出戻りマーメイド

未羊

文字の大きさ
27 / 47

第27話 心の内

しおりを挟む
 カリカリカリカリ……。

 どこからともなく、ひっかく音が聞こえてくる。
 私が窓の外を見ると、一匹のトラ猫が姿を見せていた。

「ああ、どこに行っていたのよ」

 私は窓を開けて猫を部屋の中に招き入れる。
 窓からぴょんと飛び降りた猫だったが、着地する直前にその姿を変える。

「まったく、窮屈な姿だにゃ……」

「仕方がないでしょう。ばれないように接近するには、その姿になってもらうしかなかったんだから」

 猫はまるで人間のような姿に変身している。ただし、全身は毛むくじゃらで、骨格だけが人間のようになったような感じの姿だ。

「主様も、人が悪いですにゃ」

「何を言うのよ。私の運命の相手を手に入れるには、あの女が邪魔だったんだから」

「それで、その女に似ているあの子を、あたしに監視させてるですかにゃ。猫使いが荒いのにゃあ~……」

「私の使いのくせに、主に逆らうというの?」

「みゃっ!」

 人型になった猫の頭を、私は思いっきり拳で叩いてやった。
 まったく、主に逆らうとはしつけを失敗したかしらね。

「で、どうだったのかしら。波均命と接触してたのかしら」

「はいですにゃ。熱心に掃除をしていたこともあって、波均命の再臨に成功していましたにゃ。ただ、時期はちょうど神無月、協力を得られるには一か月以上かかりそうですにゃ」

「そうね。ちょうどよかったわ」

 窓を閉めた私は、ベッドに腰掛けながら使いの猫と話をしている。
 ただ、ここは自宅なので、いつ家族が入ってくるか分からない。そこだけは神経を使わないといけないのは、ちょっと窮屈だわ。

「それで、あの女の正体は分かったかしら」

「はい。波均命との話を、あの女の膝の上で聞いていましたからにゃ。ああ、おいしそうなにおいがしたので、ついかんじゃいましたけれど」

「そんなことはどうでもいいわよ。聞いた話を私に報告してちょうだい」

「はいですにゃ……」

 くすくすと気味悪く笑っているから、私はとっとと報告をするように促しておく。残念そうな顔をするけれど、しょせんはあなたは私の使いでしかないのよ。主の言うことは聞きなさい。
 使いである猫は、私に対していろいろと報告をし始める。そこで聞いた話は、いろいろと興味深いことばかりだった。

「というわけですにゃ。人の気配がしたので、あたしは途中で離脱しましたにゃ。主以外に飼われる気はないのにゃ」

「なるほどね……」

 私はあごに手を当てながら、にやりと笑っていた。
 あのピンク色の髪の変な女の子、やっぱり思っていた通りの存在だったみたいね。
 それにしても、私が力を使って異世界に送り込んでやったのに、どうやってこっちの世界に戻ってきたというのかしら。まったく不愉快極まりない話だわね。

「でも、あの子は生まれ変わった世界に戻りたがっていますのにゃ。主の懸念は実現しないと思いますにゃ」

 猫が気楽なことを言うものだから、私はその両頬を思いっきり引っ張ってやる。

「い、痛いですのにゃ……」

「のんきなことを言うんじゃないわよ。時間がかかればかかるほど、もしかしたらというのがあるかもしれないでしょ」

「さ、さっきと態度が違いますにゃ……」

「波均命の協力の話でしょ? それはあれでも一応神様だから、協力されては私のことが露見しかねないからよ。あれより低位とはいえど、私だって似たような存在なんですからね」

「む、難しいことを言いますのにゃ」

 引っ張られた頬を擦りながら、使いの猫は文句を言っている。
 まったく、これだから動物というのは頭が悪いというのよ。
 いろいろな事情を天秤にかけてみたら、あの女一人で解決してとっとと帰ってもらうのがいいわけなのよ。

「……あの人の魂は、私のものなんだからね。誰にも渡さないわ」

「だったら、もうちょっとシチュエーションを考えればよかったですにゃ」

「し、しちゅ……? まったく、猫の分際で難しい言葉を知っているのね」

「いたたたた……。いちいち頬を引っ張らないでほしいにゃ」

 頭に来たので、私はつい猫の頬を引っ張ってしまう。なんというかよく伸びて面白いものだから、どうしても引っ張ってしまうのよ。
 でも、いやそうな顔をしているから、このくらいで勘弁してあげましょう。

「うう、絶対伸びたにゃ」

「文句を言っていないで、さっさと働きなさい。あの女の監視を、続けるのよ」

「……分かりましたにゃ」

 猫はそう言うと、人型から元の猫の姿に戻る。私が窓を開けると、そこから身軽な動きで飛び出していった。
 なんとも不安なところがあるので、私は大きなため息をついてしまう。
 窓を閉めると、私はベッドの上に寝転がった。

「やっと……、やっと思い人の生まれ変わりを見つけたというのに……。すっかり世の中は変わっているわね」

 あおむけから横向きにごろりと転がる。

「でも、選択を失敗したとしても、私は絶対のあの人を手に入れる。誰にも邪魔はさせないわ。だから、さっさと異世界に戻ってしまいなさい、浅瀬真衣!」

 再び天井を見て、つい声に出してしまう。
 いけない。あまり感情的になってはいけないわね。
 一度目を閉じて気持ちを落ち着けると、私はベッドから立ち上がる。
 面倒だけど、今の私にはやらなきゃいけないことがあった。
 なんで、未熟とはいえ神になった私がこんなことをしなきゃいけないのか。
 いろいろと理不尽に思いながらも、私は机に向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

デネブが死んだ

ありがとうございました。さようなら
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。 夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。 嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。 アデラインは病弱のデネブを元気付けた。 原因となる病も完治した。それなのに。 ある日、デネブが死んだ。 ふわっとしてます

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

処理中です...