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第33話 嵐の後
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翌日も雨が強く降り続いている。しかも、風が強くなってきていた。
ベニーがその風の音で目を覚ましたくらいである。
「な、なんなのよ。この風の強さは!」
あまりにも吹きすさぶ風の音に、ベニーは驚きを隠しきれなかった。
雨に打たれることも気にしないでバルコニーから外を確認する。
そこで見たのは、見たことないくらいにうねりを見せる海の様子だった。
これほどまでに海が荒れていては、魔物が出てこないとしても船は安全な航行が見込めなくなってしまう。
ベニーはすぐさま灯台守としてその事態を防ぐため、導の灯へと向かっていく。
灯台の頂上では、今日も煌々と導の灯が輝いている。どうやら灯に問題があるというわけではなさそうだった。
だけど、この大荒れの天気を放っておけるベニーではなかった。
(お願いします。この荒れた天気をどうか鎮めて下さい。海を行き交うみなさんがどうか無事でありますように)
ベニーは本気で祈っている。
灯台守として、海の安全を守る者として、どうしてもこの天気を放っておくことはできなかったのだ。
「ぴぃ!」
プルンもベニーに同調して大きな声で鳴いている。
ベニーとプルンの祈りが通じたのか、導の灯が少し強めに光る。
光った直後辺りから、外から聞こえてくる風が吹きすさぶ音が少し静かになったようだった。
「ありがとうございます。どうか今日も、海の安全をお守り下さい」
ベニーはもう一度強く祈ると、いつもの生活を始めるべく地上の食堂へと向かって階段を駆け下りていった。
波も風も少し弱まってきたとはいえ、まだまだ油断のできるような状況ではなかった。
導の灯の力は強いとはいえ、ベニーがまだ未熟なゆえであろう。
ちなみに、昔の灯台守であれば、軽く祈るだけでもあっという間に鎮めてしまったらしい。ベニーは祖父からそのような話を聞かされていた。
少し弱める程度しかできなかったため、駆け下りていくベニーの表情はすぐれなかったというわけだ。
偉大な先祖を持つがゆえの悩みといえよう。
海の平和と安全を守るのは灯台守の役目。
祖父からもよく聞かされていた言葉だ。
普段はここまで荒れることがなかったので、漠然と願うだけだった状況だ。
ところが、今回の一件でベニーの意識はずいぶんと変わったようだ。
自分の力が及ばないこともあるということを、むざむざと見せつけられてしまった。
「ぴぃ……」
ベニーの肩では、プルンが心配そうに鳴いている。
その声に気が付いたベニーは、ハッと顔を上げてプルンの方を見る。
「大丈夫よ、プルン。私は大丈夫だから」
ベニーはかみしめるようにプルンどころか自分にも言い聞かせるように喋っている。
灯台の外では、ベニーの不安をかき立てるような風雨が吹き荒れ続けていた。
翌朝、夕方にも強く祈ったおかげか、ようやく外の風雨が治まっていた。
久々に顔を出した日の光に、ベニーの気持ちもどうにか明るくなりそうだった。
起きて着替えたベニーは、導の灯の前に跪く。
「嵐を鎮めて下さり、感謝致します。今日もまた、海と周辺の安全を照らして下さい」
「ぴぃ」
真剣に祈りを捧げると、ベニーは外の様子を見るために外へと向かって駆け出した。
灯台の入口から外に出ると、なんとも酷い状態だった。
森のあちこちで木が折れたらしく、灯台の庭先にも吹き飛んできた枝がたくさん転がっていたのだ。
祖父が生きていた頃も含めて、ここまでひどい状態になったのは初めて見るようだ。
「これはひどいわね。今日は片付けだけで一日が終わっちゃうわ」
「ぴ、ぴぃ……」
驚愕の表情を浮かべるベニーを気遣って、プルンはベニーの首筋に寄り添っている。
「心配してくれてありがとう。でも、これで薪はたくさん確保できそうね。頑張って片付けるから、プルンは落ちないように気を付けてて」
「ぴぃ!」
ベニーはあちこちに転がっている枝をひとつずつ拾っては、折って束ねていった。
これをしばらく天日干しにして水分を飛ばせば、立派な薪の完成である。
薪があると生活魔法で起こした火が強力になる。ベニーの生活ではあまり役に立たないものの、客人が来た時になどに役に立つのである。
なので、備蓄のために数を確保しておこうとベニーは必死に木の枝を拾い集めた。
かなりの数だったので、作業は夕方までかかってしまった。それでも、森の方を見るとまだまだ散らかっている。
昨日まで吹き荒れた嵐が相当のものだったことがよく分かる状況だった。
その作業の最中に海の方も確認してみたベニーだったが、幸いなことに海の方ではこれといった異常を認めることはなかった。
さすがに海での事故があったとなると、灯台守としての資質を問われかねなかったので、ベニーは胸を撫で下ろしたものだ。
しかし、昨日とおとといの二日間吹き荒れた嵐は、ベニーが体験する初めてのできごとだった。
なぜこんなことが起きたのか、ベニーはつい考え込んでしまう。
思い当たる節があるとすればマーテルのことくらいではある。これに関しては、ベニーは灯台守として淡々と対応したに過ぎない。ここまでのことが起こる原因とは考えられなかった。
何にしても、この嵐はベニーの心に大きな爪痕を残していったことには違いなさそうだった。
ベニーがその風の音で目を覚ましたくらいである。
「な、なんなのよ。この風の強さは!」
あまりにも吹きすさぶ風の音に、ベニーは驚きを隠しきれなかった。
雨に打たれることも気にしないでバルコニーから外を確認する。
そこで見たのは、見たことないくらいにうねりを見せる海の様子だった。
これほどまでに海が荒れていては、魔物が出てこないとしても船は安全な航行が見込めなくなってしまう。
ベニーはすぐさま灯台守としてその事態を防ぐため、導の灯へと向かっていく。
灯台の頂上では、今日も煌々と導の灯が輝いている。どうやら灯に問題があるというわけではなさそうだった。
だけど、この大荒れの天気を放っておけるベニーではなかった。
(お願いします。この荒れた天気をどうか鎮めて下さい。海を行き交うみなさんがどうか無事でありますように)
ベニーは本気で祈っている。
灯台守として、海の安全を守る者として、どうしてもこの天気を放っておくことはできなかったのだ。
「ぴぃ!」
プルンもベニーに同調して大きな声で鳴いている。
ベニーとプルンの祈りが通じたのか、導の灯が少し強めに光る。
光った直後辺りから、外から聞こえてくる風が吹きすさぶ音が少し静かになったようだった。
「ありがとうございます。どうか今日も、海の安全をお守り下さい」
ベニーはもう一度強く祈ると、いつもの生活を始めるべく地上の食堂へと向かって階段を駆け下りていった。
波も風も少し弱まってきたとはいえ、まだまだ油断のできるような状況ではなかった。
導の灯の力は強いとはいえ、ベニーがまだ未熟なゆえであろう。
ちなみに、昔の灯台守であれば、軽く祈るだけでもあっという間に鎮めてしまったらしい。ベニーは祖父からそのような話を聞かされていた。
少し弱める程度しかできなかったため、駆け下りていくベニーの表情はすぐれなかったというわけだ。
偉大な先祖を持つがゆえの悩みといえよう。
海の平和と安全を守るのは灯台守の役目。
祖父からもよく聞かされていた言葉だ。
普段はここまで荒れることがなかったので、漠然と願うだけだった状況だ。
ところが、今回の一件でベニーの意識はずいぶんと変わったようだ。
自分の力が及ばないこともあるということを、むざむざと見せつけられてしまった。
「ぴぃ……」
ベニーの肩では、プルンが心配そうに鳴いている。
その声に気が付いたベニーは、ハッと顔を上げてプルンの方を見る。
「大丈夫よ、プルン。私は大丈夫だから」
ベニーはかみしめるようにプルンどころか自分にも言い聞かせるように喋っている。
灯台の外では、ベニーの不安をかき立てるような風雨が吹き荒れ続けていた。
翌朝、夕方にも強く祈ったおかげか、ようやく外の風雨が治まっていた。
久々に顔を出した日の光に、ベニーの気持ちもどうにか明るくなりそうだった。
起きて着替えたベニーは、導の灯の前に跪く。
「嵐を鎮めて下さり、感謝致します。今日もまた、海と周辺の安全を照らして下さい」
「ぴぃ」
真剣に祈りを捧げると、ベニーは外の様子を見るために外へと向かって駆け出した。
灯台の入口から外に出ると、なんとも酷い状態だった。
森のあちこちで木が折れたらしく、灯台の庭先にも吹き飛んできた枝がたくさん転がっていたのだ。
祖父が生きていた頃も含めて、ここまでひどい状態になったのは初めて見るようだ。
「これはひどいわね。今日は片付けだけで一日が終わっちゃうわ」
「ぴ、ぴぃ……」
驚愕の表情を浮かべるベニーを気遣って、プルンはベニーの首筋に寄り添っている。
「心配してくれてありがとう。でも、これで薪はたくさん確保できそうね。頑張って片付けるから、プルンは落ちないように気を付けてて」
「ぴぃ!」
ベニーはあちこちに転がっている枝をひとつずつ拾っては、折って束ねていった。
これをしばらく天日干しにして水分を飛ばせば、立派な薪の完成である。
薪があると生活魔法で起こした火が強力になる。ベニーの生活ではあまり役に立たないものの、客人が来た時になどに役に立つのである。
なので、備蓄のために数を確保しておこうとベニーは必死に木の枝を拾い集めた。
かなりの数だったので、作業は夕方までかかってしまった。それでも、森の方を見るとまだまだ散らかっている。
昨日まで吹き荒れた嵐が相当のものだったことがよく分かる状況だった。
その作業の最中に海の方も確認してみたベニーだったが、幸いなことに海の方ではこれといった異常を認めることはなかった。
さすがに海での事故があったとなると、灯台守としての資質を問われかねなかったので、ベニーは胸を撫で下ろしたものだ。
しかし、昨日とおとといの二日間吹き荒れた嵐は、ベニーが体験する初めてのできごとだった。
なぜこんなことが起きたのか、ベニーはつい考え込んでしまう。
思い当たる節があるとすればマーテルのことくらいではある。これに関しては、ベニーは灯台守として淡々と対応したに過ぎない。ここまでのことが起こる原因とは考えられなかった。
何にしても、この嵐はベニーの心に大きな爪痕を残していったことには違いなさそうだった。
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