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第4話 港町へと向かう灯台守
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朝起きて、灯を確認し、朝食を終えたベニー。
自分の服を見て、なんだか渋い顔をしている。
「そろそろ、服を変えようかな。ね、おじいちゃん」
部屋に飾ってある祖父の肖像画に話し掛ける。
だが、肖像画が答えてくれるわけがない。
ベニーはだいぶよれよれになってきた自分の服を見て、新しい服を購入するべく、この日は近くの港町へと向かうことにしたのだった。
ベニーが住んでいる岬の灯台。そこを出ると左手に森が広がっている。かなり広大な森なので、うっかり迷ってしまうこともあるくらいだ。
反対の右側には、少し遠くに港町が見える。
港町と灯台のどちらが先かと言われたら、どちらが先だったのか分からないくらいである。文献すら残っていない。
ただ、この港町は右手に出れば真っすぐというわけではなかった。波により侵食で間はかなり湾曲した海岸線になっている。
ついでに、灯台のある場所は小高い丘になっているので、坂を上り下りしなければならない。そのために、灯台までやってくる人はまれで、狩りや調合で手に入れたものを売ろうにも、ベニーの方が出向かなければならないという状況にあるのである。
「毛皮よし、薬よし」
荷物を確認するベニーは、改めて自分の服を確認する。
似たような服を二着ずつ持って着まわしているので、かなりボロボロになっている。それは足元の靴もそうだった。
祖父がいた頃は行商人も来てくれていたのだが、亡くなってからはすっかり来なくなってしまった。祖父の人徳あってのことなのだろうが、幼い子どもを一人にさせるとは、行商人たちもなかなかろくでもない人物たちのようだ。
だが、ベニーはたくましく生きており、今日も港町へと向けて歩いていく。
目に見える範囲にあるとはいっても、子どもの足では相当に時間がかかる。港町に着いた時にはすっかりお昼になっていた。
港町にやって来たベニーは、まずは商業ギルドへと向かう。ここで毛皮や薬を買い取ってもらうのだ。
「こんにちはっ!」
「あら、いらっしゃい。ベニーちゃん、お久しぶりね」
「お久しぶりです」
商業ギルドの受付には、ベニー担当の女性が立っていた。
「ごめんなさいね。本当なら私たちの方から出向いていろいろお世話してあげたいんだけど、なかなか上から許可が下りなくてね」
「いえ、いいんですよ。この方が町の人たちとたくさんおしゃべりできますから」
「うう、ベニーちゃん。なんてけなげなのかしら」
担当の女性が、つい泣いてしまっていた。
「それで、今日のものは何かしら、とりあえずいつもの部屋に行ってからお話ししましょうか」
「はい」
すぐに落ち着いた女性に連れられて、ベニーは奥の部屋へと移動する。
「おい、なんだあの少女は」
「なんで個室で話をしてるんだよ」
「おい、知らないのか? あの少女が今代の灯台守だ。特別扱いもされて当然だろ」
「なに、灯台守だと!?」
ガラの悪そうな商人が話していると、別の商人が話に加わる。
「ああ。この国の存亡を握る灯台守だ。大事に扱わないととんでもないことになるぞ」
「あ、ああ……。だが、先月あたりだと爺さんじゃなかったか?」
「亡くなったんだよ。もう年だったからな。それで、あの子が正式に灯台守を継いだんだ。まったく、あの年で一人暮らしとはけなげだよな」
話に加わった商人の言葉を聞いて、ガラの悪そうな商人たちは黙り込んでしまった。
「本当に可哀想じゃねえか。ってことは、あの子、一人であの灯台からここまで歩いてきたのか?」
「ああ、その通りだよ。半日かけて歩いてきて、半日かけて帰っていくんだ」
「くうう、泣けるじゃねえか。俺、こういう話に弱いんだ」
ガラの悪そうな商人が涙を流し始めている。
「でもよ、ならなんでこういう状況になってるんだ? 確か、灯台守には専属の行商人がいたはずだろ」
「爺さんがなくなったことを機に解約したらしい。こうやって来ているところを見ると、事実っぽいな」
「なんてやつだ。許せねえ」
「俺もそう思うが、俺たちにできることは、こうやって遠くから見守ってやることだけだよ。灯台守っていうのはいろいろ制約があるからな」
話にひと区切りをつけた商人たちは、少女が入っていった部屋をじっと眺めていたのだった。
部屋の中では、ベニーが持ってきた毛皮や薬の算定をしていた。
「はい、上質の毛皮と高品質の薬。本当にありがとうね、ベニーちゃん。買取価格はこのくらいね」
その算定が終わり、受け皿にお金を置いてベニーの前に差し出される。
「あれ、ちょっと高くないですか?」
そこに置かれた金額に、ベニーはびっくりしているようだった。
「おじいさんの時の価格に、こっそり私が足しておいたの。ベニーちゃんは年頃なんだもの、おしゃれだってしたいでしょ?」
「ありがとうございます。今日は新しい服を買いに来たので助かります」
「うんうん。いい服を買っていってね」
「はいっ!」
毛皮と薬の査定が終わり、ベニーは商業ギルドから出ていく。
どんな服を買おうかな。
ベニーはそんなことを考えながら港町の商店街へと繰り出すのだった。
自分の服を見て、なんだか渋い顔をしている。
「そろそろ、服を変えようかな。ね、おじいちゃん」
部屋に飾ってある祖父の肖像画に話し掛ける。
だが、肖像画が答えてくれるわけがない。
ベニーはだいぶよれよれになってきた自分の服を見て、新しい服を購入するべく、この日は近くの港町へと向かうことにしたのだった。
ベニーが住んでいる岬の灯台。そこを出ると左手に森が広がっている。かなり広大な森なので、うっかり迷ってしまうこともあるくらいだ。
反対の右側には、少し遠くに港町が見える。
港町と灯台のどちらが先かと言われたら、どちらが先だったのか分からないくらいである。文献すら残っていない。
ただ、この港町は右手に出れば真っすぐというわけではなかった。波により侵食で間はかなり湾曲した海岸線になっている。
ついでに、灯台のある場所は小高い丘になっているので、坂を上り下りしなければならない。そのために、灯台までやってくる人はまれで、狩りや調合で手に入れたものを売ろうにも、ベニーの方が出向かなければならないという状況にあるのである。
「毛皮よし、薬よし」
荷物を確認するベニーは、改めて自分の服を確認する。
似たような服を二着ずつ持って着まわしているので、かなりボロボロになっている。それは足元の靴もそうだった。
祖父がいた頃は行商人も来てくれていたのだが、亡くなってからはすっかり来なくなってしまった。祖父の人徳あってのことなのだろうが、幼い子どもを一人にさせるとは、行商人たちもなかなかろくでもない人物たちのようだ。
だが、ベニーはたくましく生きており、今日も港町へと向けて歩いていく。
目に見える範囲にあるとはいっても、子どもの足では相当に時間がかかる。港町に着いた時にはすっかりお昼になっていた。
港町にやって来たベニーは、まずは商業ギルドへと向かう。ここで毛皮や薬を買い取ってもらうのだ。
「こんにちはっ!」
「あら、いらっしゃい。ベニーちゃん、お久しぶりね」
「お久しぶりです」
商業ギルドの受付には、ベニー担当の女性が立っていた。
「ごめんなさいね。本当なら私たちの方から出向いていろいろお世話してあげたいんだけど、なかなか上から許可が下りなくてね」
「いえ、いいんですよ。この方が町の人たちとたくさんおしゃべりできますから」
「うう、ベニーちゃん。なんてけなげなのかしら」
担当の女性が、つい泣いてしまっていた。
「それで、今日のものは何かしら、とりあえずいつもの部屋に行ってからお話ししましょうか」
「はい」
すぐに落ち着いた女性に連れられて、ベニーは奥の部屋へと移動する。
「おい、なんだあの少女は」
「なんで個室で話をしてるんだよ」
「おい、知らないのか? あの少女が今代の灯台守だ。特別扱いもされて当然だろ」
「なに、灯台守だと!?」
ガラの悪そうな商人が話していると、別の商人が話に加わる。
「ああ。この国の存亡を握る灯台守だ。大事に扱わないととんでもないことになるぞ」
「あ、ああ……。だが、先月あたりだと爺さんじゃなかったか?」
「亡くなったんだよ。もう年だったからな。それで、あの子が正式に灯台守を継いだんだ。まったく、あの年で一人暮らしとはけなげだよな」
話に加わった商人の言葉を聞いて、ガラの悪そうな商人たちは黙り込んでしまった。
「本当に可哀想じゃねえか。ってことは、あの子、一人であの灯台からここまで歩いてきたのか?」
「ああ、その通りだよ。半日かけて歩いてきて、半日かけて帰っていくんだ」
「くうう、泣けるじゃねえか。俺、こういう話に弱いんだ」
ガラの悪そうな商人が涙を流し始めている。
「でもよ、ならなんでこういう状況になってるんだ? 確か、灯台守には専属の行商人がいたはずだろ」
「爺さんがなくなったことを機に解約したらしい。こうやって来ているところを見ると、事実っぽいな」
「なんてやつだ。許せねえ」
「俺もそう思うが、俺たちにできることは、こうやって遠くから見守ってやることだけだよ。灯台守っていうのはいろいろ制約があるからな」
話にひと区切りをつけた商人たちは、少女が入っていった部屋をじっと眺めていたのだった。
部屋の中では、ベニーが持ってきた毛皮や薬の算定をしていた。
「はい、上質の毛皮と高品質の薬。本当にありがとうね、ベニーちゃん。買取価格はこのくらいね」
その算定が終わり、受け皿にお金を置いてベニーの前に差し出される。
「あれ、ちょっと高くないですか?」
そこに置かれた金額に、ベニーはびっくりしているようだった。
「おじいさんの時の価格に、こっそり私が足しておいたの。ベニーちゃんは年頃なんだもの、おしゃれだってしたいでしょ?」
「ありがとうございます。今日は新しい服を買いに来たので助かります」
「うんうん。いい服を買っていってね」
「はいっ!」
毛皮と薬の査定が終わり、ベニーは商業ギルドから出ていく。
どんな服を買おうかな。
ベニーはそんなことを考えながら港町の商店街へと繰り出すのだった。
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