46 / 61
第46話 薬を納めに
しおりを挟む
翌日、でき上がった薬を持って港町へと出向く。
前回の訪問からたったの二日で港町に出向くのは、何気に初めてである。
そのくらいに、現状は急を要すると考えたのだ。
「数は少ないけれど、これでも少しでも被害を食い止められれば……」
ベニーは必死だったのか、港町への道を走って向かっていった。
走ったということもあってか、思ったよりも早い時間に港町に到着する。
港町の入口では、町を守る門番に心配されるくらいだった。
「べ、ベニーちゃん。どうしたんだい、そんなに慌てて」
呼吸が荒いベニーの姿に、どうしたものかと門番はあたふたとしている。
「とりあえず、何か飲み物を飲ませたらどうだ」
「そ、そうだな。ちょっと待っててくれよ、すぐ持ってくる」
門番は慌てて詰所の中へと駆けこんでいった。
「ほら、ミルクだ。落ち着いて飲めよ」
門番が持ってきたのは、近くで手に入るミルクだった。ベニーも収納魔法の中にいくらか入れて常備しているものだった。
だけど、せっかく持ってきてくれたので、ベニーは受け取って一気に飲み干していた。
「ありがとうございます。ちょっと今日は慌てて走ってきちゃいまして。慣れないことをしてはいけませんね」
「まったく、どうしたっていうんだよ。そんなに息切れ起こすくらいってことは、相当の話なんだよな」
門番は気になっているようなそぶりを見せていた。
しかし、たった一人の騎士から聞いた話なので、ベニーにはまだ確証が持てない。
それに、港町の状況を見ると、特に変わった様子がない。だったら、ここで無理に喋る内容ではないかなと考えた。
「ちょっと用事を忘れていたのを思い出したんですよ。それで慌ててやって来たんです」
「なんだそうだったのか。ベニーちゃんでもおっちょこちょいなところがあるんだな。灯台守とはいっても、ベニーちゃんも普通の子と変わらないところがあるんだな」
「あは、あはははは」
慰めるように門番は話したつもりだったが、ベニーはちょっとショックを受けたみたいだ。そのせいで、顔がちょっと引きつっているようである。
状態が回復したベニーは、門番にお礼を言って港町の中へと踏み込んでいく。
目的地は商業ギルド。
ここならきっと、近隣で起きている変化の状況の情報が集まっているはずだからと睨んだのだ。
「こんにちは」
中へと踏み込んだベニーは、元気よく挨拶をする。
「ベニーさん、今日はお早いですね。すぐに奥へとご案内します」
いつも担当している女性が慌てて駆け出してくる。
そして、女性にいつものように奥への部屋と連れていかれる。
「どうなさったんですか、こんなに早く」
「すみません、今日はどうして早く来たかったので走ってきました」
「あ、あの距離を?!」
女性がびっくりして表情を歪ませている。そのくらいに普段のベニーからは考えられない行動だったようだ。
ひとまずお茶を出して話を聞くことにした女性は、自分の正面にベニーを座らせた。
「あの、この近隣で何か起きているとか情報は得ていますか?」
お茶を一口含んだベニーは、女性に尋ねる。
質問を受けた女性の表情が一気に険しくなる。これは間違いなく情報を持っているようだ。
「……はい。実は傭兵ギルドの方と同時に、騎士団の方々から報告を受けました。向こうの方ですと、傭兵の方々からも証言があったらしく、かなり緊張した様子でしたね」
やっぱり知っていたようだった。
こうなると、ベニーは早速昨日作った薬を取り出すことにする。
「昨日、考えごとしながら作っていたら、ちょっと失敗してしまいましてね。それをどうにか調整した傷薬を持ってきたんです」
それは、丸薬タイプの傷薬だった。
「ちょっと拝見しますね」
女性は鑑定魔法で丸薬をチェックする。
次の瞬間、驚いた表情を浮かべて、ベニーの顔をまじまじと見ている。
「なんですか、この効果の高さは。でも、丸薬なのはもったいないですね」
「あ、大丈夫ですよ。水などと一緒に飲ませればちゃんと効果は発揮しますから」
ベニーは生活魔法の水で十分だと言って、明るい表情で説明していた。
生活魔法も魔法の一種ではあるものの、魔法を使うのにそれほど魔力を使わないのが特徴だ。
なので、丸薬でも十分効果を発揮できるかと、女性は納得していた。
「なるほど、ベニーさんも何らかの理由であの話を知って、こうやって傷薬を急きょ納めに来たというわけですか」
「はい、その通りです。私は灯台守ですから、みなさんの無事を守らないといけません。なので、できることをやりたいと考えて、傷薬を作ってきたんです」
ベニーの表情はとても真剣そのものだった。
どれだけ本気かという気持ちを受け取った女性は、今回ベニーが持ってきた傷薬の査定に入る。
査定から戻ってきた女性は、驚きの表情でベニーのことを見ている。
「驚きましたね。丸薬とはいえ、これだけの効果。不便さのために少し引かせて頂きましたが、それでも破格の査定結果ですよ」
女性は持ってきたカルトンに、硬貨を積み上げる。
ベニーの持ってきた丸薬タイプの傷薬は、とんでもない査定結果になっていた。
「本当にベニーさんの薬は助かっております。いつも本当にありがとうございます」
女性は頭を深々と下げていた。
無事に傷薬を納品できたベニーは、できれば最前線で戦う騎士たちに回してもらえるようにとお願いをしておく。
そのお願いを女性は快く聞き入れてくれたので、ベニーは安心して商業ギルドから去っていったのだった。
前回の訪問からたったの二日で港町に出向くのは、何気に初めてである。
そのくらいに、現状は急を要すると考えたのだ。
「数は少ないけれど、これでも少しでも被害を食い止められれば……」
ベニーは必死だったのか、港町への道を走って向かっていった。
走ったということもあってか、思ったよりも早い時間に港町に到着する。
港町の入口では、町を守る門番に心配されるくらいだった。
「べ、ベニーちゃん。どうしたんだい、そんなに慌てて」
呼吸が荒いベニーの姿に、どうしたものかと門番はあたふたとしている。
「とりあえず、何か飲み物を飲ませたらどうだ」
「そ、そうだな。ちょっと待っててくれよ、すぐ持ってくる」
門番は慌てて詰所の中へと駆けこんでいった。
「ほら、ミルクだ。落ち着いて飲めよ」
門番が持ってきたのは、近くで手に入るミルクだった。ベニーも収納魔法の中にいくらか入れて常備しているものだった。
だけど、せっかく持ってきてくれたので、ベニーは受け取って一気に飲み干していた。
「ありがとうございます。ちょっと今日は慌てて走ってきちゃいまして。慣れないことをしてはいけませんね」
「まったく、どうしたっていうんだよ。そんなに息切れ起こすくらいってことは、相当の話なんだよな」
門番は気になっているようなそぶりを見せていた。
しかし、たった一人の騎士から聞いた話なので、ベニーにはまだ確証が持てない。
それに、港町の状況を見ると、特に変わった様子がない。だったら、ここで無理に喋る内容ではないかなと考えた。
「ちょっと用事を忘れていたのを思い出したんですよ。それで慌ててやって来たんです」
「なんだそうだったのか。ベニーちゃんでもおっちょこちょいなところがあるんだな。灯台守とはいっても、ベニーちゃんも普通の子と変わらないところがあるんだな」
「あは、あはははは」
慰めるように門番は話したつもりだったが、ベニーはちょっとショックを受けたみたいだ。そのせいで、顔がちょっと引きつっているようである。
状態が回復したベニーは、門番にお礼を言って港町の中へと踏み込んでいく。
目的地は商業ギルド。
ここならきっと、近隣で起きている変化の状況の情報が集まっているはずだからと睨んだのだ。
「こんにちは」
中へと踏み込んだベニーは、元気よく挨拶をする。
「ベニーさん、今日はお早いですね。すぐに奥へとご案内します」
いつも担当している女性が慌てて駆け出してくる。
そして、女性にいつものように奥への部屋と連れていかれる。
「どうなさったんですか、こんなに早く」
「すみません、今日はどうして早く来たかったので走ってきました」
「あ、あの距離を?!」
女性がびっくりして表情を歪ませている。そのくらいに普段のベニーからは考えられない行動だったようだ。
ひとまずお茶を出して話を聞くことにした女性は、自分の正面にベニーを座らせた。
「あの、この近隣で何か起きているとか情報は得ていますか?」
お茶を一口含んだベニーは、女性に尋ねる。
質問を受けた女性の表情が一気に険しくなる。これは間違いなく情報を持っているようだ。
「……はい。実は傭兵ギルドの方と同時に、騎士団の方々から報告を受けました。向こうの方ですと、傭兵の方々からも証言があったらしく、かなり緊張した様子でしたね」
やっぱり知っていたようだった。
こうなると、ベニーは早速昨日作った薬を取り出すことにする。
「昨日、考えごとしながら作っていたら、ちょっと失敗してしまいましてね。それをどうにか調整した傷薬を持ってきたんです」
それは、丸薬タイプの傷薬だった。
「ちょっと拝見しますね」
女性は鑑定魔法で丸薬をチェックする。
次の瞬間、驚いた表情を浮かべて、ベニーの顔をまじまじと見ている。
「なんですか、この効果の高さは。でも、丸薬なのはもったいないですね」
「あ、大丈夫ですよ。水などと一緒に飲ませればちゃんと効果は発揮しますから」
ベニーは生活魔法の水で十分だと言って、明るい表情で説明していた。
生活魔法も魔法の一種ではあるものの、魔法を使うのにそれほど魔力を使わないのが特徴だ。
なので、丸薬でも十分効果を発揮できるかと、女性は納得していた。
「なるほど、ベニーさんも何らかの理由であの話を知って、こうやって傷薬を急きょ納めに来たというわけですか」
「はい、その通りです。私は灯台守ですから、みなさんの無事を守らないといけません。なので、できることをやりたいと考えて、傷薬を作ってきたんです」
ベニーの表情はとても真剣そのものだった。
どれだけ本気かという気持ちを受け取った女性は、今回ベニーが持ってきた傷薬の査定に入る。
査定から戻ってきた女性は、驚きの表情でベニーのことを見ている。
「驚きましたね。丸薬とはいえ、これだけの効果。不便さのために少し引かせて頂きましたが、それでも破格の査定結果ですよ」
女性は持ってきたカルトンに、硬貨を積み上げる。
ベニーの持ってきた丸薬タイプの傷薬は、とんでもない査定結果になっていた。
「本当にベニーさんの薬は助かっております。いつも本当にありがとうございます」
女性は頭を深々と下げていた。
無事に傷薬を納品できたベニーは、できれば最前線で戦う騎士たちに回してもらえるようにとお願いをしておく。
そのお願いを女性は快く聞き入れてくれたので、ベニーは安心して商業ギルドから去っていったのだった。
7
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる