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第47話 見えていなかったもの
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商業ギルドを出たベニーは、まだお昼には早いなと港町の中を散策する。
今日は港に停泊している大型船舶はない。その代わり、近くで魚を獲っている漁船の姿がちらほらと見える。
大型船舶が停泊している時には見られないし、普段だと港町をここまでゆっくり散策はしない。ベニーにとっては実に新発見だった。
「おや、ベニーちゃん。今日も来ていたのかい」
漁船から魚を降ろしている漁師の男性と出くわした。
急に声を掛けられたものだから、ベニーはついびっくりした顔をしている。
それもそのはず。ベニーはその漁師の男性を知らないのだ。
ところが、逆は必ずしも成り立たない。ベニーは灯台守の少女として港町には顔が完全に知れ渡っているのである。
「わしらが何の心配もなくこうやって漁が行えるのは、ベニーちゃんが灯を守ってくれておるおかげだ。まったく感謝しかない」
「いえ、私はおじいちゃんに言われた通りに灯を管理しているだけです。そこまで言われるほど偉いとは思っていませんよ」
感謝を伝えてくる漁師の男性だが、ベニーもベニーで謙遜してしまっている。
「はははっ、今代の灯台守は謙虚だのう。祖父を亡くして一人で暮らすのは大変だろうが、こんな町でもよければいつでも頼りにしておくれ」
「はい、ありがとうございます」
話を終えたベニーは、せっかくだからと漁師が獲った魚を見せてもらうことにした。
いつもは灯台のバルコニーから釣るばかりだったので、他人が釣った魚というのは見ることのないものだった。
「これを頂きます。代金をお支払いしますね。これから売るところだったでしょうから」
「いやぁ、灯台守からお金を取るわけにはいかんな。他の連中ならまだしも、漁師は灯台守に一番世話になっておる。代金を頂戴したとなると、なんとも罰当たりなものと思うぞ」
支払いたいベニーだったが、漁師も漁師で気持ち的な問題があったようだ。
結局一匹だけ頂くということで、代金はなしという話で落ち着いた。
こういったやり取りを見るに、港町における灯台守の立ち位置というのがよく分かるものだ。
ここが灯台から最も近い町というのもあるだろう。それゆえに恩恵の大きさ際立っているのだ。
漁師の男性と別れたベニーは、オールのパン屋へと向かう。話をしていたら大体いつもの時間になっていたようなので、お昼を購入しようというわけである。
「オールさん、パンを頂きに来ました」
「おや、ベニーちゃん、いらっしゃい。今日もいつものパンでいいかい?」
「はい、今日はいつもの倍で」
「そんなに食べられるのかい? 無理しなくていいんだよ」
「あはは、大丈夫ですよ。心配しないで下さい」
いつも四個のパンを買って帰るベニーが、その倍である八個のパンを買おうとしているために、オールはいろいろと心配になったのだ。
いくらパンとはいえども、長持ちはしない。持ち運べるのか、運べたとしてちゃんと食べきれるのか。オールはそこを心配しているのである。
だけど、ベニーはそのオールの心配を笑い飛ばしていた。
ベニーからすれば収納魔法があるために、まったく心配に及ばないからだ。
適当にやり取りを交わしたベニーは、店を出て帰路に就く。
「帰ろっか、プルン」
「ぴぃ」
最後に町外れの牧場でミルクをもらって帰れば、今日のベニーの用事は終わりである。
今日は漁師のおじさんと話をするという予定がいなことはあったけれど、概ねいつも通りだった。
ところが、町外れの牧場に向かう中、ベニーはぞっとした妙な気配を感じ取った。
「なに、今の感じ……」
「ぴぃ……」
プルンが震えている。
肩の上の違和感を感じたベニーが改めて顔を向けると、そこはマーテルが住んでいる町外れの方向だった。
「そうだったわ。なんで忘れていたのかしら」
ベニーは先日も同じような感じを受け取ったことを思い出していた。
こうしてはいられないと、ミルクを買いに行く前に、おとといに訪れた騎士団の詰所へとベニーは急ぐ。
マーテルのことなのでベニーが対処してもいいかもしれないが、ベニーはなにより灯台守としての使命がある。この使命を怠るわけにはいかないので、騎士団に任せるしかないのだ。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
騎士団の詰所へとやって来たベニーは、中へと必死に訴える。
中から出てきたのは先日の騎士の男性と、もう一人別の男性が出てきた。
「どうしたんですか、灯台守殿。そんなに血相を変えて」
対応に出てきた男性が焦ったような様子を見せている。
それもそうだ。ここまでベニーは急いで走ってきたのだから。息を切らせながら目の前に現れたのなら、驚いて当然なのである。
「あの、すみません。頼みたいことがあるんです」
「灯台守殿の頼み……。なんでも仰って下さい。灯台守殿が気になることでしたら、できる範囲で対処致しますとも!」
何も内容を言っていないのに、騎士の男性は受ける気満々である。
その姿を見たベニーは、町外れに住むマーテルという男性について、しっかりと見張るように伝えておいた。不穏な気配を強く感じたからだ。
鬼気迫るベニーの気迫に押され、騎士たちはその依頼を引き受けていた。
どうにかこうにか、懸念を伝えたベニー。
騎士団の見張りがつくことになって、ひとまずは大丈夫だと思われるのだが、胸騒ぎがおさまることはなかった。
心配になるベニーではあったものの、ミルクを忘れずに購入して灯台へと戻っていったのだった。
今日は港に停泊している大型船舶はない。その代わり、近くで魚を獲っている漁船の姿がちらほらと見える。
大型船舶が停泊している時には見られないし、普段だと港町をここまでゆっくり散策はしない。ベニーにとっては実に新発見だった。
「おや、ベニーちゃん。今日も来ていたのかい」
漁船から魚を降ろしている漁師の男性と出くわした。
急に声を掛けられたものだから、ベニーはついびっくりした顔をしている。
それもそのはず。ベニーはその漁師の男性を知らないのだ。
ところが、逆は必ずしも成り立たない。ベニーは灯台守の少女として港町には顔が完全に知れ渡っているのである。
「わしらが何の心配もなくこうやって漁が行えるのは、ベニーちゃんが灯を守ってくれておるおかげだ。まったく感謝しかない」
「いえ、私はおじいちゃんに言われた通りに灯を管理しているだけです。そこまで言われるほど偉いとは思っていませんよ」
感謝を伝えてくる漁師の男性だが、ベニーもベニーで謙遜してしまっている。
「はははっ、今代の灯台守は謙虚だのう。祖父を亡くして一人で暮らすのは大変だろうが、こんな町でもよければいつでも頼りにしておくれ」
「はい、ありがとうございます」
話を終えたベニーは、せっかくだからと漁師が獲った魚を見せてもらうことにした。
いつもは灯台のバルコニーから釣るばかりだったので、他人が釣った魚というのは見ることのないものだった。
「これを頂きます。代金をお支払いしますね。これから売るところだったでしょうから」
「いやぁ、灯台守からお金を取るわけにはいかんな。他の連中ならまだしも、漁師は灯台守に一番世話になっておる。代金を頂戴したとなると、なんとも罰当たりなものと思うぞ」
支払いたいベニーだったが、漁師も漁師で気持ち的な問題があったようだ。
結局一匹だけ頂くということで、代金はなしという話で落ち着いた。
こういったやり取りを見るに、港町における灯台守の立ち位置というのがよく分かるものだ。
ここが灯台から最も近い町というのもあるだろう。それゆえに恩恵の大きさ際立っているのだ。
漁師の男性と別れたベニーは、オールのパン屋へと向かう。話をしていたら大体いつもの時間になっていたようなので、お昼を購入しようというわけである。
「オールさん、パンを頂きに来ました」
「おや、ベニーちゃん、いらっしゃい。今日もいつものパンでいいかい?」
「はい、今日はいつもの倍で」
「そんなに食べられるのかい? 無理しなくていいんだよ」
「あはは、大丈夫ですよ。心配しないで下さい」
いつも四個のパンを買って帰るベニーが、その倍である八個のパンを買おうとしているために、オールはいろいろと心配になったのだ。
いくらパンとはいえども、長持ちはしない。持ち運べるのか、運べたとしてちゃんと食べきれるのか。オールはそこを心配しているのである。
だけど、ベニーはそのオールの心配を笑い飛ばしていた。
ベニーからすれば収納魔法があるために、まったく心配に及ばないからだ。
適当にやり取りを交わしたベニーは、店を出て帰路に就く。
「帰ろっか、プルン」
「ぴぃ」
最後に町外れの牧場でミルクをもらって帰れば、今日のベニーの用事は終わりである。
今日は漁師のおじさんと話をするという予定がいなことはあったけれど、概ねいつも通りだった。
ところが、町外れの牧場に向かう中、ベニーはぞっとした妙な気配を感じ取った。
「なに、今の感じ……」
「ぴぃ……」
プルンが震えている。
肩の上の違和感を感じたベニーが改めて顔を向けると、そこはマーテルが住んでいる町外れの方向だった。
「そうだったわ。なんで忘れていたのかしら」
ベニーは先日も同じような感じを受け取ったことを思い出していた。
こうしてはいられないと、ミルクを買いに行く前に、おとといに訪れた騎士団の詰所へとベニーは急ぐ。
マーテルのことなのでベニーが対処してもいいかもしれないが、ベニーはなにより灯台守としての使命がある。この使命を怠るわけにはいかないので、騎士団に任せるしかないのだ。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
騎士団の詰所へとやって来たベニーは、中へと必死に訴える。
中から出てきたのは先日の騎士の男性と、もう一人別の男性が出てきた。
「どうしたんですか、灯台守殿。そんなに血相を変えて」
対応に出てきた男性が焦ったような様子を見せている。
それもそうだ。ここまでベニーは急いで走ってきたのだから。息を切らせながら目の前に現れたのなら、驚いて当然なのである。
「あの、すみません。頼みたいことがあるんです」
「灯台守殿の頼み……。なんでも仰って下さい。灯台守殿が気になることでしたら、できる範囲で対処致しますとも!」
何も内容を言っていないのに、騎士の男性は受ける気満々である。
その姿を見たベニーは、町外れに住むマーテルという男性について、しっかりと見張るように伝えておいた。不穏な気配を強く感じたからだ。
鬼気迫るベニーの気迫に押され、騎士たちはその依頼を引き受けていた。
どうにかこうにか、懸念を伝えたベニー。
騎士団の見張りがつくことになって、ひとまずは大丈夫だと思われるのだが、胸騒ぎがおさまることはなかった。
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