといい』
「あっ、はい」
波均命様に言われて、私は石段に腰を下ろす。私が座ったのを確認すると、波均命様は私の前で胡坐をかいていた。
『して、小娘。お前からは何か不思議な力を感じるな。望みは何なのだ?』
「えっとですね……」
私の目をしっかりと見て質問をしてきたので、いろいろと自分の身に起きていたことを波均命様に話した。
元はこちらの世界の人間で、波にさらわれて転生して、再びこちらの世界に戻ってきたことを。
『……なんとも難儀な話よな?』
「……私もそう思いますよ」
聞き返されて、私はこくりと首を縦に振るしかなかった。
『なるほど、その生まれ変わった先の世界に戻りたいというわけか。で、俺にその方法を知らないかと尋ねたいというわけか。そのために神社をきれいにしてくれたのだな?』
「はい、その通りです。どうでしょうか、何か分かりますか?」
改めて問い掛けられた私が肯定すると、波均命様は腕を組んで唸り始めた。少しすると、組んでいた腕をほどいた。
『うん、まったく分からんな』
その時の発言に、私はずっこけそうになってしまう。
『悪いが、現段階では情報が少なすぎて俺には分からん。しかし、時期が悪い。そろそろ神の集まりに参加せねばならぬからな』
「そっか、神無月ですもんね」
『うむ。戻ってくるまでの間、小娘が調べられるだけ調べておいてくれ。今の暦なら、十一月の下旬には戻ってくるからな』
「……分かりました。頑張ってみます」
結局、こちらの神様の手を借りられるのはまだ先みたいだった。
でも、話ができただけよかったかな。
その後、私は波均命様にマーメイドの魔法を見せることになった。
『おっと、誰か来おったな。では、俺はこれで失礼するとしよう。またひと月後にな』
「はい。お話を聞いてい下さり、ありがとうございました」
私は頭を下げて感謝する。
「あっ、いつの間にか猫がいないわ」
ふと現実に戻ると、隣にいたはずの猫が姿を消していた。
ちょっと残念に思うと、私は神社から帰ることにする。
「おお、マイ。迎えに来たぞ」
「誰かって、おじいちゃんだったんだ」
「うん? まあいい。話は後で聞かせてもらうとしようかの。とにかく帰るぞ」
「うん、おじいちゃん」
私はおじいちゃん先生に手を引かれながら、神社を後にしたのだった。
いろいろと心残りをその場に残したまま。
木曜と金曜できれいにしたから、ちょっとくつろげると思うのよね。
「あっ、やっぱり少し魔力を感じるわね」
神社に足を踏み入れると、少し心地よい魔力を感じる。掃除をしたかいがあるっていうものかしらね。
私は、拝殿の前の石段に腰を掛ける。
温暖化とか言われて、十月に入ってもまだ少し汗ばむ陽気が続いている。マーメイドのお姫様として転生した私には、少々厳しい天気かもしれない。
「にゃーん」
「あっ、猫だわ」
ひょっこりと猫が出てきたので、私は両手を広げてしまう。
だけど、私は油断していた。
乗っかってきた猫が私の腕の中でおとなしくしていたんだけど、いきなりかみついてきたのよ。
「あたたた……。そっかぁ、人魚もあんたの捕食対象かぁ」
「みゃーん」
かまれながらも、私は優しく猫を撫でている。そのおかげか、すっかり私の膝の上で落ち着いてしまっていた。
そういえば、猫を飼おうとして、前世の両親に怒られたことがあったっけかなぁ。今は飼ってるのかぁ、ちょっと気になる。
そんなことを思いつつ、私は晴れ渡った秋空の下で、神社でのんびり過ごしている。さすが海の神様の神社とあって、私の魔力とは相性がいいみたいなのよね。
『お前か、ここをきれいにしてくれたのは』
「うん?」
急に声が聞こえてきた。なんかどっかで聞いたことがあるような声ね。
私は猫を抱えたまま、きょろきょろと辺りを見回してみる。
「わっ」
私の斜め後ろに、すごいひげの男性が立っていた。歴史の教科書で見た奈良時代ぐらいの人の姿が見える。そういえば向こうの神様もそんな感じだったかな。
……ということは、この人はあの神様の弟っていうことかしら。
『俺の問いに答えよ。ここをきれいにしたのはお前か?』
つい驚いて顔を見ていると、改めて質問をしてきた。これは答えなきゃいけないやつだわ。
「はい、私です。ちょっとお力を借りたいということもありまして、誠心誠意、きれいにさせていただきました」
私は野良猫を抱きかかえたまま立ち上がって答える。神様相手なら、座ったままは失礼でしょうからね。
私が答えると、神様と思しき男性はじろじろと私を見てくる。普通に考えれば不審者だけど、おそらくこの人は誰にも見えていない。なので、不審者はどちらかといえば私の方だった。
『ふむ、そうか。感謝するぞ。おかげで俺もこうやって現れることができたのだからな』
「やっぱり、信仰が薄れて消えかかっていたのですか?」
『ああ、そうだ。知っているところを見ると、兄者と話したな?』
「はい。ここから山の方に行ったところにある神社でお話をさせていただきました」
『そうか。兄者め、なにかと俺のことを気にかけすぎだろう。自分のところもいつ信仰が薄まるか分からんというのにな……』
目の前の男性は、腕を組みながらあごに手を当てて考え込んでいた。
「えっと、波均命様ですよね?」
『いかにも。海の神として祀られている波均命とは俺のことだ。やはり、兄者からの差し金か』
太い眉と立派なひげのせいでかなりの圧力を感じる。私は思わず怖くなってしまう。
でも、転生した世界に戻らなきゃいけないんだから、私はここで怯むわけにはいかなかった。
ぐっとお腹に力を入れて、私は耐えている。
『おっと、すまんな。感謝せねばならぬというのに、怖がらせてしまっては本末転倒だ。そこに腰を掛けるといい』
「あっ、はい」
波均命様に言われて、私は石段に腰を下ろす。私が座ったのを確認すると、波均命様は私の前で胡坐をかいていた。
『して、小娘。お前からは何か不思議な力を感じるな。望みは何なのだ?』
「えっとですね……」
私の目をしっかりと見て質問をしてきたので、いろいろと自分の身に起きていたことを波均命様に話した。
元はこちらの世界の人間で、波にさらわれて転生して、再びこちらの世界に戻ってきたことを。
『……なんとも難儀な話よな?』
「……私もそう思いますよ」
聞き返されて、私はこくりと首を縦に振るしかなかった。
『なるほど、その生まれ変わった先の世界に戻りたいというわけか。で、俺にその方法を知らないかと尋ねたいというわけか。そのために神社をきれいにしてくれたのだな?』
「はい、その通りです。どうでしょうか、何か分かりますか?」
改めて問い掛けられた私が肯定すると、波均命様は腕を組んで唸り始めた。少しすると、組んでいた腕をほどいた。
『うん、まったく分からんな』
その時の発言に、私はずっこけそうになってしまう。
『悪いが、現段階では情報が少なすぎて俺には分からん。しかし、時期が悪い。そろそろ神の集まりに参加せねばならぬからな』
「そっか、神無月ですもんね」
『うむ。戻ってくるまでの間、小娘が調べられるだけ調べておいてくれ。今の暦なら、十一月の下旬には戻ってくるからな』
「……分かりました。頑張ってみます」
結局、こちらの神様の手を借りられるのはまだ先みたいだった。
でも、話ができただけよかったかな。
その後、私は波均命様にマーメイドの魔法を見せることになった。
『おっと、誰か来おったな。では、俺はこれで失礼するとしよう。またひと月後にな』
「はい。お話を聞いてい下さり、ありがとうございました」
私は頭を下げて感謝する。
「あっ、いつの間にか猫がいないわ」
ふと現実に戻ると、隣にいたはずの猫が姿を消していた。
ちょっと残念に思うと、私は神社から帰ることにする。
「おお、マイ。迎えに来たぞ」
「誰かって、おじいちゃんだったんだ」
「うん? まあいい。話は後で聞かせてもらうとしようかの。とにかく帰るぞ」
「うん、おじいちゃん」
私はおじいちゃん先生に手を引かれながら、神社を後にしたのだった。
いろいろと心残りをその場に残したまま。
0
あなたにおすすめの小説
デネブが死んだ
ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。
夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。
嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。
アデラインは病弱のデネブを元気付けた。
原因となる病も完治した。それなのに。
ある日、デネブが死んだ。
ふわっとしてます
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる