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第3話 灯台守だけの魔法
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ザザーン……。
今日も灯台には波の音が響いている。
遠くの海は穏やかとはいえども、付近の潮流は意外と速い。
灯台のある岬の岸壁には、波が当たって水しぶきが舞う。
「うーん、ちょっと波が穏やかじゃないわね。お魚って天気じゃないか」
いつものように洗濯と掃除を済ませたベニーは、岬の崖下を覗き込んでいる。
普通ならば危険な行為ではあるものの、そこは国抱えの魔法使いの子孫である。空を浮くくらい簡単にやってのける。
今日のベニーは干し肉に飽きたので、お魚を食べようと思って海を覗き込んでいるのだが、困ったことに波が当たった時の水しぶきが高い。これでは付近には魚がいなさそうだった。
「はあ~……。森に罠を仕掛けてお肉を手に入れるしかないっか」
魚を早々に諦めたベニーは、仕方なく森に出向くことにした。
灯台のすぐ近くにも広大な森が広がっている。
海から吹く風を食い止めるための防風森林とは言われているが、その情報は定かなものではなかった。
なにせかなり広大なので、迷いこめば出られなくなるとも言われているくらいだった。
森に入っていったベニーは、魔物専用の魔法罠を仕掛けていく。
人間と魔物とでは魔力の質が違うので、人間相手であれば発動しないという不思議な魔法罠だ。
これもベニーやその祖父の祖先たちが、灯台守を務める中で編み出した魔法である。
灯台守たちに受け継がれる魔法というものがある。
火を起こす、水を出す、弱い風を起こす、簡単な汚れを落とすといった生活に欠かせない魔法はもちろん、それ以外にもいくつかある。
その一つがこの魔法罠で、人里離れた灯台に住み込んで暮らす上では必要な魔法だった。
これがなければ肉を食べるのもひと苦労なのである。
「やった!」
ベニーが喜んでいるが、魔法罠に一角ウサギがかかったのだ。
その名の通り、尖った一本の角が特徴的なウサギで、角はそのまま道具としても使えるし、粉砕してやれば薬の材料などにも使える。
毛皮は貴重な服や家具の材料だし、肉は食用になるし、内臓もまた薬の材料になる。捨てる場所が意外と少ない。
解体処理を済ませると、空間に手をかざす。手をかざした場所の空間がねじ曲がり、なにやら穴のようなものが出現する。
これも灯台守の持つ魔法のひとつ、収納魔法だ。灯台は狭い上に階段の昇り降りがある。荷物を持っての移動はとても危険ということで編み出された魔法だ。
大量の荷物があっても手ぶらで移動できる利点は大きい。ベニーもかなり重宝している。
ただ、あまり頼り過ぎるのもよくないということで、汚れる心配のない場合はかばんを使うようにしている。
「うん?」
不要なものを燃やして一角ウサギの処理が終わったベニーは、近くに見慣れないものを見る。
この森の植生はほぼ知り尽くしているからこその違和感だった。
「こういう見慣れないものは、すぐに鑑定しなきゃね」
見慣れないものを見たベニーは、鑑定魔法を使う。これも灯台守の暮らしで必要とされて編み出された魔法だ。
変なものを食べては困るし、世の中似たものが多い。それらを確実に見分けるために、物質に含まれる魔力に反応して情報を引き出すのだ。
「う~ん、風が強い日に飛んできたのかな。とはいえ、貴重だから確保だけしておこうっと」
ベニーはその草を根こそぎ引き抜いた。元々森にないものなので、放っておくと植生を乱しかねない。貴重であっても問題なものは問題なのだ。放っておいて元あるものがすべて滅ぶ可能性もあるのだから。
「森に飛んでいかないように、灯台の中で育ててみるのもいいかもね」
ベニーはぶつぶつと独り言言いながら収納魔法に放り込んだ。
灯台に戻ったベニーは、土魔法で植木鉢を作って土を張り、そこにさっきの草を植える。灯台の中ならばよっぽどのことがなければ、外への影響はないのだ。
植えた草に軽く水魔法で水を与えると、お待ちかねの昼食だった。
昼食を終えると、一角ウサギの毛皮をきれいにしておく。今着ている服もいつダメになるか分からないので、予備は早めに準備しておきたい。
ただ、灯台守には裁縫のスキルはない。こればかりは近所の港町で調達するしかないのである。
そのお金はどうするのかというと、その入手方法が先日も作っていた薬である。
この薬を港町で売って、そのお金でいろいろ調達するのである。まったく、うまく成り立っているものだ。
そして、忘れてはいけない灯台守の一番のスキル。
「う~ん、ちょっと光が弱まってる?」
灯台の頂上までやって来たベニーは、周囲を守る光の発生源を見て首を傾げていた。
長年周囲の安全を守ってきているだけあって、時折こうやって光が弱まるのだ。
そこで使うのが、この灯台守の最大の魔法。
「聖なる光!」
本来なら神官などでないと使えない魔法だが、当時の魔法使いは国を守るために独自で身に付けたのである。
それ以降、灯台守を継ぐ魔法使いの家系に代々受け継がれている。
そして、光をともす魔法はあれど、消す魔法はない。
なぜなら、人々の希望の光だからだ。希望を絶やしてはならないということで、消すための魔法は存在していないのである。
なので、逆に光が強まった時には、そのまま弱まるのを待つだけとなるのである。
「よしっ、明るさが戻ったわ」
ベニーは満足げな表情を浮かべて、もう一度光を確認する。
本来近づくだけでも目が潰れてしまうほどまぶしい光だが、灯台守の家系はまったくもって平気なのである。
「今夜もみんなを守って下さい」
光を取り戻した灯に、ベニーは跪いて祈りを捧げる。その時、灯がかすかに光を増したようだった。
祈りを終えたベニーは、一度頭を下げると夕食のために下へと降りていく。
仕事熱心な少女はそこそこ満足に、また一日を終えたのだった。
今日も灯台には波の音が響いている。
遠くの海は穏やかとはいえども、付近の潮流は意外と速い。
灯台のある岬の岸壁には、波が当たって水しぶきが舞う。
「うーん、ちょっと波が穏やかじゃないわね。お魚って天気じゃないか」
いつものように洗濯と掃除を済ませたベニーは、岬の崖下を覗き込んでいる。
普通ならば危険な行為ではあるものの、そこは国抱えの魔法使いの子孫である。空を浮くくらい簡単にやってのける。
今日のベニーは干し肉に飽きたので、お魚を食べようと思って海を覗き込んでいるのだが、困ったことに波が当たった時の水しぶきが高い。これでは付近には魚がいなさそうだった。
「はあ~……。森に罠を仕掛けてお肉を手に入れるしかないっか」
魚を早々に諦めたベニーは、仕方なく森に出向くことにした。
灯台のすぐ近くにも広大な森が広がっている。
海から吹く風を食い止めるための防風森林とは言われているが、その情報は定かなものではなかった。
なにせかなり広大なので、迷いこめば出られなくなるとも言われているくらいだった。
森に入っていったベニーは、魔物専用の魔法罠を仕掛けていく。
人間と魔物とでは魔力の質が違うので、人間相手であれば発動しないという不思議な魔法罠だ。
これもベニーやその祖父の祖先たちが、灯台守を務める中で編み出した魔法である。
灯台守たちに受け継がれる魔法というものがある。
火を起こす、水を出す、弱い風を起こす、簡単な汚れを落とすといった生活に欠かせない魔法はもちろん、それ以外にもいくつかある。
その一つがこの魔法罠で、人里離れた灯台に住み込んで暮らす上では必要な魔法だった。
これがなければ肉を食べるのもひと苦労なのである。
「やった!」
ベニーが喜んでいるが、魔法罠に一角ウサギがかかったのだ。
その名の通り、尖った一本の角が特徴的なウサギで、角はそのまま道具としても使えるし、粉砕してやれば薬の材料などにも使える。
毛皮は貴重な服や家具の材料だし、肉は食用になるし、内臓もまた薬の材料になる。捨てる場所が意外と少ない。
解体処理を済ませると、空間に手をかざす。手をかざした場所の空間がねじ曲がり、なにやら穴のようなものが出現する。
これも灯台守の持つ魔法のひとつ、収納魔法だ。灯台は狭い上に階段の昇り降りがある。荷物を持っての移動はとても危険ということで編み出された魔法だ。
大量の荷物があっても手ぶらで移動できる利点は大きい。ベニーもかなり重宝している。
ただ、あまり頼り過ぎるのもよくないということで、汚れる心配のない場合はかばんを使うようにしている。
「うん?」
不要なものを燃やして一角ウサギの処理が終わったベニーは、近くに見慣れないものを見る。
この森の植生はほぼ知り尽くしているからこその違和感だった。
「こういう見慣れないものは、すぐに鑑定しなきゃね」
見慣れないものを見たベニーは、鑑定魔法を使う。これも灯台守の暮らしで必要とされて編み出された魔法だ。
変なものを食べては困るし、世の中似たものが多い。それらを確実に見分けるために、物質に含まれる魔力に反応して情報を引き出すのだ。
「う~ん、風が強い日に飛んできたのかな。とはいえ、貴重だから確保だけしておこうっと」
ベニーはその草を根こそぎ引き抜いた。元々森にないものなので、放っておくと植生を乱しかねない。貴重であっても問題なものは問題なのだ。放っておいて元あるものがすべて滅ぶ可能性もあるのだから。
「森に飛んでいかないように、灯台の中で育ててみるのもいいかもね」
ベニーはぶつぶつと独り言言いながら収納魔法に放り込んだ。
灯台に戻ったベニーは、土魔法で植木鉢を作って土を張り、そこにさっきの草を植える。灯台の中ならばよっぽどのことがなければ、外への影響はないのだ。
植えた草に軽く水魔法で水を与えると、お待ちかねの昼食だった。
昼食を終えると、一角ウサギの毛皮をきれいにしておく。今着ている服もいつダメになるか分からないので、予備は早めに準備しておきたい。
ただ、灯台守には裁縫のスキルはない。こればかりは近所の港町で調達するしかないのである。
そのお金はどうするのかというと、その入手方法が先日も作っていた薬である。
この薬を港町で売って、そのお金でいろいろ調達するのである。まったく、うまく成り立っているものだ。
そして、忘れてはいけない灯台守の一番のスキル。
「う~ん、ちょっと光が弱まってる?」
灯台の頂上までやって来たベニーは、周囲を守る光の発生源を見て首を傾げていた。
長年周囲の安全を守ってきているだけあって、時折こうやって光が弱まるのだ。
そこで使うのが、この灯台守の最大の魔法。
「聖なる光!」
本来なら神官などでないと使えない魔法だが、当時の魔法使いは国を守るために独自で身に付けたのである。
それ以降、灯台守を継ぐ魔法使いの家系に代々受け継がれている。
そして、光をともす魔法はあれど、消す魔法はない。
なぜなら、人々の希望の光だからだ。希望を絶やしてはならないということで、消すための魔法は存在していないのである。
なので、逆に光が強まった時には、そのまま弱まるのを待つだけとなるのである。
「よしっ、明るさが戻ったわ」
ベニーは満足げな表情を浮かべて、もう一度光を確認する。
本来近づくだけでも目が潰れてしまうほどまぶしい光だが、灯台守の家系はまったくもって平気なのである。
「今夜もみんなを守って下さい」
光を取り戻した灯に、ベニーは跪いて祈りを捧げる。その時、灯がかすかに光を増したようだった。
祈りを終えたベニーは、一度頭を下げると夕食のために下へと降りていく。
仕事熱心な少女はそこそこ満足に、また一日を終えたのだった。
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