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第144話 念のために
朝を迎えた時、ようやく航宙船は横穴の近くまで移動できた。
「や、やっと、ここまで来たか……」
「夜通し頑張ったかいが、あるな……」
アーツもレンクスも徹夜でボロボロになっていた。
『うう、僕は眠いよう……』
『私ももうダメ……』
『あたしももう休ませてもらいますね』
恐竜たちもかなり眠たそうである。
レザールはずっとアーツたちと一緒に航宙船を押し続けていたし、エルブはブランを背中に乗せて運んでいたし、シエルは周囲の警戒を常に怠っていなかった。三者三葉の役目を果たしていたのだから、疲れていないわけがないのである。
「むにゃ……。もう朝?」
エルブの背の上で、ブランが目を覚ます。
「おう、朝になったし、横穴まで戻ってきたぜ」
「しっかし、あの状況でよく寝てられるな。ロボットがいたから意思疎通はできたが、大したもんだぜ」
「そ、そっかぁ……」
アーツにお小言を言われて、ブランはちょっと恥ずかしそうに小さくなっていた。
「ブラン、目を覚ましたのならちょうどいいや。朝食の後でもいいから、ニックと一緒に航宙船をチェックしてくれないか?」
「うん、分かったわ。みんなはゆっくり休んでよね」
「ああ、そうさせてもらうよ」
アーツと約束を交わしたブランは、代わりに早く休むようにみんなに言い聞かせている。
さすがに徹夜による力作業は相当な疲労になっているらしく、今にも倒れてしまいそうな感じだった。
仕方がないので、ブランは中からオランジュたちを呼び寄せて、眠そうなみんなを中へと案内したのだった。
朝食を終えたブランは、アーツに言われた通り、ニックを連れて航宙船へと連れてきた。なぜかクロノも一緒だ。
「クロノはどうして来たの?」
「故障箇所があったら、私の能力で直せるかなって思って。もちろん、メインはニックの出番だけど」
『俺は能力の代償の肩代わりのために来たぜ』
よく見ると、後ろにはヴェールがいた。ノワールは相変わらず二百年前の航宙船の発掘に大忙しだし、オランジュたちはアーツたちの面倒を見ている。
なので、自動的に残ったヴェールが、クロノのためにやって来たというわけだった。
「一応ロボットから詳しい状況は聞きました。先日のチェックでは目立った損傷はありませんでしたが、ここまで運んできたのですから、何かある可能性はあります。問題点は僕に任せて下さいね」
ニックを眼鏡をくいっと上げて、目を光らせていた。
ニックが操作をしてハッチを開けると、そろって航宙船の中へと入っていく。
中の様子はさすがに変化はない。以前にロボットが足を踏み入れて付いた傷もそのままだった。
「この壁の傷、直しておくべきですね……」
「そうね。これだけでもアーツが頭抱えてたものね」
やはり親に買ってもらったというのが大きいのだろう。自慢したくなるほど大事に思っているみたいなので、直しておきたいというものである。
「クロノ、やむをえません。直せますか?」
「えっ? で、できると思うわ。ヴェール、お願いね」
『任せろ』
右の鎌を差し出し、クロノの左手に触れる。これで肩代わりの準備は完了だ。
すでに死んでしまっているために、ブランの眷属たちは時間の影響を受けない。そのため、クロノの時間操作による代償を、その身に受けることができるのだ。
「航宙船の内壁の傷よ。傷がつく前まで戻って」
クロノが元の状態を思い描きながら、右手を航宙船の内壁にかざして能力を発動させる。
ロボットたちの横幅が、この航宙船の通路ギリギリだったため、このように擦って傷がついてしまっていた。
その傷が、クロノの能力によってじわじわと消えていっている。
ただ、時間的に数十日も前のために、クロノに跳ね返ってくる日数は数百日分にも及ぶだろう。その能力のペナルティを、ヴェールが代わりに受けている。
『ぐっ、さすがにかなり体にくるもんだな……』
「ヴェール!」
『主よ、触れてくれるな。今の俺に触れては、クロノのペナルティを主も受けてしまう。すべてが落ち着くまで、黙って見ていてくれ』
「ヴェ、ヴェール……」
苦しそうにする眷属の姿を、ブランはただ見守ることしかできなかった。
しばらく航宙船の内壁を眺めていると、ロボットが引っかけたことでできた擦り傷が、じわじわと消えていっている。ただ、時間を巻き戻すという能力のために、初めのうちはまったく変化がなかったため、クロノは少し焦ったようである。
「ふぅ……。元に戻りましたね」
「時間を巻き戻すという能力ですから、変化が出るまで時間がかかりましたね」
「ええ。そのせいで能力が発動してないんじゃないかって疑っちゃったわよ……。ヴェールが苦しまなきゃ、本気で疑ってたでしょうね」
クロノの左手に触れていたヴェールは、呼吸がかなり乱れていた。そのくらい、時間操作の能力にはペナルティがあるのである。
この様子を見る限り、以前マザーコンピュータが話していた「一瞬で老けた」という証言に説得力が出てくるのである。
「さて、擦れた跡も直りましたし、航宙船の状態を確認しましょうか」
「おーっ!」
ニックの言葉で、手分けして航宙船の状態をチェックし始めるブランたちなのであった。
「や、やっと、ここまで来たか……」
「夜通し頑張ったかいが、あるな……」
アーツもレンクスも徹夜でボロボロになっていた。
『うう、僕は眠いよう……』
『私ももうダメ……』
『あたしももう休ませてもらいますね』
恐竜たちもかなり眠たそうである。
レザールはずっとアーツたちと一緒に航宙船を押し続けていたし、エルブはブランを背中に乗せて運んでいたし、シエルは周囲の警戒を常に怠っていなかった。三者三葉の役目を果たしていたのだから、疲れていないわけがないのである。
「むにゃ……。もう朝?」
エルブの背の上で、ブランが目を覚ます。
「おう、朝になったし、横穴まで戻ってきたぜ」
「しっかし、あの状況でよく寝てられるな。ロボットがいたから意思疎通はできたが、大したもんだぜ」
「そ、そっかぁ……」
アーツにお小言を言われて、ブランはちょっと恥ずかしそうに小さくなっていた。
「ブラン、目を覚ましたのならちょうどいいや。朝食の後でもいいから、ニックと一緒に航宙船をチェックしてくれないか?」
「うん、分かったわ。みんなはゆっくり休んでよね」
「ああ、そうさせてもらうよ」
アーツと約束を交わしたブランは、代わりに早く休むようにみんなに言い聞かせている。
さすがに徹夜による力作業は相当な疲労になっているらしく、今にも倒れてしまいそうな感じだった。
仕方がないので、ブランは中からオランジュたちを呼び寄せて、眠そうなみんなを中へと案内したのだった。
朝食を終えたブランは、アーツに言われた通り、ニックを連れて航宙船へと連れてきた。なぜかクロノも一緒だ。
「クロノはどうして来たの?」
「故障箇所があったら、私の能力で直せるかなって思って。もちろん、メインはニックの出番だけど」
『俺は能力の代償の肩代わりのために来たぜ』
よく見ると、後ろにはヴェールがいた。ノワールは相変わらず二百年前の航宙船の発掘に大忙しだし、オランジュたちはアーツたちの面倒を見ている。
なので、自動的に残ったヴェールが、クロノのためにやって来たというわけだった。
「一応ロボットから詳しい状況は聞きました。先日のチェックでは目立った損傷はありませんでしたが、ここまで運んできたのですから、何かある可能性はあります。問題点は僕に任せて下さいね」
ニックを眼鏡をくいっと上げて、目を光らせていた。
ニックが操作をしてハッチを開けると、そろって航宙船の中へと入っていく。
中の様子はさすがに変化はない。以前にロボットが足を踏み入れて付いた傷もそのままだった。
「この壁の傷、直しておくべきですね……」
「そうね。これだけでもアーツが頭抱えてたものね」
やはり親に買ってもらったというのが大きいのだろう。自慢したくなるほど大事に思っているみたいなので、直しておきたいというものである。
「クロノ、やむをえません。直せますか?」
「えっ? で、できると思うわ。ヴェール、お願いね」
『任せろ』
右の鎌を差し出し、クロノの左手に触れる。これで肩代わりの準備は完了だ。
すでに死んでしまっているために、ブランの眷属たちは時間の影響を受けない。そのため、クロノの時間操作による代償を、その身に受けることができるのだ。
「航宙船の内壁の傷よ。傷がつく前まで戻って」
クロノが元の状態を思い描きながら、右手を航宙船の内壁にかざして能力を発動させる。
ロボットたちの横幅が、この航宙船の通路ギリギリだったため、このように擦って傷がついてしまっていた。
その傷が、クロノの能力によってじわじわと消えていっている。
ただ、時間的に数十日も前のために、クロノに跳ね返ってくる日数は数百日分にも及ぶだろう。その能力のペナルティを、ヴェールが代わりに受けている。
『ぐっ、さすがにかなり体にくるもんだな……』
「ヴェール!」
『主よ、触れてくれるな。今の俺に触れては、クロノのペナルティを主も受けてしまう。すべてが落ち着くまで、黙って見ていてくれ』
「ヴェ、ヴェール……」
苦しそうにする眷属の姿を、ブランはただ見守ることしかできなかった。
しばらく航宙船の内壁を眺めていると、ロボットが引っかけたことでできた擦り傷が、じわじわと消えていっている。ただ、時間を巻き戻すという能力のために、初めのうちはまったく変化がなかったため、クロノは少し焦ったようである。
「ふぅ……。元に戻りましたね」
「時間を巻き戻すという能力ですから、変化が出るまで時間がかかりましたね」
「ええ。そのせいで能力が発動してないんじゃないかって疑っちゃったわよ……。ヴェールが苦しまなきゃ、本気で疑ってたでしょうね」
クロノの左手に触れていたヴェールは、呼吸がかなり乱れていた。そのくらい、時間操作の能力にはペナルティがあるのである。
この様子を見る限り、以前マザーコンピュータが話していた「一瞬で老けた」という証言に説得力が出てくるのである。
「さて、擦れた跡も直りましたし、航宙船の状態を確認しましょうか」
「おーっ!」
ニックの言葉で、手分けして航宙船の状態をチェックし始めるブランたちなのであった。
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