178 / 200
第178話 見届ける元魔王
しおりを挟む
一般市民たちには見せられないということで、クラブ将軍の処分はテレグロス王国軍たちの目の前で行われている。
サンカサス王国からはサンカサス国王、ゾディアーク伯爵とその娘カプリナ、聖女であるアリエスの四人、テレグロス王国からは王国軍と王女ヨミナ、それと監視役の魔族たちがその場に集まっている。もちろん、ライラも参加している。
戦争犯罪者であるクラブ将軍は、厳重に縛られており、サンカサス国王の前でなすすべなく跪かされている。クラブ将軍からすれば、屈辱でしかないだろう。
クラブ将軍の正面にはアリエスたちが、後方にはテレグロス王国軍と魔族たちが控えている。
「ええい、お前たち! 俺がこのような辱めに遭っているのだ。何をしている、やつらを蹴散らすのだ!」
強引に口に当てられた布を外すと、クラブ将軍はテレグロス王国軍に大声で呼びかけている。
だが、この声に一体誰が動くというのだろうか。
周りには魔族たちが控えている。正面にもアリエスとライラという猛者がいるのだ。特にアリエスはあのキャサリーンと一対一で戦った相手だ。テレグロス王国軍の気性の荒い馬たちも手懐けてしまうくらいだ。動けるわけがないのだ。
「くそっ! この役立たずどもが!」
まったく動けないでいるテレグロスの兵士たちに、クラブ将軍は酷い言葉を浴びせている。
「おい、黙らせろ。罪人には発言権はないぞ」
「ぐっ!」
「おとなしくしなさい」
サンカサス国王が命じると、ライラが動いて口の枷を厳重にかけ直している。
「うーっ! うーっ!」
言葉は聞き取れなくなったが、先程よりもうるさくなったように思える。まったく、気の荒い男というものだ。
「こやつへの刑は、魔族領への送致だ。ちょうど魔王軍の立て直しで人員が必要らしいからな。軍部で名声を得たそやつなら、きっと役に立ってくれるだろう」
「ううーっ!」
暴れるクラブ将軍だが、ライラ一人を振り払うこともできない。
ライラが魔族の諜報部で鍛えられているとはいっても、テレグロスの兵士たちからすれば、信じられない光景だった。
「キャサリーン様の加護がないことで、ライラすらも振りほどけないようですね。あなたは所詮、その程度の方だったということです。魔族たちの中で、その性根を鍛え直してくるとよろしいです」
「まったくです」
アリエスが言い放つと、ヨミナ王女も全面同意である。
「では、この者は私が責任を持ってパイシズ様の元に送り届けてきます」
「うむ。頼んだぞ」
「はっ!」
サンカサス国王から任されたライラは、片手でクラブ将軍をつかみ上げてしまう。
「んうっ?!」
さすがに細身の女性に片手で持ち上げられるとは思ってなかったらしく、クラブ将軍からは変な声が漏れていた。
「覚悟しろ。お前は我が魔王軍が責任を持って鍛え直してやる。だが、お前にはどこまで耐えられるかな?」
にやりと笑うライラを前にして、クラブ将軍からさっきまでの威勢の良さが消えてしまっていた。
そして、そのままライラに片手で持ち上げられたまま、その場から去ることとなった。
(さすが俺の鍛えた魔族の一人だな……。とはいえ、まさかあの大男を片手で持ち上げてそのまま走っていくとは恐れ入った……)
アリエスは笑顔を崩さなかったが、内心では驚きを持っていたようである。
クラブ将軍が退場して、残るはテレグロス王国の兵士たちだけである。
再びサンカサス国王から視線を向けられると、先程のクラブ将軍への処遇から、体を震わせてしまっているようだ。
「あの者の処罰を終えた。お前たちに課す処罰だが……」
国王が話し始めると、兵士たちは身構えている。
「そなたらの国のヨミナ王女と我が国の聖女であるアリエスに感謝することだな。荷物をまとめて国に帰るとよい」
「え?」
サンカサス国王の口から出てきた内容に、兵士の誰もが耳を疑った。
何の処罰もなしに、国に戻れるのだ。誰が信じられるというのだろうか。
「お前たちは既に罰を受けておる。祖国を離れて他国にて魔族にかまれて過ごすという罰をな」
「……!」
国王からそのように言われて、兵士たちは気がついた。
「これからテレグロス王国の中はいろいろと大変であろう。新しい王の下、しっかりと国を立て直してくれ」
「ははっ! お心遣い、感謝申し上げます!」
テレグロス王国の兵士たちは、一斉に跪いてサンカサスの国王に礼を伝えていた。
翌日のこと、荷物をまとめたテレグロス王国軍は、再び伯爵邸を訪れていた。
対応に出てきた国王たちを前に、しっかりと頭を下げると、その足でテレグロス王国へと向けて帰っていった。
「兵士のみなさんは、結構素直な方たちばかりのようですね」
「はい。やはりお父様とクラブ将軍の存在が大きかったのだと思います。あの方たちは、きっとお兄様とキャサリーン様とともにテレグロス王国を立て直してくれるでしょう」
「そうなるとよろしいですね」
その後ろ姿を見送りながら、アリエスとヨミナ王女は少し言葉を交わしていた。
「さあ、ペガサス。今度は私たちですよ」
「ヒヒーンッ!」
アリエスが呼ぶと、どこからともなくペガサスが姿を見せる。
「さあ、私たちも一度王都に戻りましょう」
「アリエス様、必ずお戻りください」
「はい、カプリナ様」
アリエスはカプリナに答えると、国王とヨミナ王女を連れて、サンカサス王国の王都へと向けて飛び去っていったのだった。
サンカサス王国からはサンカサス国王、ゾディアーク伯爵とその娘カプリナ、聖女であるアリエスの四人、テレグロス王国からは王国軍と王女ヨミナ、それと監視役の魔族たちがその場に集まっている。もちろん、ライラも参加している。
戦争犯罪者であるクラブ将軍は、厳重に縛られており、サンカサス国王の前でなすすべなく跪かされている。クラブ将軍からすれば、屈辱でしかないだろう。
クラブ将軍の正面にはアリエスたちが、後方にはテレグロス王国軍と魔族たちが控えている。
「ええい、お前たち! 俺がこのような辱めに遭っているのだ。何をしている、やつらを蹴散らすのだ!」
強引に口に当てられた布を外すと、クラブ将軍はテレグロス王国軍に大声で呼びかけている。
だが、この声に一体誰が動くというのだろうか。
周りには魔族たちが控えている。正面にもアリエスとライラという猛者がいるのだ。特にアリエスはあのキャサリーンと一対一で戦った相手だ。テレグロス王国軍の気性の荒い馬たちも手懐けてしまうくらいだ。動けるわけがないのだ。
「くそっ! この役立たずどもが!」
まったく動けないでいるテレグロスの兵士たちに、クラブ将軍は酷い言葉を浴びせている。
「おい、黙らせろ。罪人には発言権はないぞ」
「ぐっ!」
「おとなしくしなさい」
サンカサス国王が命じると、ライラが動いて口の枷を厳重にかけ直している。
「うーっ! うーっ!」
言葉は聞き取れなくなったが、先程よりもうるさくなったように思える。まったく、気の荒い男というものだ。
「こやつへの刑は、魔族領への送致だ。ちょうど魔王軍の立て直しで人員が必要らしいからな。軍部で名声を得たそやつなら、きっと役に立ってくれるだろう」
「ううーっ!」
暴れるクラブ将軍だが、ライラ一人を振り払うこともできない。
ライラが魔族の諜報部で鍛えられているとはいっても、テレグロスの兵士たちからすれば、信じられない光景だった。
「キャサリーン様の加護がないことで、ライラすらも振りほどけないようですね。あなたは所詮、その程度の方だったということです。魔族たちの中で、その性根を鍛え直してくるとよろしいです」
「まったくです」
アリエスが言い放つと、ヨミナ王女も全面同意である。
「では、この者は私が責任を持ってパイシズ様の元に送り届けてきます」
「うむ。頼んだぞ」
「はっ!」
サンカサス国王から任されたライラは、片手でクラブ将軍をつかみ上げてしまう。
「んうっ?!」
さすがに細身の女性に片手で持ち上げられるとは思ってなかったらしく、クラブ将軍からは変な声が漏れていた。
「覚悟しろ。お前は我が魔王軍が責任を持って鍛え直してやる。だが、お前にはどこまで耐えられるかな?」
にやりと笑うライラを前にして、クラブ将軍からさっきまでの威勢の良さが消えてしまっていた。
そして、そのままライラに片手で持ち上げられたまま、その場から去ることとなった。
(さすが俺の鍛えた魔族の一人だな……。とはいえ、まさかあの大男を片手で持ち上げてそのまま走っていくとは恐れ入った……)
アリエスは笑顔を崩さなかったが、内心では驚きを持っていたようである。
クラブ将軍が退場して、残るはテレグロス王国の兵士たちだけである。
再びサンカサス国王から視線を向けられると、先程のクラブ将軍への処遇から、体を震わせてしまっているようだ。
「あの者の処罰を終えた。お前たちに課す処罰だが……」
国王が話し始めると、兵士たちは身構えている。
「そなたらの国のヨミナ王女と我が国の聖女であるアリエスに感謝することだな。荷物をまとめて国に帰るとよい」
「え?」
サンカサス国王の口から出てきた内容に、兵士の誰もが耳を疑った。
何の処罰もなしに、国に戻れるのだ。誰が信じられるというのだろうか。
「お前たちは既に罰を受けておる。祖国を離れて他国にて魔族にかまれて過ごすという罰をな」
「……!」
国王からそのように言われて、兵士たちは気がついた。
「これからテレグロス王国の中はいろいろと大変であろう。新しい王の下、しっかりと国を立て直してくれ」
「ははっ! お心遣い、感謝申し上げます!」
テレグロス王国の兵士たちは、一斉に跪いてサンカサスの国王に礼を伝えていた。
翌日のこと、荷物をまとめたテレグロス王国軍は、再び伯爵邸を訪れていた。
対応に出てきた国王たちを前に、しっかりと頭を下げると、その足でテレグロス王国へと向けて帰っていった。
「兵士のみなさんは、結構素直な方たちばかりのようですね」
「はい。やはりお父様とクラブ将軍の存在が大きかったのだと思います。あの方たちは、きっとお兄様とキャサリーン様とともにテレグロス王国を立て直してくれるでしょう」
「そうなるとよろしいですね」
その後ろ姿を見送りながら、アリエスとヨミナ王女は少し言葉を交わしていた。
「さあ、ペガサス。今度は私たちですよ」
「ヒヒーンッ!」
アリエスが呼ぶと、どこからともなくペガサスが姿を見せる。
「さあ、私たちも一度王都に戻りましょう」
「アリエス様、必ずお戻りください」
「はい、カプリナ様」
アリエスはカプリナに答えると、国王とヨミナ王女を連れて、サンカサス王国の王都へと向けて飛び去っていったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる