少女の水平線

未羊

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第46話 薬を納めに

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 翌日、でき上がった薬を持って港町へと出向く。
 前回の訪問からたったの二日で港町に出向くのは、何気に初めてである。
 そのくらいに、現状は急を要すると考えたのだ。

「数は少ないけれど、これでも少しでも被害を食い止められれば……」

 ベニーは必死だったのか、港町への道を走って向かっていった。

 走ったということもあってか、思ったよりも早い時間に港町に到着する。
 港町の入口では、町を守る門番に心配されるくらいだった。

「べ、ベニーちゃん。どうしたんだい、そんなに慌てて」

 呼吸が荒いベニーの姿に、どうしたものかと門番はあたふたとしている。

「とりあえず、何か飲み物を飲ませたらどうだ」

「そ、そうだな。ちょっと待っててくれよ、すぐ持ってくる」

 門番は慌てて詰所の中へと駆けこんでいった。

「ほら、ミルクだ。落ち着いて飲めよ」

 門番が持ってきたのは、近くで手に入るミルクだった。ベニーも収納魔法の中にいくらか入れて常備しているものだった。
 だけど、せっかく持ってきてくれたので、ベニーは受け取って一気に飲み干していた。

「ありがとうございます。ちょっと今日は慌てて走ってきちゃいまして。慣れないことをしてはいけませんね」

「まったく、どうしたっていうんだよ。そんなに息切れ起こすくらいってことは、相当の話なんだよな」

 門番は気になっているようなそぶりを見せていた。
 しかし、たった一人の騎士から聞いた話なので、ベニーにはまだ確証が持てない。
 それに、港町の状況を見ると、特に変わった様子がない。だったら、ここで無理に喋る内容ではないかなと考えた。

「ちょっと用事を忘れていたのを思い出したんですよ。それで慌ててやって来たんです」

「なんだそうだったのか。ベニーちゃんでもおっちょこちょいなところがあるんだな。灯台守とはいっても、ベニーちゃんも普通の子と変わらないところがあるんだな」

「あは、あはははは」

 慰めるように門番は話したつもりだったが、ベニーはちょっとショックを受けたみたいだ。そのせいで、顔がちょっと引きつっているようである。
 状態が回復したベニーは、門番にお礼を言って港町の中へと踏み込んでいく。
 目的地は商業ギルド。
 ここならきっと、近隣で起きている変化の状況の情報が集まっているはずだからと睨んだのだ。

「こんにちは」

 中へと踏み込んだベニーは、元気よく挨拶をする。

「ベニーさん、今日はお早いですね。すぐに奥へとご案内します」

 いつも担当している女性が慌てて駆け出してくる。
 そして、女性にいつものように奥への部屋と連れていかれる。

「どうなさったんですか、こんなに早く」

「すみません、今日はどうして早く来たかったので走ってきました」

「あ、あの距離を?!」

 女性がびっくりして表情を歪ませている。そのくらいに普段のベニーからは考えられない行動だったようだ。
 ひとまずお茶を出して話を聞くことにした女性は、自分の正面にベニーを座らせた。

「あの、この近隣で何か起きているとか情報は得ていますか?」

 お茶を一口含んだベニーは、女性に尋ねる。
 質問を受けた女性の表情が一気に険しくなる。これは間違いなく情報を持っているようだ。

「……はい。実は傭兵ギルドの方と同時に、騎士団の方々から報告を受けました。向こうの方ですと、傭兵の方々からも証言があったらしく、かなり緊張した様子でしたね」

 やっぱり知っていたようだった。
 こうなると、ベニーは早速昨日作った薬を取り出すことにする。

「昨日、考えごとしながら作っていたら、ちょっと失敗してしまいましてね。それをどうにか調整した傷薬を持ってきたんです」

 それは、丸薬タイプの傷薬だった。

「ちょっと拝見しますね」

 女性は鑑定魔法で丸薬をチェックする。
 次の瞬間、驚いた表情を浮かべて、ベニーの顔をまじまじと見ている。

「なんですか、この効果の高さは。でも、丸薬なのはもったいないですね」

「あ、大丈夫ですよ。水などと一緒に飲ませればちゃんと効果は発揮しますから」

 ベニーは生活魔法の水で十分だと言って、明るい表情で説明していた。
 生活魔法も魔法の一種ではあるものの、魔法を使うのにそれほど魔力を使わないのが特徴だ。
 なので、丸薬でも十分効果を発揮できるかと、女性は納得していた。

「なるほど、ベニーさんも何らかの理由であの話を知って、こうやって傷薬を急きょ納めに来たというわけですか」

「はい、その通りです。私は灯台守ですから、みなさんの無事を守らないといけません。なので、できることをやりたいと考えて、傷薬を作ってきたんです」

 ベニーの表情はとても真剣そのものだった。
 どれだけ本気かという気持ちを受け取った女性は、今回ベニーが持ってきた傷薬の査定に入る。
 査定から戻ってきた女性は、驚きの表情でベニーのことを見ている。

「驚きましたね。丸薬とはいえ、これだけの効果。不便さのために少し引かせて頂きましたが、それでも破格の査定結果ですよ」

 女性は持ってきたカルトンに、硬貨を積み上げる。
 ベニーの持ってきた丸薬タイプの傷薬は、とんでもない査定結果になっていた。

「本当にベニーさんの薬は助かっております。いつも本当にありがとうございます」

 女性は頭を深々と下げていた。
 無事に傷薬を納品できたベニーは、できれば最前線で戦う騎士たちに回してもらえるようにとお願いをしておく。
 そのお願いを女性は快く聞き入れてくれたので、ベニーは安心して商業ギルドから去っていったのだった。
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