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第48話 導の灯の欠点
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騎士団に頼みごとをしたベニーの日常は、いつも通りに戻る。
港町に出向いて耳にした魔物の異変だが、迷いの森では特に変化はない。いつもの場所では一角ウサギが今日も獲れていた。
薬草などを摘んでいる間も、魔物の襲撃はない。
ベニーの生活圏では、今日も変わりのない状況が続いていた。
「ふぅ、そろそろ灯台に戻るわよ、プルン」
「ぴぃ」
無事に一角ウサギの解体を終えたベニーは、灯台へと戻っていく。
状況的にはゆっくりしているような状況ではないのだが、ベニーにできるなんてことはいつも通り過ごすことくらいだ。なので、やむなくベニーは普段通りを心掛けたのだ。
結局、灯台と迷いの森にはまったく問題はなかった。
港町に駐屯する騎士団たちが言うような変化は、どうやらベニーの周囲には起きていないようだった。
先日の港町に向かう最中に飛び出してきたウルフくらいである。
しかし、オリゾンテの騎士たちが嘘を話すということも、祖父からの話を踏まえると考えられないこと。なので、ベニーは警戒を緩めることはなかった。
お昼を済ませたベニーは、薬を作り終えるとバルコニーに出て風に吹かれている。
灯台の中ほどの高さにあるバルコニーから見る景色というのは、何も遮るものがないのでよく見えるというもの。
海の方はいつもの通り、青い空と青い海が広がるばかりだ。
ベニーは港町の方へと視線を向ける。
灯台の高さからだと、港町はギリギリ見えるかどうかという場所になるが、バルコニーから見た感じでは特に変わった印象を受けなかった。
灯台と港町を結ぶ街道の脇には森が広がっているものの、見る限り普通の森といった感じだ。とても魔物が暴れているように見えなかった。
「プルン、あの森に何か感じる?」
「ぴぃ? ぴぃ……」
プルンは張り切ってみたものの、すぐにへにゃりと元気がなくなった。
明らかにプルン様子がおかしい。
「プルン、あの森になにかやっぱりあるというのね」
「ぴぃぴぃ」
プルンは体を前後に激しく揺らしている。やはり何かあるということなのだろう。
だけど、ベニーが今すぐ調査をするというわけにはいかない。灯台守の仕事がある以上は、灯台からそう離れることもできない。
特に夜は祖父からも出歩かないように止められている。
「私は何かしら薬でも作って対処するしかないかしらね。せめて、灯台との間の街道の安全だけでも守れないかしらね」
「ぴぃ?」
そんな方法はあるの?
プルンがそんなことを聞いているように感じた。
ベニーだって、そんな方法があるならさっさと実行しておきたいと思った。
「こういう時は、やはりご先祖様たちの知恵を借りるのが一番よね。プルン、夕食後に書庫に向かいましょうか」
「ぴぃ」
灯台の導の灯の効力が通じない時の対処法。もしかしたらご先祖なら何か知っているかも知れない。ベニーはもしかしたらと思ったようだ。
とはいえど、今から向かえば夕方の灯のチェックを怠ってしまいそうだったがために、夕食後まで待つことにしたのだった。
夕方の導の灯のチェックを行い、夕食を食べたベニーは、祖父の部屋の奥にある書庫へとやって来た。
海の魔物たちは相変わらずおとなしいので、導の灯の力が弱まっているわけではないと思われる。
だが、騎士たちの証言とウルフに襲われた件を考えれば、陸地側には灯の効力がそれほど届いてないように思われる。
過去にそういった事例がないか。もしそうなった時の対処法はないか。ベニーはそれらを調べに書庫に足を踏み入れたのだ。
「書庫に宿る意思よ。灯の効力が及ばない時の原因と対処法を、私に教えて」
ベニーは、強く書庫に願う。
強い思いに書庫が反応し、膨大な蔵書から該当するものを一瞬で探し出してきた。
書物が出てくるということは、過去にもそういう事例があったということだ。
「ありがとうございます」
ベニーはお礼を言いながら、手元に降りてきた本を手に取る。
驚いたことに、その本はなんと二冊あった。ということは、こういう事例は過去には二度はあったということなのだろう。
早速ベニーは椅子に座って本を読み始める。
一度目はかなり古い時代のようだった。
どうやら初代の灯台守が存命中に起きたらしい。
二代目や三代目の灯台守を巡って争いが起きた時の話のようだった。
魔物の脅威から人々を救った初代の灯台守は英雄視されており、その地位というものは絶大的な力を持っていた。それは、今の時代から考えるともっとすごいものだったようだ。
灯台守の持つ絶大的な権力をめぐって、直系の子孫と魔法使いの弟子たちとの間で衝突が起きる。その際に、初代が作り出した導の灯の弱点を突いて、灯台守の力を貶めようとした事件が起きたそうだ。
その時は犯人が分かっていたことに加え、隠居した初代が存命中だったこともあり、初代灯台守の力で事件は終息したというわけだった。
その弱点というのが、地上の魔物への導の灯の効力がかなり弱いというものだった。
魔物の気性を抑え込むだけの灯の効果なので、それを上回る刺激を与えてやれば、意外と簡単に魔物を暴れさせられるというわけなのだ。
「可能性は高そうですね。でも、一体誰が何のために……」
犯人と動機に思い当たる節のないベニーは、首を捻るばかりだった。
その後もベニーは眠くなるまで書庫に閉じこもって調べ続けたのだった。
港町に出向いて耳にした魔物の異変だが、迷いの森では特に変化はない。いつもの場所では一角ウサギが今日も獲れていた。
薬草などを摘んでいる間も、魔物の襲撃はない。
ベニーの生活圏では、今日も変わりのない状況が続いていた。
「ふぅ、そろそろ灯台に戻るわよ、プルン」
「ぴぃ」
無事に一角ウサギの解体を終えたベニーは、灯台へと戻っていく。
状況的にはゆっくりしているような状況ではないのだが、ベニーにできるなんてことはいつも通り過ごすことくらいだ。なので、やむなくベニーは普段通りを心掛けたのだ。
結局、灯台と迷いの森にはまったく問題はなかった。
港町に駐屯する騎士団たちが言うような変化は、どうやらベニーの周囲には起きていないようだった。
先日の港町に向かう最中に飛び出してきたウルフくらいである。
しかし、オリゾンテの騎士たちが嘘を話すということも、祖父からの話を踏まえると考えられないこと。なので、ベニーは警戒を緩めることはなかった。
お昼を済ませたベニーは、薬を作り終えるとバルコニーに出て風に吹かれている。
灯台の中ほどの高さにあるバルコニーから見る景色というのは、何も遮るものがないのでよく見えるというもの。
海の方はいつもの通り、青い空と青い海が広がるばかりだ。
ベニーは港町の方へと視線を向ける。
灯台の高さからだと、港町はギリギリ見えるかどうかという場所になるが、バルコニーから見た感じでは特に変わった印象を受けなかった。
灯台と港町を結ぶ街道の脇には森が広がっているものの、見る限り普通の森といった感じだ。とても魔物が暴れているように見えなかった。
「プルン、あの森に何か感じる?」
「ぴぃ? ぴぃ……」
プルンは張り切ってみたものの、すぐにへにゃりと元気がなくなった。
明らかにプルン様子がおかしい。
「プルン、あの森になにかやっぱりあるというのね」
「ぴぃぴぃ」
プルンは体を前後に激しく揺らしている。やはり何かあるということなのだろう。
だけど、ベニーが今すぐ調査をするというわけにはいかない。灯台守の仕事がある以上は、灯台からそう離れることもできない。
特に夜は祖父からも出歩かないように止められている。
「私は何かしら薬でも作って対処するしかないかしらね。せめて、灯台との間の街道の安全だけでも守れないかしらね」
「ぴぃ?」
そんな方法はあるの?
プルンがそんなことを聞いているように感じた。
ベニーだって、そんな方法があるならさっさと実行しておきたいと思った。
「こういう時は、やはりご先祖様たちの知恵を借りるのが一番よね。プルン、夕食後に書庫に向かいましょうか」
「ぴぃ」
灯台の導の灯の効力が通じない時の対処法。もしかしたらご先祖なら何か知っているかも知れない。ベニーはもしかしたらと思ったようだ。
とはいえど、今から向かえば夕方の灯のチェックを怠ってしまいそうだったがために、夕食後まで待つことにしたのだった。
夕方の導の灯のチェックを行い、夕食を食べたベニーは、祖父の部屋の奥にある書庫へとやって来た。
海の魔物たちは相変わらずおとなしいので、導の灯の力が弱まっているわけではないと思われる。
だが、騎士たちの証言とウルフに襲われた件を考えれば、陸地側には灯の効力がそれほど届いてないように思われる。
過去にそういった事例がないか。もしそうなった時の対処法はないか。ベニーはそれらを調べに書庫に足を踏み入れたのだ。
「書庫に宿る意思よ。灯の効力が及ばない時の原因と対処法を、私に教えて」
ベニーは、強く書庫に願う。
強い思いに書庫が反応し、膨大な蔵書から該当するものを一瞬で探し出してきた。
書物が出てくるということは、過去にもそういう事例があったということだ。
「ありがとうございます」
ベニーはお礼を言いながら、手元に降りてきた本を手に取る。
驚いたことに、その本はなんと二冊あった。ということは、こういう事例は過去には二度はあったということなのだろう。
早速ベニーは椅子に座って本を読み始める。
一度目はかなり古い時代のようだった。
どうやら初代の灯台守が存命中に起きたらしい。
二代目や三代目の灯台守を巡って争いが起きた時の話のようだった。
魔物の脅威から人々を救った初代の灯台守は英雄視されており、その地位というものは絶大的な力を持っていた。それは、今の時代から考えるともっとすごいものだったようだ。
灯台守の持つ絶大的な権力をめぐって、直系の子孫と魔法使いの弟子たちとの間で衝突が起きる。その際に、初代が作り出した導の灯の弱点を突いて、灯台守の力を貶めようとした事件が起きたそうだ。
その時は犯人が分かっていたことに加え、隠居した初代が存命中だったこともあり、初代灯台守の力で事件は終息したというわけだった。
その弱点というのが、地上の魔物への導の灯の効力がかなり弱いというものだった。
魔物の気性を抑え込むだけの灯の効果なので、それを上回る刺激を与えてやれば、意外と簡単に魔物を暴れさせられるというわけなのだ。
「可能性は高そうですね。でも、一体誰が何のために……」
犯人と動機に思い当たる節のないベニーは、首を捻るばかりだった。
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