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第15話 気疲れする灯台守
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ペンソンは改めてベニーと少し話をしていた。
その中で一人でつらくないかと尋ねられたベニーだったが、ちょっと考え込んでいたかと思うと「大丈夫です」と笑って答えていた。
その姿はペンソンには少し新鮮で、言葉を失ってしまうほどだった。
目の前にいる灯台守の少女は、ペンソンの子どもより少し年上である。だというのに、こんな人里を離れた場所でけなげに強く一人で生活しているのだ。
なんと立派なことかと、ペンソンはこの拳を強く握って少し震えてしまうほどだった。
「最後に、灯台の明かりを見せて頂いてもよろしいですかな」
「いえ、あれは普通の方には厳しいかと思います。おじいちゃんからよく聞かされてましたから」
ペンソンは驚いた顔をしている。
「はて、どのように厳しいというのかね」
「なんでも、灯台守である私たち以外が見ると、目をやられてしまうほどのまぶしさなんでそうです。ですので、見に行かれるとしても、一番上まで昇ることはやめておいた方がいいと思います」
「ふむ、そうなのか。ならば仕方ないな」
あまりにも真剣なベニーの表情に、ペンソンは灯台の頂上まで昇ることを諦めた。
現在は団長という地位にある以上、何かあっては騎士たちにも灯台守にも迷惑をかけてしまうからだ。
騎士たるもの、回避できる危険は回避するものなのだ。
地上まで降りてきたペンソンは、しっかりとベニーへと向き合う。
「騎士として、その職務を全うする貴台の姿に尊敬を申し上げます」
深々と頭を下げるペンソンの姿に、ベニーは驚き戸惑っている。
「あ、あの、頭を上げて下さい」
こうはいうものの、しばらくの間、ペンソンはまったく微動だにすることがなかった。
ペンソンがようやく頭を上げたかと思うと、ベニーにしっかりと目を合わせてくる。
「それでは、我々はこれにて失礼致します。近くの港町にも我ら騎士団のものが常駐しておりますゆえ、お困りのことがございましたら、いつでも申し付けて下さい」
「わ、分かりました」
最後まで丁寧な応対をしていた。
ペンソンの人柄に感動したのか、ベニーはごそごそと収納魔法から何かを取り出す。
「あの、これをあげます」
「な、なんですかな、これは」
ベニーに手渡されたものを見て、ペンソンは困惑している。
それよりも、収納魔法を目の前で見たことに驚いた感情の方が大きい。なにせ収納魔法という魔法は、使える人物が希少なのだから。
「灯台守の常備薬のひとつの、傷薬です。多少の傷ならすぐにでも治すことができますから」
「そ、そうか。それはありがたく頂戴しておきます」
半ばベニーに押し切られる感じで、ペンソンは傷薬を受け取っていた。
自分は騎士という危険な仕事をしている。常に治癒魔法の使える者がそばにいるとも限らないので、この傷薬は大いに助かるというものである。
傷薬を受け取ったペンソンはそのまま灯台から外に出て、他の騎士たちと合流する。
「今代の灯台守との面会は終わった。これより総員、王都へと帰還する」
「はっ!」
ペンソンたちは馬にまたがると、灯台に来た時とは違い、馬を走らせて港町へと向かっていった。
騎士たちが戻っていった灯台の中では、ベニーがようやく一人になって落ち着いていた。
さすがに知らない人と顔を合わせるというのは緊張するもの。その緊張から解放されて、ベニーはテーブルの上で突っ伏していた。
「はあぁぁ……、疲れたぁ」
ものすごく大きなため息である。
「あの人たちが王国の騎士団なんだ。おじいちゃんから聞いたことはあったけれど、実物を見たのは初めてだわ」
初めて見るものばかりでもあったので、複雑な感情を落ち着かせるのにとても苦労していた。だからこそ、ベニーはこうやってテーブルに伏して足をぶらぶらとさせているのである。
ただ、馬というのは見たことがある。
祖父を尋ねてやって来ていた行商人の馬車だったり、港町を出入りする馬車だったり、それなりに見る頻度はあったのだ。
知らない人と対応するということは以前もあったが、その時はまだ祖父が存命中だったので、それほどでもなかった。
今回はその頼れる祖父もいない。完全に初めての一人での来客対応だった。
「そっかぁ……。今は私一人だから、こういうことも自分だけでやらなきゃいけないんだ。大変だなぁ」
ベニーは伸ばしていた腕を折りたたんで顔の下で組む。
「私、きっと大丈夫だよね。やっていけるよね」
どうやら今回の一件は、ずいぶんとベニーにはこたえたようだった。
しばらくそのまましばらくぼーっとしていたベニーだったが、突如としておなかの音が鳴り響く。
誰もいないとはいえ、つい恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまう。
「うん、お昼を食べましょうか」
もぞもぞと体を起こし、台所へと向かうベニー。
今日のご飯もオールの店のパンと一角ウサギのお肉を使った料理だ。代わり映えのしない食事ではあるものの、毎日食べていても飽きない不思議な食事である。
少し遅めのお昼を済ませたベニーは、いつものように薬を作る。
慣れないことに疲れはしたものの、概ねいつも通りの生活をなんとか遅れたのだった。
その中で一人でつらくないかと尋ねられたベニーだったが、ちょっと考え込んでいたかと思うと「大丈夫です」と笑って答えていた。
その姿はペンソンには少し新鮮で、言葉を失ってしまうほどだった。
目の前にいる灯台守の少女は、ペンソンの子どもより少し年上である。だというのに、こんな人里を離れた場所でけなげに強く一人で生活しているのだ。
なんと立派なことかと、ペンソンはこの拳を強く握って少し震えてしまうほどだった。
「最後に、灯台の明かりを見せて頂いてもよろしいですかな」
「いえ、あれは普通の方には厳しいかと思います。おじいちゃんからよく聞かされてましたから」
ペンソンは驚いた顔をしている。
「はて、どのように厳しいというのかね」
「なんでも、灯台守である私たち以外が見ると、目をやられてしまうほどのまぶしさなんでそうです。ですので、見に行かれるとしても、一番上まで昇ることはやめておいた方がいいと思います」
「ふむ、そうなのか。ならば仕方ないな」
あまりにも真剣なベニーの表情に、ペンソンは灯台の頂上まで昇ることを諦めた。
現在は団長という地位にある以上、何かあっては騎士たちにも灯台守にも迷惑をかけてしまうからだ。
騎士たるもの、回避できる危険は回避するものなのだ。
地上まで降りてきたペンソンは、しっかりとベニーへと向き合う。
「騎士として、その職務を全うする貴台の姿に尊敬を申し上げます」
深々と頭を下げるペンソンの姿に、ベニーは驚き戸惑っている。
「あ、あの、頭を上げて下さい」
こうはいうものの、しばらくの間、ペンソンはまったく微動だにすることがなかった。
ペンソンがようやく頭を上げたかと思うと、ベニーにしっかりと目を合わせてくる。
「それでは、我々はこれにて失礼致します。近くの港町にも我ら騎士団のものが常駐しておりますゆえ、お困りのことがございましたら、いつでも申し付けて下さい」
「わ、分かりました」
最後まで丁寧な応対をしていた。
ペンソンの人柄に感動したのか、ベニーはごそごそと収納魔法から何かを取り出す。
「あの、これをあげます」
「な、なんですかな、これは」
ベニーに手渡されたものを見て、ペンソンは困惑している。
それよりも、収納魔法を目の前で見たことに驚いた感情の方が大きい。なにせ収納魔法という魔法は、使える人物が希少なのだから。
「灯台守の常備薬のひとつの、傷薬です。多少の傷ならすぐにでも治すことができますから」
「そ、そうか。それはありがたく頂戴しておきます」
半ばベニーに押し切られる感じで、ペンソンは傷薬を受け取っていた。
自分は騎士という危険な仕事をしている。常に治癒魔法の使える者がそばにいるとも限らないので、この傷薬は大いに助かるというものである。
傷薬を受け取ったペンソンはそのまま灯台から外に出て、他の騎士たちと合流する。
「今代の灯台守との面会は終わった。これより総員、王都へと帰還する」
「はっ!」
ペンソンたちは馬にまたがると、灯台に来た時とは違い、馬を走らせて港町へと向かっていった。
騎士たちが戻っていった灯台の中では、ベニーがようやく一人になって落ち着いていた。
さすがに知らない人と顔を合わせるというのは緊張するもの。その緊張から解放されて、ベニーはテーブルの上で突っ伏していた。
「はあぁぁ……、疲れたぁ」
ものすごく大きなため息である。
「あの人たちが王国の騎士団なんだ。おじいちゃんから聞いたことはあったけれど、実物を見たのは初めてだわ」
初めて見るものばかりでもあったので、複雑な感情を落ち着かせるのにとても苦労していた。だからこそ、ベニーはこうやってテーブルに伏して足をぶらぶらとさせているのである。
ただ、馬というのは見たことがある。
祖父を尋ねてやって来ていた行商人の馬車だったり、港町を出入りする馬車だったり、それなりに見る頻度はあったのだ。
知らない人と対応するということは以前もあったが、その時はまだ祖父が存命中だったので、それほどでもなかった。
今回はその頼れる祖父もいない。完全に初めての一人での来客対応だった。
「そっかぁ……。今は私一人だから、こういうことも自分だけでやらなきゃいけないんだ。大変だなぁ」
ベニーは伸ばしていた腕を折りたたんで顔の下で組む。
「私、きっと大丈夫だよね。やっていけるよね」
どうやら今回の一件は、ずいぶんとベニーにはこたえたようだった。
しばらくそのまましばらくぼーっとしていたベニーだったが、突如としておなかの音が鳴り響く。
誰もいないとはいえ、つい恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまう。
「うん、お昼を食べましょうか」
もぞもぞと体を起こし、台所へと向かうベニー。
今日のご飯もオールの店のパンと一角ウサギのお肉を使った料理だ。代わり映えのしない食事ではあるものの、毎日食べていても飽きない不思議な食事である。
少し遅めのお昼を済ませたベニーは、いつものように薬を作る。
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