少女の水平線

未羊

文字の大きさ
15 / 61

第15話 気疲れする灯台守

しおりを挟む
 ペンソンは改めてベニーと少し話をしていた。
 その中で一人でつらくないかと尋ねられたベニーだったが、ちょっと考え込んでいたかと思うと「大丈夫です」と笑って答えていた。
 その姿はペンソンには少し新鮮で、言葉を失ってしまうほどだった。
 目の前にいる灯台守の少女は、ペンソンの子どもより少し年上である。だというのに、こんな人里を離れた場所でけなげに強く一人で生活しているのだ。
 なんと立派なことかと、ペンソンはこの拳を強く握って少し震えてしまうほどだった。

「最後に、灯台の明かりを見せて頂いてもよろしいですかな」

「いえ、あれは普通の方には厳しいかと思います。おじいちゃんからよく聞かされてましたから」

 ペンソンは驚いた顔をしている。

「はて、どのように厳しいというのかね」

「なんでも、灯台守である私たち以外が見ると、目をやられてしまうほどのまぶしさなんでそうです。ですので、見に行かれるとしても、一番上まで昇ることはやめておいた方がいいと思います」

「ふむ、そうなのか。ならば仕方ないな」

 あまりにも真剣なベニーの表情に、ペンソンは灯台の頂上まで昇ることを諦めた。
 現在は団長という地位にある以上、何かあっては騎士たちにも灯台守にも迷惑をかけてしまうからだ。
 騎士たるもの、回避できる危険は回避するものなのだ。

 地上まで降りてきたペンソンは、しっかりとベニーへと向き合う。

「騎士として、その職務を全うする貴台の姿に尊敬を申し上げます」

 深々と頭を下げるペンソンの姿に、ベニーは驚き戸惑っている。

「あ、あの、頭を上げて下さい」

 こうはいうものの、しばらくの間、ペンソンはまったく微動だにすることがなかった。
 ペンソンがようやく頭を上げたかと思うと、ベニーにしっかりと目を合わせてくる。

「それでは、我々はこれにて失礼致します。近くの港町にも我ら騎士団のものが常駐しておりますゆえ、お困りのことがございましたら、いつでも申し付けて下さい」

「わ、分かりました」

 最後まで丁寧な応対をしていた。
 ペンソンの人柄に感動したのか、ベニーはごそごそと収納魔法から何かを取り出す。

「あの、これをあげます」

「な、なんですかな、これは」

 ベニーに手渡されたものを見て、ペンソンは困惑している。
 それよりも、収納魔法を目の前で見たことに驚いた感情の方が大きい。なにせ収納魔法という魔法は、使える人物が希少なのだから。

「灯台守の常備薬のひとつの、傷薬です。多少の傷ならすぐにでも治すことができますから」

「そ、そうか。それはありがたく頂戴しておきます」

 半ばベニーに押し切られる感じで、ペンソンは傷薬を受け取っていた。
 自分は騎士という危険な仕事をしている。常に治癒魔法の使える者がそばにいるとも限らないので、この傷薬は大いに助かるというものである。
 傷薬を受け取ったペンソンはそのまま灯台から外に出て、他の騎士たちと合流する。

「今代の灯台守との面会は終わった。これより総員、王都へと帰還する」

「はっ!」

 ペンソンたちは馬にまたがると、灯台に来た時とは違い、馬を走らせて港町へと向かっていった。

 騎士たちが戻っていった灯台の中では、ベニーがようやく一人になって落ち着いていた。
 さすがに知らない人と顔を合わせるというのは緊張するもの。その緊張から解放されて、ベニーはテーブルの上で突っ伏していた。

「はあぁぁ……、疲れたぁ」

 ものすごく大きなため息である。

「あの人たちが王国の騎士団なんだ。おじいちゃんから聞いたことはあったけれど、実物を見たのは初めてだわ」

 初めて見るものばかりでもあったので、複雑な感情を落ち着かせるのにとても苦労していた。だからこそ、ベニーはこうやってテーブルに伏して足をぶらぶらとさせているのである。
 ただ、馬というのは見たことがある。
 祖父を尋ねてやって来ていた行商人の馬車だったり、港町を出入りする馬車だったり、それなりに見る頻度はあったのだ。
 知らない人と対応するということは以前もあったが、その時はまだ祖父が存命中だったので、それほどでもなかった。
 今回はその頼れる祖父もいない。完全に初めての一人での来客対応だった。

「そっかぁ……。今は私一人だから、こういうことも自分だけでやらなきゃいけないんだ。大変だなぁ」

 ベニーは伸ばしていた腕を折りたたんで顔の下で組む。

「私、きっと大丈夫だよね。やっていけるよね」

 どうやら今回の一件は、ずいぶんとベニーにはこたえたようだった。
 しばらくそのまましばらくぼーっとしていたベニーだったが、突如としておなかの音が鳴り響く。
 誰もいないとはいえ、つい恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまう。

「うん、お昼を食べましょうか」

 もぞもぞと体を起こし、台所へと向かうベニー。
 今日のご飯もオールの店のパンと一角ウサギのお肉を使った料理だ。代わり映えのしない食事ではあるものの、毎日食べていても飽きない不思議な食事である。
 少し遅めのお昼を済ませたベニーは、いつものように薬を作る。
 慣れないことに疲れはしたものの、概ねいつも通りの生活をなんとか遅れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...