魔王聖女

未羊

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第86話 先輩聖女に慕われる元魔王

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 キャサリーンと話していた聖女エリスは、その夜かなり凹んでいた。
 自分の力不足を責められてはいたからだ。

「はあ、どうしてボクは聖女として選ばれながらも、こう落ちこぼれなのかしら……」

 ベッドで横になりながら、天井を見上げている。

「というか、ボクに聖女なんて無理なんですよ、本当なら」

 ベッドから立ち上がり、かぶっている帽子を脱ぐ。
 青い髪の毛の量が多いのでわかりにくいが、よく見ると小さな角のようなものが見えている。
 それは、ピスケースに見られるようなちょっとした突起物だった。

「ボクは、本当は魔族なんだ。ただ、神聖能力を使えるだけの特殊な……」

 なんということだろうか。
 ゼラブ国の聖女は、実は魔族だったのだ。
 普段は分からないように髪の毛をまとめ上げ、さらに帽子をかぶって見えないようにしている。
 エリスが特殊な魔族ということは、あのキャサリーンが気が付かないことからもよく分かる。
 魔族と見れば、瞬時に飛んできて消し去るような聖女が見逃しているのだ。それだけなら、魔族としては相当な強みではあるはずである。

 ところが、エリスはなぜか聖女をしている。
 それというのも、母親からの遺言があるからだ。

 エリスの母親は、元々教会に所属している神官だった。
 ところが、とある時に魔族との交戦に巻き込まれてしまう。
 圧倒的な力の前に屈してしまうエリスの母親たちだったが、その時に助けてくれたのが、予想もしなかった人物だった。
 当時の魔王である。
 魔王の手によって介抱されたエリスの母親は、無事に祖国であるゼラブの地を踏むことができた。

 それからどれだけ経った時だろうか。エリスの母親は、体に異変を覚えた。
 その時、エリスを身ごもっていることを知ったのである。
 ところが、エリスの母親には、男性との浮いた話があったわけではなかった。なので、どうして身ごもっているのかまったく分からなかった。
 しかし、身ごもったからには責任をもって産むことを決意。
 その結果、生まれたのがエリスである。
 エリスの頭に小さな突起を見つけた母親は、そのことで父親が誰なのかを悟る。
 いわずもがな魔王だった。なにせ、母親がまともに接触した魔族の男性は、魔王しかいなかったのだから。
 もちろん、魔王は手を出してはいない。彼の強すぎる魔力が、妙な奇跡を起こしていたのだ。

 魔族との混血でありながらも、神聖力の強かったエリスは、聖女として育てられることになった。
 今年十三歳になるエリスは、聖女として活動はしているものの、その力は十分に扱えていない。キャサリーンに叱責されるくらいに弱いのだ。
 現状のエリスは、その神聖力の強さで聖女に選ばれたに過ぎない。つまり、未熟な聖女なのである。
 そのことは、今もエリスに大きな影を落としている。

「魔族でありながら、対極の存在である聖女のボク……。このままうまくやっていけるのでしょうか」

 エリスは大きなため息をついている。
 人間と魔族の混血であり、神聖力の強いエリスは、なにかと中途半端な存在だ。
 母親に相談をしたくても、エリスが教会に所属するようになってからしばらくののち、病気が原因で亡くなっている。
 エリスの頭の角のことは知る人が限られているし、エリスもその人たちを信用しきれていない。エリスは孤立した状態なのである。

「はっ、そうだ!」

 突然、大きな声を出すエリス。

「そうですよ。サンカサス王国のアリエス様を頼りましょう」

 何を思いついたのかと思えば、去年聖女となったばかりのアリエスを頼ることだった。
 自分よりもふたつも若いというのに、自分よりも強い神聖力を持っている聖女アリエス。エリスにとって、その姿はかなりまぶしく映っていたのだ。

「アリエス様は、どことなくボクと似た雰囲気を持っていらっしゃいます。もしかしたら、彼女といれば、ボクの力の成長のカギが見つかるかもしれません」

 思い立ったが吉日と言わんばかりに、明かり取りの魔法を使ったエリスは机に向かう。
 そして、一筆認めることにしたのである。

「できました!」

 書き上がった手紙を手に、ぱあっと表情を明るくしている。こういうところを見ると、年相応の少女だと思われる。
 手紙を封筒に入れて封をしたエリスは、うふふと笑いながら、手紙に口づけをしている。
 そうかと思えば、手紙を抱きしめて部屋の中で踊り始めている。

「ああ、アリエス様。あの方をもっと間近で見てみたいです。優しい方のような気がしますので、きっとこの手紙にいいお返事を下さるでしょうね」

 エリスには謎の自信が満ちあふれていた。

「さあて、明日のを楽しみにして、いい加減におとなしく寝ましょう。またキャサリーン様に叱られてしまいます」

 手紙を机の上に置くと、エリスは帽子をかぶり直してベッドに入り直す。
 そして、布団を深くかぶり、笑顔を浮かべて眠りについたのだ。

 この時、はるか遠くのサンカサス王国のゾディアーク伯爵領にいるアリエスが盛大なくしゃみをしていたことを、エリスは知る由もないのである。
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