魔王聖女

未羊

文字の大きさ
56 / 200

第56話 お誘いを受ける元魔王

しおりを挟む
 このみんなが寒がっている中、ゾディアーク伯爵領の領都に馬に乗った騎士がやってきた。騎士や馬のまとっている衣装についた紋章から、ハデキヤ帝国の騎士だということが分かる。

(まったくなんなのだ。外が騒がしすぎないか?)

 窓から雪景色に染まった教会の庭を眺めているアリエスは、廊下から聞こえてくる足音や声に煩わしさを感じていた。
 雪が思ったよりも降ったので、今日の予定がかなりキャンセルになっている。そのため暇を持て余しており、アリエスはゆっくり雪景色を眺めていたのだ。なにせ、魔王城の周りにもこんなに雪が降ったことがないので、アリエスにとっては珍しいものだったからだ。
 ところが、アリエスの気持ちとは裏腹に、外の足音が自分の部屋に近付いてくる。足音は部屋の外で止まり、続けて扉を叩く音が響いた。

「アリエス様、司祭様がお呼びでございます」

 女性の神官の声が響いてくる。

「分かりました。すぐに向かいます」

 司祭はこの教会では一番上の人物である。その人からの呼び出しとあれば、応じなければならない。なにせここまで育ててもらった恩というものもある。アリエスはおとなしく呼び出しに応じ、司祭の部屋へと向かって行った。

 司祭の部屋に到着すると、自分を呼びに来た神官が扉を叩いて報告を行う。

「司祭様、聖女様をお連れ致しました」

「ご苦労、入りなさい」

「はい」

 神官は扉を開けるとアリエスを見る。

「聖女様、お入り下さい」

「はい。それでは失礼致します」

 アリエスが扉の中へと入っていく。
 部屋の中には三名の騎士が座っており、アリエスは驚いている。

「アリエス、よく来ましたね。そちらに座りなさい」

「はい、司祭様」

 アリエスは司祭の隣の席に座る。ちょうど騎士たちと向かい合う席だ。

(なぜこんな時に騎士たちがやって来ているんだ? まったく、こういう日くらい静かに過ごさせてほしいものだが……)

 アリエスは不満たっぷりである。
 なにせ外は移動も困るくらいに真っ白に雪が積もっている。
 しかし、ハデキヤ帝国から来たのであるのならば、強行するのも無理はないのかもしれない。

「新年会、ですか?」

「はい、我がハデキヤの聖女様が、ぜひともアリエス様をお招きしたいと申されまして……」

「それで、我ら遠路はるばるやって来たというわけでございます」

 そう、ハデキヤ帝国に存在する、新年会を行うという風習のためである。一年最初の景気づけというのが、その目的だ。帝国らしいといえば、実に帝国らしい話である。

「話は分かりました」

 司祭はそういうと、アリエスの方へと視線を移す。

「アリエスはどうなさいますかね。どうやらあちらの聖女様が関わっていらっしゃるようですが、同じ聖女でありますから、断ることもできますよ?」

 司祭はアリエスに対してこのようにアドバイスを送っている。
 なるほど、聖女同士であるならそういうこともできるのかと、アリエスは考え込んでいる。
 しかし、せっかく向こうからのお誘いである。これを断る理由もない。

「分かりました。招待をお受けいたします。せっかくのお誘いですし、他の聖女様たちと交流をしてみたいですから」

 アリエスがこう答えると、騎士たちはほっとした表情をしていた。
 司祭も特に反対する様子もないので、アリエスのハデキヤ帝国訪問はすんなりと決まったようである。

「そうなりますと、護衛騎士であるカプリナ様をお呼びせねばなりませんね」

 司祭がこう告げれば、神官の一人がすぐさまゾディアーク伯爵邸へと向かって行く。
 それを見届けると、司祭は騎士たちに話し掛ける。

「今日はこの通り雪が降り続いております。アリエスの支度もありますので、今日は教会に泊まっていかれてはいかがでしょうか」

「これはかたじけのうございます。それでは、今晩はお世話になります」

 ハデキヤ帝国からやってきた騎士たちは、ひと晩教会に泊まっていくことになった。

 話がまとまると、アリエスは自分の部屋に戻っていく。それと同時に、護衛を務めるサハーを呼んでくるように神官に頼んでいた。
 しばらくすると、部屋の扉が叩かれ、サハーが姿を現した。

「なんでございましょうか、アリエス様」

「サハー、ハデキヤ帝国に向かうことになりました」

「え?」

 突然のことに、サハーの目が丸くなっている。

「ですから、ハデキヤ帝国の聖女様からの招待で、新年間に参加することになりました。あなたは私の護衛です。カプリナと共にハデキヤ帝国について来て下さい」

「ええっ?! そいつは、困りますね。聖女直々の招待となると、私のことは確実に見抜かれますよ?」

 サハーは難色を示している。

「そうですか。ハデキヤはこことは違い、暖かいと聞きます。寒さに弱いサハーが、ここで冬を越せるとは思えませんけれど?」

「うっ……」

 アリエスの言葉に、サハーは固まっている。
 その通りだ。サハーはフィシェギルという半魚人の種族。寒さにはとても弱いのだ。
 今年の冬はこと雪が深く、かなり寒い。サハーに耐えきれるかどうか分からないのである。
 この条件を付きつけられたサハーは、観念したように頭を下げてしまう。

「分かりました。ですが、何かあった時には守って下さいよ?」

「護衛が何を言っているのですか。多少の擁護はしますけれど、自分でなるべく守ってみせなさい」

「……努力します」

 サハーはそうとだけ答えると、他の兵士たちのところへと戻っていった。

 こうして、アリエスは年越しを初めて他国で行うことになった。
 自分を招いたオーロラという聖女は一体どんな人物なのか。アリエスは非常に楽しみになっているようである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...