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Mission219
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翌日、予定通りに国境にノーゼン国の首長が到着する。
首長という割には、あまりきらびやかな装飾品をつけているわけではなかった。むしろ兵士たちより見た目は地味だ。
その一方、とても目立つ装飾品が頭にあり、それが特殊な立場の人間だということを物語っている。
「お前が、ファルーダンからの使者か」
到着するなり、アインダードに対して声をかけてくる。
「その通りでございます。俺がアインダード・オーロル・ファルーダン。ファルーダン王国の第一王子でございます」
首長相手ということで、とても丁寧な態度で頭を下げるアインダード。とても普段の脳筋な行動からは想像できない態度である。
オートマタは淡々としているものだが、普段を知り尽くしているだけに驚きを禁じ得ない。
「これはご丁寧に。我はノーゼン国の首長ホクフウだ」
見た目はかなりお年寄りに見える伸びに伸びた髪と髭。ところが、声の感じはまだ三十代といったところだろうか。なんとも見た目からはつかみにくい人物だ。
「早速問う。何用にてここまでやって来た」
ホクフウはじっとアインダードを睨み付けている。
「おお、怖いねぇ。そんな目で見てくれるんじゃないぜ」
分厚い眉毛の下から覗き込む眼光に、アインダードはびびったかのような反応を見せている。
「俺たちはマスカード帝国とノーゼン国の国境付近が緊張状態にあるからってことで、連中の代わりに様子を見に来ただけだ。実際は平和そうで安心したよ」
「ふん。勝手なことを抜かしよるわ。怪しい動きを見せたのは、そっちが先だろうに」
ホクフウは不機嫌そうに語っている。
現状はお互いに不信感を募らせているという状況のようだ。
この状況を打開するためには、マスカード帝国の現状を見てもらうのが一番だろう。
アインダードは堂々とした態度を見せる。
「なんでも国境から少し離れたところにある、マスカード帝国の動きが気になったらしいな」
「その通りだ。妙な建造物が建つのが見えたゆえ、我らは警戒をしておるというのだ」
「なるほどなるほど。遠目に見たから、事実が伝わらずにこういう状況になってわけだな」
アインダードは両手を腰に当てて、呆れたような表情を向けている。
「貴公、我らを侮辱するつもりか?」
「いや、そういうつもりはないぜ。なんというかな、事実を見てもらった方が早いと思っただけさ。この国の成り立ち上、疑念も持つのもよく分かるしな」
アインダードは笑顔を絶やさずに話をしている。そんな態度ゆえに、ホクフウたちの感情を逆なでにしていることに、アインダードはまったく気が付いていない。
「貴様!」
取り巻く兵士がアインダードの態度に怒りをにじませている。
だが、ホクフウがそれを制止する。
アインダードとそのオートマタであるドルを警戒しているのだ。
さすがに首長ともなれば、オートマタの詳しいことにも聞き及んでいるゆえの判断だろう。
「とりあえずだ。そちらさんが気になっているものを、間近で見てもらうのが一番早い。俺がいるからマスカードの兵士とはいざこざにならないだろうからな」
アインダードはちらりとマスカード帝国の方へと視線を向けている。
ホクフウはそもそも怪しいものの正体を確かめるためにやって来た。そのため、アインダードの態度と言い分を天秤にかけて悩んでいるようだった。
しばらく黙り込んでいたホクフウが、ようやく結論を出す。
「よし、アインダードといったな。見せたいものとやらのところまで案内致せ」
「首長!」
改めて出した結論に、兵士たちが驚いている。本気でマスカード帝国の中へと乗り込んでいくつもりのようだ。
だが、そのような方針を最初から聞いていた兵士たちは、戸惑いを見せても止めようとすることはしなかった。
ホクフウは、一度決めたら頑として譲らないところがあるからだ。
それに加え、この数日間の付き合いでアインダードのことがなんだか信じられるような気がしてきたというのも大きい。
このような状況から、ノーゼン国の兵士たちは、首長と一緒に数名が同行してマスカード帝国の視察を行う決定に従ったのである。
「よし、決まりだな。俺も初めて見た時には驚いたものだからな。きっとホクフウ殿たちも驚かれることだろう」
アインダードは白い歯を見せながら、得意げに笑っていた。
そんなこんなといろいろとごたごたしたところはあったが、ノーゼン国の首長であるホクフウと数名の兵士たちに、鉄道というものを実際に体験してもらうこととなった。
一日の休みを挟んで、アインダードたちは現在地から最も近いマスカード帝国の鉄道駅へと向かう。
百聞は一見に如かず。
この言葉の通りに、ノーゼン国の首長を無事に納得させることができるのか。
アインダードの性格を考えると、なにかと不安に感じてしまうドルである。
なにせ、アインダードの独断で、ノーゼン国の者をマスカード帝国内に足を踏み入れさせてしまったのだから。
(これは、クリム皇帝に謁見をせねばなりませんね……)
ドルの気苦労は、どうも絶えなさそうだった。
首長という割には、あまりきらびやかな装飾品をつけているわけではなかった。むしろ兵士たちより見た目は地味だ。
その一方、とても目立つ装飾品が頭にあり、それが特殊な立場の人間だということを物語っている。
「お前が、ファルーダンからの使者か」
到着するなり、アインダードに対して声をかけてくる。
「その通りでございます。俺がアインダード・オーロル・ファルーダン。ファルーダン王国の第一王子でございます」
首長相手ということで、とても丁寧な態度で頭を下げるアインダード。とても普段の脳筋な行動からは想像できない態度である。
オートマタは淡々としているものだが、普段を知り尽くしているだけに驚きを禁じ得ない。
「これはご丁寧に。我はノーゼン国の首長ホクフウだ」
見た目はかなりお年寄りに見える伸びに伸びた髪と髭。ところが、声の感じはまだ三十代といったところだろうか。なんとも見た目からはつかみにくい人物だ。
「早速問う。何用にてここまでやって来た」
ホクフウはじっとアインダードを睨み付けている。
「おお、怖いねぇ。そんな目で見てくれるんじゃないぜ」
分厚い眉毛の下から覗き込む眼光に、アインダードはびびったかのような反応を見せている。
「俺たちはマスカード帝国とノーゼン国の国境付近が緊張状態にあるからってことで、連中の代わりに様子を見に来ただけだ。実際は平和そうで安心したよ」
「ふん。勝手なことを抜かしよるわ。怪しい動きを見せたのは、そっちが先だろうに」
ホクフウは不機嫌そうに語っている。
現状はお互いに不信感を募らせているという状況のようだ。
この状況を打開するためには、マスカード帝国の現状を見てもらうのが一番だろう。
アインダードは堂々とした態度を見せる。
「なんでも国境から少し離れたところにある、マスカード帝国の動きが気になったらしいな」
「その通りだ。妙な建造物が建つのが見えたゆえ、我らは警戒をしておるというのだ」
「なるほどなるほど。遠目に見たから、事実が伝わらずにこういう状況になってわけだな」
アインダードは両手を腰に当てて、呆れたような表情を向けている。
「貴公、我らを侮辱するつもりか?」
「いや、そういうつもりはないぜ。なんというかな、事実を見てもらった方が早いと思っただけさ。この国の成り立ち上、疑念も持つのもよく分かるしな」
アインダードは笑顔を絶やさずに話をしている。そんな態度ゆえに、ホクフウたちの感情を逆なでにしていることに、アインダードはまったく気が付いていない。
「貴様!」
取り巻く兵士がアインダードの態度に怒りをにじませている。
だが、ホクフウがそれを制止する。
アインダードとそのオートマタであるドルを警戒しているのだ。
さすがに首長ともなれば、オートマタの詳しいことにも聞き及んでいるゆえの判断だろう。
「とりあえずだ。そちらさんが気になっているものを、間近で見てもらうのが一番早い。俺がいるからマスカードの兵士とはいざこざにならないだろうからな」
アインダードはちらりとマスカード帝国の方へと視線を向けている。
ホクフウはそもそも怪しいものの正体を確かめるためにやって来た。そのため、アインダードの態度と言い分を天秤にかけて悩んでいるようだった。
しばらく黙り込んでいたホクフウが、ようやく結論を出す。
「よし、アインダードといったな。見せたいものとやらのところまで案内致せ」
「首長!」
改めて出した結論に、兵士たちが驚いている。本気でマスカード帝国の中へと乗り込んでいくつもりのようだ。
だが、そのような方針を最初から聞いていた兵士たちは、戸惑いを見せても止めようとすることはしなかった。
ホクフウは、一度決めたら頑として譲らないところがあるからだ。
それに加え、この数日間の付き合いでアインダードのことがなんだか信じられるような気がしてきたというのも大きい。
このような状況から、ノーゼン国の兵士たちは、首長と一緒に数名が同行してマスカード帝国の視察を行う決定に従ったのである。
「よし、決まりだな。俺も初めて見た時には驚いたものだからな。きっとホクフウ殿たちも驚かれることだろう」
アインダードは白い歯を見せながら、得意げに笑っていた。
そんなこんなといろいろとごたごたしたところはあったが、ノーゼン国の首長であるホクフウと数名の兵士たちに、鉄道というものを実際に体験してもらうこととなった。
一日の休みを挟んで、アインダードたちは現在地から最も近いマスカード帝国の鉄道駅へと向かう。
百聞は一見に如かず。
この言葉の通りに、ノーゼン国の首長を無事に納得させることができるのか。
アインダードの性格を考えると、なにかと不安に感じてしまうドルである。
なにせ、アインダードの独断で、ノーゼン国の者をマスカード帝国内に足を踏み入れさせてしまったのだから。
(これは、クリム皇帝に謁見をせねばなりませんね……)
ドルの気苦労は、どうも絶えなさそうだった。
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