少女の水平線

未羊

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第34話 変わらない一日

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 翌日も嵐の後の片づけをと思ったベニーだったが、さすがにストックがなくなりつつあるために、草摘みと狩りへと出かけることにした。
 プルンはベニーの肩に乗って同行している。
 嵐が去った後はずいぶんと暖かな気候となっていたので、心配するほどぬかるみは残っておらず、ベニーはそこまで汚れずに済みそうだとほっとひと安心したようだった。

「さあ、数日分溜め込むわよ」

「ぴぃ」

 意気込むベニーの声に、プルンも気合いが入ったような声で鳴いていた。

 プルンの様子も、初めて会った時に比べるとかなり鳴き方にバリエーションが出てきている。
 ベニーの感情の変化に伴って、鳴き方が変わっているみたいだ。
 常に一緒にいるためか、ベニーの影響をかなり受けているのだと思われる。

 それはさておき、今日もベニーは魔法罠を仕掛けてから、薬草や野草の採取へと向かう。
 生活おいてそろえておきたい薬に使う薬草は、この迷いの森で全部手に入るので助かるというもの。あちこちに散在しているとはいえども、比較的近いのでそれほど時間がかからない。
 ベニーは草を採取しながら、その特徴やら摘み方やらをプルンに話しているようだ。
 一人で黙々を摘むより、実に楽しそうな表情をしている。

 傷薬、胃薬、解毒剤などなど、様々な薬に使える薬草と、食事に彩を添える食べられる野草を摘み終えたベニーは、魔法罠を仕掛けた場所へと戻ってくる。
 普段ベニーが出入りしている場所では、一角ウサギが多く生息している。他の魔物もいるにはいるけれど、ベニーが罠を仕掛ける場所は一角ウサギの通り道。一角ウサギ以外がかかる可能性はほぼ皆無なのである。
 今回もやっぱり、一角ウサギがたくさんかかっていた。

「やった、今日は五匹だわ。これで七日間くらい大丈夫」

 多く罠にかかっていれば、ベニーは表情を明るくしていた。
 それにしても、毎回同じ場所に罠が仕掛けられているというのに、一角ウサギもまったく学習しないものである。だけど、そのおかげでベニーは毎日の食事に困ることがない。
 一角ウサギが学習しない理由は分からない。ただ、その理由をベニーの祖父が推察していたことはあった。
 それによれば、罠にかかった小さな個体は傷を治して放すことになっているので、そのお礼を兼ねてわざと引っかかっているのではないかという信じられないような話だった。

「ぴぃっ!」

「きゅいい!」

 ベニーが魔法罠にかかった一角ウサギの処理をしていると、まだ元気な一角ウサギに対して、プルンが体当たりをしていた。
 さすが柔らかいとはいえ金属でできた体を持っているプルンだ。一撃で一角ウサギは気を失っていた。

「ぴぃ、ぴぃ」

 どんなもんだいと体を跳ねさせて、その嬉しさを表現している。
 このプルンの動きには、ベニーも思わず笑ってしまう。

「ありがとう、プルン。解体を順番にしているから、ちょっとそこでおとなしくしていてちょうだい」

「ぴぃ」

 プルンは倒した一角ウサギの上にぴょんと飛び乗っていた。
 まったく表情も何もない、まんまるなホムンクルスだというのに、感情と表情が透けて見えるというものだ。
 ベニーは鳴きながら待つプルンの様子を見ながら、一角ウサギを順番に解体していく。

「よし、お待たせ。それじゃ灯台に戻りましょう」

「ぴぃ」

 ベニーが呼び掛ければ、いつものようにプルンは肩に飛び乗る。
 収納魔法にすべてをしまい込んだベニーは、プルンと一緒にうきうきした気分で灯台へと戻っていった。

 昼食を済ませたベニーは、必要な薬もさっさと作ってしまい、暇になっていた。
 こうなれば、バルコニーに出て海を眺めてみるものである。
 この場所に建設された灯台の本来の目的は、目に見える海の平和を守るためだ。
 たまにはのんびりと何もしないで、その海を眺めてみようというわけである。
 椅子を持ち出してきて、ベニーはバルコニーに座る。
 灯台から海に突き出したこのバルコニーは、日の光も、海を吹き抜ける風も、思う存分その身に受けられる場所である。
 歴代の灯台守たちもお気に入りの、最高の贅沢ともいえる場所なのだ。
 ベニーのご先祖様のかけた魔法のおかげで、先日の嵐を受けてもこの場所はまったくもって無事。飛来物も一切残っていないという素晴らしさである。
 バルコニーでたたずむベニーとプルン。周りをカモメたちが飛び回っているが、まったく気にすることなくホットミルクを飲むベニーなのである。

「ふぅ、最高に落ち着くわね、この状況は」

「ぴぃ」

 どこまでも広がる青い海。そこそこ白い雲も浮かぶ澄み切った空。
 その景色を高い場所から独り占めである。これほどの贅沢があっていいというものだろうか。
 聞こえてくる音も、岬にぶつかって砕ける波の音と、周りを飛ぶカモメたちの鳴き声だけである。好き抜ける風もまた心地よい。

「おじいちゃんとも、時々こうしてたかな。小さい頃はあまり覚えてないかな」

「ぴぃ……」

 つい祖父の事を思い出してしまい、ベニーの頬を涙が伝っている。
 その感情を感じ取ったのか、プルンが悲しそうに鳴いていた。

「あ、ごめんね」

 プルンの鳴き声を聞いて、つい謝ってしまうベニーである。

「今はプルンがいるから寂しくないよ。心配してくれてありがとう」

「ぴぃ」

 ベニーが笑顔を見せれば、プルンも嬉しそうに鳴いていた。
 日が傾き始めれば、ベニーは灯台の中へと入っていく。
 今日もこうして、ベニーの一日は無事に過ぎていったのだった。
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