120 / 156
第120話 覚悟を決める元魔王
しおりを挟む
「ぐぎゃあああっ!!」
ラースの断末魔が響き渡る。
魔王がキャサリーンに討たれた後、好き勝手に魔王軍を操っていた報いを受けたのだ。
恐怖で支配されていた上に、いいように操られていた魔族たちからは、誰一人として悲しむような声は聞こえてこなかった。むしろ、この結果は当然と言わんばかりに、軽蔑の目を向けていた。
ヴァコルから放たれた炎の槍に焼かれ、ラースはその場で、その野望と共に燃え尽きたのだ。
「終わりました……ね」
アリエスはそのように言いながらも、顔はどことなく悲しそうな表情をしていた。
自分の抜けた後の魔王軍をめちゃくちゃにされたとはいえ、ラースも自分が鍛え上げてきた部下だったのだ。それゆえに、なんともいえない表情なのだろう。
「アリエス様。心中お察しいたしますが、これでよかったのですよ。あいつは力を求めた結果、力に溺れて自分が頂点だと勘違いしていたのです。これは、当然の結果なのですよ」
「そう……ですね……」
サハーに言われても、アリエスはどこか釈然としない様子だった。
たとえ、力におぼれたとはいっても、アリエスにとってはラースもまた家族の一人だったのだから。
そう、あんな魔族でも、救えなかったということがアリエスにとっては心の傷となっているのだ。
「終わったようですね」
ラースへのトドメとなる魔法を放ったヴァコルが、アリエスの隣にやって来る。
ところが、そのヴァコルの表情は険しいままだった。
その理由は、周りの魔族たちの反応だ。
聖女であるアリエスに対して、恐怖するどころか押し黙ったまま跪いているのだ。普通に考えれば、この様子はおかしな話である。だからこそ、ヴァコルは厳しい姿勢を崩さずにいるのだ。
「なぜ、魔族たちが逃げずに聖女様に跪いているのですか」
ヴァコルはとても冷たい声でアリエスに問いかけている。
アリエスは周りの状況を確認した上で、ヴァコルの顔をしっかりと見ている。
ヴァコルの表情は実に真剣そのものであり、アリエスは質問にどう答えたらいいのか、かなり悩んでいるようだ。
悩みに悩んだアリエスは、やむを得ないといった表情でヴァコルの方を見る。
「……分かりました。この場でお話したいですが、一度街の方へ戻ってからとしましょう。こういった説明は、できる限り一度で終わらせてしまった方がいいと思いますから」
アリエスの提案に、どういうわけかヴァコルは戸惑ってしまう。
「アリエス様、さすがにそれは無茶というものです。アリエス様がいらっしゃるからとはいえ、魔族が大量にやってきたら、攻めてきたと判断されるのが関の山ですよ」
横からサハーはもっともな意見を入れている。
さすがはフィシェギルの戦士である。こういう時の状況判断は的確なのだ。
「ですが、全員が私の言うことを聞いているということを見せつけるのが、一番の説得力があると思うのです。私は、この方たちを死なせるわけにはまいりませんから」
「アリエス様……。そのようなお姿になられても、変わらないのですね」
サハーは腕を組んでアリエスを見ている。
そう、昔からアリエスはこういう人物なのである。
聖女たちとの戦いにおいて、一番奥でどっしりと構えていればいいものを、部下たちを危険にさらすことはできないと言って自ら打って出てきては、部下たちを逃そうと必死になる人物なのだ。
そんな人物が聖女となれば、すべての者を救おうとするのは容易に想像できることだったのだ。
魔王の部下としてその性格をよく知っているサハーは、これ以上の口答えは無駄と判断したのだ。
「……仕方ない」
覚悟を決めたサハーは、周りにいる魔族たちに声をかける。
「私たちはアリエス様についていくぞ。覚悟のあるものはアリエス様と私についてくるといい」
サハーの呼び掛けに、魔族たちは全員がこくりと頷いている。どうやら、魔族たちの腹の内は決まっているようだった。
「やれやれ、どんな姿になられても、アリエス様は慕われておりますな。さすがとしか言いようがありません。聖女になられたという現実が、今一度納得できるというものです」
サハーがアリエスの前に跪くと、アリエスはにっこりと微笑んでいた。
そして、一度周囲をゆっくりと見回すと、全員に向かって語りかける。
「それでは、伯爵様たちのところに戻りましょう」
「あ、ああ。そうですね……」
状況がいまいちのみ込めないヴァコルは、アリエスの呼び掛けに気の抜けたような返事をしていた。
これ以上何を言っても無駄という、半ば諦めに近い返事であった。
元凶となるラースと、そのラースをそそのかしていた魔族であるディサイトは確かに死んだ。
しかし、まだゾディアーク伯爵の軍勢と魔族たちの間には、解決すべき問題があるのだ。ラースとディサイトによって操られていた魔族との間で、まだ交戦が続いているのという問題が。
その問題を解決しない限り、この戦いは終わったとは言えない。
アリエスは、自分に課せられた聖女という役目を果たすべく、解決のために真っすぐにゾディアーク伯爵のところへと向かうのだった。
ラースの断末魔が響き渡る。
魔王がキャサリーンに討たれた後、好き勝手に魔王軍を操っていた報いを受けたのだ。
恐怖で支配されていた上に、いいように操られていた魔族たちからは、誰一人として悲しむような声は聞こえてこなかった。むしろ、この結果は当然と言わんばかりに、軽蔑の目を向けていた。
ヴァコルから放たれた炎の槍に焼かれ、ラースはその場で、その野望と共に燃え尽きたのだ。
「終わりました……ね」
アリエスはそのように言いながらも、顔はどことなく悲しそうな表情をしていた。
自分の抜けた後の魔王軍をめちゃくちゃにされたとはいえ、ラースも自分が鍛え上げてきた部下だったのだ。それゆえに、なんともいえない表情なのだろう。
「アリエス様。心中お察しいたしますが、これでよかったのですよ。あいつは力を求めた結果、力に溺れて自分が頂点だと勘違いしていたのです。これは、当然の結果なのですよ」
「そう……ですね……」
サハーに言われても、アリエスはどこか釈然としない様子だった。
たとえ、力におぼれたとはいっても、アリエスにとってはラースもまた家族の一人だったのだから。
そう、あんな魔族でも、救えなかったということがアリエスにとっては心の傷となっているのだ。
「終わったようですね」
ラースへのトドメとなる魔法を放ったヴァコルが、アリエスの隣にやって来る。
ところが、そのヴァコルの表情は険しいままだった。
その理由は、周りの魔族たちの反応だ。
聖女であるアリエスに対して、恐怖するどころか押し黙ったまま跪いているのだ。普通に考えれば、この様子はおかしな話である。だからこそ、ヴァコルは厳しい姿勢を崩さずにいるのだ。
「なぜ、魔族たちが逃げずに聖女様に跪いているのですか」
ヴァコルはとても冷たい声でアリエスに問いかけている。
アリエスは周りの状況を確認した上で、ヴァコルの顔をしっかりと見ている。
ヴァコルの表情は実に真剣そのものであり、アリエスは質問にどう答えたらいいのか、かなり悩んでいるようだ。
悩みに悩んだアリエスは、やむを得ないといった表情でヴァコルの方を見る。
「……分かりました。この場でお話したいですが、一度街の方へ戻ってからとしましょう。こういった説明は、できる限り一度で終わらせてしまった方がいいと思いますから」
アリエスの提案に、どういうわけかヴァコルは戸惑ってしまう。
「アリエス様、さすがにそれは無茶というものです。アリエス様がいらっしゃるからとはいえ、魔族が大量にやってきたら、攻めてきたと判断されるのが関の山ですよ」
横からサハーはもっともな意見を入れている。
さすがはフィシェギルの戦士である。こういう時の状況判断は的確なのだ。
「ですが、全員が私の言うことを聞いているということを見せつけるのが、一番の説得力があると思うのです。私は、この方たちを死なせるわけにはまいりませんから」
「アリエス様……。そのようなお姿になられても、変わらないのですね」
サハーは腕を組んでアリエスを見ている。
そう、昔からアリエスはこういう人物なのである。
聖女たちとの戦いにおいて、一番奥でどっしりと構えていればいいものを、部下たちを危険にさらすことはできないと言って自ら打って出てきては、部下たちを逃そうと必死になる人物なのだ。
そんな人物が聖女となれば、すべての者を救おうとするのは容易に想像できることだったのだ。
魔王の部下としてその性格をよく知っているサハーは、これ以上の口答えは無駄と判断したのだ。
「……仕方ない」
覚悟を決めたサハーは、周りにいる魔族たちに声をかける。
「私たちはアリエス様についていくぞ。覚悟のあるものはアリエス様と私についてくるといい」
サハーの呼び掛けに、魔族たちは全員がこくりと頷いている。どうやら、魔族たちの腹の内は決まっているようだった。
「やれやれ、どんな姿になられても、アリエス様は慕われておりますな。さすがとしか言いようがありません。聖女になられたという現実が、今一度納得できるというものです」
サハーがアリエスの前に跪くと、アリエスはにっこりと微笑んでいた。
そして、一度周囲をゆっくりと見回すと、全員に向かって語りかける。
「それでは、伯爵様たちのところに戻りましょう」
「あ、ああ。そうですね……」
状況がいまいちのみ込めないヴァコルは、アリエスの呼び掛けに気の抜けたような返事をしていた。
これ以上何を言っても無駄という、半ば諦めに近い返事であった。
元凶となるラースと、そのラースをそそのかしていた魔族であるディサイトは確かに死んだ。
しかし、まだゾディアーク伯爵の軍勢と魔族たちの間には、解決すべき問題があるのだ。ラースとディサイトによって操られていた魔族との間で、まだ交戦が続いているのという問題が。
その問題を解決しない限り、この戦いは終わったとは言えない。
アリエスは、自分に課せられた聖女という役目を果たすべく、解決のために真っすぐにゾディアーク伯爵のところへと向かうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる