少女の水平線

未羊

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第42話 少女の決意

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 翌日もやることを終えたベニーは書庫で本を読みふけっていた。
 ホムンクルスのことが気になったので、徹底的にその謎を解き明かしたくなったからだ。
 そのホムンクルス自体は、ベニーの左肩に乗っている。
 隣国の錬金術師が作り出した素体が、ベニーの魔力と反応して動き出したのだ。
 ベニーのご先祖たちも作り出そうとして挫折したというホムンクルス。その完全体が今ここに存在しているのである。

「ふむふむ。ということは、ご先祖様たちはホムンクルスの体を完成させられなかったというわけなのね」

 ベニーが目を通す書物には、ご先祖の誰もホムンクルスの完成には至れなかったことが書かれていた。
 正確に言うと、動かすことはできたのだが、体がもたずにすぐに崩れ去ってしまっていた。
 無理もない。灯台の周りというのは、実に素材が不足していたのだ。
 行商人を受け入れていたというのは、おそらくその素材を手に入れるための手段としたということなのだろう。
 しかし、ご先祖がホムンクルスの研究を諦めたことで、行商人を受け入れるという慣習のみが続けられる事態となったのだ。
 その行商人も、祖父が亡くなった時点で潰えてしまったのだが。

「そういえば、私のところには行商人が来ませんね」

 ベニーは初めてその事実に気が付いた。
 よくよく思い出してみると、祖父の元には行商人がものを売りに来ていた。ベニーも同席していたことがあるので、そのことはよく覚えている。
 祖父の元に足しげくやって来たというのに、亡くなってからは一度も来ていない。おそらく最後に会った時に、ベニーの祖父の死期を悟ったのだろう。商人ゆえか、このようなことには敏感なのだ。
 来なくなったものは仕方がない。
 この時のベニーはそう考えて、特に気にも留めなかった。なにせ、ベニーの関心はプルンに集中していたからだ。
 結局、最後まで本に目を通してみたものの、めぼしい情報を得ることはできなかった。
 こうなると、ベニーはあまりやりたくなかった方法を取るしかなさそうだった。

「プルン、鑑定魔法を使ってもいいかしら」

「ぴぃぴぃ」

 プルンはベニーの肩から降りて、左右に飛び跳ねながら前に体を傾けていた。どうやら、了承しているようである。

「ありがとう、プルン。それじゃ、早速いきますよ」

 ベニーの声に合わせて、プルンはぴたりと動きを止める。
 いつでも来いと覚悟を決めたような状態だった。
 ベニーはプルンに対して鑑定魔法を使う。
 プルンが警戒をしてマーテルに話を聞けない以上、プルンのことを知るにはこうするしかないのだ。

「ぐっ……」

 ところが、プルンに対して鑑定魔法の効きが非常に悪かった。
 さすがは魔法生命体ホムンクルスである。魔法に対する耐性が高く、鑑定魔法ですらこのありさまだ。
 しかし、どうしてもプルンのことを知りたいベニーは、かなり力を集中させる。

「これで、どうかしらね!」

 普通は手のひらをかざすだけで行う鑑定魔法を、プルンに両手でしっかりと触れながら再度掛け直す。
 その結果、ようやくホムンクルスの魔法抵抗を貫くことができた。

「これは……。やっぱりプルンって金属でできていたのね」

「ぴぃ」

 鑑定結果にベニーは驚いていた。
 表示されたプルンの構成要素。その中の主要な物質には、書物で見た通り魔石が含まれていた。
 問題はプルンの体を担う物質だった。

「魔法金属……。まさかそんなものが使われているなんてね」

 魔法金属という単語は、ベニーも祖父から聞いたことがある。
 魔力を含み、他者からの魔力との親和性もある特殊な金属、それが魔法金属である。代表的なところは魔法銀だろう。
 ただ、魔法金属というのはとても希少なものだ。
 プルンの体程度の大きさでも、庶民なら余裕で一年間は何もしないで暮らしていけるくらいのものだ。
 なので、普通は他の金属と混ぜたり、表面にかぶせたりする、合金やメッキという形で使用している。
 そんな貴重な金属なのだが、プルンはなんと、その魔法金属だけで作られていたのだ。混ぜ物は一切なし、魔石と魔法金属だけで作られたホムンクルスなのだ。

(なるほど、マーテルさんが悔しがるのが分かる気がしますね)

 なにせプルンの原型を作り出したのはマーテルなのだ。本来ならば、彼がホムンクルスの第一号を持つはずだった。
 ところが、いくらやってもマーテルではホムンクルスを動かすことができなかったのだ。
 結果、拾い上げただけのベニーがホムンクルスの起動に成功してしまった。
 なるほど、マーテルの住む小屋から不穏な魔力が流れてきたのは、そのせいだったというわけだ。
 とはいえ、優しい性格のベニーは彼のことを放っておくことはできなかった。
 なにせ、プルンとこうやって暮らしていられるのは、彼が契約について教えてくれたからだ。
 あの時も、マーテルは相当悔しがっていたはずだ。なんなら恨みもしていただろう。

「プルン、次に港町に行った時にはマーテルさんに会ってみようと思うの。もちろん万一のために護衛はつけるわ。あなたもいいかしら」

「ぴぃ!」

 ただならぬベニーの気持ちを感じたのか、プルンは大きな声で鳴いていた。
 こうして、マーテルと会う決意を固めたベニーは、次の訪問のために準備を始めたのだった。
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